gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:14.9.22)

第118巻 第9号/平成26年9月1日
Vol.118, No.9, September 2014

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

日本小児神経学会推薦総説

脊髄性筋萎縮症 遺伝子診断から治療戦略まで

西尾 久英  1315
日本小児腎臓病学会推薦総説

微小変化型ネフローゼ症候群の病因論におけるパラダイムシフト

金子 一成  1324
原  著
1.

小児のてんかん重積状態の疫学調査

森山 陽子,他  1336
2.

先天性高インスリン血症の18F-DOPA PETによる局在診断と治療予後

増江 道哉,他  1342
3.

小児における人工呼吸器関連肺炎の現況

クナウプ 絵美里,他  1350
症例報告
1.

エポプロステノール持続静注療法離脱後の経過が良好な特発性肺動脈性肺高血圧症の1例

松本 英樹,他  1356
2.

電池交換の遅れからポンプ設定が初期化され糖尿病性ケトアシドーシスを呈した1例

花川 純子,他  1362
3.

心房間右左短絡を認めたStreptococcus属による脳膿瘍の2例

田崎 優子,他  1366
短  報

エベロリムスが情緒・認知・対人面の改善をもたらした結節性硬化症の1例

中尾 朋平,他  1372
論  策

SGA児の3歳時身長と医療機関受診状況

徳弘 由美子,他  1376

地方会抄録(佐賀・長崎・高知・鹿児島・群馬・山梨・青森・山形・愛媛・福島・熊本・宮城・福岡・長野・鳥取)

  1380

編集委員会への手紙

  1429

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2014年56巻3号6月号目次

  1432

雑報

  1434


【原著】
■題名
小児のてんかん重積状態の疫学調査
■著者
東京女子医科大学八千代医療センター小児科1),同 発達小児科2)
森山 陽子1)  林 北見2)  松尾 映未由1)  渡邊 肇子1)  白戸 由理2)  本田 隆文1)  武藤 順子1)  浜田 洋通1)  寺井 勝1)

■キーワード
てんかん重積状態(Status epilepticus), 疫学, 発症率, 熱性けいれん重積状態
■要旨
 【目的】日本における小児期発症のてんかん重積状態(status epilepticus;SE)の疫学的特徴を明らかにする.【方法】八千代市在住の16歳未満小児を対象として,過去5年間に当院小児科外来を受診した重積症が初回であった患者について後方視的に検討した.【結果】5年間で59症例のSEを認め,16歳未満人口10万対発症率は41.0であったが,年次変動が大きかった(95%CI:28.3〜53.7).SE発症前に神経学的既往歴を有する症例は4例,けいれんの既往歴を有する症例は59例中25例(42.3%)だった.SEの分類別では複雑型熱性けいれんが37例(62.7%)で最も多く,急性症候性10例(16.9%),てんかん7例(11.9%),慢性疾患からの急性症候性3例(5.1%),慢性症候性1例,分類不能1例だった.SE発症時に病原体が特定されたものは28例(47%)で,インフルエンザ7例,Human Herpes Virus 7例,肺炎球菌4例,ロタウイルス3例,RSウイルス2例,ノロウイルス,溶連菌,水痘,アデノウイルス,伝染性紅斑がそれぞれ1例であった.退院時59例中3例(5%)に神経学的後遺症を認めたが,急性期死亡例はなかった.【結論】SEの発症率は人種差があると考えられている.欧米と比較して本対象のSE発症率が高く,原因として複雑型熱性けいれんや脳症の比率が高いことが考えられる.


【原著】
■題名
先天性高インスリン血症の18F-DOPA PETによる局在診断と治療予後
■著者
木沢記念病院小児科1),同 放射線科2),大阪市立総合医療センター小児代謝・内分泌内科3)
増江 道哉1)  西堀 弘記2)  高田 勲矢1)  依藤 亨3)

■キーワード
先天性高インスリン血症, KATPチャネル遺伝子異常, 18F-fluoro-L-DOPA positron emission tomography(18F-DOPA PET), 選択的膵流入動脈カルシウム注入法(arterial stimulation and venous sampling), オクトレオチド
■要旨
 先天性高インスリン血症の膵臓病変局在診断に18F-fluoro-L-DOPA positron emission tomography(18F-DOPA PET)検査は最も簡便で有用と考えられている.今回我々はKATPチャネル遺伝子異常のある先天性高インスリン血症の31症例に18F-DOPA PET検査を実施した.遺伝子局在型のPET検査で局在型は61%,局在型の71%は頭部型であった.遺伝子診断は局在部位の同定はできないが,局在型かびまん型かの型判定に誤りはなく,PET検査の適応のスクリーニングとして有用であった.PET検査で同定された局在は病変とすべて一致した.しかし,病変の広がりまでは反映しない場合があった.選択的膵流入動脈カルシウム注入法はPET結果が遺伝子診断と一致しない場合やPETで病変が検出不能の場合に有用だが,侵襲的検査のため相補的に用いるのが良いと考えられた.日本人の先天性高インスリン血症は比較的軽症型が多く遺伝子局在型では2〜6歳頃に自然治癒する傾向にあり神経学的後遺症も両側後頭葉白質萎縮とてんかんの2例のみであった.内科的治療による合併症・後遺症も少ないため,PETびまん型や手術の難しいPET頭部型は内科的治療を継続して自然治癒を待つのがよい選択であると考えられた.


