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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:13.9.18)

第117巻 第9号/平成25年9月1日
Vol.117, No.9, September 2013

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日本小児神経学会推薦総説

小児神経学の新たな展開―ゲノム科学による病因不明・難治性小児神経疾患の病態解明への戦略

石井 敦士,他  1383
日本小児アレルギー学会推薦総説

保育所(園)・学校における食物アレルギー対応

海老澤 元宏  1389
日本小児呼吸器学会推薦総説

小児における気道異物事故 現状とその予防にむけて

足立 雄一,他  1396
原  著
1.

性分化疾患の性自認に関する調査研究

大山 建司,他  1403
2.

富山を中心とした生肉起因の腸管出血性大腸菌O111集団感染

種市 尋宙,他  1409
3.

MRワクチンと水痘ワクチン同時接種の効果ならびに安全性

大橋 正博,他  1416
4.

重症新生児・乳児RSウイルス感染症に対するバブルCPAPシステムの有効性の検討

藤岡 智仁,他  1424
5.

受診が途絶えた小児がん経験者の晩期合併症(第2報)

前田 尚子,他  1428
6.

小児難治性潰瘍性大腸炎に対する経口タクロリムスのrescue-therapyとしての有用性の検討

柳 忠宏,他  1436
7.

リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の関与が疑われた中枢性尿崩症の1幼児例

近藤 謙次,他  1442
8.

サブテロメアMLPA法が診断に有用であったIGF-1受容体遺伝子ハプロ不全の1例

河野 智敬,他  1448
9.

鉄欠乏性貧血と成長障害を合併したHelicobacter pylori感染

勝見 良樹,他  1454
10.

HHV-6再活性化を伴ったけいれん重積型急性脳症の1例

玉井 将人,他  1459
11.

著明な白血球増多に対して交換輸血を行い救命した重症百日咳の1例

庄司 康寛,他  1464
12.

大動脈弁閉鎖不全と診断されていた大動脈左室トンネルの2例

長谷川 聡,他  1469
13.

診断時に右シルビウス裂に転移を認めた三側性網膜芽細胞腫の1例

福岡 講平,他  1474
14.

高ナトリウム血症と低血糖性脳症をきたした完全母乳栄養の新生児例

大橋 敦,他  1478
15.

集中治療管理を要した縦隔リンパ管腫症の2例

芳賀 大樹,他  1483
論  策
1.

麻しん検査診断における急性期IgM抗体価の考え方

安田 一恵,他  1489
2.

小児専門病院を受診した乳幼児の熱傷における受傷機転

鶴和 美穂,他  1492

地方会抄録(新潟・静岡・千葉・鳥取)

  1497

編集委員会への手紙

  1515

日本小児科学会理事会議事要録

  1516

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2013年55巻4号8月号目次

  1522
平成25年度公益財団法人小児医学研究振興財団

賛助会員ご加入のお願い

  1524

優秀論文アワードの選考について

  1525

研究助成金の交付について

  1526

海外留学フェローシップの募集について

  1527


【原著】
■題名
性分化疾患の性自認に関する調査研究
■著者
山梨大学大学院医学工学総合研究部(小児科)1),国立成育医療研究センター分子内分泌研究部2),浜松医科大学小児科3)
大山 建司1)  深見 真紀2)  緒方 勤3)

