 |
日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:13.10.16)
第117巻 第10号/平成25年10月1日
Vol.117, No.10, October 2013
バックナンバーはこちら
|
 |
|
日本小児循環器学会推薦総説 |
|
村上 智明 1529 |
日本小児血液・がん学会推薦総説 |
|
小児期に発症する遺伝性血栓症〜プロテインCの重要性〜
|
|
大賀 正一 1538 |
総 説 |
|
笹岡 悠太,他 1545 |
第116回日本小児科学会学術集会 |
教育講演 |
|
伊藤 進 1554 |
教育講演 |
|
新生児医療の進歩と生命倫理―医的侵襲行為の差控え・中止の基本的考え方
|
|
船戸 正久 1560 |
原 著 |
|
清水 博之,他 1569 |
|
平岡 政弘 1574 |
|
長尾 秀夫 1582 |
|
日野 もえ子,他 1588 |
|
平野 大志,他 1595 |
|
若林 康子,他 1602 |
|
井上 美智子 1608 |
|
武田 良淳,他 1615 |
|
野澤 正寛,他 1620 |
|
大熊 香織,他 1625 |
|
波多野 恵,他 1630 |
|
清水 淳次,他 1636 |
|
平瀬 敏志,他 1640 |
論 策 |
|
勝田 友博,他 1645 |
|
志賀 一博,他 1652 |
|
|
1658 |
|
1672 |
【総説】
■題名
本邦における小児デング熱の現状
■著者
市立函館病院小児科1),札幌医科大学小児科学講座2) 笹岡 悠太1) 酒井 好幸1) 大野 真由美1) 依田 弥奈子1) 堤 裕幸2)
■キーワード
デングウイルス, デング熱, デング出血熱, 小児
■要旨
デングウイルスはデング熱やその重症型であるデング出血熱の原因となる蚊が媒介するウイルスである.デングウイルス感染症の流行地域は主に熱帯地方だが,近年当感染症は増加傾向にある.今回我々は典型的な経過をたどったデング熱の1例を経験した.12歳の女児がタイへ旅行し,帰国後に発熱を主訴に受診し,白血球数,血小板数の減少を認め入院での加療となった.入院翌日から赤色点状発疹が両上下肢に認められたが,その後は出血傾向の遷延など認めず経過良好のまま退院となった.第4病日の血液からRT-LAMP法にてデングウイルスRNAを検出し,デング熱と診断した.
本邦では半世紀以上前に流行の報告がある.1999年の感染症法改正から全数報告数は増加傾向にあり,2010年では244例も報告されているが文献として残されている小児例は少なく,19例が確認されたのみであった.全例とも対症療法で治療が行われ,死亡例は確認されなかった.確定診断のための検査法としてはデングウイルス特異的IgM抗体の検出,あるいはRT-PCR法によるウイルス遺伝子の確認が一般的である.
本邦におけるデングウイルス感染症例についてまとめながら,小児科医として診断・治療について必要な知見を考察した.
|
|
【原著】
■題名
A群β溶連菌に対するペニシリン系とセフェム系抗菌薬の除菌率及び再発率
■著者
ちどりこどもクリニック1),藤沢市民病院こども診療センター2),横浜市立大学附属市民総合医療センター小児総合医療センター3) 清水 博之1)2) 齋藤 美和子1) 厚見 恵1) 久保田 千鳥1) 森 雅亮3)
■キーワード
A群β溶血性連鎖球菌, 咽頭炎, 除菌率, 再発率
■要旨
A群β溶連菌による咽頭炎に対する治療の主軸はペニシリン系抗菌薬であるが,近年はセフェム系抗菌薬による短期間治療の有用性を示すエビデンスも蓄積され,実際にセフェム系抗菌薬が処方されることも多い.そこでペニシリン系抗菌薬10日間とセフェム系抗菌薬5日間で治療を行ったA群β溶連菌による咽頭炎症例を対象とし,除菌率及び再発率の比較検討を行った.2011年10月から2012年9月までの1年間に,当クリニックを受診し迅速検査でA群β溶連菌による咽頭炎と診断した441症例を対象とした.除菌の確認は,治療終了後およそ2週間後に再診を指示し,咽頭ぬぐい液を培養した.除菌率はAMPC 91.7%,CFPN-PI 82.5%,CDTR-PI 80.4%,セフェム系抗菌薬全体で82.0%(p=0.01)であり,再発率はAMPC 3.1%,CFPN-PI 3.4%,CDTR-PI 3.8%,セフェム系抗菌薬全体で3.4%(p=0.93)であった.ペニシリン系抗菌薬の除菌率はセフェム系抗菌薬より優れており,再発率はセフェム系抗菌薬と同等であった.抗菌薬適正使用,医療経済的な観点からも,やはりA群β溶連菌による咽頭炎の第一選択薬はペニシリン系抗菌薬であると考えられた.