【原著】
■題名
小児における人工呼吸器関連肺炎の現況
■著者
国立成育医療研究センター集中治療科
クナウプ 絵美里  篠原 真史  六車 崇  野坂 宜之  青木 一憲  久我 修二

■キーワード
人工呼吸器関連肺炎, 小児集中治療室(PICU)
■要旨
 小児における人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)発症状況について,2009〜11年の当センター小児集中治療室(pediatric intensive care unit:PICU)入室症例の診療録を後方視的に検討した.VAP発症は74例(対象の6.4%,7.7例/1,000人工呼吸日数)で,挿管〜発症は中央値9(2〜77)日間.人工呼吸日数およびPICU在室日数はVAP症例で非VAP症例より長かった.また,晩期VAP(挿管後120時間以降)症例では致死率が予測死亡率より高かった.治療は気管内吸引による気管分泌物採取を行い,このGram染色結果を基に初期投与抗菌薬を決定した.気管分泌物の培養結果はインフルエンザ桿菌に次いで黄色ブドウ球菌が多かった.早期VAPでは市中肺炎の起炎菌が多く,晩期VAPでは院内感染起炎菌の割合が増加する傾向があった.初期抗菌薬投与により体温・白血球数は有意に低下し,PaO2/FIO2は有意に上昇した.抗菌薬のescalationを要した症例は5/74例で,気管分泌物のGram染色に基づく初期投与抗菌薬の選択により臨床経過は良好であった.VAP発症によりPICU在室日数と人工呼吸期間が延長するため,小児においても有効性の高いVAP発症予防策の策定が望まれる.


【症例報告】
■題名
エポプロステノール持続静注療法離脱後の経過が良好な特発性肺動脈性肺高血圧症の1例
■著者
岐阜県総合医療センター小児医療センター小児循環器内科
松本 英樹  桑原 直樹  寺澤 厚志  所 訓子  面家 健太郎  後藤 浩子  桑原 尚志

■キーワード
特発性肺動脈性肺高血圧症, エポプロステノール, エンドセリン受容体拮抗薬, フォスフォジエステラーゼ5型阻害薬, 小児
■要旨
 6歳9か月時に,WHO肺高血圧症機能分類III度でエポプロステノール(以下EPO)持続静注療法を導入し,14歳7か月時にEPO持続静注療法を離脱,以後シルデナフィルおよびボセンタンの内服に切り替え,3年以上経過が良好な特発性肺動脈性肺高血圧症の1例を経験した.離脱前のEPO投与量は16 ng/kg/分, WHO肺高血圧症機能分類はI度,6分間歩行距離は560 m, BNPは51.8 pg/ml,平均肺動脈圧は30 mmHg,心係数は5.31 L/分/m2であった.シルデナフィルを併用してEPOは漸減し,中止後はボセンタンの内服を追加した.EPO離脱成功の要因として,EPOの早期投与により肺細小血管のリモデリングを改善したこと,経口薬による多剤併用療法が奏功していることが推察された.EPO離脱後の長期的な成績は報告が少なく,更なる症例の蓄積が望まれる.


【症例報告】
■題名
電池交換の遅れからポンプ設定が初期化され糖尿病性ケトアシドーシスを呈した1例
■著者
神奈川県立こども医療センター内分泌代謝科
花川 純子  室谷 浩二  佐藤 武志  朝倉 由美  安達 昌功

■キーワード
糖尿病性ケトアシドーシス, インスリンポンプ, 1型糖尿病
■要旨
 電池交換の遅れからインスリンポンプの設定が初期化され,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を呈した1型糖尿病の1例を経験した.症例は,17歳女性.5歳時に1型糖尿病を発症.15歳時にインスリンポンプを導入.入院1週間前,本人がポンプの電池切れに気付き新品の電池に交換.入院前日に心窩部痛が,当日朝より呼吸苦・意識障害が出現し,DKAの診断で入院加療となった.入院時,インスリンポンプの基礎レートの設定は0.0 U/Hとなっていた.本児の使用しているインスリンポンプ(Medtronic社Paradime712TM)は,電池切れを知らせる警告画面(アラーム)が表示されるものの英語のみの表記のためわかりにくく,さらに,電源が切れた後5分以上経過すると設定がリセットされ,初期状態(基礎レート0.0 U/H)となる可能性がある.今回の経験を通して,ポンプ使用者に対して様々な状況を想定した上で指導することの重要性を再認識した.