■キーワード
性分化疾患, 性自認, 21水酸化酵素欠損症, アンドロゲン受容体異常症, 性同一性障害
■要旨
 胎児期のアンドロゲン分泌が異常となり,脳の性分化に影響を与える可能性がある性分化疾患を診ている小児内分泌学会,小児泌尿器科学会に所属する医師を対象として,性自認の問題に関するアンケート調査を行った.対象疾患は,46,XY完全型アンドロゲン受容体異常症,46,XY 5α還元酵素欠損症,46,XX 21-水酸化酵素欠損症,46,XY StAR異常症,46,XX POR異常症の5疾患で,合わせて194症例である.性自認に関しては,小児に適応されている性同一性障害の診断基準(DSM-IV-TR)を用いた.外性器の形状はプラダー分類を用いた.CAIS 26例は,全例外性器女性型,養育性女性,DSM-IV-TRによる性自認女性であった.5αRDの2例は養育性女性で,反対の性に対する強く持続的な同一感に該当項目を認めた.養育性男性5例は性自認も男性であった.21OHDの142例は,DSM-IV-TRで1項目以上の該当例27例,その中に4項目以上の該当例が5名存在した.DSM-IV-TR該当有り例となし例でプラダー分類の平均値に差を認めなかった.POR異常症7例,StAR異常症13例にはDSM-IV-TR該当例はいなかった.以上より,46,XX 21-水酸化酵素欠損症は,従来通り養育性女性が基本と考えられる.一方,5αRDは養育性男性を基本に,再検討が必要と考える.


【原著】
■題名
富山を中心とした生肉起因の腸管出血性大腸菌O111集団感染
■著者
富山大学大学院医学薬学研究部小児科学1),市立砺波総合病院小児科2),富山県立中央病院小児科3),富山市民病院小児科4),済生会富山病院小児科5),福井赤十字病院小児科6),金沢大学医薬保健研究域医学系小児科7)
種市 尋宙1)  小西 道雄2)  五十嵐 登3)  金田 尚4)  松倉 裕喜5)  小倉 一将6)  黒田 文人7)  谷内江 昭宏7)  宮脇 利男1)

■キーワード
腸管出血性大腸菌, O111, 生肉, 急性脳症, 溶血性尿毒症症候群
■要旨
 2011年4月に富山県を中心に牛生肉(ユッケ)による腸管出血性大腸菌(以下EHEC)O111の集団感染が発生した.合計181名の感染者が発生し,うち3名の小児を含む5名が死亡した.本集団感染はその特徴として中枢神経症状と画像検査異常が多発した事例であり,死因はいずれも急性脳症であった.全小児感染者は20名であり,罹患年齢は1歳から14歳までであった.全小児感染者のうち,溶血性尿毒症症候群(以下HUS)は10名(50%),その中で急性脳症は8名(80%)に合併していた.本集団感染では,初期より急激に重症化する脳症合併例が相次いだことから,メチルプレドニゾロンパルス療法などの脳症をターゲットとした治療を積極的に行った.その後は新たな死亡例は発生しなかった.
 今後,EHEC感染症における予後のさらなる改善を目指すために,各症例において急性脳症の評価を常に注意して行っていくことが重要と思われる.また,今回の集団感染は日本においてもHUSサーベイランスシステムが必要であることを示しており,それによりEHEC感染症の臨床像や病態がはっきりと解明され,より適切な治療へと発展していくことが期待される.


【原著】
■題名
MRワクチンと水痘ワクチン同時接種の効果ならびに安全性
■著者
藤田保健衛生大学医学部小児科1),豊川市民病院小児科2),江南厚生病院こども医療センター小児科3),国立病院機構三重病院小児科4),医療法人落合小児科医院5),医療法人竹内小児科医院6),医療法人宏知会馬場小児科7),北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター8)
大橋 正博1)  河村 吉紀1)  浅野 喜造1)8)  松本 祐嗣2)  加藤 伴親2)  西村 直子3)  尾崎 隆男3)  菅 秀4)  庵原 俊昭4)  落合 仁5)  竹内 宏一6)  馬場 宏一7)  吉川 哲史1)

