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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:12.3.27)

第116巻 第3号/平成24年3月1日
Vol.116, No.3, March 2012

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タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

総  説
1.

若年性皮膚筋炎―早期診断・早期治療が必要な膠原病―

小林 一郎  499
2.

新生児疾患とサイトカイン

高橋 尚人  509
第114回日本小児科学会学術集会
  教育講演

小児における抗微生物薬の適正使用―Antimicrobial Stewardship Programの重要性―

齋藤 昭彦  516
原  著
1.

小児がん経験者の横断的調査研究における自由記載欄の解析

石田 也寸志,他  526
2.

肺炎球菌感染により致死的経過をたどった無脾症候群の2例

長野 伸彦,他  537
3.

原発性細菌性腹膜炎から末期腎不全に至ったMELASの1例

田村 啓成,他  542
4.

自己抗体が検出された小児辺縁系脳炎の3例

西原 卓宏,他  548
5.

腸重積を契機に発見された腸管嚢腫様気腫症の1例

木水 友一,他  555
6.

著明な貧血を契機に発見された鼻腔血管腫の1例

井上 智香子,他  560
論  策

小児病院における小児救急医療の自己評価に関する研究

照屋 秀樹,他  564

地方会抄録(奈良・和歌山・山陰・鹿児島・香川・山梨・滋賀・宮城)

  572
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.29 遊具からの転落による大腿骨骨折

  613
日本小児科学会生涯教育および専門医育成認定委員会
  小児科医のための医療教育の基本

第2回:アウトカムに基づいた教育

  616
日本小児科学会・日本小児神経学会共催教育セミナー

「小児の法的脳死判定の実際」報告 ホームページ掲載について

  618

日本小児科学会理事会議事要録

  619

お知らせ 専門医試験結果

  630

査読者一覧

  632

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2012年54巻1号2月号目次

  634

雑報

  635


【原著】
■題名
小児がん経験者の横断的調査研究における自由記載欄の解析
■著者
聖路加国際病院小児科1),愛媛大学大学院医学系研究科小児医学2),国立成育医療研究センター研究所成育社会医学研究部成育疫学研究室3),久留米大学医学部小児科4),東京大学大学院医学系研究科家族看護学分野5),国立病院機構香川小児病院血液腫瘍科6),国立成育医療研究センター研究所成育保健政策科学研究室7),国立病院機構九州がんセンター小児科8),県立新潟がんセンター小児科9),国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター・小児科10)
石田 也寸志1)2)  本田 美里2)  坂本 なほ子3)  大園 秀一4)  上別府 圭子5)  岩井 艶子6)  掛江 直子7)  岡村 純8)  浅見 恵子9)  稲田 浩子4)  前田 尚子10)  堀部 敬三10)

■キーワード
小児がん経験者, 自由記載, 心配, 要望, 質的研究
■要旨
 小児がん経験者自身の視点から,長期フォローアップ(FU)における心配点・その対応策・医療体制への要望を明らかにすることを目的に既報横断調査における自由記述を質的に分析した.自由記載欄に意見を記入した経験者は,やや年長で,放射線治療を受け,大卒・大学院卒が多く,「日常生活に問題がある」または「社会適応に問題がある」と認識している方が多かった.
 きょうだいの60%以上が特に現在心配なことはないと答えたのに対して経験者では28%であった.経験者では将来の漠然とした不安が54%,晩期合併症に関する心配は24%と多く(p<0.001),周囲への病気説明(p<0.01),健康や体力の不安(p<0.05)が経験者ときょうだいで異なっていた.周囲への病気説明,妊娠・出産・子供への影響を記載したのは女性が多く,移植例では結婚についての心配が多かった(p<0.05).また年齢層別には,20〜24歳代で全般に心配なことが多く記載されていた.心配なことへの対応策は,自分自身の自覚が25%と最も多く,相談の場と機会,周囲の理解と支援,話し合いなどが上位を占めた.長期FU体制に望むことに関しては,経験者ときょうだいともに全国体制の整備と心理的サポート,包括的な体制,情報・説明の充実などが上位であった.
 以上の結果は現在の日本小児白血病リンパ腫研究グループ長期FU委員会の活動の方向性を支持していると考えられた.


