gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:11.7.6)

第115巻 第7号/平成23年7月1日
Vol.115, No.7, July 2011

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

原  著
1.

小児期発症高安動脈炎の初期臨床像

金子 詩子,他  1235
2.

早産児の尿中β2-microglobulin値(第1報)

西巻 滋,他  1242
3.

インフルエンザA/H1N1 2009による小児重症呼吸障害の検討

漆原 康子,他  1249
4.

小児生活習慣病検診における食後採血での基準値の検討

小林 靖幸,他  1255
5.

タンデムマス・スクリーニングで軽症プロピオン酸血症を疑われたミトコンドリア脳症

起塚 庸,他  1265
論  策

頭蓋内出血を合併した胆道拡張症における救命救急センターと専門病院の連携

問田 千晶,他  1270

地方会抄録(山形)

  1274

日本小児科学会理事会議事要録

  1277

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2011年53巻3号6月号目次

  1282

雑報

  1283


【原著】
■題名
小児期発症高安動脈炎の初期臨床像
■著者
横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学1),新潟大学医歯学総合研究科内部環境医学講座小児科学分野2)
金子 詩子1)2)  岸 崇之1)  菊地 雅子1)  原 良紀1)  篠木 敏彦1)  宮前 多佳子1)  今川 智之1)  森 雅亮1)  横田 俊平1)

■キーワード
高安動脈炎, 若年性特発性関節炎, 不明熱
■要旨
 小児期高安動脈炎の発症早期には,発熱,倦怠感などの非特異的症状を主訴とすることが多い.成人例に比し虚血症状に乏しいため,不明熱や全身型若年性特発性関節炎として扱われ,確定診断までに時間を要する傾向がある.さらに血管雑音や脈拍消失といった本症特有の理学所見は小児の日常診療では見逃され易く,確定診断が遅れる一因でもある.当科で経験した高安動脈炎の女児6例の発症早期の所見に着目し,初期臨床像の特徴を検討した.発症時の平均年齢は11.7歳,初発症状から確定診断までの期間は平均10.7か月で,発症早期の精査で診断が確定されたのはわずか2例であった.初期症状として全例に発熱を認めたほか,頸部痛,胸痛,背部痛,腰痛などの疼痛が特徴的で,それぞれ頸動脈,胸腹部大動脈等の血管炎を反映していることが示唆された.関節痛を伴った3例は初期に全身型若年性特発性関節炎と暫定診断されていた.診断時には血管雑音が5例に,脈拍および血圧の左右差が1例に確認された.診断の契機は3例が血管雑音や脈拍消失などの理学所見で,他の3例は遷延する発熱のスクリーニング検査として施行した胸腹部造影CT,FDG-PET,頸動脈超音波検査等の画像所見であった.
 本症において血管病変の進行を防ぐには,より早期の診断,治療開始が必要で,特に学童期以降の女児の不明熱では,高安動脈炎を念頭において理学所見と画像所見を評価することが重要である.


【原著】
■題名
早産児の尿中β2-microglobulin値(第1報)
■著者
横浜市立大学医学部小児科1),葛飾赤十字産院小児科2),横浜市立大学母子医療センター新生児科3)
西巻 滋1)  島 義雄2)  佐藤 美保3)  安 ひろみ3)  岩崎 志穂1)  堀口 晴子3)  関 和男3)  横田 俊平1)