■キーワード
水痘ワクチン, MRワクチン, ワクチンの同時接種, 定期接種
■要旨
 【目的】MRワクチンと水痘ワクチンの同時接種の効果と安全性を評価する.
 【対象と方法】MRワクチンの第1期接種時に水痘ワクチンの同時接種に同意した82名と,年齢,性別をそろえた水痘ワクチン単独接種43名,およびMRワクチン単独接種51名を対象とした.ワクチン接種前後の水痘,麻疹,風疹の各ウイルス抗体価を測定し,副反応を調査し,同時接種者には水痘抗原に対するELISPOTアッセイを実施した.さらに接種1年後に水痘罹患状況を調査し,未罹患者に水痘ワクチンを追加接種し評価した.また1歳時にMRワクチンと,水痘ワクチンが接種された28名を対象に,MRワクチンの第2期接種時に水痘ワクチンの同時接種を実施し,同様にウイルス抗体価を評価した.
 【結果】水痘抗体陽転率,平均抗体価ともに単独接種群と同時接種群間で有意差はなかった.麻疹,風疹も同様に抗体陽転率,接種後平均抗体価に両群間で有意差はなかった.水痘特異的細胞性免疫能の評価では71.4%に細胞性免疫の獲得が示唆された.また,特に問題となる副反応はなかった.ワクチン接種後1年間の水痘罹患は11%であった.接種1年後に水痘ワクチンの追加接種を実施し,明確なブースター効果が確認された.MRワクチン第2期接種時の水痘ワクチン追加接種においても接種前に比べ水痘抗体価の有意な上昇を示した.
 【考察】MRワクチンと水痘ワクチンの同時接種は,安全かつ有効であり,また水痘ワクチンの追加接種の有効性が示された.


【原著】
■題名
重症新生児・乳児RSウイルス感染症に対するバブルCPAPシステムの有効性の検討
■著者
住友別子病院小児科1),愛媛県立中央病院小児科2),愛媛大学大学院小児医学3)
藤岡 智仁1)  矢野 喜昭1)  小泉 宗光2)  竹本 幸司1)  石井 榮一3)

■キーワード
バブルCPAPシステム, RSウイルス, 無呼吸, 非侵襲的陽圧管理療法
■要旨
 バブルCPAP(continuous positive airway pressure)システムは,通常呼吸障害の新生児に対する非侵襲的呼吸管理として用いられ有効とされている.そこで今回,バブルCPAPシステムを呼吸状態の悪化した重症RSウイルス(Respiratory syncytial virus:RSV)感染症の3例に使用しその有効性を検討した.いずれも日齢60未満の早期乳児例であり,受診時に多呼吸・陥没呼吸などの呼吸状態の悪化を認め,経皮的酸素飽和度(SpO2)の低下,血中二酸化炭素濃度の上昇を認めた.さらに,無呼吸発作の合併に対してテオフィリン持続点滴を施行した.しかし有意な改善が認められないため,バブルCPAPシステムを施行した.バブルCPAPシステム開始後は,全例で速やかにSpO2の上昇と血中二酸化炭素濃度の低下が得られた.その後の症状の再燃もなく,テオフィリン持続点滴や酸素投与も比較的早期に中止し得た.また,バブルCPAPシステムの合併症である皮膚障害,腹部膨満,嘔吐等も認めなかった.バブルCPAPシステムは呼吸状態の悪化した重症のRSV感染症の新生児,乳児に対しても安全かつ簡便に使用でき,気管内挿管による人工呼吸管理を回避できる有効な呼吸管理の方法の1つと考えられた.


【原著】
■題名
受診が途絶えた小児がん経験者の晩期合併症(第2報)
■著者
国立病院機構名古屋医療センター小児科1),同 臨床研究センター2),名古屋第一赤十字病院小児医療センター血液腫瘍科3),名古屋大学大学院医学系研究科小児科学4)
前田 尚子1)  堀部 敬三1)2)  加藤 剛二3)  小島 勢二4)