【原著】
■題名
肺炎球菌感染により致死的経過をたどった無脾症候群の2例
■著者
日本大学医学部小児科学系小児科学分野
長野 伸彦  鮎沢 衛  阿部 百合子  長谷川 真紀  田口 洋祐  中村 隆広  福原 淳示  市川 理恵  松村 昌治  宮下 理夫  金丸 浩  住友 直方  岡田 知雄  麦島 秀雄

■キーワード
無脾症候群, 肺炎球菌感染, 副腎機能不全, 7価conjugateワクチン
■要旨
 肺炎球菌感染により急速に致死的経過を辿った無脾症候群の2例を経験した.いずれも複雑心奇形の手術後に外来管理中で,心疾患の経過は順調であった.1例は感染の14か月前に23価肺炎球菌ワクチンを接種したにもかかわらず発症した.ともに発熱を主訴に救急外来を受診したが,CRPの上昇は軽度のうちに危急的状態となり,CRPは治療の指標とならないことが示唆された.両症例とも著明な電解質異常が認められ,症例2では高カリウム血症,高血糖と代謝性アシドーシスの是正のために副腎皮質ステロイドの投与を必要とし,副腎機能不全の存在が考えられた.無脾症候群では心疾患の術後長期管理例が増加している一方で,ワクチン接種後も致命的感染を発症しうること,耐性肺炎球菌が増加していることから,ワクチン接種後も抗菌薬の予防内服を続行する事と,発熱時には第一選択で耐性肺炎球菌に有効な抗菌薬の静注を開始する事を提言したい.


【原著】
■題名
原発性細菌性腹膜炎から末期腎不全に至ったMELASの1例
■著者
秋田大学大学院医学系研究科小児科学
田村 啓成  野口 篤子  高橋 郁子  土田 聡子  高橋 勉

■キーワード
原発性細菌性腹膜炎, 急性腎障害, MELAS, ミトコンドリア異常症
■要旨
 原発性細菌性腹膜炎は原因の治療として腹腔内への外科的介入が無効な細菌性腹膜炎と定義される.肝硬変の合併症であるspontaneous bacterial peritonitis(SBP)と小児期の特発性ネフローゼ症候群に合併する細菌性腹膜炎を代表的な病態とし,共に尿細管障害を主態とする急性腎障害を高頻度に合併する.今回我々は肝硬変,ネフローゼ症候群を背景としないMELASを原疾患とした原発性細菌性腹膜炎の症例を経験した.経過中に細菌性腹膜炎との関連が推測された急性腎障害を発症し,急速に末期腎不全に至った.腎病理像においては急性尿細管障害に加え,慢性的なミトコンドリア障害を示唆する間質障害と近位尿細管細胞におけるミトコンドリアの形態異常と増殖を認めた.本症例のように原発性細菌性腹膜炎は背景に肝硬変やネフローゼ症候群の存在が無くとも低蛋白血症,低蛋白腹水,免疫不全などのリスクファクター下では発症しうる病態であり,迅速な診断と発症後の急性腎障害合併への留意が必要であると考えられた.また腎病理像における慢性腎障害所見およびミトコンドリアの形態異常と増殖の所見から今回のエピソード以前のMELASによる腎障害の存在が推測され,ミトコンドリア異常症の診療においては腎予備能および回復能が低下している可能性があることに留意するべきであると考えられた.


【原著】
■題名
自己抗体が検出された小児辺縁系脳炎の3例
■著者
熊本赤十字病院小児科1),熊本再春荘病院小児科2)
西原 卓宏1)  平井 克樹1)  齋藤 未央1)  蔵田 洋文1)  池田 ちづる2)  平尾 優子1)  並河 紳1)  樫木 朋子1)  塵岡 健1)  持永 將惠1)  西原 重剛1)  右田 昌宏1)  古瀬 昭夫1)

■キーワード
辺縁系脳炎, 自己抗体, 免疫療法, 不随意運動, 意識障害
■要旨
 我々は過去2年間に,血清または髄液より自己抗体が検出された辺縁系脳炎の3小児例を経験した.自己抗体はいずれも神経細胞表面抗原に対する抗体で,抗VGKC抗体,抗GluRε2抗体,抗NMDA受容体抗体が検出された.3例とも画像検査にて奇形腫などの腫瘍合併は確認されなかった.発熱・嘔吐などの前駆症状を認め,意識障害が遷延した.またジストニア,アテトーゼ,舞踏運動,口角ジスキネジアなどの不随意運動を頻回に認めた.急性期に行った髄液検査では3例とも単核球優位の細胞数増多を認めたが,頭部MRIでは異常所見を認めなかった.脳血流シンチで,2例に局在性の集積増加を認めた.治療はステロイドパルス療法を第1選択とし全例に行い,免疫グロブリン療法,血漿交換を追加治療とした.3例とも人工呼吸管理を行い,2例はけいれん群発するため,抗けいれん剤の持続点滴静注を要した.神経症状の回復期間は様々であったが,3例とも予後は良好で,2例は発症3か月以内に後遺症なく回復した.また平均フォローアップ期間12か月で再発を認めていない.当初,辺縁系脳炎は若年成人の腫瘍合併例での報告が主であったが,小児の腫瘍非合併例の報告も増加している.辺縁系脳炎が疑われる症例には,自己抗体や腫瘍合併の検索を行いつつ,早期に免疫療法を開始することが,神経学的予後の改善に重要であると考える.