|
|
【原著】
■題名
小児科外来でみる菌血症の臨床検査所見
■著者
愛育小児科 平岡 政弘
■キーワード
菌血症, 上咽頭培養, 上咽頭炎, 肺炎球菌, インフルエンザ菌
■要旨
肺炎球菌およびヒブワクチンの公費による接種施行前の小児科外来における乳幼児の菌血症についてその頻度と臨床検査所見を後方視的に検討した.2010年10月までの5年間に明らかな発熱原因が不明で血液培養を行った乳幼児を対象とした.276人から血液培養を計340回施行し,25例(7.4%)で有意な菌を検出し(肺炎球菌24例,インフルエンザ菌1例),同時に上咽頭培養を施行した24例の全例において血液からの分離菌と同一の菌種が検出された.菌血症群25例と非菌血症群315例とで臨床検査所見を比較検討した.菌血症群では非菌血症群よりも低年齢で,鼻汁もしくは後鼻漏,1週間以上持続した鼻汁を認める症例が多くみられ,発熱後初診までの時間が短く,白血球数および顆粒球数は高値であったが,CRPは低値で,いずれも有意差を認めた.翌日の白血球数,顆粒球数はともに減少していたが,いずれも菌血症群で有意に高値であった.一方,翌日のCRPは両群とも有意に上昇しており,両群に有意差はなかった.外来での抗菌薬の経静脈的投与によって菌血症群では1例を除く全例で,また経過が判明した非菌血症群310例のうち241例(77.7%)で,翌日朝までに下熱した.細菌に対する免疫が未熟な乳幼児で鼻汁が続く場合は肺炎球菌などによる上咽頭炎を発症しやすく,急な発熱と顆粒球増多を認め,この一部が菌血症を発症するものと考えられた.
|
|
【原著】
■題名
小児科外来における子どもの国語学習習熟度評価
■著者
愛媛大学教育学部特別支援医学 長尾 秀夫
■キーワード
学習習熟度テスト, 小学校, 国語, 小児科外来
■要旨
小児科外来を受診する子どもの学習状況を簡単に評価するために,著者らが作成した国語の学習習熟度テストの妥当性と意義を明らかにすることが本研究の目的である.方法は小学校1〜6年生696人を対象に,それぞれの所属学年の国語テスト2種類を実施した.一つは著者らが作成した学習習熟度テスト,もう一つは標準化された学力検査CRT-IIである.その結果,著者らが作成したテストの平均正答率は,小学5年生79.5%から小学2年生95.4%まで,標準化された学力検査の平均正答率は小学3年生84.9%から小学1年生90.1%までであった.国語の「聞く」,「読む」,「書く」,「言語事項」の4領域全体の正答率は著者らが作成した学習習熟度テストとCRT-IIとの間で統計学的に有意な相関があった.したがって,著者らが作成した学習習熟度テストは,標準化検査と同様に,小学生の学習習熟度を測定できていると考えられる.また,著者らが作成したテストは短時間に小児科外来で実施でき,しかも問題文が短く自由記述で回答するので国語力の評価が容易である.加えて学年を超えて領域毎の学習習熟段階を知ることができるなどの点でも有意義である.
