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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:12.7.11)

第116巻 第7号/平成24年7月1日
Vol.116, No.7, July 2012

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総  説

Congenital Dyserythropoietic Anemia―現状と今後の課題―

多賀 崇,他  1075
原  著
1.

インフルエンザA/H1N1 2009による呼吸障害

桑門 克治,他  1081
2.

抜毛・食毛癖を認めた小学生胃石2女児例

山田 浩之,他  1089
3.

過去25年間における新生児動脈性脳梗塞症例

菊池 健二郎,他  1094
4.

ビタミンK欠乏に伴う乳児頭蓋内出血症例の検討

余谷 暢之,他  1102
5.

肺炎球菌結合型ワクチン1回接種後に発症した肺炎球菌性髄膜炎の12か月男児例

伊藤 祐史,他  1108
6.

出生時に著明な骨変化を認めた新生児続発性副甲状腺機能亢進症の1例

高澤 啓,他  1112
7.

生後5か月で生体肝移植を施行したカルバミルリン酸合成酵素1欠損症の1例

河野 智敬,他  1118
8.

骨腫瘍との鑑別を要したBCG骨髄炎の1例

橋本 直樹,他  1123

地方会抄録(宮崎・静岡・福岡・山梨・東海)

  1127
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害注意速報)

Follow-up 報告 No.2

  1192
  Injury Alert(傷害注意速報)

No.32 首浮き輪による溺水(再掲載)

  1194
日本小児科学会生涯教育および専門医育成認定委員会

第6回:学習者評価の基本

  1197

日本小児科学会理事会議事要録

  1199


【原著】
■題名
インフルエンザA/H1N1 2009による呼吸障害
■著者
倉敷中央病院小児科
桑門 克治  石原 万理子  新垣 義夫  飯田 久子  石塚 潤  三木 康暢  宮下 徳久  吉永 大介  大久保 沙紀  土本 啓嗣  羽山 陽介  向井 丈雄  河村 加奈子  花岡 義行  荻野 佳代  吉崎 加奈子  美馬 文  前場 珠子  澤田 真理子  林 知宏  田中 紀子  久保田 真通  高橋 章仁  石原 明子  西田 吉伸  藤原 充弘  渡部 晋一  脇 研自

■キーワード
新型インフルエンザ, インフルエンザ肺炎, 無気肺, 抗ウイルス薬, ステロイド薬
■要旨
 当科のインフルエンザA/H1N1 2009患者の外来受診数は先行する2シーズンの季節性インフルエンザの平均の2.2倍であった.入院/外来比率は2.6倍と重症度が高く,3〜9歳で特に目立った.
 持続的に経皮的酸素飽和度が93%以下となり酸素を投与した呼吸障害症例は65例であった.このうち6例が人工呼吸管理を要した.65例全例に抗ウイルス薬を使用し,死亡例はなかった.66%が発症後48時間以内に治療を開始していた.71%で発熱よりも咳嗽が先行していた.52%に気管支喘息の既往があったが,酸素投与期間は既往の有無に関係しなかった.発症後48時間以内でも白血球数やCRP値が上昇していた症例が目立ち,入院時白血球数12,000 /μl以上の群で酸素投与期間が長かった(p<0.01).血液培養や挿管症例の痰からは細菌は分離されなかった.入院時の胸部X線写真で,82%に過膨張所見,58%に陰影を認めた.肺葉単位の大きな陰影がみられた11例中4例は5日間以上の酸素投与を要していた.気管内挿管した症例では,気管支内視鏡下に痰栓塞を除去したところ呼吸状態は急速に改善した.病初期の陰影は「肺炎」よりも無気肺とする方が適切と考える.喘息の既往もしくは入院時に喘鳴を認めた症例を中心に,23例(35%)に喘息治療量のステロイド薬を使用していたが,72時間以上の酸素投与を要した群に使用例が多く,治癒を遷延させた可能性が示唆された.


