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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:13.8.19)

第117巻 第8号/平成25年8月1日
Vol.117, No.8, August 2013

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日本小児心身医学会推薦総説

不登校再考〜小児科医の視点から〜

竹中 義人,他  1239
原  著
1.

脳脊髄液シャント感染症28例の検討

深沢 千絵,他  1247
2.

乳幼児におけるインフルエンザ菌b型株の保菌率とアンピシリン感受性

成相 昭吉,他  1254
3.

高肺血流性心疾患を伴う18トリソミーの肺生検組織所見

田原 昌博,他  1260
4.

新生児関連疾患がわが国の幼児死亡に与える影響

楠田 聡,他  1267
5.

院内虐待対応組織設立による虐待対応の変化と課題

小橋 孝介,他  1273
6.

初期研修医・小児科医の心室細動・ショックに対する初期診療能力

賀来 典之,他  1279
7.

ビスフォスフォネート療法が奏効したBruck症侯群の1例

橘 芙美  1284
8.

造影CT検査が重症度判定に有用であった急性膵炎の1例

寺川 由美,他  1289
9.

難治性緑膿菌呼吸器感染に対してトブラマイシン吸入療法が著効した小児例

岡田 広,他  1295
10.

呼吸器症状を伴わない肺炎クラミジア感染の経過中に結節性紅斑を呈した1例

富樫 篤生,他  1299
11.

NEMO蛋白異常をフローサイトメトリーにより早期診断した色素失調症の新生児例

内尾 寛子,他  1303
12.

甲状腺機能低下症を伴う多発性肝血管腫にプロプラノロール投与が奏功した1例

池田 弘之,他  1308
13.

好酸球性食道炎の1例

高柳 恭子,他  1313
短  報

ワクチン大腿部皮下接種の試み

木村 正彦  1318
論  策

長期入院児の在宅医療や重症心身障害児施設等への移行問題

舟本 仁一,他  1321

地方会抄録(群馬・北陸・石川・福井・佐賀・山梨・福岡・青森・山形・愛媛・東海・鹿児島)

  1326
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No.41 抱っこ紐からの転落による頭部外傷

  1366

日本小児科学会分科会一覧

  1370

日本小児科学会分科会活動状況

  1371

ご講演におけるCOI(利益相反)状態の開示に関するお願い

  1378

日本小児科学会主催 第5回園医・看護職・保育士のための研修会

  1379

学会ホームページリニューアルについて

  1381


【原著】
■題名
脳脊髄液シャント感染症28例の検討
■著者
千葉県こども病院感染症科
深沢 千絵  星野 直

■キーワード
シャント感染, 脳室腹腔シャント, 合併症, 水頭症
■要旨
 脳脊髄液シャント感染症の現状を明らかにすることを目的に,2005年〜2009年の5年間に細菌学的にシャント感染症と診断し当院で加療した症例について,診療録をもとに後方視的検討を行った.
 対象症例は19名28件で,シャント挿入後1年以内の発症が24件と術後早期の発症が多かったが,遠隔期の発症もあった.臨床症状としては,発熱が21件,腹部症状・腹膜炎徴候が14件に認められた.血清CRP値はほとんどの症例で上昇していたが,明らかな髄液細胞数増多を認めたのは27件中13件であった.診断までに8日以上要した症例が8件あり,3件で腹部CT異常を認め診断に有用であった.バルブからの髄液穿刺で菌が検出されず,シャントを一部または全部抜去してはじめて原因菌が同定された症例が11件あった.原因菌は,Staphylococcus spp.が28株中20株,うちメチシリン耐性株が15株を占めていた.21件で外科的治療(シャント抜去・再建)と内科的治療(抗菌薬投与)の併用が行われていたが,うち6件で再発を認めた.内科的治療のみで治療された7件のうち4件で再燃を認めた.
 シャント感染症は,通常の細菌性髄膜炎と比べ症状や検査所見が異なり,診断に苦慮することも多い.シャントを挿入されている児の発熱・炎症反応上昇例では,シャント感染症を鑑別に挙げ,脳神経外科医と連携して診断・治療にあたる必要がある.


