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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:12.8.20)

第116巻 第8号/平成24年8月1日
Vol.116, No.8, August 2012

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総  説

Fanconi貧血の診断と治療

矢部 みはる  1205
原  著
1.

インフルエンザA/H1N1 2009感染の入院117例の臨床的検討

大城 征,他  1213
2.

当センターで経験した被虐待症例のカテゴリー別リスク因子の検討

田上 幸治,他  1219
3.

経母乳的抗原摂取によりアナフィラキシーショックに陥った4か月例

越智 史博,他  1223
4.

肺高血圧で発症したイオン飲料多飲による脚気衝心の1例

片岡 久子,他  1228
5.

低身長の精査で偶然発見されたDanon病の1例

粟屋 美絵,他  1233
6.

塩酸ドネペジル療法により日常生活能力と成長率の改善がみられたDown症候群の1例

大坪 善数,他  1239
論  策

重症心身障害児等の在宅医療に関する実態調査

根津 智子,他  1244

地方会抄録(大分・高知・東京・愛媛・福岡・東海・長野・富山)

  1250

Injury Alert(傷害速報)Follow-up 報告 No.3

  1309
日本小児科学会生涯教育および専門医育成認定委員会

第7回:フィードバックとは?

  1311

日本小児科学会分科会一覧

  1313

日本小児科学会分科会活動状況

  1314
エッセイ

ODの診断基準の検討と新基準案の提案

大国 真彦,他  1322

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2012年54巻4号8月号目次

  1324


【原著】
■題名
インフルエンザA/H1N1 2009感染の入院117例の臨床的検討
■著者
那覇市立病院小児科
大城 征  今給黎 亮  古波蔵 都秋  上原 朋子  桃原 由二  新垣 洋平  神谷 素子  渡久地 鈴香  伊波 徹  屋良 朝雄

■キーワード
新型インフルエンザ, インフルエンザA/H1N1 2009, 小児, 喘息, 喘鳴
■要旨
 那覇市立病院で2009年8月から2010年1月までの6か月間にインフルエンザA型と診断され入院した15歳までの小児117名をインフルエンザA/H1N1 2009感染(新型インフルエンザ)として臨床的検討を行った.また2008年1月から2009年7月までの19か月間にインフルエンザA型と診断され入院した41名を季節性インフルエンザとして比較検討した.
 入院率,発熱してから入院までの期間,入院期間,入院時CRP値,呼吸器疾患を合併した入院患者で喘息の現症もしくは既往を有する患者の割合,入院患者で喘息の現症もしくは既往を有する患者のうち吸入ステロイドで長期管理されていた患者の割合,神経症状(けいれん,異常行動,脳炎・脳症)や消化器症状の合併率では両群間に有意差を認めなかった.また入院患者における生後3か月未満の割合に有意差はなく,いずれも軽症で特に重篤な合併症は認めなかった.一方,年齢,呼吸器疾患の合併率,また呼吸器疾患を合併した患者の中での喘鳴の出現率及びイソプロテレノール持続吸入の施行率は新型インフルエンザ感染群で有意に高かった.
 新型は季節性とは異なる臨床像を示した.新型インフルエンザ感染群では喘鳴を伴う呼吸器疾患を高頻度に合併した.今後新型と季節性の混在した流行が予想されるが,喘鳴出現時には特に注意が必要であり,予防も含めより早急な対応が求められる.


【原著】
■題名
当センターで経験した被虐待症例のカテゴリー別リスク因子の検討
■著者
神奈川県立こども医療センター総合診療科
田上 幸治  松井 潔  山本 敦子

■キーワード
小児虐待, リスク因子, 予防
■要旨
 平成12年から平成21年の10年間で当センターで虐待が疑われ,症例検討部会で虐待とみなした174症例に対して,年齢,性別,虐待の種類,リスク因子を調査し,虐待の種類別にリスク因子の違いを検討した.リスク要因としては児の因子,親の因子,家庭の因子,サポートの欠如,核家族を挙げ,診察録と虐待症例検討会議の会議記録をもとに調査した.虐待の最大の治療はやはり予防であり,介入を行い虐待の発生を予防するとり組みがなされている.高リスク群を早期発見し,援助的介入によって虐待の発生を予防することはある程度の有効性が認められる.我々は虐待の種類別にリスクの違いを調査し,それに基づき有効な予防方法を考察した.虐待の発生予防に関して保健や医療のさまざまな機関が連携を取りながら,ともに役割をはたさなければならないが,医療での特徴を示す.


