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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:14.7.17)
第118巻 第7号/平成26年7月1日
Vol.118, No.7, July 2014
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総 説 |
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水落 建輝,他 1053 |
第117回日本小児科学会学術集会 |
日本小児科学会賞受賞記念講演 |
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白木 和夫 1065 |
原 著 |
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清水 博之,他 1073 |
症例報告 |
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大原 亜沙実,他 1079 |
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浮網 聖実,他 1085 |
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高橋 俊行,他 1091 |
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寺川 由美,他 1098 |
論 策 |
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種市 尋宙,他 1103 |
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地方会抄録(秋田・香川・新潟・東京・島根・奈良・千葉)
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【総説】
■題名
遺伝性胆汁うっ滞症
■著者
久留米大学医学部小児科学講座1),Division of Gastroenterology,Hepatology,and Nutrition,Cincinnati Children's Hospital Medical Center2),くまもと芦北療育医療センター3) 水落 建輝1)2) 木村 昭彦1)3)
■キーワード
胆汁うっ滞, 小児, 遺伝, 黄疸, 胆汁酸
■要旨
小児の黄疸を診る上で,頻度は低いが,進行性で早期発見と治療が必要な遺伝性胆汁うっ滞症を鑑別することは重要である.本邦で報告されている遺伝性胆汁うっ滞症は,Alagille症候群,シトリン欠損症,胆汁酸トランスポーター異常症,胆汁酸生合成異常症,ミトコンドリア病,体質性黄疸,その他頻度の低い代謝性疾患や発生学的異常症などに分けられる.遺伝性胆汁うっ滞症は,胆道閉鎖症や胆道拡張症のような肝外胆汁うっ滞症ではなく,肝内胆汁うっ滞症である.小児の胆汁うっ滞症を診る上で重要なことは,「必ずγ-GTP,血清総胆汁酸,血液凝固能を測定する」ことと,「早期発見すれば内科的治療可能な遺伝性疾患が存在する」ことである.γ-GTPが正常で血清総胆汁酸が上昇する胆汁うっ滞であれば,胆汁酸トランスポーター異常症を中心に鑑別を進めていく.また,γ-GTPと血清総胆汁酸が共に正常であれば,胆汁酸生合成異常症の鑑別のため尿中胆汁酸分析を行う.血液凝固異常が認められれば,速やかにビタミンK製剤を静注する.早期発見すれば内科的治療可能な遺伝性疾患とその治療法は,胆汁酸生合成異常症に対する胆汁酸療法がある.内科的治療はできなくても,胆汁酸トランスポーター異常症に対する部分胆汁瘻など,肝移植を遅らせ予後やQOLを改善させる特異的治療法も存在する.
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【原著】
■題名
ヒブワクチン,肺炎球菌結合型ワクチン導入後の小児菌血症の経年的変化
■著者
藤沢市民病院こども診療センター 清水 博之 船曳 哲典
■キーワード
ヒブワクチン, 肺炎球菌結合型ワクチン, 細菌性髄膜炎, 菌血症
■要旨
わが国の子どもたちがヒブワクチン及び肺炎球菌ワクチンの恩恵にあずかれるようになり数年が経過した.両ワクチンの接種率上昇に伴い,小児の菌血症にどのような変化が現れたのかを検討した.対象期間を公費助成により接種率が上昇する前の2008〜2010年度(ワクチン導入前)と,接種率が上昇した後の2011〜2012年度(ワクチン導入後)に分けて解析した結果,菌血症の発生件数がワクチン導入前は年平均17.3件であったが,ワクチン導入後は年平均8.0件に減少した.
検出菌の推移は,インフルエンザ菌は2008年度9例,2009年度8例であったが,2010年度以降は年平均1.7例に減少した.また,肺炎球菌は2008〜2010年度は年平均6.7例であったが,2011年度以降は年1例に減少した.インフルエンザ菌と肺炎球菌を合計した症例数は,ワクチン導入前後で有意に減少した(p=0.004).
感染臓器の推移は,細菌性髄膜炎は2008年度7例,2009年度6例であったが,2010年度以降は年平均2.0例に減少した.また菌血症を伴う細菌性肺炎も2008〜2010年度は年平均5.3例であったが,2011年度以降は年1例に減少した.