【原著】
■題名
腸重積を契機に発見された腸管嚢腫様気腫症の1例
■著者
市立豊中病院小児科
木水 友一  松尾 久実代  川上 展弘  吉川 真紀子  徳永 康行  松岡 太郎

■キーワード
腸重積, 腸管嚢腫様気腫症, 高流量酸素療法
■要旨
 腸管嚢腫様気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis:以下PCI)は,消化管の粘膜下や漿膜下に多房性の含気性嚢胞が出現する比較的稀な疾患である.今回PCIに伴う腸重積の1例を経験したので報告する.症例は生来健康な14歳男児.腹痛を主訴に救急搬送された.腹部CTを施行しmultiple concentric ring signを認め腸重積と診断し,高圧浣腸により整復できた.さらに,腸重積先進部の腸管壁に気腫が多数存在することを認め,腸重積整復後に下部消化管内視鏡検査を施行し,回盲部に粘膜下腫瘍様の表面平滑な隆起病変を多数認め,PCIに伴う腸重積と診断した.PCIを放置することにより腸重積の再発する可能性が考えられたため,高流量酸素療法を開始した.高流量酸素療法を2週間施行し,腹部レントゲン上で気腫の改善が認められた.その後退院し外来経過観察とした.PCIを伴う腸重積症の報告は少ないが,その多くで観血的整復が行われている.本症例のように腸重積を非観血的に整復できた症例においては,PCIに対しても保存的治療を優先させるべきであると考える.PCIの保存的治療の中でも高流量酸素療法は比較的簡便で有効性が報告されている治療であり,一般病院でまず試みる価値のある治療法と考えられた.


【原著】
■題名
著明な貧血を契機に発見された鼻腔血管腫の1例
■著者
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科
井上 智香子  橋本 修二  勝田 友博  三宅 哲雄  栗原 八千代  土井 啓司  瀧 正志

■キーワード
貧血, 鼻腔血管腫
■要旨
 今回我々は,重篤な貧血を契機に発見された鼻腔血管腫の14歳の思春期の女子例を報告する.患児は失血性貧血の除外なく鉄欠乏性貧血の診断で近医にて鉄剤が処方された.しかし,鉄剤投与にもかかわらず貧血の改善が認められず当院に紹介となった.問診からは鼻出血の訴えはなかったが,精査の結果,右下鼻甲介下端に易出血性の鼻腔血管腫を発見した.血管腫摘出術を施行後,速やかに貧血の改善を認めたことより,当部位からの慢性失血による貧血と最終診断した.消化管出血による貧血は稀ではないため,鉄剤開始前には可能な限り失血性貧血を除外することが必要である.また,鉄剤開始後に貧血の改善がない場合は,速やかに貧血の原因の精査を再度行うべきである.


【論策】
■題名
小児病院における小児救急医療の自己評価に関する研究
■著者
東京医科歯科大学大学院環境社会医歯学系研究開発学分野1),横浜労災病院救急センター小児救急部2)
照屋 秀樹1)2)  高瀬 浩造1)

■キーワード
小児病院, 小児救急医療, 自己評価, 自施設満足度, ベンチマーク
■要旨
 日本小児科学会は,小児病院が重要な役割を演ずることを前提として,小児救急医療提供体制の改革ビジョンを出した.しかし,小児病院での小児救急医療の広がりは限定的である.これを発展させるには,小児病院に勤務する医師の協力は欠かせない.その原動力の一つは自施設の小児救急医療に対する満足度であると思われる.そこで今回,目標指標をこの「自施設満足度」とし,全国小児病院の各診療科に対して,自施設の小児救急医療についての意識調査を行った.
 「自施設満足度」の高い施設では,救急専従医がおり,院内協力が得られていたが,1次救急医療の提供の有無には関係はなかった.一方,その対極にある小児集中治療室の自施設への集約については,これらの施設では賛成意見が有意に多かった.救急医療は,教育の機会,院内救急,他科の診療や,なかでも施設の活気に貢献しているとの認識が高かった.また,小児病院での1次救急医療は不要であるとの理由には,高度専門医療という病院の役割が多く挙げられた.
 この結果から,「自施設満足度」の高い施設では,院内でのまとまりと,地域とのつながりの強さが見受けられ,救急専従医の存在は,これらを形成する一つの鍵であり,結果でもあると考えられる.地域の小児医療のリーダーたる小児病院は,自施設ならびに地域の小児救急医療体制を,目標指標値の高い施設(ベンチマーク)を参考に,より発展させる必要がある.

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