【原著】
■題名
経母乳的抗原摂取によりアナフィラキシーショックに陥った4か月例
■著者
医療法人住友別子病院小児科1),愛媛県立新居浜病院小児科2),愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御部門小児医学3)
越智 史博1)3)  楠目 和代2)3)  小泉 宗光1)  矢野 喜昭1)  石井 榮一3)

■キーワード
アナフィラキシー, 母乳, 食物アレルギー, 乳児
■要旨
 生後4か月の完全母乳栄養の女児がアナフィラキシーショックに陥った.アドレナリン筋注,ステロイド静注,抗ヒスタミン薬点滴により症状が改善した.血清総IgE値は27 IU/ml,抗原特異的IgE抗体価は卵白1.19 UA/ml,ミルク7.17 UA/ml,カゼイン9.69 UA/ml,チーズ1.57 UA/mlと上昇していたが,ピーナッツ,卵黄は0.34 UA/ml以下であった.皮膚プリックテスト(プリック―プリックテスト)で卵,牛乳,ピーナッツクリームに対する即時型反応を認めた.107倍に希釈した牛乳スクラッチエキス(鳥居)を使用したプリックテストで5 mm×6 mmの紅斑を認め,即時反応に対する母乳中抗原の関与が示唆された.完全母乳栄養児でも乳児期早期に母乳中の抗原により重症な即時型アレルギー反応を起こしうるため注意が必要である.


【原著】
■題名
肺高血圧で発症したイオン飲料多飲による脚気衝心の1例
■著者
倉敷中央病院小児科
片岡 久子  新垣 義夫  脇 研自  林 知宏  荻野 佳代  花岡 義行  羽山 陽介  吉永 大介

■キーワード
小児ビタミンB1欠乏, 脚気衝心, 肺高血圧, イオン飲料
■要旨
 症例は1歳5か月女児.運動発達に異常を認めなかったが,生後8か月頃から体重増加不良があった.多呼吸,活気不良,乏尿,浮腫を認め入院した.BNPが1,900 pg/mlと高値で,心エコーで肺高血圧の所見を認めた.入院後の問診で,生後8か月頃からイオン飲料を1日4リットル程度と多飲するようになり,ミルク・食事を摂取しなくなったことが判明した.ビタミンB1欠乏による脚気衝心を疑い,入院2日目から混合ビタミン製剤の投与を開始した.投与開始翌日から尿量は増加し,浮腫も改善した.入院5日目には心エコー上の肺高血圧の所見も改善した.ビタミン投与前の血液検査でビタミンB1 12 ng/mlと低値であった.
 高拍出性心不全,肺高血圧の症例を経験した場合には,ビタミンB1欠乏を疑うことが重要と考えられる.また,小児においてイオン飲料多飲による脚気の報告が散見されており,一般家庭に対してのイオン飲料についての啓発が必要と考えられた.


【原著】
■題名
低身長の精査で偶然発見されたDanon病の1例
■著者
京都大学医学部附属病院小児科1),国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第一部2),赤穂市民病院小児科3)
粟屋 美絵1)  馬場 志郎1)  鶏内 伸二1)3)  粟屋 智就1)  柴田 実1)3)  加藤 竹雄1)  横尾 憲孝1)  美馬 隆宏1)  清野 智恵子2)  西野 一三2)  埜中 征哉2)  依藤 亨1)  土井 拓1)  中畑 龍俊1)  平家 俊男1)