両ワクチンの導入により小児の侵襲性細菌感染症は有意に減少した.しかし,ワクチンでカバーできない血清型のインフルエンザ菌や肺炎球菌の存在を忘れてはならず,今後の疫学的動向には注意を要する.
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【症例報告】
■題名
Hibワクチン3回接種後に発症したインフルエンザ菌f型髄膜炎の1例
■著者
藤沢市民病院こども診療センター1),横浜市立大学附属病院小児科2),千葉大学大学院医学研究院小児病態学3),千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部4) 大原 亜沙実1) 清水 博之1) 原 良紀1)2) 福島 亮介1) 佐近 琢磨1) 船曳 哲典1) 高橋 幸子3) 菱木 はるか3) 石和田 稔彦4)
■キーワード
インフルエンザ菌f型, 細菌性髄膜炎, Haemophilus influenzae type b(Hib)ワクチン, 硬膜下膿瘍, くも膜下膿瘍
■要旨
Haemophilus influenzae type b(Hib)ワクチン,7価肺炎球菌結合型ワクチン3回接種後に細菌性髄膜炎を発症した7か月女児例を経験した.発熱を主訴に来院し,脳脊髄液検査で細胞数増加を認め,細菌性髄膜炎と診断した.血液培養よりインフルエンザ菌(β-lactamase non-producing ampicillin susceptible:BLNAS)が検出され抗菌薬治療を行ったが,経過中に硬膜下膿瘍及びくも膜下膿瘍を合併し,開頭ドレナージ術を施行した.後にインフルエンザ菌の血清型はf型と判明した.なおHib感染症の防御抗体でありb型の莢膜多糖体(polyribosylribitol phosphate:PRP)に対する抗体である抗PRP抗体は,急性期でも9 μg/ml以上と高値であった.Hibワクチンではインフルエンザ菌f型(Haemophilus influenzae type f:Hif)による髄膜炎は予防することができず,発症に至った症例であった.Hibワクチンが早期に導入されていた欧米ではb型の減少に伴い,非b型による侵襲性感染症の割合が増加しているが,本邦においては検索した範囲でf型の報告はない.今後は本邦においても欧米と同様の動向を示すことが推測され,侵襲性感染症から分離されるインフルエンザ菌の血清型解析を積極的に行っていく必要がある.
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【症例報告】
■題名
川崎病巨大冠動脈瘤治療中に消化管出血をきたしたHelicobacter pylori感染の1例
■著者
滋賀医科大学小児科1),守山市民病院小児科2) 浮網 聖実1) 宗村 純平1) 狹川 浩規1) 古川 央樹1) 中川 雅生1) 上羽 智子2) 野々村 和男2) 竹内 義博1)
■キーワード
川崎病, 巨大冠動脈瘤, 十二指腸潰瘍, Helicobacter pylori
■要旨
Helicobacter pylori(以下,H.pylori)は胃・十二指腸潰瘍の原因となる病原体で,近年小児の無症候感染例が報告されている.著者らは,川崎病急性期にγグロブリン,ステロイド治療にもかかわらず巨大冠動脈瘤を形成し,抗凝固療法中に上部消化管出血をきたしたため開腹止血術を行った症例を経験した.術後の検査にて便中H.pylori抗原が陽性であった.川崎病好発年齢でも無症候性のH.pylori感染児は存在するため,アスピリン,ステロイドなどの投与の際は消化管出血の可能性を考慮した対応が必要と考えられた.
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【症例報告】
■題名
小児慢性特発性血小板減少性紫斑病に対するエルトロンボパグの使用経験
■著者
釧路赤十字病院小児科1),札幌北揄病院小児思春期科2) 高橋 俊行1) 小林 良二2) 岸本 健治2) 佐野 弘純2) 鈴木 大介2) 安田 一恵2) 鈴木 靖人1) 仲西 正憲1) 永島 哲郎1) 小林 邦彦2)
■キーワード
慢性特発性血小板減少性紫斑病, トロンボポエチン受容体作動薬, エルトロンボパグ
■要旨
特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura,ITP)は,自己抗体による血小板の破壊および血小板産生障害が原因と考えられている.このためトロンボポイエチン(TPO)受容体作動薬がITPに対して有効であると考えられている.しかしながら,小児慢性ITP患者に対してのTPO受容体作動薬に関する報告は極めて少ない.TPO受容体作動薬エルトロンボパグによる治療を行った小児ITPの5例について報告する.