|
|
【原著】
■題名
小児肝中心静脈閉塞症におけるprostaglandin E1の治療効果
■著者
千葉大学大学院小児病態学1),千葉県立こども病院血液腫瘍科2) 日野 もえ子1) 落合 秀匡1) 安藤 久美子1) 角田 治美2) 沖本 由理2) 河野 陽一1)
■キーワード
肝中心静脈閉塞症, 治療, プロスタグランディンE1, 造血幹細胞移植
■要旨
肝中心静脈閉塞症(肝VOD)は黄疸,肝腫大,右上腹部痛,腹水を主要症状とする.これまで,小児特有の臨床症状についてのまとまった報告やprostaglandin E1(PGE1)の肝VOD治療効果についての報告は少ない.我々は小児肝VODの発症リスク,特徴的臨床症状を後方視的に解析し,肝VODに対するPGE1の治療効果について検討した.2007年7月から2010年12月の期間に57回の造血幹細胞移植中6例(10.5%),9例の固形腫瘍の化学療法中3例に肝VODが発症した.造血幹細胞移植57例の解析において,肝VOD発症群では有意に年齢が低く(1歳vs 8.5歳,P<0.01),特に1歳未満の造血幹細胞移植例で肝VOD発症のリスクが高い傾向を認めた.9例中6例で診断前より血小板輸血不応を認めた.診断後中央値1日でPGE1を開始し,8例(88.8%)が回復した.症状回復時には血小板数の増加が先行した.1例はThrombomodulin製剤の追加により治癒した.1歳未満の造血幹細胞移植例では肝VOD発症のリスクが高い傾向があり,血小板数が急激に減少した際は,肝VODの発症を考える必要がある.PGE1は診断後早期に開始すると安全かつ有効である.
|
|
【原著】
■題名
初回寛解導入時のステロイド投与量が特発性ネフローゼ症候群の予後に与える影響
■著者
埼玉県立小児医療センター腎臓科1),東京慈恵会医科大学小児科学講座2) 平野 大志1)2) 藤永 周一郎1) 仲川 真由1) 渡邊 常樹1) 伊藤 亮1)2) 井田 博幸2)
■キーワード
ネフローゼ症候群, 初期ステロイド投与量, 体表面積換算法, 標準体重換算法, 治療効果
■要旨
小児特発性ネフローゼ症候群(idiopathic nephrotic syndrome:INS)の初発時ステロイド投与量には体表面積または体重を算出基準とする2つの投与レジメンが存在する.両者は治療予後にどのような違いを生じるかは分かっていない.
そこで今回我々は自施設にて体表面積換算(BSA法)および体重換算(BW法)それぞれによる投与レジメンにて初期治療を行ったINS患児46例(初発時年齢中央値4.0歳,全員体重30 kg未満)を後方視的に解析し,両者の違いを検討した.
46例中(男女比=36:10,観察期間中央値62か月),BSA法によって治療を行った児が16例,BW法が30例であった.両群間において,初発時年齢,男女比,寛解までの期間には有意な差は認められなかった.しかし,BW法群の方がBSA法群に比して初発治療終了後から初回再発までの期間が有意に短く(2.0か月vs 6.0か月,p値=0.010),さらに後にステロイド依存性NSに移行する割合も有意に高かった(53.3%vs 12.5%,p値=0.017).一方,副作用発現頻度はBSA法群の方が高かった(統計学的有意差なし).
INSの初期治療において,現在主に使用されている2つの投与レジメンは体重30 kg未満の年少児に対しては同等ではなく,治療予後が異なる可能性がある.
|
|
【原著】
■題名
小児慢性機能性便秘症の排便排尿自立に及ぼす影響
■著者
東京女子医科大学東医療センター小児科1),岡田小児科クリニック2) 若林 康子1) 岡田 和子1)2) 杉原 茂孝1)
■キーワード
便秘, トイレットトレーニング, 排便排尿自立, トイレ拒否
■要旨
幼児期の慢性便秘は,排便排尿自立を遅らせる誘因のひとつといわれているため,その関連性について検討した.