【原著】
■題名
乳幼児におけるインフルエンザ菌b型株の保菌率とアンピシリン感受性
■著者
横浜南共済病院小児科
成相 昭吉  岩澤 堅太郎

■キーワード
インフルエンザ菌b型, インフルエンザ菌b型結合型ワクチン, 上咽頭培養, 保菌率, アンピシリン耐性
■要旨
 上咽頭培養を施行した1か月から6歳までの乳幼児下気道感染症例におけるインフルエンザ菌b型(Hib)保菌率を,2004年から2011年まで年毎に検討した.2004年と2005年は,それぞれ1.2%と1.1%で1%を越えていたが,2006年は0.5%,2007年は0.8%,2008年は0.2%で,2006年以降は1%未満で増減した.その後,Hibワクチン接種が実質始まった2009年は0.4%,2010年は0.5%であったが,接種に公費助成が得られた2011年にはHib検出例はなかった.
 国内既報と今回の結果から,国内乳幼児におけるHib保菌率は,長い間約1%で推移してきたものと考えられた.しかし,2011年にはHibワクチン接種の普及により乳幼児におけるHib保菌率が減少したと推測された.
 また,2004年から2010年までに検出されたHib株49株におけるアンピシリン(ABPC)耐性率は55.1%で,その85.2%がβ-ラクタマーゼ非産生ABPC耐性株であった.
 今後も乳幼児において,ABPC耐性率の高いHibの上咽頭への定着が抑止され続けるように,Hibワクチン接種を行っていく必要がある.


【原著】
■題名
高肺血流性心疾患を伴う18トリソミーの肺生検組織所見
■著者
あかね会土谷総合病院小児科1),日本肺血管研究所2)
田原 昌博1)  本田 茜1)  下薗 彩子1)  新田 哲也1)  八巻 重雄2)

■キーワード
18トリソミー, 肺高血圧, 肺生検, 肺小動脈, 閉塞性肺血管病変
■要旨
 【背景】高肺血流性心疾患を伴う18トリソミーでは,早期から肺高血圧を伴い,閉塞性肺血管病変が進行しやすい.また,18トリソミーの主な死因として心疾患に伴う肺出血や心不全が挙げられている.【方法】高肺血流性心疾患に伴う肺高血圧のために当院で肺生検を行った18トリソミー10例の肺生検組織所見,臨床経過について検討した.【結果】平均日齢51.4±13.0日(26〜69日)に肺動脈絞扼術と同時に肺生検を施行した.Heath-Edwards分類は0度1例,1度2例,2度4例,3度2例であり,1例は肺小動脈の形成不全のため分類不能であった.手術日齢が遅い症例ほど,閉塞性肺血管病変が進行している傾向を認めた.肺小動脈外径に対する中膜厚の比は外径50,200 μmでそれぞれ7.8±3.2%,4.6±1.7%であり,染色体異常のない心室中隔欠損症例での過去の報告と比較して小さい傾向が認められた.肺小動脈内膜の線維性増殖を呈している3例は全例心臓関連死に至ったのに対し,それ以外の7例では心臓関連死の症例は無かった.【結語】18トリソミーでは肺高血圧の存在にも関わらず肺小動脈の中膜肥厚が軽度であった.生後早期の外科的介入で閉塞性肺血管病変の進行が予防できる可能性は考えられるが,肺小動脈形成不全などの致死的な経過が予測される症例もあり,手術適応の決定には,両親と共に児の最善の利益を追求する姿勢で検討すべきである.


【原著】
■題名
新生児関連疾患がわが国の幼児死亡に与える影響
■著者
東京女子医科大学母子総合医療センター1),大阪府立母子保健総合医療センター2),帝京大学溝口病院小児科3)
楠田 聡1)  藤村 正哲2)  渡辺 博3)