【原著】
■題名
抜毛・食毛癖を認めた小学生胃石2女児例
■著者
順天堂大学医学部附属練馬病院小児科1),東京都保健医療公社豊島病院小児科2),さとうメンタルクリニック3),順天堂大学医学部附属練馬病院小児外科4),順天堂大学医学部附属順天堂医院小児思春期科5)
山田 浩之1)  渡辺 直樹1)2)  倉繁 朋子1)2)  鎌田 彩子1)  大友 義之1)  佐藤 泰三3)  浦尾 正彦4)  新島 新一1)  清水 俊明5)

■キーワード
胃石症, 抜毛, 食毛癖, 女児, 神経症
■要旨
 毛髪胃石症2例を経験した.2例とも抜毛癖のある女児で,症例1は11歳,内視鏡による除去後に胃石片による腸閉塞をきたし開腹手術に至った.症例2は9歳,計2回の内視鏡操作で摘出できた.
 これらをふまえ,過去の小児胃石症をまとめ,検討を加えた.本邦に於ける20歳未満の胃石症の報告例は,自験例を含め95例で,うち93例が女児であった.原因は,判明しているもののうちで93%が毛髪胃石だった.治療の内訳は,69例が開腹手術,6例が内視鏡的摘出,内視鏡不応での開腹術が11例,9例が記載なしであった.内視鏡的摘出については,年齢や胃石の大きさにバラつきがあり,明確な適応を定めることは困難であった.食道損傷などの危険性から,胃石の横径が3 cm以下であれば試みても良いと考えたが,症例1の様に内視鏡施行後に下降した胃石によるイレウスを来すおそれもあるため,外科摘出が可能な施設での治療が望ましい.


【原著】
■題名
過去25年間における新生児動脈性脳梗塞症例
■著者
埼玉県立小児医療センター神経科1),東京慈恵会医科大学小児科学講座2),埼玉県立小児医療センター未熟児新生児科3),獨協医科大学越谷病院小児科子どものこころ診療センター4)
菊池 健二郎1)2)  浜野 晋一郎1)  松浦 隆樹1)2)  清水 正樹3)  作田 亮一4)  井田 博幸2)

■キーワード
片麻痺, 新生児けいれん, 新生児脳梗塞, 中大脳動脈領域, てんかん
■要旨
 【はじめに】本邦における新生児脳梗塞の多数症例の検討は少ない.当センターでの新生児動脈性脳梗塞の臨床的特徴を検討し,本邦における既報と合わせた文献的考察を行った.
 【対象と方法】過去25年間に入院した新生児動脈性脳梗塞症例について,臨床経過を後方視的に検討した.診断は,出生後から日齢28までの発症で,頭部CT・MRIで脳動脈支配領域に一致した脳梗塞所見を認めた症例とした.さらに,本邦における既報についても検討した.
 【結果】自験例は21例(男:女=14:7)で,18例が正期産であった.Apgar Score 1分値が7点未満の症例は6例,感染症は2例,母体合併症は4例であった.日齢2以内の発症が多く,臨床症状は痙攣(52.4%),呼吸障害(33.3%)が多かった.梗塞領域は左半球に多く(左半球:12例,右半球:9例),脳動脈支配領域では,中大脳動脈領域の梗塞が全体の81.0%に認められた.経過観察期間は中央値6.9年で,神経学的後遺症を10例(47.6%)に認め,運動障害が8例,知的障害が5例,てんかんが3例であった.
 【結論】自験例と本邦での既報を合わせると,本邦における新生児動脈性脳梗塞の臨床的特徴は,海外の報告とほぼ同様であった.神経学的後遺症を約半数の症例に認めたが,症例により経過観察期間にばらつきがあり,学童期までの長期的な経過観察が必要と思われた.