対象は2.5歳から7歳未満の小児,便秘群53例と対照群82例で,その保護者に対しトイレットトレーニング(TT)および排便排尿自立に関する聞き取り調査を行った.その結果,TT時にトイレ拒否が認められたのは便秘群66%,対照群24%と便秘群で有意に多かった(P<0.01).また,排便の自立年齢中央値は,便秘群で3歳6か月,対照群で2歳11か月,排尿の自立年齢中央値は,便秘群で3歳0か月,対照群では2歳11か月で,排便自立は便秘群で有意に遅れた(P<0.01).特に便秘群の中でも,当院消化器外来の初診時年齢がTTの時期に重なる2歳から4歳未満であった30例(TT便秘群)を検討すると,排便自立年齢中央値は4歳と,便秘群全体よりさらに遅れ,排便自立が5歳以降と極端に遅れた8例はすべてこの群に含まれていた.さらに,この群で排便時肛門出血の既往のあった17例全例に排便自立が遅延していたことからも,やはり便秘は排便自立に支障をきたす要因のひとつであると思われた.しかし,この時期に便秘の治療管理が行われていた小児の86%は排便自立が遅れることなく確立したことから,この時期の便秘治療の重要性が示唆された.
|
|
【原著】
■題名
小児科病棟から重症心身障害児・者病棟に転院した小児の臨床像と転帰
■著者
独立行政法人国立病院機構南岡山医療センター小児科 井上 美智子
■キーワード
重症心身障害児, 新生児集中治療室長期入院児, 超重症児
■要旨
新生児集中治療室(以下NICUと略す)を含む急性期病院小児科病棟から中四国地区の国立病院機構病院の重症心身障害児・者病棟へ,2005年4月から2010年3月の間に転院した13歳未満の小児30名を対象として臨床像と転帰等の調査を行った.転院児は3歳以下が60%を占めており,76.7%が超重症児,66.7%が人工呼吸器を装着していた.転院後30名中4名は転院後に全身状態が不安定となり,5名は一時的に不安定になった.不安定になった症例については,転院後も安定していた症例より有意に低年齢であった.また,新生児病棟から直接転院した症例において不安定になる傾向を認めた.転院後に苦慮した合併症は気道感染,呼吸不全が最も多かった.転院児30名中8名(26.7%)が死亡しており,死因は肺炎,呼吸不全(多臓器不全への進展を含む)が最も多かった.
転院後の容態悪化を予防するためには,年齢が4歳以上に達した後に転院すること,加えて新生児病棟と重症児者病棟との間の中間施設(病床)を利用することが有用と考えられる.さらに,重症児・者病棟において呼吸管理体制の整備拡充が必要であると示唆を得た.
|
|
【原著】
■題名
高インスリン性低血糖を呈したPHOX2B異常による先天性中枢性低換気症候群の2例
■著者
東京都立小児総合医療センター内分泌・代謝科1),同 総合診療科2),同 臨床遺伝科3),同 遺伝子研究科4),公立福生病院小児科5),山形大学医学部小児科学教室6) 武田 良淳1)5) 後藤 正博1)2) 井垣 純子1) 高木 優樹1) 立花 奈緒2) 吉橋 博史2)3) 沼倉 周彦6) 早坂 清6) 長谷川 行洋1)2)4)
■キーワード
先天性中枢性低換気症候群, PHOX2B, 神経堤細胞, 高インスリン性低血糖症, Hirschsprung病
■要旨
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)に高インスリン性低血糖症(HH)を合併した2症例を経験した.症例1は2歳女児.生下時より無呼吸発作と便秘を呈しCCHS, Hirschsprung病(HSCR)と診断.9か月時より低血糖を反復し,血糖34 mg/dLの際にIRI 3.4 μg/mLでありHHと診断.症例2は13歳男児.生下時より胆汁性嘔吐と無呼吸発作を認めCCHS, HSCRと診断された.5か月時に血糖39 mg/dL, IRI 19 μg/mLよりHHと診断.2例ともpaired-like homeobox 2B(PHOX2B)遺伝子解析で27ポリアラニン伸長変異を認めた.CCHSは呼吸中枢の先天的な異常により重篤な呼吸障害を生じる疾患である.神経堤細胞由来の組織に発現するPHOX2Bの異常に起因するが,HHを合併し同遺伝子の変異が確認された症例は自験例を含め7例の報告がある.PHOX2Bは内胚葉由来の膵β細胞の分化,増殖に重要な転写因子NKX2.2の機能を抑制しインスリン分泌を制御する.同時に,本遺伝子は外胚葉由来の交感神経細胞においてドーパミンβ水酸化酵素を活性化させノルアドレナリンの合成を促進し,この合成を介して膵β細胞からのインスリン分泌を抑制すると推測される.同遺伝子の機能低下型変異では,これら2つのインスリン分泌抑制機構が障害されることでHHを発症する可能性が示唆された.
