 |
日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:10.12.24)
第114巻 第12号/平成22年12月1日
Vol.114, No.12, December 2010
バックナンバーはこちら
|
 |
|
総 説 |
|
市田 蕗子 1819 |
2. |
小児循環器疾患治療薬の適応拡大に向けた取り組み
|
|
中川 雅生 1829 |
|
佐々木 征行 1836 |
|
中田 洋二郎 1843 |
第113回日本小児科学会学術集会 |
教育講演 |
|
有吉 紅也 1850 |
原 著 |
|
宮前 多佳子,他 1856 |
|
碓井 ひろみ,他 1861 |
|
佐藤 真菜,他 1870 |
|
数間 紀夫 1876 |
|
成田 奈緒子,他 1882 |
|
小沢 浩,他 1892 |
|
田村 賢太郎,他 1896 |
|
黒岩 由紀,他 1901 |
|
前納 万里,他 1905 |
|
越智 史博,他 1909 |
|
野澤 正寛,他 1915 |
|
明石 真幸,他 1921 |
論 策 |
|
櫻井 淑男,他 1925 |
|
江原 朗 1928 |
|
地方会抄録(北海道・兵庫・千葉・石川・高知・福岡・中部)
|
|
1934 |
|
1976 |
任意ワクチン接種の公費助成化を求める署名活動への御協力についてのお礼
|
|
1977 |
日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2010年52巻6号12月号目次
|
|
1977 |
日本小児科学会 子どもの脳死臓器移植プロジェクト |
第113回日本小児科学会学術集会シンポジウム報告 |
|
1978 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
|
Injury Alert(傷害注意速報)No.21 室内用ブランコの部品による頭蓋内損傷
|
|
2014 |
|
2010・2011シーズンのインフルエンザに対する出生後早期の新生児への対応案
|
|
2016 |
|
2019 |
|
2024 |
【原著】
■題名
小児期に発症した線維筋痛症の臨床的特徴と性格傾向
■著者
横浜市立大学医学研究科発生成育小児医療学1),同 児童精神学2) 宮前 多佳子1) 菊地 雅子1) 原 拓麿1) 原 良紀1) 今川 智之1) 渡辺 由佳2) 横田 俊平1)
■キーワード
線維筋痛症, 慢性疼痛, chronic widespread pain, 圧痛点, 小児, 診断, 性格
■要旨
線維筋痛症(fibromyalgiaまたはfibromyalgia syndrome:FM)は原因不明の慢性疼痛と疲労を主訴とする疾患で,18圧痛点が特徴的に陽性となる.小児FM33例(男児9例,女児24例)の臨床的特徴や性格傾向の検討をおこなった.発症は11.7±2.4歳で,発症から診断までの期間は11.5±14.4か月であった.中核的臨床症状である全身疼痛と慢性疲労はそれぞれ100%,97.0%と高率で,QOL障害程度からみた重症度は66.7%がStage 2以上で日常生活に支障あり,登校障害は93.9%に認められた.性格傾向は凝り性,責任感強い,負けず嫌い,真面目,我慢強い,といった妥協を許さず,頑固な気質が目立って認められた.転帰は2/3の症例が小児科や児童精神科受診や生活環境見直し目的の入院により効果を得て完全回復,または改善に至った.しかし薬物療法は概して効果が乏しかった.またこれらの症例とは別に,慢性疼痛を訴えるものの陽性圧痛点数が11/18か所未満で,FMの確定診断に至らなかった症例が3例あった.いずれも男児(14.8,12.3,11.2歳)で陽性圧痛点はそれぞれ1,3,4か所であった.全例stage 3の重症度で,陽性圧痛点数は必ずしもQOL障害度と相関しなかった.病態的にはFMと近似し,対処法もFMに準じて決定してよい結果を得た.