■キーワード
死亡診断書, 死亡小票, 新生児死亡, 乳児死亡, 1〜4歳児死亡
■要旨
 <はじめに>幼児死亡の一部には新生児期に発症した新生児関連疾患が原因となる.そこで,この影響を検討するために,わが国の5歳未満児死亡の特徴を国際比較するとともに,幼児死亡の小票を閲覧して新生児関連疾患との関係を検討した.
 <方法>WHO(世界保健機関)の2010年データを国際比較に用いた.死亡小票は,2005と2006年に発生した1〜4歳児死亡2,245例のうち,閲覧した2,188例を対象とした.
 <結果>OECD19か国の新生児死亡率と1〜4歳児死亡率は直線相関の関係にあったが,わが国の1〜4歳児死亡率は,その相関関係から偏移し,新生児死亡率の低さに比べて高値であった.一方,小票の検討では,新生児関連疾患がその後の1〜4歳児死亡に関与したのは612例であった.このうち,出生後に同一医療施設を退院することなく死亡したのは134例であった.この例を全て新生児死亡として扱っても,わが国の新生児死亡率は依然世界最高レベルであり,1〜4歳児死亡率は19か国中の14位から13位に上昇したのみであった.
 <結論>わが国の1〜4歳児死亡率は,新生児死亡率の低さに比べ高かった.この原因として,他国で新生児死亡となる症例が救命されて,結果的に1〜4歳児死亡となっているためと説明することは困難であった.


【原著】
■題名
院内虐待対応組織設立による虐待対応の変化と課題
■著者
鴨川市立国保病院小児科1),済生会前橋病院小児科2),国保松戸市立病院小児医療センター小児科3),特定非営利活動法人子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク4)
小橋 孝介1)3)  溝口 史剛2)  津留 智彦3)  池原 甫3)  齋藤 友康3)  山田 不二子4)

■キーワード
児童虐待, 虐待通告, 虐待予防, 院内虐待対応組織, Child Death Review
■要旨
 国保松戸市立病院小児医療センターでは平成21年に院内虐待対応組織(Child Protection Team:CPT)を設置した.その後2年間にCPTで対応した事例と,CPT設置前の平成11年度より平成20年度までの10年間に当院で対応した虐待事例とを後方視的に検討し,当センターにおける虐待対応の変化と課題に関しての考察を行った.CPT設置後2年間で対応した事例は72例であった.主たる虐待類型別の事例数は,身体的虐待事例36例,ネグレクト事例30例,性的虐待事例2例,非虐待事例4例であった.CPTとして虐待を疑った68例のうち,37例を児童相談所に,14例を市町村に,虐待事例として通告した.残りの17例は継続的な支援が必要な要支援児童として養育者の同意を得て,市町村に連絡した.虐待として児童相談所に通告した37例中,11例が一時保護を要したが,その後法的手続きによる強制的親子分離に至った事例はなかった.一方,CPT設置前10年間で当センターにおいて,虐待として対応したことがカルテ上確認できた事例は10例であった.CPT設置前の事例抽出は,病名検索による後方視的検討であり,すべての事例を把握できたとは言いがたいが,CPT設置後の2年間を見ても,CPTに報告される虐待疑いの事例は,虐待事例,要支援児童連絡例ともに増加している.当センターにおいてCPTの活動は,虐待の早期発見・早期支援において,寄与していると考察した.


【原著】
■題名
初期研修医・小児科医の心室細動・ショックに対する初期診療能力
■著者
国立成育医療研究センター集中治療科
賀来 典之  六車 崇  井手 健太郎  谷 昌憲  塚原 紘平

■キーワード
小児救急, 院内蘇生教育, off-the-job training, シミュレーション, Pediatric Advanced Life Support
■要旨
 【目的】初期研修医・小児科医の重症小児に対する初期診療能力を評価し,必要とされる教育内容と方略を検討する.【対象と方法】国立成育医療研究センター病院2009年・2010年度新規採用レジデント40名(うちPediatric Advanced Life Support(PALS)プロバイダー38名)を対象に,研修開始前に,乳児の心停止・ショックを想定したシミュレーション(各7分間)を行い,診療の各要素の施行までの時間を計測した.【結果】心停止症例での各要素の施行までの所要時間(中央値)と非施行率は,人工呼吸:46秒・4%,胸骨圧迫:58秒・3%,除細動:219秒・15%,アドレナリン投与:353秒・65%であった.また,7分間のうちCPR継続時間は286秒(中央値)であった.ショック症例では,気道〜全身観察までの一次評価を完遂できなかった者は55%であり,特に,呼吸,神経,全身観察の評価ができない傾向にあった.さらに,ショックを認識できなかった者,病因別に分類できなかった者はそれぞれ22%,97%であった.【結論】初期研修医・小児科医などの重症小児に対する初期診療能力は不充分であり,原因として,時間経過によるスキルの低下などが考えられた.その対策として,継続的なシミュレーションなどによるoff-the-job trainingの必要性が示唆された.