■キーワード
小児がん経験者, 晩期合併症, 長期フォローアップ, 成人医療への移行, サバイバーシップ
■要旨
 背景 近年,小児がん治療後の晩期合併症に対するケアや長期フォローアップが注目されている.本研究では受診が途絶えた小児がん経験者(非受診者)と定期受診者との健康状態を比較した.方法 対象は1975年から2001年の間に名古屋地区の3病院で診断,治療を受けた小児がん経験者で,非受診者88名,定期受診者109名である.非受診者に現在の健康状態について郵送アンケート調査を行い,定期受診者と比較した.年齢中央値は非受診者24歳,定期受診者20歳で,診断からの期間はそれぞれ17年,14年であった.非受診者の原疾患は造血器腫瘍62人,固形腫瘍26人,定期受診者では造血器腫瘍82人,固形腫瘍27人であった.
 結果 健康問題の内訳は,非受診者で,性腺機能低下,聴力低下,慢性便秘が各11.4%,定期受診者で,性腺機能低下28.4%,低身長21.1%,骨粗鬆症13.8%が多かった.非受診者の21%,定期受診者の38%は複数の健康問題を抱えていた.非受診者は健康相談窓口の開設,適切な医療機関の紹介,定期検診の案内送付,晩期合併症や治療内容についての説明や資料,検診や晩期合併症治療への医療費補助,経験者同士の情報交換の場を求めていた.結論 半数以上の非受診者は何らかの健康問題を有し,晩期合併症について関心を持っていた.小児がん治療医は,経験者の成人医療へのスムーズな移行のため,経験者,家族,成人医療を担う医師に治療内容や可能性のある晩期合併症について情報提供を行い,経験者の健康管理を包括的に支援することが重要である.


【原著】
■題名
小児難治性潰瘍性大腸炎に対する経口タクロリムスのrescue-therapyとしての有用性の検討
■著者
久留米大学医学部小児科学教室
柳 忠宏  水落 建輝  関 祥孝  鍵山 慶之  牛島 高介  木村 昭彦  松石 豊次郎

■キーワード
小児, 潰瘍性大腸炎, 難治性, タクロリムス, 血中濃度
■要旨
 小児の潰瘍性大腸炎(UC)は,成人に比べ,難治例の報告も多い.成人では難治性UCに対するタクロリムス(FK506)の有効性が報告されている.今回,小児難治性UCに対するFK506の投与経験を報告する.小児難治性UCの5例を対象とした.初回投与量は0.05〜0.1 mg/kg/day 1日2回食前経口投与で開始した.目標血中トラフ濃度は導入期を10〜15 ng/ml,維持期は5〜10 ng/mlとして用量を調整した.臨床的背景,FK506の投与量,トラフ濃度,目標トラフに達する日数および血中濃度モニタリング回数,寛解の有無,ステロイド離脱,副作用,投与後の経過について後方視的に検討した.症例は男児3例,女児2例で,FK506投与時の年齢は,7歳0か月から14歳6か月.ステロイド依存性2例,抵抗性3例.初期投与量は0.07〜0.12 mg/kg/day,導入期投与量は0.13〜0.4 mg/kg/day,トラフ濃度は5.7〜17.4 ng/ml.目標トラフに到達する日数は6〜15日で初期投与量との相関はみられなかった.モニタリングは2〜7回行われた.維持期投与量は0.08〜0.4 mg/kg/day,トラフ濃度は5.7〜9.3 ng/mlであった.全例で寛解に至り,ステロイドを離脱できた.投与後,3例は8,14,16か月後に大腸全摘術を行われた.有害事象として,全例に低マグネシウム血症を認め,頭痛を1例に認めた.FK506は,頻回にモニタリングを行うことで,小児の難治性UCのrescue-therapyとして有用と思われる.