|
|
【原著】
■題名
糖原病Ia型10例における食事療法の長期予後について
■著者
日本大学医学部小児科1),女子栄養大学大学院2) 碓井 ひろみ1) 石毛 美夏1) 大和田 操2)
■キーワード
糖原病Ia型, 食事療法, 長期予後, 最終身長, 合併症
■要旨
糖原病(glycogen storage disease,GSD)Ia型は,食事療法によって低身長,肝腫大などの症状が改善する先天性糖質代謝異常症である.年長から成人例における肝腺腫,腎糸球体障害などの合併症が報告されるようになったため,これらの予防に如何なる管理が有効であるか,自験例の分析を行って検討した.対象は1972年から現在まで我々の施設で追跡している10例で,診断年齢は3か月から19歳に分布し平均4歳6か月である.最終身長は8例が−2SD以内に到達しており,そのうち7例は最終身長の予測範囲内にあり,これらの身長発育は正常範囲内にあると評価した.また,肝臓の酵素分析並びに遺伝子解析の結果,GSDIa型と確定診断しえた10症例のうち,身長が−4.3SDでFanconi症候群を合併した1例を除く9例を,身長が−1SD未満の5例(A群)と−1SD以上の4例(B群)に分け,出生年度,低血糖,高乳酸血症等の血液生化学検査値,蛋白尿および肝腺腫の出現時期を比較した.その結果,最終身長が高いB群は,出生年度がわが国でGSD治療乳が入手可能になった1981年以降で,適切な治療を早期から開始していた症例が多く,A群と比較して,血液生化学検査の異常が軽度で,蛋白尿と肝腺腫の出現が遅い傾向にあった.9例に施行したglucose-6-phosphatase遺伝子検索では,8例が日本人に多い変異であるg727t homozygoteであった.GSD Ia型に対する食事療法は,本症の根本治療ではないものの,現時点では,早期に診断し質の高い食事療法を開始して根気強く継続することが,本症の長期予後の改善に最も重要であると結論される.
|
|
【原著】
■題名
急性血液浄化療法を施行した体重10 kg未満の重症敗血症児の検討
■著者
長野厚生連佐久総合病院小児科1),長野県立こども病院麻酔集中治療科2) 佐藤 真菜1) 笠井 正志2) 平井 克樹2) 伊藤 秀和2) 椎間 優子2)
■キーワード
小児重症敗血症, 多臓器不全症候群, エンドトキシン吸着療法, 急性血液浄化
■要旨
重症敗血症症例の救命,多臓器不全からの早期の脱却を目的に,ポリミキシンBを繊維樹脂に固定化した固相化カラムが本邦で開発された.これを用いた直接血液還流法(以下PMX-DHP)を行った10 kg未満の乳幼児8症例について検討した.平均年齢8.1か月,平均体重6.0 kg,男女比5:3, 重症敗血症1例,敗血症性ショック7例であった.5例に基礎疾患が存在し,先天性心疾患の合併が4例であった.初期治療後もPELOD scoreが高い重症敗血症症例で酸素化の改善,血圧上昇を認め,罹患後28日目の死亡は8例中1例のみであった.体重10 kg未満の乳幼児でも,本血液浄化療法は安全に施行でき,重症敗血症に対して補助的に血液浄化を加えたことによる早期のvital sign安定化が高い救命率に寄与したことが示唆された.
|
|
【原著】
■題名
起立性調節障害におけるサブタイプの起立試験中にみられる心拍変動
■著者
西部総合病院小児科 数間 紀夫
■キーワード
起立性調節障害, ガイドライン, 起立試験, 心拍変動, MemCalc法
■要旨
【目的】起立性調節障害(以下,OD)のサブタイプ別に起立試験中の自律神経とくに交感神経活動を調べた.【対象】OD105例のサブタイプは起立直後性低血圧(INOH)24例,体位性頻脈症候群(POTS)37例,神経調節性失神(NMS)8例,遷延性起立性低血圧(DEOH)8例および分類不能例は28例であった.起立中の交感神経機能はMemCalc法を用いて心拍変動の周波数解析を行いLF/HF(LF:0.04〜0.15 Hz,HF:0.15〜0.4 Hz)を指標とした.LF/HFの起立直後から(1)頂点までの上昇度と,(2)頂点に達するまでの時間をサブグループ間で検討した.【結果】上昇度は,INOH 15.1倍,POTS 16.2倍,NMS 11.8倍,DEOH 15.9倍と各群間での有意差はなかった.頂点に達するまでの時間はINOHの平均値は449.1秒,POTS 76.1秒,NMS 151.4秒,DEOH 442.5秒であった.INOHは全例が起立4分以降から,POTSは全例3分以内に上昇の頂点を示した.NMSでは起立姿勢を保てなくなる直前にLF/HFが急激に低下した.【考案】小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005のサブタイプは交感神経機能の動態を極めてよく反映しており,ODをこのガイドラインで診断し治療することは有用であると考える.
