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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:11.6.30)

第115巻 第6号/平成23年6月1日
Vol.115, No.6, June 2011

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総  説

小児気管支喘息の予防

吉原 重美  1035
原  著
1.

胸水貯留を合併した川崎病5例における血中VEGF濃度の検討

扇原 義人,他  1045
2.

小児の腰椎穿刺におけるremoval法の検討

辻 聡,他  1050
3.

日本人小児の標準体格を検討するための基礎的資料に関する研究

橋本 令子,他  1055
4.

劇症肝不全として発症したミトコンドリアDNA枯渇症候群の新生児例

菅沼 広樹,他  1067
5.

進行性の腹部大動脈狭窄を生じたMid-Aortic Syndromeの1例

谷口 貴実子,他  1073
論  策

平成20年の埼玉県小児死亡調査

櫻井 淑男,他  1078

地方会抄録(佐賀・北海道・大分)

  1083

日本小児科学会理事会議事要録

  1098


【原著】
■題名
胸水貯留を合併した川崎病5例における血中VEGF濃度の検討
■著者
北里大学医学部小児科
扇原 義人  緒方 昌平  橘田 一輝  秋山 和政  金子 忠弘  昆 伸也  本田 崇  石井 正浩

■キーワード
川崎病, 胸水, vascular endothelial growth factor, 低アルブミン血症, 不応例
■要旨
 2007年9月から2010年5月の期間に,胸水貯留を合併した川崎病5症例を経験した.胸腔穿刺を行った1例は漏出性胸水であり,心不全を認めなかったこと,高度の低アルブミン血症を認めたことから著しい膠質浸透圧の低下が胸水の原因と推測された.5症例全てが治療に難渋し,冠動脈瘤を含めた様々な合併症を発症し,特徴的な経過を認めた.また川崎病の病態に関与するといわれる血管内皮増殖因子vascular endothelial growth factor(VEGF)を含めた血管炎マーカーの測定を行った.胸水貯留時に各マーカーが著しい値を認め,胸水貯留を認める川崎病は血管炎の程度が非常に強いと考えられた.


【原著】
■題名
小児の腰椎穿刺におけるremoval法の検討
■著者
国立成育医療研究センター総合診療部救急診療科1),同 小児期診療科2)
辻 聡1)  池山 由紀1)  小原 崇一郎1)  羽鳥 文麿1)  石黒 精2)  阪井 裕一1)2)

■キーワード
腰椎穿刺, removal法
■要旨
 【背景】小児における腰椎穿刺の失敗率は15〜20%程度である.特に乳児の腰椎穿刺ではしばしば髄液が血性になり,評価困難となる.その結果,治療方針の決定に苦慮する.【目的】腰椎穿刺時にremoval法を導入した結果と成功率に影響する因子について検討した.【対象と方法】2008年1月〜8月の8か月間に当院救急外来を受診し,腰椎穿刺が施行された症例を対象に,年齢,性別及び穿刺時の体動,穿刺成功率,検査施行医師の経験年数に関して前方視的観察調査を行った.【結果】上記期間内に122例(男児52.5%)が対象となり,年齢は日齢5より11歳で中央値は13か月,全体での穿刺成功率は106人/122人(86.9%)であった.乳児を対象に検討したところ,穿刺成功率は生後12か月未満では47人/59人(79.7%),生後3か月未満では16人/25人(64.0%)であった.穿刺成功群と失敗群の間で,医師の経験年数に有意差はなかったが(p=0.49),3か月未満では体動に関して有意差を認めた(p<0.01).【結論】3か月未満での成功率は依然として低く,穿刺失敗の要因として穿刺時の体動が挙げられた.今後,removal法と従来法をランダムに割り付けた前方視的検討を行うことによってremoval法の有用性を検討する必要があろう.


【原著】
■題名
日本人小児の標準体格を検討するための基礎的資料に関する研究
■著者
和洋女子大学生活科学系
橋本 令子  村田 光範

■キーワード
小児の標準体格, secular trend, BMIパーセンタイル, 肥満傾向児, 痩身傾向児
■要旨
 第二次世界大戦後,日本人小児の体格には大きな変化(以下,secular trend)がみられてきた.そこで,文部科学省学校保健統計調査報告書の資料を用いて体格のsecular trendを検討した.その結果,2000年度以降は戦後の身長の増加傾向が頂点に達していた.体重平均値は2000年度頃をピークにして年度が進むにつれて減少傾向を示した.さらに,1980,1990,2000,2008年度について性別・年齢別に3,5,10,25,50,75,90,95,97の各BMIパーセンタイル(以下,各パーセンタイル)を算出し,これら各年度の各パーセンタイルについて比較検討した結果,2000年度までは年度が進むにつれて各パーセンタイルが大きくなっていたが,2000年度以降は14歳以上の高年齢層を除いては各パーセンタイルが下回っていた.1980年度から2000年度にかけて小児の体格は変化し,2000年度以降では身長は変わらず体重は減少していた.したがって,肥満体型が減少しやせ体型が増加していた.このことから,2000年度において学齢期小児のsecular trendは頂点に達していると判断できる.今後は2000年度の学校保健統計調査報告書の資料に基づいて,日本人学齢期小児の標準体格を検討するべきである.また,乳幼児についても2000年度の乳幼児身体発育調査報告書に基づいて標準体格を検討するのがよいと考える.