5例の慢性ITP患者は5歳から18歳,男性が2人,女性が3人であった.全ての患者はプレドニゾロンとセファランチンを含む多剤にて治療されていた.4人の判定可能な患者においてエルトロンボパグは有効であった.このうち思春期の3人の患者はエルトロンボパグ以外のすべての薬剤を中止することができた.一方,1人の幼児の患者は,プロドニゾロンの服用量を減らすことができ,肥満は改善し身長の増加を認めた.14歳の男児はエルトロンボパグを内服開始後,頭痛を訴え,定期的な内服を行わなかったため判定は困難であった.エルトロンボパグは小児の慢性ITPに対して有効と思われた.エルトロンボパグの長期副作用はまだ明らかではないという問題点はあるが,小児慢性ITPの治療に対する有用な選択肢の1つであると考えられた.
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【症例報告】
■題名
クループ様症状で発症した生後2か月の小脳腫瘍例
■著者
和泉市立病院小児科1),大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学2),大阪市立住吉市民病院小児科3) 寺川 由美1) 菅原 祐一1) 林 絵里1) 坂東 賢二1) 浅田 稔1) 村上 城子1) 小西 絢子2) 榎本 誠3)
■キーワード
クループ症候群, 吸気性喘鳴, 無呼吸発作, 脳腫瘍
■要旨
症例は生後2か月女児.急性の吸気性喘鳴,嗄声,陥没呼吸を認め,クループ症候群の疑いで当院入院となった.治療を開始したが,デキサメタゾンには一時的に反応するもののアドレナリン吸入では改善を認めなかった.入院第3病日に無呼吸発作,徐脈が出現し,頭部CTにて脳室の拡大および左小脳虫部から半球にかけて腫瘤性病変が認められ,小児脳腫瘍の対応が可能な脳神経外科を有する他院へ転院となった.
吸気性喘鳴を呈する疾患は多岐にわたり,喉頭ファイバーや超音波検査,上部消化管造影,頸部CT等の画像検査が鑑別に有用である.本症例では脳腫瘍による声帯麻痺が吸気性喘鳴の原因であった.
クループ様症状を認める症例であっても,非典型例や治療に反応しない症例では,稀な病態も考慮し鑑別をすすめることが肝要である.
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【論策】
■題名
腸管出血性大腸菌O111集団感染における危機対応
■著者
富山大学小児科1),成育医療研究センター集中治療科2),金沢大学小児科3),市立砺波総合病院小児科4),順天堂大学小児科5),亀田メディカルセンター小児科6),東京大学発達医科学7) 種市 尋宙1) 六車 崇2) 太田 邦雄3) 小西 道雄4) 奥村 彰久5) 高梨 潤一6) 水口 雅7) 宮脇 利男1)
■キーワード
腸管出血性大腸菌, 災害, 広域搬送, メーリングリスト, 危機対応
■要旨
2011年4月に牛生肉(ユッケ)による腸管出血性大腸菌O111の集団感染が富山で発生した.181名が感染し,小児3名を含む5名の死亡が確認された.非常に重症度が高く,医療現場は大きく混乱した.その中で,情報共有と搬送体制の確立を主眼として危機対応を開始した.メーリングリストを通じて,情報の共有を行った.また,患者数の増加が見込まれたため,広域搬送の準備を行った.集団感染はその規模により医療の需要と供給のバランスを崩壊させることがあり,それはまさに災害である.英国における災害医療の教育プログラムであるMajor Incident Medical Management and Support(MIMMS)の考え方にCSCATTTがあり,今回の対応はその概念に基づいて行った.災害はいつどこで発生するか分からないものであり,小児科医も集団災害に対する見識を深めておくことが重要と思われる.
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