【原著】
■題名
リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の関与が疑われた中枢性尿崩症の1幼児例
■著者
市立函館病院小児科1),苫小牧市立病院小児科2),札幌医科大学小児科3)
近藤 謙次1)  笹岡 悠太1)  富樫 篤生1)  酒井 好幸1)  依田 弥奈子1)  橋本 真2)  鎌崎 穂高3)  堤 裕幸3)

■キーワード
中枢性尿崩症, リンパ球性漏斗下垂体後葉炎, MRI
■要旨
 経時的な画像所見の変化から,リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の関与が疑われた中枢性尿崩症の幼児例を経験したので報告する.症例は1歳4か月男児.妊娠分娩歴,精神運動発達に異常なし.多飲・多尿を主訴に当科を受診した.尿浸透圧の異常低値と水制限試験の結果より中枢性尿崩症と診断した.頭部MRIではT1強調画像にて下垂体後葉の高信号が消失し,下垂体の腫大と下垂体茎の肥厚を認めた.胚細胞腫瘍の一部で上昇がみられるAFPやHCGには有意な上昇は認めなかった.約3か月後に施行した頭部MRIでは,下垂体の腫大と下垂体茎の肥厚が改善していた.本症例では下垂体生検は実施していないが,MRI画像の経時的変化から,中枢性尿崩症の原因として,小児では稀な疾患であるリンパ球性漏斗下垂体後葉炎の関与が強く疑われた.本症例は,同様の経過をとりリンパ球性漏斗下垂体後葉炎が強く疑われる過去の報告例のうち,最も低年齢であった.本症例のように比較的早期に画像所見が改善する例では,MRI画像の評価が遅れると経時的変化を捉えられず,特発性中枢性尿崩症と診断される可能性がある.


【原著】
■題名
サブテロメアMLPA法が診断に有用であったIGF-1受容体遺伝子ハプロ不全の1例
■著者
埼玉県立小児医療センター代謝・内分泌科1),同 遺伝科2)
河野 智敬1)  会津 克哉1)  清水 健司2)  大橋 博文2)  望月 弘1)

■キーワード
IGF-1受容体遺伝子, ハプロ不全, 染色体端部微細欠失, サブテロメアMLPA法, 成長障害
■要旨
 今回,サブテロメアMLPA法をきっかけに,15番染色体長腕(15q)端部微細欠失によるIGF-1受容体遺伝子(IGF1R)ハプロ不全の早期診断に至った9か月女児例を経験した.本児はSmall for gestational age(SGA)・著明な低身長・特異顔貌・軽度発達遅滞・血中IGF-1軽度高値などの所見から,IGF1R異常や染色体異常症等の可能性が考えられた.染色体G分染法は正常であり,IGF1Rが存在する15qサブテロメア領域を含めた染色体端部微細欠失の検索のためサブテロメアMLPA法を行った.その結果,15qプローブのコピー数低下を認め,FISH法を追加することで同部位にIGF1Rを含む15q端部微細欠失を同定した.本症を診断する上で,サブテロメアMLPA法は有用なスクリーニング検査の1つと考えられた.


【原著】
■題名
鉄欠乏性貧血と成長障害を合併したHelicobacter pylori感染
■著者
公立南丹病院小児科
勝見 良樹  小田部 修  松井 史裕  木戸脇 智志  三林 明子  都間 佑介  阪上 智俊  伊藤 陽里

■キーワード
Helicobacter pylori, 鉄欠乏性貧血, 成長障害, 除菌
■要旨
 Helicobacter pylori(HP)感染症は鉄欠乏性貧血(IDA)などの血液疾患や成長障害を合併することも指摘されている.我々はIDAと成長障害を合併しHP除菌と鉄補充により両合併症の改善を認めたHP感染症の11歳女児例を経験した.11歳0か月から時々ごく軽度の腹痛を訴えるようになったが食欲もあり日常生活にも支障はなかったために病院や診療所は受診せずにいた.11歳9か月時,感冒で近医を受診したところ,偶然に貧血を指摘され当院に紹介となった.過去の身体測定の結果を評価したところ,受診の1年2か月前から身長・体重の増加は不良であった.血液検査でIDAを認め,ソマトメジンCは年齢に比して低値であった.尿素呼気試験,内視鏡検査にてHP感染症と診断し,HP除菌療法に鉄剤を併用し加療した.治療後,IDAは改善し,ソマトメジンCは年齢相当に上昇し,身長と体重は再び良好に増加するようになった.HP感染ははっきりとした消化器症状を伴うとは限らず,小児例ではIDAによる症状や成長障害を主訴に来院する症例もある.小児のIDAや成長障害の症例においては,HP感染を鑑別に挙げることが重要であると思われた.