【原著】
■題名
劇症肝不全として発症したミトコンドリアDNA枯渇症候群の新生児例
■著者
順天堂大学小児科1),千葉県こども病院代謝科2),埼玉医科大学小児科3)
菅沼 広樹1)  鈴木 光幸1)  吉川 尚美1)  原 聡1)  染谷 朋之介1)  李 翼1)  久田 研1)  東海林 宏道1)  村山 圭2)  高柳 正樹2)  大竹 明3)  清水 俊明1)

■キーワード
劇症肝不全, ミトコンドリア呼吸鎖異常症, ミトコンドリアDNA枯渇症候群, 新生児
■要旨
 小児劇症肝不全の約半数は乳児期に発症し,死亡率は70〜80%にも及ぶが,発症原因が明らかでないことも多い.新生児期に劇症肝不全で発症し,ミトコンドリアDNA枯渇症候群が原因と考えられた女児例を経験したので報告する.日齢13より嘔吐を認め,日齢15に哺乳力低下と傾眠傾向があり入院した.血清トランスアミナーゼ値の上昇,高アンモニア血症,低血糖および高ビリルビン血症を認めた.著明な凝固機能異常と傾眠傾向(小児肝性昏睡分類II度)から劇症肝不全と診断し,人工肝補助療法を開始したが,小児肝性昏睡分類IV度へと進行した.肝不全に対して肝移植を検討したが,平坦化した脳波所見から重篤な脳障害が残る可能性が高いと考えられたこと,また両親が肝移植を希望しなかったことから,内科的治療を継続した.日齢47,出血性ショックのために死亡した.剖検では肝重量は16 gと著明に萎縮し,病理組織所見では,肝細胞が脱落していた.肝臓と心筋のミトコンドリア呼吸鎖酵素活性を測定したところ,呼吸鎖複合体I活性が低下しており,劇症肝不全の原因としてミトコンドリア呼吸鎖異常症が考えられた.肝臓のミトコンドリアDNAと核DNA量比が31.7%と低下していたためミトコンドリアDNA枯渇症候群と診断した.新生児における原因不明の肝不全では,ミトコンドリア呼吸鎖異常症も念頭に置き,呼吸鎖酵素活性を測定することが診断に重要であると考えられた.


【原著】
■題名
進行性の腹部大動脈狭窄を生じたMid-Aortic Syndromeの1例
■著者
東京女子医科大学腎臓小児科1),同 循環器小児科2),東京都立墨東病院小児科3),昭和大学小児科4)
谷口 貴実子1)4)  藤井 寛1)  大森 多恵3)  上田 博章1)  水谷 誠1)  古山 政幸1)  石塚 喜世伸1)  梶保 祐子1)  近本 裕子1)  秋岡 祐子1)  中西 敏雄2)  服部 元史1)

■キーワード
小児期高血圧, 腎血管性高血圧, Mid-Aortic Syndrome, 経皮的血管形成術
■要旨
 Mid-Aortic Syndrome(MAS)は,胸腹部大動脈とその主要枝に狭窄を認める症候群である.今回,私達は両側腎動脈狭窄に対し経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTA)を施行後,進行性の腹部大動脈狭窄を認めたMASの1例を経験した.症例は4歳女児.高血圧による痙攣重積を契機に,両側腎動脈狭窄による腎血管性高血圧と診断された.各種降圧薬投与にも関わらず十分な降圧効果が得られず,2回のPTAを施行し,血圧コントロールは可能となった.その後,腎動脈起始部直下の腹部大動脈にも狭窄が出現した.経過観察中に新たに出現,進行する動脈狭窄の原因として大動脈炎症候群を疑ったが,確定には至らなかった.左腎の高度機能低下のため,右腎機能の温存が必須であったが,低年齢であること,術後腎動脈に新たな病変の出現が危惧されることなどから,自家腎移植は困難と考えた.現在は経過観察を行っているが,今後,腎動脈および腹部大動脈狭窄による症候が見られた時点で,両血管に対しPTA,ステント挿入を考慮する方針である.


【論策】
■題名
平成20年の埼玉県小児死亡調査
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科1),国立成育医療研究センター麻酔集中治療科2),成育医療研究開発事業『小児集中治療の問題点の検討とその対策に関する研究』3)
櫻井 淑男1)3)  中川 聡2)3)

■キーワード
小児死亡調査, 死亡小票, 病院前救護, 不詳の死, 死亡時画像診断
■要旨
 我国の1〜4歳児死亡率が他の欧米先進諸国の平均死亡率と比較して,その1.3倍と高いのは周知の事実である.2005〜2006年度の1〜4歳児死亡小票全国調査により,死亡患者の約3割が人的・物的資源の揃った中核病院へ搬送されているだけで,小児医療システムの集約化の不備がこの年齢層の高い死亡率の要因の一つであることが示された.このように死亡小票の分析から小児救急医療の重要な問題が明確となった反面,死亡診断書の写しである死亡小票は,詳細な調査を行うには十分ではない.そこで今回以下に示す新たな手法で埼玉県の小児死亡調査を行った.
 まず2007年の小児救急車搬送年間調査から県内で小児心肺停止患者の救急車搬送を受け入れた実績のある22施設を対象としてアンケート用紙を郵送し,平成20年1月1日から同年12月31日までの年間小児死亡症例(生後7日以上15歳以下)のデータを集め,その後方視的検討を行った.
 その結果,96名の死亡症例が集められた.96症例のうち,病院到着前に29%の患者が亡くなっており病院前救護の側面からの検討の必要性が認められた.また,死因不明患者の11%にしか剖検が行われておらず,剖検率を改善するための法改正や死亡時画像診断などいまだ十分普及していない技術の導入により死因究明率を向上させる必要がある.更に死亡患者の8%に虐待との関係が認められ,死亡患者の10%に死亡回避の可能性があった.以上,各都道府県単位で小児救急車搬送年間データからアンケート対象施設を絞ることにより,死亡小票調査の結果を補完し得る,詳細な小児死亡調査の可能性が示された.

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