【原著】
■題名
ビスフォスフォネート療法が奏効したBruck症侯群の1例
■著者
愛媛県立中央病院新生児科
橘 芙美

■キーワード
Bruck症侯群, 先天性多発性関節拘縮, 骨形成不全症, ビスフォスフォネート
■要旨
 Bruck症侯群は,先天性多発性関節拘縮と易骨折性を合併する極めて稀な疾患であり,骨形成不全症との鑑別が重要である.今回,我々は先天性多発性関節拘縮に加えて骨折を繰り返し,Bruck症侯群と診断した症例を経験した.生後1か月よりビスフォスフォネート療法を開始し骨折頻度の減少や骨密度の増加など検査所見の改善を得た.これまでに本邦ではBruck症侯群に対するビスフォスフォネート治療の報告はない.本症例の診断および治療経過について報告する.


【原著】
■題名
造影CT検査が重症度判定に有用であった急性膵炎の1例
■著者
大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学1),和泉市立病院小児科2)
寺川 由美1)  澤田 智1)  榎本 誠2)  林 絵里2)  佐久間 悟2)  坂東 賢二2)  村上 城子2)  新宅 治夫1)

■キーワード
マイコプラズマ感染症, 重症急性膵炎, 重症度判定基準
■要旨
 マイコプラズマ感染症には多くの肺外合併症が知られており,マイコプラズマ膵炎の報告も散見されるものの未だ少ない.我々は,マイコプラズマ肺炎発症後に急性膵炎を発症した1例を経験した.症例は7歳女児で,マイコプラズマ肺炎治療中に嘔吐,腹痛が出現し,血清アミラーゼの著増を認め,造影CTにてGrade3の重症膵炎と診断した.膵炎に対する治療を行い,症状および造影CT所見の改善を認めた.マイコプラズマ感染症では,様々な合併症が起こりうる可能性を常に念頭におき,症状の変化に注意すべきと考えられた.膵炎の重症度判定には造影CTが有用であると考えられた.


【原著】
■題名
難治性緑膿菌呼吸器感染に対してトブラマイシン吸入療法が著効した小児例
■著者
国保松戸市立病院小児医療センター小児科1),千葉大学医学部附属病院小児科2),東京都立小児総合医療センター救命・集中治療部集中治療科3)
岡田 広1)3)  石和田 稔彦2)  津留 智彦1)  木川 崇1)  平本 龍吾1)  小森 功夫1)

■キーワード
緑膿菌, トブラマイシン, 吸入, 呼吸器感染, 気管切開
■要旨
 トブラマイシン吸入療法は,諸外国においては嚢胞性線維症に合併した緑膿菌感染症などに対して有効性が確立しており,広く用いられている治療法である.一方,本邦ではこの治療法は普及しておらず,特に小児例での報告はない.今回我々は,気管切開管理中の重症心身障害児における難治性緑膿菌感染症に対して,本治療法を試みた.患児はこれまで,喉頭気管分離術を施行しクラリスロマイシン少量持続投与の使用下でも緑膿菌性肺炎を反復し,入院を繰り返していた.今回の入院治療においては,メロペネム・パズフロキサシン・トブラマイシンによる静注療法を4週間以上行っても軽快せず,トブラマイシン吸入療法を開始した.吸入療法により,肺炎像は著明に改善し退院が可能となった.腎障害や聴力障害は認めず,トブラマイシンの血中濃度も一貫して検出感度以下であった.その後間欠的に吸入療法を行い,約2年間が経過しているが,肺炎での入院が一度あった以外は,外来のみでの定期通院が可能となっている.副作用や長期予後について,今後の経過に留意する必要があるが,トブラマイシン吸入療法は,難治性の緑膿菌気道感染症に対して,有効な治療法になりうると考えられた.


