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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:12.5.30)

第116巻 第5号/平成24年5月1日
Vol.116, No.5, May 2012

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タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

総  説
1.

基礎疾患をもつ小児に対する同時接種によるワクチン接種

齋藤 昭彦,他  823
2.

腎機能障害児に対する薬物治療とその問題点

後藤 美和,他  827
原  著
1.

PFAPA症候群20例の臨床的検討

渡邊 愛可,他  835
2.

オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症6症例に対するフェニル酪酸ナトリウムの使用経験

小松崎 匠子,他  842
3.

発熱と頸部リンパ節腫脹のみが先行する川崎病と化膿性リンパ節炎の早期鑑別

五十嵐 浩,他  849
4.

病原性大腸菌O-74が検出された川崎病5症例の臨床的検討

岡田 昌彦,他  854
5.

急性副鼻腔炎から前頭骨骨髄炎と硬膜外膿瘍を合併した1例

郷司 彩,他  860
論  策

成人がん患者の子どもへの支援の中で表出された言語的・非言語的表現内容の検討

大曲 睦恵,他  866

地方会抄録(北日本・新潟・岩手・東京・東海・福岡・千葉・沖縄・北陸・石川・北海道・京都)

  874
内部被曝に関する日本小児科学会の考え方ワーキンググループ

「新しい食品中の放射性物質に係る規格基準」について

  948
日本小児科学会生涯教育および専門医育成認定委員会

第4回:目標設定と学会到達目標の活用

  951

代議員・理事・監事名簿

  954

理事・監事当選者立候補事由

  956

日本小児科学会理事会議事要録

  961

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2012年54巻2号4月号目次

  966

雑報

  967


【原著】
■題名
PFAPA症候群20例の臨床的検討
■著者
地方独立行政法人加古川市民病院機構加古川西市民病院小児科
渡邊 愛可  足立 昌夫  小林 光郎  親里 嘉展  西山 敦史  神岡 一郎  米谷 昌彦

■キーワード
PFAPA症候群, 自己炎症疾患, IgD, prednisolone, 家族歴
■要旨
 PFAPA(periodic fever with aphthous stomatitis,pharyngitis,and cervical adenitis)症候群は,周期性発熱,アフタ性口内炎,咽頭炎,頸部リンパ節炎を主症状とする非遺伝性の自己炎症疾患である.今回,同症候群20例についてその臨床的特徴を検討した.症例は男児8例,女児10例,女性2例,平均発症時年齢は1.8歳,有熱期間の中央値は4.1日,発熱周期の中央値は35日.随伴症状は咽頭炎を全20例に認め,アフタ性口内炎は17例(85%),頸部リンパ節炎は16例(80%).また前駆症状は9例(45%)に認められ,各症例とも発熱に先行して再現性をもって出現した.発熱時検査所見は,炎症増多の所見に加え,血清IgD値の軽度上昇を12例(60%)に認めた.IgD上昇群と非上昇群の比較では,IgD値持続上昇例に家族歴が多い傾向を認めた(77%).治療では,10例にprednisolone(PSL)を投与し全例で著効し,入院回避など患者と家族の生活の質は著しく向上,医療経済的にも多大な効果を示した.臨床像の検討では,前駆症状,家族性,IgD高値例の特徴,PSLへの反応性など,多くの興味深い傾向を認めた.今後,本症候群の病態や遺伝的背景の解明のためにも,同様の症例の蓄積が必要と思われた.


【原著】
■題名
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症6症例に対するフェニル酪酸ナトリウムの使用経験
■著者
東北大学大学院医学系研究科遺伝病学分野1),同 小児病態学分野2),仙台市立病院小児科3),千葉県こども病院代謝科4),国立成育医療研究センター遺伝診療科5),同 臨床検査部6),熊本大学大学院医学薬学研究部小児科学分野7)
小松崎 匠子1)  大浦 敏博2)3)  坂本 修2)  高柳 正樹4)  田中 藤樹5)  奥山 虎之6)  遠藤 文夫7)  松原 洋一1)