■キーワード
β2-microglobulin(β2-MG), 超早産児, 絨毛膜羊膜炎(CAM), 胎児炎症反応症候群(FIRS)
■要旨
 【目的】児の未熟性と胎児期の炎症が早産児の尿中β2-microglobulin(β2-MG)値にどのように影響するか検討した.
 【対象】130例の早産児を絨毛膜羊膜炎(CAM)の有無で,(1)CAM(−)児群(n=51,在胎24〜34週,出生体重516〜2,182 g),(2)CAM(+)児群(n=79,24〜33週,662 g〜2,492 g)に分けた.
 【方法】生後48時間以内と生後1週時に得られた尿を検体に,尿中β2-MG(μg/gCr)を検討した.臍帯静脈血と生後1週時の末梢血を検体に,CAM(−)児群18例とCAM(+)児群29例でsoluble tumor necrosis factor receptor(sTNFR)も検討した.
 【成績】生後48時間以内の尿中β2-MG値は,CAM(−)児群に比べCAM(+)児群で有意に高く(66,822 vs 99,570 μg/gCr;p=0.0013),中でもCAMがあり在胎28週未満の児で著しく高値であった.生後1週間の尿中β2-MG値は,両群で有意に低下し,また両群間に差はなくなった(52,752 vs 52,010 μg/gCr;p=0.8413).
 臍帯血のsTNFR値は,CAM(−)児群に比べCAM(+)児群で有意に高かった(2,383 vs 3,586 pg/mL;p=0.0228).生後1週時の末梢血のsTNFR値は,両群で低下し,特にCAM(+)児群では有意な低下であった.またCAM(−)児群に比べCAM(+)児群で有意に高いままであった(1,858 vs 2,104 pg/mL;p=0.0067).
 【考察】生後早期(生後48時間以内)の尿中β2-MG値の高値は尿細管機能の未熟性に加えて,出生前の胎内での炎症の影響が考えられた.その影響は生後1週で軽減すると思われる.血中sTNFR値の生後1週の変化もそれを支持した.
 【結論】早産児の尿中β2-MG値は胎内での炎症曝露を示唆し,胎児炎症反応症候群を管理するために有用であることが示唆された.


【原著】
■題名
インフルエンザA/H1N1 2009による小児重症呼吸障害の検討
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科1),埼玉医科大学国際医療センター小児心臓科2)
漆原 康子1)  先崎 秀明2)  櫻井 淑男1)  田村 正徳1)

■キーワード
インフルエンザA/H1N1 2009, 新型インフルエンザ, plastic bronchitis, 低酸素血症
■要旨
 2009年に世界的大流行となったパンデミックインフルエンザA(H1N1)2009は,本邦でも全国的に大流行となった.人工呼吸管理を必要とした3症例について詳細に検討した.3症例とも高度な酸素化障害を認め,肺胞障害に加え末梢気道障害による閉塞性無気肺やplastic bronchitisの合併が考えられた.また3症例ともアレルギー素因を有していることが疑われ,2症例は片肺無気肺でplastic bronchitisの病態と考えられたことより,新型インフルエンザに罹患し,急な呼吸困難,無気肺を呈した症例については粘液栓の存在を疑い,時期を逸することなく気管支ファイバーによる粘液栓除去を行うことが必要であった.呼吸障害の病態を早期に理解し,適切な人工呼吸管理を行うことが重要である.


【原著】
■題名
小児生活習慣病検診における食後採血での基準値の検討
■著者
市川市医師会小児生活習慣病検診委員会1),東京女子医科大学東医療センター小児科2),東京歯科大学市川総合病院小児科3)
小林 靖幸1)  杉原 茂孝2)  田中 葉子3)  石原 博道1)  大野 京子1)  藤田 宏夫1)  滝沢 直樹1)  土橋 正彦1)

■キーワード
小児, メタボリックシンドローム, 生活習慣病検診, 診断基準, 食後採血
■要旨
 平成17年より21年までの5年間で,小学5年生約18,000人および中学1年生約16,000人を対象として,希望者に対して生活習慣病検診を行った.学校で採血を行うため,安全性等を考慮し,朝食後の採血とした.メタボリックシンドローム(metabolic syndrome:MetS)の診断項目の中で,中性脂肪(triglyceride:TG)値と血糖値は,食事摂取による影響を受けるため,現行の小児期MetS診断基準を用いることができない.そこで,この5年間の検診結果を用いて食後採血の場合の基準値について検討を行った.
 対象の採血時の分布は,空腹時2%,食後1時間以内0.8%,1〜2時間16.9%,2〜3時間34.1%,食後3時間以降46.2%であった.小学5年生,中学1年生共にTG値の90〜95パーセンタイル値は,食後1時間以内に上昇し,その後の食後3時間以内ではほぼ一定で約180 mg/dlとなり,3時間以降で約150 mg/dl程度に軽度低下した.
 血糖値は,小学5年生,中学1年生共に食後2時間以内の分布および変動が大きく,食後2時間以降では徐々に低下し,食後2時間以降の95パーセンタイル値は約100 mg/dlであった.
 以上の結果を踏まえ,食後検診における小児期MetSの診断基準を2試案提示する.すなわち,
 《A診断基準案》
 「TG値:食後3時間以内≧180 mg/dl,食後3時間以降≧150 mg/dl.
 血糖値:食後2時間以内≧140 mg/dl,食後2時間以降≧100 mg/dl.」
 《B診断基準案》
 「食後2時間以降TG値≧150 mg/dl,食後2時間以降血糖値≧100 mg/dl」
 を現行の小児期MetSの診断基準に追加することが妥当と考えられた.