【原著】
■題名
呼吸器症状を伴わない肺炎クラミジア感染の経過中に結節性紅斑を呈した1例
■著者
市立函館病院小児科1),札幌医科大学小児科2)
富樫 篤生1)  笹岡 悠太1)  近藤 謙次1)  酒井 好幸1)  依田 弥奈子1)  堤 裕幸2)

■キーワード
肺炎クラミジア, 結節性紅斑
■要旨
 呼吸器症状を伴わない肺炎クラミジア感染により結節性紅斑を生じた症例を経験した.症例は6歳女児で,左下腿伸側の発赤,腫脹,疼痛により歩行困難となり受診された.当初は蜂窩織炎を疑い抗生剤投与を行ったが改善せず,入院中に右下腿伸側にも同様の皮疹が出現したため,臨床的に結節性紅斑と診断しイブプロフェン投与を行った.酵素免疫法による肺炎クラミジア抗体価測定により,肺炎クラミジアの急性感染が示唆されたため,クラリスロマイシンの投与も行った.経過中,呼吸器症状や胸部レントゲンの異常は認めなかった.肺炎クラミジアは,主に呼吸器感染を引き起こす病原体である.これによる結節性紅斑は,これまで数例の報告があるが,その多くは呼吸器感染徴候を伴っている.本症例は,呼吸器感染徴候を認めておらず,明らかな呼吸器感染徴候を認めない場合においても,結節性紅斑の原因として肺炎クラミジア感染を検討する必要があると考えられる.


【原著】
■題名
NEMO蛋白異常をフローサイトメトリーにより早期診断した色素失調症の新生児例
■著者
日本赤十字社和歌山医療センター小児科1),京都大学医学部発達小児科学2)
内尾 寛子1)  額田 貴之1)  井庭 憲人1)  深尾 大輔1)  橋本 有紀子1)  田部 有香1)  井上 美保子1)  濱畑 啓悟1)  吉田 晃1)  百井 亨1)  河合 朋樹2)  西小森 隆太2)  平家 俊男2)

■キーワード
色素失調症, NEMO, フローサイトメトリー
■要旨
 色素失調症は,NEMO遺伝子の変異を原因とする神経皮膚症候群のひとつである.生下時から出現する4段階の皮膚症状を特徴とし,歯牙・中枢神経・眼の合併症を伴う場合がある.特に網膜症は早期発見と治療が重要となる.
 症例は正期産の女児で,生下時から紅色皮疹を認め,全身に広がった.皮疹の特徴的配列および皮膚病理組織像から色素失調症が疑われた.日齢14に末梢血単核球のフローサイトメトリーにて単球におけるNEMO低発現細胞を検出し,NEMO異常による色素失調症をより強く示唆した.以上の所見は,慎重な合併症検索による網膜症病変の進行の発見につながり,日齢15にレーザー治療が行えた.その後のNEMO遺伝子解析により,患者においてNEMO遺伝子欠失が同定されNEMO遺伝子異常による色素失調症であることが確認された.
 色素失調症の診断において,臨床症状と皮膚病理組織検査に加えて,フローサイトメトリー検査によるNEMO異常の検出は早期診断の一助となり,特に典型的症状を欠く症例での,合併症の早期発見,治療につながる可能性を示した.


【原著】
■題名
甲状腺機能低下症を伴う多発性肝血管腫にプロプラノロール投与が奏功した1例
■著者
成田赤十字病院小児科
池田 弘之  櫻井 彩子  眞山 和徳  古舘 和季  植木 英亮  清宮 伸代  野口 靖  五十嵐 俊次  角南 勝介

■キーワード
肝血管腫, 甲状腺機能低下症, プロプラノロール
■要旨
 多発性肝血管腫に甲状腺機能低下症を合併した乳児例を経験した.症例は2か月女児.心雑音を主訴に受診し,黄疸,腹部膨満,多発皮膚血管腫を認めた.精査にて甲状腺機能低下症と多発性肝血管腫を診断した.プロプラノロールを投与し,投与開始6週後には肝血管腫の形態的縮小傾向が明らかとなった.甲状腺機能低下症は血管腫組織における甲状腺ホルモン分解亢進によると思われ,当初高用量のレボチロキシン投与を要したが,肝血管腫の縮小とともに減量しえた.血管腫に甲状腺機能低下症を伴う例があり注意が必要なこと,及びプロプラノロールが多発性肝血管腫の治療選択肢となりえることを示唆する症例と考えられた.