【症例報告】
■題名
心房間右左短絡を認めたStreptococcus属による脳膿瘍の2例
■著者
富山県立中央病院小児科1),金沢大学医薬保健研究域医学系小児科2)
田崎 優子1)2)  五十嵐 登1)  久保 達哉1)  藤田 修平1)  福田 正基2)  井美 暢子2)  黒田 文人2)  清水 正樹2)  谷内江 昭宏2)

■キーワード
脳膿瘍, 卵円孔開存, 心房中隔欠損, Streptococcus
■要旨
 心房間の右左短絡を認めたStreptococcus属による脳膿瘍の2例を経験した.症例1:1歳8か月男児.発熱と嘔吐で受診.頭部MRIで脳膿瘍と膿瘍から穿破した脳室炎を認め,開頭膿瘍ドレナージ術と抗生剤治療で重篤な後遺症を遺さず退院となった.排膿物からはStreptococcus constellatusが検出された.入院中のコントラストエコー検査で腹圧上昇させた時に卵円孔を介して右左短絡を認めた.症例2:7歳女児.意識障害と痙攣を主訴に受診.頭部造影CTで脳膿瘍と診断し,内視鏡的排膿術を施行した.排膿物からα-Streptococcus属が検出された.経胸壁心エコーで心房中隔欠損を認め,バルサルバ負荷下で右左短絡が出現した.痙攣の再燃や膿瘍の増大はなく退院した.脳膿瘍の原因の一つとして,心房間の右左短絡の存在が挙げられる.脳膿瘍の症例では,心腔内評価および負荷試験による右左短絡の診断が重要である.


【短報】
■題名
エベロリムスが情緒・認知・対人面の改善をもたらした結節性硬化症の1例
■著者
茨城県立こども病院小児科1),同 臨床心理科2),同 小児外科3),茨城県立医療大学小児科4)
中尾 朋平1)  田中 竜太1)  西岡 絵理2)  加藤 啓輔1)  吉見 愛1)  矢内 俊裕3)  泉 維昌1)  岩崎 信明4)  小池 和俊1)  土田 昌宏1)

■キーワード
結節性硬化症, エベロリムス, 上衣下巨細胞性星細胞腫, 腎血管筋脂肪腫, 認知行動障害
■要旨
 近年,結節性硬化症(TSC)に伴う腎血管筋脂肪腫(腎AML)と脳上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)に対してエベロリムスが認可された.我々は,腎AMLとSEGAを有するTSCの11歳男児に対しエベロリムスを開始した.本例は重症心身障害児で,てんかんと自閉傾向を有し,激しいかんしゃくや自傷行為を日常的にきたしていた.3か月後,腫瘍が縮小したのみならず,かんしゃくや自傷行為も軽減し,笑顔が増え,興味が広がり,人との関わりを楽しむようになった.これまで有害事象は生じていない.エベロリムスは,その作用機序からTSCの認知行動障害に対しても改善が期待され,一定の評価尺度を用いた治療効果の集積が望まれる.


【論策】
■題名
SGA児の3歳時身長と医療機関受診状況
■著者
京都市中京保健センター1),京都市東山保健センター2),京都市伏見保健センター3),京都市山科保健センター4),京都市保健福祉局保健推進室保健医療課5)
徳弘 由美子1)  鍋田 淑華1)  依藤 純子2)  有本 晃子3)  川勝 秀一4)  伊藤 正寛5)

■キーワード
small for gestational age, 低身長, SGA性低身長症, 3歳児健診
■要旨
 出生時の体重と身長がともに10パーセンタイルを下回る児(以下SGA児)は,2〜3歳までに平成12年度に厚生労働省および文部科学省が発表した身体測定値データから算出された基準値の−2 SDを超える成長(以下キャッチアップ)が見られない場合,低身長のままで成人に至ることが予想される.定期的に医療機関を受診していないSGA児は身長発育が把握されていないと考えられ,このような児の身長発育を把握するために,京都市におけるSGA児の3歳時身長と医療機関への受診状況を調査した.平成23年度に京都市の3歳3か月健診を受診した児のうち,協力が得られた6保健センター・支所を受診した2,674例を対象とした.うち,84例がSGA児で,正期産児は92.8%,平均出生時体重は2,362 gであった.3歳3か月健診での身長が−2 SD以下であったのは2例のみで82例(97.6%)がキャッチアップしていた.また,定期的に医療機関を受診していたのは5例(6.0%)で,SGA児であることだけを理由に定期受診していたのは1例(1.2%)のみであった.今回の調査より,基礎疾患を有しないSGA児は,医療機関を受診している割合が低いことが明らかとなり,保健センターでの3歳3か月健診が身長発育を確認できる貴重な場であると考えられた.

バックナンバーに戻る