【原著】
■題名
HHV-6再活性化を伴ったけいれん重積型急性脳症の1例
■著者
東京慈恵会医科大学小児科学講座1),同 ウイルス学講座2)
玉井 将人1)  南波 広行1)  大坪 主税1)  和田 靖之1)  久保 政勝1)  井田 博幸1)  小林 伸行2)  近藤 一博2)

■キーワード
Human herpesvirus-6, 再活性化, 脳症, 抗HHV-6抗体価, HHV-6 DNA
■要旨
 近年,HHV-6は再活性化による多くの病態が明らかになっている.今回,我々は,HHV-6再活性化を伴った脳症を経験した.症例は1歳7か月の女児.既往歴に,生後8か月時に突発性発疹症による熱性けいれんの既往がある.突然の発熱後,左上肢から全般化した難治性の間代性けいれんが出現し,人工呼吸管理を施行しミダゾラム,チアミラールの持続投与を行いけいれんは頓挫した.第3病日に上記薬剤,呼吸管理を中止したところ,左不全麻痺,発語の低下,左上肢から顔面にかけての部分発作がみられた.入院時血清HHV-6 IgM抗体価(蛍光抗体法)は10倍未満,HHV-6 IgGは160倍,3週間後のペア血清でも抗体価の上昇を認めなかったが,血清HHV-6 DNA 38.6コピー/ml,髄液HHV-6 DNA 1,657.9コピー/mlと高値であった.以上から本症例は脳内に潜伏感染していたHHV-6の再活性化を伴ったけいれん重積型脳症と考えた.発症1か月後の髄液HHV-6 DNAは陰性化したが,血清HHV-6 DNA 359.0コピー/mlと依然高値であった.本症例は明確な免疫異常を把握出来なかったが,HHV-6再活性化を伴った脳症を証明しえた1例と考えられた.


【原著】
■題名
著明な白血球増多に対して交換輸血を行い救命した重症百日咳の1例
■著者
長野県立こども病院小児集中治療科1),同 総合小児科2),長野赤十字病院小児科3)
庄司 康寛1)  樋口 司2)  小田 新1)  黒坂 了正1)  赤嶺 陽子1)  笠井 正志2)  南 希成2)  吉村 めぐみ3)  天野 芳郎3)  松井 彦郎1)

■キーワード
百日咳, 呼吸不全, 肺高血圧, 白血球増多, 交換輸血
■要旨
 症例は2か月女児.百日咳による肺炎・呼吸不全が疑われ,前医で挿管され人工呼吸管理が施行されていた.白血球は著明に増加(WBC 102000/μl)しており,心エコーで肺高血圧を示唆する所見を認めたため,当院小児集中治療室に入室した.呼吸循環管理とともに,著明な白血球増多に対して交換輸血を行った.全身状態は徐々に改善したため入院22日目に抜管し,36日目に退院した.
 本症例のように,WBC>100000/μlかつ肺炎を呈した乳幼児の百日咳では,重症化する可能性が高くしばしば集中治療が必要である.百日咳の重症例では,呼吸不全だけでなく肺高血圧から循環不全へ進行し致死的となることがある.特に,百日咳で認められる白血球増多はそれ自体が肺高血圧の増悪因子とされており,早期にleukoreductionを目的とした交換輸血を施行することで予後が改善できると考えられた.