【原著】
■題名
ビタミンK欠乏に伴う乳児頭蓋内出血症例の検討
■著者
独立行政法人国立成育医療研究センター総合診療部1),同 血液内科2),同 血液腫瘍科/固形腫瘍科3),同 脳神経外科4),同 放射線診療部5)
余谷 暢之1)  石黒 精1)2)  森 鉄也3)  熊谷 昌明3)  師田 信人4)  宮坂 実木子5)  阪井 裕一1)

■キーワード
ビタミンK, 乳児, 頭蓋内出血, 予防内服
■要旨
 1980年代にビタミンK(VK)の予防投与が開始されて以来,乳児VK欠乏性出血症は著しく減少したが,2000年代に入っても報告例が散見される.われわれは,2002年3月から2010年9月の間に当院救急外来において初期治療された乳児VK欠乏性頭蓋内出血症例について,電子診療録を用いて後方視的に検討した.その結果,該当症例は13例で,うち男児が8例であった.年齢は日齢41から121で,中央値は日齢62であった.初発症状に特徴的なものはなく,嘔吐とnot doing wellの症状が多かった.血液検査では全例でPIVKA-IIが上昇し,VK製剤投与後24時間以内に凝固機能は改善した.来院時頭部CTでは12例に(92%)頭蓋内出血による脳浮腫を認め,9例(69%)では正中偏位を伴っていた.開頭血腫除去術は10例(77%)で実施された.転帰は,1例が死亡し,4例に後遺症を認め,8例が後遺症なく生存した.基礎疾患に関しては,ありが7例(胆道閉鎖症5例,肝炎2例),なしが6例で,なしの3例(50%)では規定のVK製剤の3回内服が不完全であった.現在の予防内服プロトコールは完全なものではないが,本プロトコールを徹底することでVK欠乏に伴う乳児頭蓋内出血の発生頻度をさらに減らせる可能性がある.


【原著】
■題名
肺炎球菌結合型ワクチン1回接種後に発症した肺炎球菌性髄膜炎の12か月男児例
■著者
トヨタ記念病院小児科
伊藤 祐史  原 紳也  音羽 奈保美  鈴木 高子  会津 研二  山本 ひかる  牛田 肇  木戸 真二  奥村 直哉

■キーワード
細菌性髄膜炎, 侵襲性肺炎球菌感染症, 肺炎球菌結合型ワクチン, 特異IgG抗体, オプソニン活性
■要旨
 生後9か月時に肺炎球菌結合型ワクチンの1回目の接種を受けたが,1か月後に予定されていた2回目の接種を感冒のために延期していたところ,生後12か月で肺炎球菌性髄膜炎を発病した.治療への反応は良好であったが,両側難聴の後遺症を残した.入院時の血液培養および髄液培養から血清型の6Bの肺炎球菌が分離された.入院時および退院時に採取した血液中の,血清型6Bに対する特異IgG抗体濃度は,侵襲性肺炎球菌感染症の予防に十分な値を示していたが,血清型6Bに対するオプソニン活性は不十分であった.このことが発病に関与した可能性が考えられたため,退院後に2回目及び3回目の接種を行ったが,血中のオプソニン活性は不十分なままであった.ワクチンを規定の回数接種しても,抗体のオプソニン活性が不十分な症例が存在することが推察された.


【原著】
■題名
出生時に著明な骨変化を認めた新生児続発性副甲状腺機能亢進症の1例
■著者
東京医科歯科大学発生発達病態学分野1),川口市立医療センター小児科2),同 新生児集中治療科3)
高澤 啓1)2)  小野 真1)  奥 起久子3)  水谷 修紀1)