■キーワード
Danon病, 肥大型心筋症, ライソソーム病, lysosome-associated membrane protein-2(LAMP-2)
■要旨
 低身長精査時の偶然に発見されたDanon病の1男児例を経験した.症例は13歳の男児で,低身長を主訴に近医を受診し,肥大型心筋症,肝酵素上昇,家族歴などから代謝疾患を疑われ,当院を紹介され受診した.血液検査所見では肝酵素,クレアチンキナーゼ,アルドラーゼが高値であり,アミノ酸分析や乳酸,ピルビン酸は正常範囲内であった.線維芽細胞のαグルコシダーゼ活性は正常であった.筋生検では筋線維内部にアセチルコリンエステラーゼ,非特異的エステラーゼ陽性の小空胞を認め,lysosome-associated membrane protein-2(LAMP-2)蛋白の欠損と,LAMP2遺伝子解析でエクソン7のナンセンス変異(c.877C>T,R293X)を認め確定診断に至った.
 Danon病は心筋症,筋症,精神発達遅滞を三徴とする疾患であるが,同様の症状を呈する疾患は多く,臨床症状のみから診断するのは不可能である.Danon病は大変稀な疾患と考えられているが,小児または若年発症の原因不明の肥大型心筋症患者の4%にLAMP2遺伝子の異常を認めたとの報告もあり,確定診断に至っていない症例も多いと考えられる.さらなる症例の蓄積,解析のためには,心筋生検のみならず,積極的に筋生検を行い,正確な診断を下していくことが必要であると考えられる.


【原著】
■題名
塩酸ドネペジル療法により日常生活能力と成長率の改善がみられたDown症候群の1例
■著者
佐世保市立総合病院小児科1),重症心身障害児(者)施設みさかえの園むつみの家総合発達医療センター2),長崎大学病院小児科3)
大坪 善数1)  後田 洋子1)  近藤 達郎2)  森内 浩幸3)

■キーワード
ダウン症候群, 退行, 日常生活能力, 塩酸ドネペジル, アルツハイマー型認知症
■要旨
 ダウン症候群(DS)患者は,加齢と伴にアルツハイマー型認知症(AD)発症頻度が増える一方で,20歳前後をピークとして日常生活能力が比較的短期間に衰退(急激退行)することがある.さらに10歳未満のDS患児でコリン作動性の低下によると思われる排尿障害も合併する.DS患者にみられるこれらの病態に対して,アセチルコリンエステラーゼ阻害剤である塩酸ドネペジルの有効性が示されているが,これまで幼児への使用報告例はなかった.今回,我々は強い拒食で食事摂取が困難になり,種々の治療で改善を認めなかった5歳のDS患児に塩酸ドネペジル療法を行い,良好な結果を得た.本児においては日常生活能力の改善のみならず,血中インスリン様成長因子1(IGF-1)誘導による成長率の改善も示唆された.本例は,DS患者はAD発症には早すぎる幼児期にも急激退行を認めること,またそのような状況で塩酸ドネペジルが有効であることから,コリン作動性の一過性・可逆的障害が病態に関与することを臨床的に強く示唆する貴重な症例であると思われる.


【論策】
■題名
重症心身障害児等の在宅医療に関する実態調査
■著者
奈良市保健所1),東大寺福祉療育病院2)
根津 智子1)  富和 清隆2)

■キーワード
小児在宅医療, 介護負担, レスパイト, 災害時対策
■要旨
 奈良小児在宅医療支援ネットワークにより,重症心身障害児・者等の在宅医療の実態と介護者の現状について県内では初めての調査を実施した.在宅療養児では人工呼吸管理が必要な児20人を含む128人から回答があった.児の年齢(中央値)は15歳,医療的ケアが必要な児は73%,手帳取得状況は身体障害者手帳1級が82%,療育手帳Aが75%であった.両親の年齢(中央値)は46歳,主たる介護者は82%が母であり,平均睡眠時間は6.7時間,27%はケアのために睡眠途中に起きることがあったが,66%が今後も在宅療養を希望すると回答した.在宅療養には歯科や成人期の医療を担う科との連携が必須であること,日常の介護や児の入院時の付き添い負担等を軽減することが必要と思われた.
 施設入所中の対象者は99人から回答があった.両親の年齢(中央値)は62歳,また入所経緯は介護の限界と思われる状況であり,88%は入所継続を希望している.今後,在宅療養児が地域で過ごすためには,都道府県の現状や医療体制にあわせた新たな枠組みが必要になると思われた.

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