|
|
【原著】
■題名
PCR法で診断できたKingella kingaeによる化膿性膝関節炎の1例
■著者
済生会滋賀県病院小児科1),高槻赤十字病院小児科2),滋賀医科大学小児科3) 野澤 正寛1) 米田 真紀子1) 清水 淳次1) 西倉 紀子1) 伊藤 英介1) 杉本 徹1) 成田 努2) 竹内 義博3)
■キーワード
Kingella kingae, 化膿性関節炎, PCR
■要旨
化膿性関節炎の確定診断は,グラム染色や通常培地の培養陽性率が低いため困難である.その中でもKingella kingae(以下K. kingae)はグラム染色や関節液培養で同定されない小児の骨・関節感染症の起因菌として重要である.我々は,左足の麻痺様症状と他動時に啼泣する症状で化膿性膝関節炎を疑い,経験的な抗菌薬による治療と関節液の穿刺洗浄を開始した生後1か月の男児例を経験した.抗菌薬投与前の関節液グラム染色と固形培地,半流動培地での培養検査では起因菌の同定が出来なかったが,経験的な抗菌薬の投与を4週間継続した.その後のPCR検査で治療前の関節液からK. kingaeを検出した.このように化膿性関節炎はグラム染色や通常培地の培養結果を治療の開始と終了の根拠とすることが難しい.今回,想定した起因菌のPCR検査を早期に施行していれば,より一層適切な抗菌薬や治療法の選択,治療期間の決定が可能となったことを痛感したので報告する.
|
|
【原著】
■題名
HIV母子感染予防が無効であった1例
■著者
独立行政法人国立国際医療研究センター病院小児科 大熊 香織 赤平 百絵 大熊 喜彰 田中 瑞恵 兼重 昌夫 佐藤 典子 細川 真一 松下 竹次
■キーワード
HIV母子感染, 抗レトロウイルス療法(ART:antiretroviral therapy), 成長, 発達
■要旨
HIV母子感染予防にもかかわらず,経胎盤感染した2歳女児の治療経過と成長・発達について報告する.母は妊娠初期の妊婦健診を受診せず,HIV感染が判明した妊娠34週から抗レトロウイルス療法(以下ART)を開始した.母のHIV-RNA量は減少し,妊娠37週5日に選択的帝王切開が施行された.児は問題なく出生し,6週間zidovudine(以下AZT)を内服するHIV母子感染予防を行った.しかし,児のHIV-RNA量は日齢1で85 copies/ml,日齢8で150 copies/mlと検出されたためHIV感染成立と診断し,日齢9からART(AZT,lamivudine[以下3TC],lopinavir/ritonavir)を開始した.治療後,貧血や高乳酸血症などの副反応のため,適宜薬剤を変更した(abacavir,3TC,nevirapine).日齢80より2歳現在までHIV-RNAの検出を認めない.児の成長・発達は年齢相応で,1歳半時施行の頭部MRIでも異常所見はなかった.母児へART,選択的帝王切開,断乳のHIV母子感染予防を行ったにもかかわらず感染が成立した原因として,母のART開始時期が遅れ,開始前にすでにHIV経胎盤感染が成立していたと考えられた.