■キーワード
尿素サイクル異常症, 高アンモニア血症, 薬物療法, 安息香酸ナトリウム, フェニル酪酸ナトリウム
■要旨
 尿素サイクル異常症の治療には低蛋白食に加えアルギニンの補充や代替経路を利用して残余窒素を排泄させる安息香酸ナトリウム,フェニル酪酸ナトリウム(NaPB)などが用いられる.しかし,本邦では安息香酸ナトリウム,NaPB共に医薬品として承認されておらず,試薬や個人輸入で使用せざるを得ない.今回,オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症患者6例を対象に12か月間のNaPB投与試験を行い,その有効性,安全性について安息香酸ナトリウムと比較検討した.
 投与試験開始前は全例において低蛋白食,安息香酸ナトリウム,アルギニン(アルギU®)又はシトルリンが投与されていた.投与試験開始にあたり安息香酸ナトリウムを中止しNaPBに変更,それ以外の治療は継続した.経過中2例において感染などを契機に150〜330 μg/dlの一過性高アンモニア血症を認めたが,重篤な発作は認めなかった.6例中4例において摂取蛋白量を増やすことが可能であった.血中分枝鎖アミノ酸値の低下を4例で認め,その内2例には必須アミノ酸製剤の投与が必要であった.その他,本剤に起因すると考えられる有害事象は認めなかった.NaPBは高アンモニア血症の治療に有効であり,本邦での早期承認が望まれる.


【原著】
■題名
発熱と頸部リンパ節腫脹のみが先行する川崎病と化膿性リンパ節炎の早期鑑別
■著者
小山市民病院小児科1),自治医科大学小児科2),同 公衆衛生学3)
五十嵐 浩1)2)  別井 広幸1)2)  伊東 岳峰1)2)  上原 里程3)  白石 裕比湖2)  桃井 真里子2)

■キーワード
川崎病, 頸部リンパ節腫脹, リンパ節炎
■要旨
 2005年1月から2009年6月の間に発熱と頸部リンパ節腫脹のみを主訴に当科に入院した川崎病症例と化膿性リンパ節炎症例の鑑別点について検討した.発熱と頸部リンパ節腫脹のみが先行した川崎病(リンパ節腫脹川崎病)10例と化膿性リンパ節炎12例を比較したところ,月齢,頸部リンパ節の局所所見やエコー所見,入院時の好中球数とCRPには差がなかった.しかし,リンパ節腫脹川崎病では入院時の血小板数が低く(29.6×104 vs. 33.7×104/μl,median,p=0.016),ASTは高かった(29 vs. 23 IU/lp=0.04).抗菌薬開始2〜3日後の再検査所見は,川崎病ではCRP(10.5 vs. 2.7 mg/dl,p<0.001),AST(81.0 vs. 25.5 IU/lp=0.009),ALT(45.5 vs. 11.0 IU/lp=0.004)が高かったが,血小板数に差は認めなかった.入院時の血小板数32万/μlをカットオフ値とすると感度80%,特異度75%で化膿性リンパ節炎との鑑別が可能であった.リンパ節腫脹川崎病で3病日前後に認められた血小板数の減少は,4病日以降の川崎病の主要症状の出現,抗菌薬への不応性の確認,AST,ALTの上昇といった全ての所見に先行しており,化膿性リンパ節炎との鑑別に有用な所見であると考えられた.病初期に血小板の減少を認めた場合には,新たな川崎病主要症状の出現に留意しつつ,CRPの低下傾向が乏しい場合には,ガンマグロブリン治療が遅れないように対応する必要がある.


【原著】
■題名
病原性大腸菌O-74が検出された川崎病5症例の臨床的検討
■著者
米沢市立病院小児科
岡田 昌彦  本間 信夫  林 真貴子  佐藤 誠  松田 ゆり

■キーワード
川崎病, 便培養, 病原性大腸菌O-74
■要旨
 平成20年7月から平成21年7月までの1年間,入院時の便培養から病原性大腸菌O-74が検出された川崎病の5症例を経験した.患者は入院後に川崎病と診断された2歳から4歳までの5名の患者(男児3名,女児2名)であった.いずれも当科受診時に高熱を認めたが,前医も含めて抗菌薬の投与は受けていなかった.初診時の消化器症状は,腹痛が4例,腹部膨満が3例,便秘が2例,嘔吐と下痢が夫々1例にみられた.川崎病の診断後,4例にガンマグロブリン療法を,5例にアスピリン投与を行った.治療後はいずれも順調に経過し,冠動脈病変の形成は認めなかった.全例で入院時の便培養から病原性大腸菌が検出されO-74と同定された.一方,便を保存していた4例について,O-74の毒素産生,付着因子や凝集性因子等の検索を行ったがいずれも陰性であった.これら患者の臨床経過を報告し,川崎病の発症におけるO-74の意義について考察を加えた.