【原著】
■題名
タンデムマス・スクリーニングで軽症プロピオン酸血症を疑われたミトコンドリア脳症
■著者
神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野1),広島大学病院小児科2),京都大学大学院医学研究科発達小児科学3),福井大学医学部看護学科4)
起塚 庸1)  竹島 泰弘1)  西山 敦史1)  粟野 宏之1)  但馬 剛2)  佐倉 伸夫2)  依藤 亨3)  重松 陽介4)  八木 麻理子1)  松尾 雅文1)

■キーワード
ミトコンドリア脳症, Leigh脳症, タンデム質量分析, プロピオン酸血症
■要旨
 タンデム質量分析による新生児マススクリーニングにおいてC3-アシルカルニチンとC3-アシルカルニチン/C2-アシルカルニチン比の軽度増加を認めたことから,プロピオン酸血症軽症型が疑われた症例が,生後6か月に突然の意識障害を呈し臨床的にLeigh脳症を発症した.精査を施行したところ,本症例はミトコンドリア遺伝子変異を有したミトコンドリア異常症であることが判明したので報告する.
 Leigh脳症のクリーゼを契機に本症例のリンパ球におけるPCC活性を測定したが,明らかな活性低下を認めなかった.また,PCC遺伝子解析ではPCCA,PCCBとも遺伝子変異を認めなかった.一方,Leigh脳症の原因検索のためにリンパ球および筋組織におけるミトコンドリア遺伝子解析を行ったところ,いずれの組織においてもm.8993 T>G変異を認めミトコンドリア脳症と確定診断した.児は1歳7か月時において自発運動は認められず重度の後遺症を残している.
 本症例は,軽症プロピオン酸血症の検査所見を呈する症例でもミトコンドリア異常症の可能性があることを示した.今後,軽症型有機酸代謝異常症の診断上注意が必要である.


【論策】
■題名
頭蓋内出血を合併した胆道拡張症における救命救急センターと専門病院の連携
■著者
大阪府立泉州救命救急センター1),兵庫県立こども病院・救急集中治療科2)
問田 千晶1)  六車 崇1)  三好 麻里2)  松岡 哲也1)

■キーワード
小児救命救急医療体制, 救命救急センター, 小児専門病院, 病院間連携, 先天性胆道拡張症
■要旨
 症例は先天性胆道拡張症に伴う血液凝固異常により頭蓋内出血を来たした2か月男児.
 小児科時間外外来を受診し,頭蓋内出血に伴う頭蓋内圧亢進症状を呈しており,緊急で蘇生・救命処置を必要とする状態であった.そのため救命救急センターへ転送となり,迅速かつ適切な初期診療の後に,外科的減圧術および脳圧管理を含めた集中治療を施行する事で救命し,全身状態を安定化する事ができた.その後,小児専門病院にて先天性疾患に対する診断および専門治療が施行された.
 この様な病院間連携の結果として,患児は神経学的に良好な経過を辿っている.得意分野の異なる救命救急センターと小児専門病院とが円滑な連携を図っていくことが,現有の医療資源を活用した小児救命救急医療体制の整備に有用である.

バックナンバーに戻る