【原著】
■題名
大動脈弁閉鎖不全と診断されていた大動脈左室トンネルの2例
■著者
新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野1),済生会新潟第二病院2)
長谷川 聡1)  小澤 淳一1)  渡辺 健一1)  鳥越 司1)  羽二生 尚訓1)  沼野 藤人1)  鈴木 博1)  廣川 徹2)  内山 聖1)

■キーワード
大動脈左室トンネル, 大動脈弁閉鎖不全, 心エコー, dual source CT
■要旨
 大動脈左室トンネル(Aortico-left ventricular tunnel以下ALVT)は大動脈と左室流出路の間に大動脈弁を迂回するようなバイパスが存在する疾患である.頻度は極めて稀とされているが,短期間に2例経験した.症例1は6か月女児.生後4か月時に心雑音を指摘され,心エコーで高度の大動脈弁閉鎖不全(AR)と診断された.無症状であり成長を待って手術の方針とされたが,8か月時にALVTと診断され,1歳4か月時に心内修復術が施行された.術後経過は良好である.症例2は16歳女性.フィリピンで出生し,10歳時に来日して初めて心雑音を指摘された.近医でARと診断された.その頃から易疲労感を自覚するようになり,徐々に増悪した.15歳時に当科を受診し,心エコーでALVTと診断された.閉鎖術が施行されたが,術後トンネルの残存短絡と軽度のARを認めた.ALVTは稀な疾患とされるが,ARと診断されている症例のなかに含まれている可能性がある.疾患概念の知識があれば心エコーで疑うことは比較的容易で,確定診断もCTが有用と考えられた.また早期に外科的介入をすることで予後の改善が期待できることから,疾患の認識が重要と考えられた.


【原著】
■題名
診断時に右シルビウス裂に転移を認めた三側性網膜芽細胞腫の1例
■著者
埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科小児脳脊髄腫瘍部門
福岡 講平  柳澤 隆昭

■キーワード
三側性網膜芽細胞腫, 頭蓋内転移, 早期発見
■要旨
 三側性網膜芽細胞腫は,遺伝性網膜芽細胞腫患者に発症する脳腫瘍で,主に松果体部に発症する.一方,網膜芽細胞腫の頭蓋内転移は,進行期病変として認められるが,両者が同時に診断される事は稀である.今回我々は診断時に頭蓋内転移を認めた三側性網膜芽細胞腫の1例を経験したので報告する.症例は1歳11か月女児.6か月時に家人が白色瞳孔に気づき,近医受診していたが診断に至らなかった.入院時,両眼内,松果体部の他,右シルビウス裂にも占拠性病変を認めた.摘出された右眼の病理所見より,網膜芽細胞腫と診断された.化学療法を開始したが,脊髄播種により診断後8か月で永眠された.三側性網膜芽細胞腫は,治療の強化により予後の改善が得られつつあるが,中枢神経浸潤例は救命例の報告が殆どない.本症例から,我が国においても,網膜芽細胞腫の早期診断への啓発が依然として重要であることが示唆された.


【原著】
■題名
高ナトリウム血症と低血糖性脳症をきたした完全母乳栄養の新生児例
■著者
関西医科大学小児科学講座
大橋 敦  關谷 真一郎  平林 雅人  中島 純一  峰 研治  黒柳 裕一  辻 章志  木下 洋  金子 一成

■キーワード
完全母乳栄養, 母乳性高ナトリウム血症, 低血糖性脳症
■要旨
 低血糖とけいれんで当科に入院となった母乳性高ナトリウム血症および低血糖性脳症の新生児例を経験した.
 患児は完全母乳栄養での育児支援に取り組んでいる施設で出生し,日齢2に当院に搬送された.来院時,高張性脱水,低血糖,多血症,腎機能障害および黄疸を呈していたため,上記と診断の上,水分・電解質およびブドウ糖の投与を行ったところ,速やかに改善し,日齢20に退院した.現在,生後4か月で,発達の遅れは認めていないが,日齢4の頭部MRI(拡散強調画像)では低血糖性脳症に特徴的な頭頂後頭葉の高信号域を認めた.
 母乳育児は世界的に推進され,わが国でも多くの施設で母乳育児支援の取り組みが行われているが,それに固執するあまり,不適切な栄養・水分管理を受ける可能性がある.重篤な中枢神経後遺症を残しうる母乳性高ナトリウム血症および低血糖性脳症の合併の可能性を念頭におき,生理的体重減少を上回る体重減少を認めた場合には適切な評価と管理(水分・電解質,糖分の補充)が必要である.