【原著】
■題名
急性副鼻腔炎から前頭骨骨髄炎と硬膜外膿瘍を合併した1例
■著者
高松赤十字病院小児科
郷司 彩  関口 隆憲  岸 夏子  清水 真樹  高橋 朋子  幸山 洋子  坂口 善市  大原 克明

■キーワード
急性副鼻腔炎, 前頭骨骨髄炎, 硬膜外膿瘍, 鼻性頭蓋内合併症, 内視鏡下副鼻腔手術
■要旨
 症例は14歳女児.発熱と頭痛,全身倦怠感が持続するため入院前日(発熱6日目)に頭部MRIを撮影したが,急性副鼻腔炎の診断のみで頭蓋内合併症を確認できなかった.しかし同症状が持続するため入院1週間後に再度頭部CTと頭部MRIを撮影したところ,急性副鼻腔炎に合併して,前頭骨骨髄炎と硬膜外膿瘍を認めた.クリンダマシン(CLDM)とパニペネム・ベタミプロン(PAPM/BP)の点滴投与を開始し,内視鏡下に右鼻前頭管開大術を施行した.右鼻前頭洞管にシリコンチューブを留置してドレナージを行った.脳外科的ドレナージは施行しなかった.抗菌薬は4週間で中止した.約5か月後の頭部造影MRIで前頭骨骨髄炎と硬膜外膿瘍は消失した.
 本症例は急性副鼻腔炎の診断から1週間という短期間に前頭骨骨髄炎と硬膜外膿瘍を合併した.このことより,症状が持続する場合は繰り返し画像検査を行う必要がある.また,侵襲の少ない内視鏡下副鼻腔手術と抗菌薬の投与のみで,脳外科的ドレナージ術を行わずに完治した.本症例は今後の副鼻腔炎に合併する頭蓋内合併症の治療方針の検討に有用である.


【論策】
■題名
成人がん患者の子どもへの支援の中で表出された言語的・非言語的表現内容の検討
■著者
静岡県立静岡がんセンター研究所1),静岡県立静岡がんセンター小児科2)
大曲 睦恵1)  石田 裕二2)

■キーワード
成人がん患者の子どもへの支援, 発達段階, 思い, 言語的/非言語的表現
■要旨
 近年のがん医療の発達やファミリー・センタード・ケア(家族中心医療)の概念の普及に伴い,がん患者の家族ケアのニーズが高まってきている.成人がん患者にとって,自分の病気が子どもに与える影響への心配は大きく,また,その子ども達も様々な葛藤を抱えながら生活を送っている.
 本研究は,4年間の小児科医及びチャイルド・ライフ・スペシャリストにより,入院中の親に面会に来た幼児期(2〜5歳)22名,学童期(小学1年生〜6年生)44名,思春期(中学1年生〜大学生)26名に心理的サポートを行った記録を振り返り,それぞれの年代の病気に関する理解,心配なこと,病気の親にしてあげたいこと,周囲との関係等に対する思いの特徴を整理し,文献とともに考察した質的後ろ向き研究である.
 その結果,(1)発達段階によってある程度共通の葛藤や思いがあること,(2)このような子どもの葛藤や思いは,遊びや作品等子ども達にとって緩衝の役割を持つものの媒体を介し表現される場合もあること,(3)親の病気に関しての子どもへの情報共有だけでなく子どもとのコミュニケーションや子ども自身の巻きこまれている感をサポートすることが子ども達の将来的なトラウマを防ぐために大切ということが示唆された.本研究では対象が限られており,結果をもとに一般的な結論を引き出すことは難しいが,本研究を考察することで,病気の親を持つ子どもには,それぞれのケースの個別性に配慮し,個々の子どもの状況やペースにあわせて親の病気や子どもの気持ちについての話をしていくことの必要性が確認された.

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