■キーワード
高カルシウム血症, 骨脱灰像, 新生児, 副甲状腺機能亢進症
■要旨
 新生児続発性副甲状腺機能亢進症は,母胎内の慢性的な低カルシウム(以下,Ca)環境が原因となる稀な疾患であり,出生後,副甲状腺ホルモン(以下,PTH)上昇および骨X線における著明な脱灰像を認めるが,一過性で比較的予後良好な疾患とされる.今回我々は,出生時の著しい骨変化を契機に母体の副甲状腺機能低下症が判明し診断に至った1例を経験したので、文献的考察を交えて報告する.
 症例は在胎38週6日に帝王切開にて出生.出生体重1,692 g,身長47 cm,頭囲29 cm,仮死なし.出生後,X線で胸郭変形・著明な骨脱灰像を認め,血中Caの上昇とPTH高値を認めたが,徐々にCa・PとPTHは正常化し骨所見も改善傾向を認めた.母の病歴と血液検査より母体副甲状腺機能低下症が判明し新生児続発性副甲状腺機能亢進症の診断に至った.
 新生児続発性副甲状腺機能亢進症は、既報において,著しい高Ca血症を認めることは少なく,PTH高値は1〜3週前後,骨変化は4〜16か月(平均8.1か月)で正常化し,発達予後も良好とされる.
 新生児続発性副甲状腺機能亢進症の予防には母体副甲状腺機能低下症あるいは低Ca血症のコントロールが重要であるが,本症例と同様に児の発症まで母の低Ca血症が見逃されている症例や周産期に母体の症状が顕在化した症例の報告もあり注意が必要である.


【原著】
■題名
生後5か月で生体肝移植を施行したカルバミルリン酸合成酵素1欠損症の1例
■著者
埼玉県立小児医療センター代謝・内分泌科1),同 遺伝科2),同 腎臓科3),自治医科大学移植外科4)
河野 智敬1)  会津 克哉1)  清水 健司2)  大橋 博文2)  藤永 周一郎3)  水田 耕一4)  望月 弘1)

■キーワード
カルバミルリン酸合成酵素1欠損症, 新生児期発症, 持続的血液透析, CPS1遺伝子, 生体肝移植
■要旨
 生後5か月で生体肝移植を施行したカルバミルリン酸合成酵素1欠損症の女児例を経験した.日齢2に著明な高アンモニア血症をきたし,薬物治療と並行して,速やかに持続的血液透析を導入した.2日以内に血中アンモニア値は正常化し,急性期治療を離脱することができた.その後の内科的管理により血中アンモニア値は良好にコントロールされ,早期に生体肝移植を施行した.術後は本症に対する薬物治療や蛋白制限食から離脱することが可能であった.現在3歳となり,軽度の発達遅滞(発語の遅れ)を認めるものの,健常児と同様に生活をすることができ,比較的良好に経過している.新生児期発症の本症は,安定期においても絶えず急性発作を起こす可能性があり,神経学的予後に悪影響を及ぼす危険性があるため,早期の肝移植を念頭に置いた計画的管理を行うことが極めて重要と考えられた.


【原著】
■題名
骨腫瘍との鑑別を要したBCG骨髄炎の1例
■著者
奈良県立医科大学小児科
橋本 直樹  西屋 克己  石原 卓  嶋 緑倫

■キーワード
Bacillus Calmette-Guérin(BCG), 骨髄炎, 結核
■要旨
 1歳男児,左橈骨骨折後の左前腕レントゲンで異常陰影を指摘され骨腫瘍疑いで当科に紹介となる.4か月時にBacillus Calmette-Guérin(BCG)接種をうけ,1歳まで明らかな副反応は認めなかった.MRIによる精査の結果骨髄炎が疑われたため,第24病日,同部位の掻爬術が施行された.橈骨内には膿汁が認められ,その塗抹でガフキー3号が認められ,polymerase chain reaction(PCR)法において結核菌が検出されたため結核性骨髄炎と診断し,抗結核薬の投与を開始した.膿汁培養の結果はMycobacterium bovisであり,restriction fragment length polymorphism(RFLP)法による解析でBCG由来菌であることが判明した.経過良好で抗結核薬投与1年後に治療を終了した.BCG骨髄炎は稀な疾患で本邦では年間5〜10例の報告がある.特にBCG接種が6か月未満の乳児に投与されることになった2005年以降からBCG骨髄炎の報告が増えてきており,乳児期の骨髄炎ではBCG由来もあり得ることを念頭におく必要がある.また,本症例ではinterferon-gamma(IFN-γ)受容体異常などの先天性免疫不全症は認められなかったが,BCGの重症副反応では先天性免疫不全症が存在することがあり,その検索が必要である.

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