【原著】
■題名
集中治療管理を要した縦隔リンパ管腫症の2例
■著者
国立成育医療研究センター病院集中治療科1),同 外科2)
芳賀 大樹1)  問田 千晶1)  六車 崇1)  藤野 明浩2)

■キーワード
小児集中治療, 大量胸水, 骨透亮像, 乳糜胸
■要旨
 縦隔リンパ管腫症はリンパ管腫が肺や骨,縦隔にびまん性または多発性に発生する予後不良な疾患である.我々は集中治療管理を要した縦隔リンパ管腫症の2症例を経験した.縦隔リンパ管腫症は多彩かつ非特異的な症状を呈するため,診断が困難とされるが,画像所見および乳糜胸の合併から縦隔リンパ管腫症を疑い,病理組織診断にて確定診断し,特異的治療を開始した.2症例とも大量胸水貯留,リンパ管腫の肺実質浸潤による呼吸障害および重篤な合併症を呈したため,厳重な集中治療管理を要した.小児リンパ管腫症の急性期治療においては,特異的治療に加え,呼吸循環を含めた集中治療管理が不可欠である.


【論策】
■題名
麻しん検査診断における急性期IgM抗体価の考え方
■著者
札幌北楡病院小児思春期科
安田 一恵  岸本 健治  佐野 弘純  鈴木 大介  小林 良二  小林 邦彦

■キーワード
麻しん, 抗麻しんIgM抗体, RT-PCR, 偽陽性
■要旨
 麻しんの急性期検査診断に最も多く用いられている麻しんIgM抗体検査の結果解釈と麻しん診断における位置づけについて,1症例の経験をもとに考察した.麻しんIgM抗体検査においては,他の感染症罹患時の偽陽性が知られている.正確な診断と感染症の拡大を防ぐための迅速性という点では,現在各自治体の衛生研究所で行われているreverse transcription polymerase chain reaction(RT-PCR)法が有用であり,麻しんIgM抗体検査については,抗体指数の基準値と結果解釈の見直しが必要と考えた.


【論策】
■題名
小児専門病院を受診した乳幼児の熱傷における受傷機転
■著者
東京都立小児総合医療センター救命救急科1),同 集中治療科2),同 総合診療科3),あすなろ小児科4)
鶴和 美穂1)  井上 信明1)  高林 見和1)  池田 次郎4)  関谷 恭介1)  池山 由紀1)  清水 直樹2)  榊原 裕史3)  寺川 敏郎3)

■キーワード
小児, 熱傷, 傷害予防, 受傷機転
■要旨
 乳幼児の熱傷事故の中には,周囲の大人によって未然に予防できたと考えられる事故もみられる.今後の熱傷予防活動につなげていくことを目的に,実際にどのようにして乳幼児の熱傷が生じているのかを調査した.
 調査期間は2010年3月から20か月間.当施設の総合診療・ER外来を受診した熱傷患者のうち5歳未満の乳幼児を対象に調査をおこなった.
 結果,対象症例は313例あり,うち218例は2歳未満の症例であった.熱傷の原因として,加熱液体186例,加熱固体90例,加熱気体32例と加熱液体が最も多くみられた.加熱液体による熱傷の受傷機転として,能動的熱湯熱傷症例が154例と圧倒的に多くみられた.また,加熱固体の原因物として花火が最も多く,加熱気体の原因物としては炊飯器の蒸気が最も多くみられた.
 今回の調査において,周囲の大人によって予防対策を講じることが可能であったと考えられる症例は297例あった.子どもを守る立場である小児科医も含めた地域全体で,傷害予防の啓発活動を繰り返し,かつ継続しておこなっていく必要がある.

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