【原著】
■題名
好酸球性食道炎の1例
■著者
大阪府立母子保健総合医療センター消化器内分泌科1),信州大学小児医学講座2)
高柳 恭子1)  中山 佳子1)2)  惠谷 ゆり1)  中尾 紀恵1)  河本 浩二1)  位田 忍1)

■キーワード
好酸球性食道炎, 胃食道逆流症, 食物アレルギー, 口腔アレルギー症候群
■要旨
 近年,胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)と考えられるがGERDの治療に反応しない食道炎の患者の増加が認識され,その後の研究で好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)という新しい病態が提唱されている.今回我々は上部消化管内視鏡検査で特徴的な病理組織像を確認し,ステロイド治療に反応した典型的なEoEの1例を経験した.症例は13歳男児.主訴は上腹部痛,胸やけ,食べ物のつかえ感.血液検査で好酸球,総IgEの上昇を認め,アレルギー素因による腹痛の精査加療目的で当科に紹介となった.好酸球性胃腸炎を疑い内視鏡検査を施行したところ,胃・十二指腸に異常所見は認められないものの食道全体に縦走溝,輪状溝,白濁肥厚した食道粘膜の浮腫があり,病理組織において著しい好酸球の浸潤を認めEoEと診断した.プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)の内服は無効であったが,プレドニゾロンの投与により症状は消失し内視鏡所見も改善した.本邦において小児のEoEの症例報告は少なく稀な疾患であるが,アレルギー疾患の増加を背景にPPI不応性でGERD様症状を有する患者ではEoEを鑑別の一つにおき,積極的な内視鏡検査が必要である.


【短報】
■題名
ワクチン大腿部皮下接種の試み
■著者
きむらこどもファミリークリニック
木村 正彦

■キーワード
ワクチン大腿部接種, ワクチン筋肉内接種, 同時接種
■要旨
 ワクチンの同時接種の必要性が増し,接種部位として大腿部も推奨されている.ワクチン接種のため来院した保護者に大腿部接種の説明を日本小児科学会が出しているイラストを用いて行った.保護者75人中67人が接種に同意し,69人の児,2か月から1歳10か月,中央値3か月,に対して延べ125回,大腿前外側部を含むワクチンの同時接種を行った.3人で不機嫌および接種部位の腫脹があり,うち2人では腫脹は下肢全体に及んだが,一過性であった.接種後のアンケートで,65人中62人が勧められたら次の接種も大腿部にすると答えた.大腿部接種は概ね保護者に受け入れられた.


【論策】
■題名
長期入院児の在宅医療や重症心身障害児施設等への移行問題
■著者
大阪市立住吉市民病院小児科1),NTT東日本札幌病院小児科2),うめはらこどもクリニック3),広島国際大学医療経営学部4)
舟本 仁一1)  森 俊彦2)  梅原 実3)  江原 朗4)

■キーワード
小児救急, 移行問題, 在宅医療, 重症心身障害児施設, 中間施設
■要旨
 長期入院児の移行問題については,新生児集中治療室(NICU:Neonatal Intensive Care Unit)での課題認識と対策が先行してきたが,救急部門を始め一般急性期病棟でも解決が求められている.このため我々は日本小児科学会救急委員会が実施した一般小児科・救急病棟(以下,一般小児科病棟)で長期入院児を診療している施設の状況調査結果をもとに,解析・検討を行った.回収率は57/57(100%)で,57施設中50施設(88%)の一般小児科病棟に267人(平均4.7人,中央値3人)が6か月以上,長期入院していた.移行問題に対する各施設の考え方には(1)在宅医療の支援体制整備が最も重要(23%),(2)事情に応じて重症心身障害児(者)施設(以下,重心施設)または在宅医療への移行を選択(68%),(3)重心施設の充実による移行を求める立場(5%)などがあった.しかし,大きな困難なく移行できている施設は23施設(40%)に過ぎない.在宅医療への移行では,28施設(50%)に在宅支援チームがあり,52施設(93%)で地域と連携しているが,そのうち行政を含む地域支援ネットワークを形成しているところは13施設(25%)と少ない.移行問題では,高度な医療的ケア,大きな家族負担,医療制度および人的支援体制の不足などの課題から,77%の施設が中間施設を必要としている.中間施設の設置,重心施設の量的・質的充実,それらと急性期病院との連携,在宅医療と支援ネットワークの充実,在宅医療を支える診療報酬上の支援を含めた対応が必要である.

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