|
|
【原著】
■題名
心肺停止で発見された心臓線維腫の1例
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療科1),同 循環器科2),同 検査科3),同 放射線科4) 波多野 恵1) 福島 直哉2) 齋藤 美香2) 玉目 琢也2) 横山 晶一郎2) 大木 寛生2) 三浦 大2) 澁谷 和彦2) 福澤 龍二3) 河野 達夫4)
■キーワード
線維腫, 不整脈, MRI
■要旨
症例は1歳2か月の生来健康な男児で,心肺停止,心室細動のため搬送された.心エコーで心室中隔に腫瘍(径2.5×3.5 cm)を認めた.MRIではT1強調像で等信号,脂肪抑制T2強調像で正常心筋と比較し低信号を呈し,腫瘍内部は初回通過心筋還流画像では造影効果がなく,造影後期相で造影効果を認める所見を呈しており,線維腫と診断した.治療方針の決定に苦慮したが,腫瘍が致死的不整脈の原因となった可能性が高いと考え,摘出術を行った.手術に関連する合併症はなく,術後経過は良好である.心臓腫瘍は存在診断とともに組織診断が重要であり,MRIが非侵襲的組織診断に有用である.不整脈を伴う無症状の小児心臓線維腫の治療戦略は確立されていないが,組織診断が予測できた症例では外科的切除術が第一選択になると考える.
|
|
【原著】
■題名
新生児期より脳皮質石灰化を認めたSturge-Weber症候群の1例
■著者
済生会滋賀県病院小児科1),滋賀医科大学小児科2) 清水 淳次1) 西倉 紀子1) 伊藤 英介1) 杉本 徹1) 龍神 布紀子2) 吉岡 誠一郎2) 高野 知行2) 竹内 義博2)
■キーワード
Sturge-Weber症候群, 皮質石灰化, 新生児
■要旨
発熱の精査を契機に受診し,日齢20に前額部傍正中部の顔面皮膚毛細血管奇形および脳皮質石灰化を認めたSturge-Weber症候群の男児例を経験した.頭部CTでは左前頭葉から頭頂葉にかけて皮質石灰化,および著明な脳萎縮を認めた.頭部MRIでは萎縮部位はT2強調画像で低信号を示し,ガドリニウム造影によるT1強調画像では脳溝に沿って増強効果がみられ脳軟膜血管奇形と考えられた.てんかん発作は認めないが,発作間欠期脳波で右前頭部にてんかん性棘波を認めphenobarbitalの内服を開始した.その後もてんかんの発症なく,生後12か月の時点で右上肢の軽度不全麻痺を認める以外,精神運動発達は月齢相当に経過している.本症例では脳波異常は脳軟膜血管奇形とは反対側に見られ,Sturge-Weber症候群におけるてんかん原性病変の多様性を示唆するものと考えた.
|
|
【原著】
■題名
難治性慢性免疫性血小板減少症の幼児に対するロミプロスチムの使用経験
■著者
神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学1),加古川西市民病院小児科2) 平瀬 敏志1) 西田 浩輔2) 松野下 夏樹1) 山本 暢之1) 忍頂寺 毅史1) 森 健1) 親里 嘉展2) 矢内 友子1) 早川 晶1) 竹島 泰弘1) 飯島 一誠1)
■キーワード
免疫性血小板減少性紫斑病, 幼児, ロミプロスチム, トロンボポエチン受容体作動薬
■要旨
近年,トロンボポエチン(以下TPO)受容体作動薬であるロミプロスチムが成人慢性免疫性血小板減少症(以下慢性ITP)で良好な成績を修めている.しかし,本邦で検索した範囲では幼児に対する使用報告はない.今回我々は,ロミプロスチムが有用であった慢性ITPの幼児例を経験したので報告する.症例は1歳男児.紫斑で発症,前医でITPと診断された.γグロブリン静注(以下IVIg)・経口プレドニゾロンの効果が乏しく紹介となった.当院転院後リツキシマブなど種々の薬剤を投与したが全て無効だった.唯一デキサメサゾンパルス療法により血小板数は1〜2×104/μlまで増加したが,数日以内に減少し,頭部打撲による皮下血腫や鼻出血を頻回に認めた.脾摘も考慮したが,手術に十分な血小板数の上昇が得られなかった.発症6か月後からロミプロスチム1 μg/kg/週を開始したところ10 μg/kg/週まで増量を要したがステロイド中止後も血小板数1×104/μl以上を維持でき出血傾向もなくなった.現在も週に1回のロミプロスチムの投与が必要で寛解には至っていないが,外来通院で管理可能である.治療開始後1年経過し本剤の投与に関連した有害事象を認めていない.しかし小児ITPにおけるロミプロスチムの適応・安全性は未確立である.今後の症例集積と長期観察の報告が待たれる.
|
|
【論策】
■題名
ワクチン同時接種に対する接種医の意識調査
■著者
聖マリアンナ医科大学医学部小児科学教室1),国立成育医療研究センター名誉総長2) 勝田 友博1) 宮地 悠輔1) 中村 幸嗣1) 鶴岡 純一郎1) 立山 悟志1) 徳竹 忠臣1) 中島 夏樹1) 五島 敏郎1) 加藤 達夫2)
■キーワード
ワクチン, 同時接種, 意識調査, 医師, Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP
■要旨
近年,本邦においても乳幼児期を中心に新たに接種可能となったワクチンが増加している.その結果,短期間に多くのワクチンの接種を完遂する必要性が増加しており,ワクチン同時接種の導入が不可欠な状況となっているが,その浸透は諸外国に比べて不十分である.本研究は,実際ワクチンを接種する医師に対して同時接種に関するアンケートを施行し,本邦においてワクチンの同時接種が円滑に普及されるための方策を検討した.
その結果,188人(50%)の医師から有効回答が得られ,そのうち91%から同時接種を肯定する意見が得られたが,実際,同時接種を導入している医師は全体の68%に留まった.その理由として,同時接種導入の有無に関わらず,回答医師の多くが,同時接種の社会的浸透不足,安全性,有効性に対する懸念,有害事象発生時の緊急対応困難,接種医に対する責任問題などを危惧する意見を有していた.
本邦において,ワクチンの同時接種を円滑に導入するためには,同時接種の適応判断を接種医個々の判断に依存するのではなく,国内の学会や米国におけるAdvisory Committee on Immunization Practices(ACIP)に類似した諮問委員会から明確な基準の策定がなされ,あらゆる医師が同時接種を安心して施行できる環境を整備する必要がある.
|
|
【論策】
■題名
ER型救急外来における重症小児患者診療の実情と課題
■著者
聖隷三方原病院救命救急センター救急科1),同 小児科2),静岡県立こども病院小児集中治療科3) 志賀 一博1) 木部 哲也2) 岡田 眞人2) 植田 育也3)
■キーワード
救命救急センター, ER型救急外来, Pediatric Intensive Care Unit(PICU), 広域搬送システム
■要旨
背景:救命救急センターのEmergency Room型救急外来(以下ER)における重症小児患者の割合や治療成績は明らかではない.
目的:ERにおける重症小児診療の現状と問題点を明らかにし,今後の対策を検討する.
方法:平成21年4月1日から23年3月31日までの2年間に当院ERを受診した15歳以下の小児12,999名を,後方視的に分析した.
結果:(1)重症小児患者の割合:0.1%(12,999名中14名)であった.(2)病因:重症小児患者の病因は79%(11名)が外因,21%が内因(3名)であった.(3)受診方法:重症小児患者の71%(10名)が救急車あるいはヘリコプターによる搬送,29%(4名)がwalk inであった.(4)入院先:重症小児患者の57%(8名)が高次医療機関に転院,43%(6名)が自施設に入院した.(5)予後:重症小児患者全体の死亡率は予測値を下回った(14.2%対19.4%).搬送群でも同様であった(10.0%対25.5%).walk in群の死亡率は予測値より多い傾向が見られた(25.0%対4.0%).
考察:ERにおける重症小児患者の受診頻度は非常に稀である.よってER診療のみではスタッフの重症小児対応の経験は不十分と考えられる.
結語:重症小児患者を救命するためには,適切なトリアージ,初期治療,小児高次医療機関との連携が求められる.従って,そのための充分なスタッフ教育が必要である.
|
|
|
バックナンバーに戻る |
|