|
|
【原著】
■題名
リズム遊びを中核とする介入による幼児の生活習慣改善と脳機能発達への有用性の検討
■著者
文教大学教育学部1),ルーテル学院大学臨床心理学科2) 成田 奈緒子1) 田副 真美2)
■キーワード
睡眠, 自律神経, 生活習慣, セロトニン
■要旨
乳幼児の生活習慣の確立の遅れや乱れが,さまざまな小児の心身発達の問題と関わっていることが示唆され,その改善のための行政・教育現場でのアプローチが盛んに試みられている.今回,継続的なリズム遊びを保育園の活動に導入し,同時に生活習慣改善の啓蒙活動を行うことが,脳科学的及び生理学的にどのような変化をもたらし得るのかを検証する目的で,保育園児を対象にして研究を行った.
某県内の二保育園の計189名の園児(0〜6歳)を対象に,約3か月間のリズム遊びを継続的に行い,同時に専門家による講演や相談会を開催したところ,実践前後に調査に協力できた計85名の園児の生活習慣項目の有意な改善が認められた.
また,自律神経機能の測定の結果では,一回のリズム遊び後での心拍低下(p<0.001)と副交感神経優位状態への変化(p<0.05)が観察され,さらに3か月間の長期観察においては,自律神経活動の有意な上昇(p<0.05)が認められた.
さらに,近赤外線酸素モニターを用いた左右前頭葉血流量変化の測定においては,リズム遊びの開始とともに9名中8名の児で左右いずれかの前頭葉血流量の増加が観察された.
これらの結果より,リズム遊びを含めた生活習慣改善の啓蒙活動を保育園で行うことは,家庭生活習慣の改善のみならず,児の自律神経機能や大脳皮質への刺激を通じてこれら脳機能を発達させる可能性も示唆され,有用性が確認された.
|
|
【原著】
■題名
東京都多摩地区における超重症児・者の実態調査
■著者
島田療育センター小児科1),東京小児療育病院小児科2),多摩療育園小児科3),東大和療育センター小児科4),都立府中療育センター小児科5),都立八王子小児病院小児内科6),都立清瀬小児病院神経科7),緑成会整育園小児科8),公立昭和病院小児科9),都立神経病院神経小児科10),杏林大学小児科11),国立精神・神経センター小児神経科12) 小沢 浩1) 木実谷 哲史1) 舟橋 満寿子2) 宮地 幸3) 倉田 清子4) 田沼 直之5) 冨田 直6) 三山 佐保子7) 志倉 圭子8) 山田 直人8) 内山 健太郎9) 栗原 栄二10) 中村 由紀子11) 佐々木 征行12)
■キーワード
超重症児者, 準超重症児者, 社会資源, 介護負担, 安心感
■要旨
多摩地区における在宅の超重症児者・準超重症児者の介護の実態を調査した.
対象は,外来に通っている超重症児者・準超重症児者264名.アンケート用紙を配布し,そのうち,200名(75.8%)の回答(男:女=113:87)が得られた.超重症児者・準超重症児者の内訳は,超重症児者77名(38.5%),準超重症児者123名(61.5%)であった.対象者の平均年齢は16.9歳(18歳以上が80名,最高44歳)であった.社会資源の利用については,何も利用していない人が65名(32.5%)であった.主な介護者は母であり他の家族の協力は得られにくかった.介護者の介護負担は重く,平均睡眠時間は5.2時間(中央値5時間)であり,75.0%が体調不良を抱えていた.短期入所は利用しようとして利用できなかった事があった人が63.0%に達した.
今後の生活については,在宅でみたいと思っている人が多かったが,介護が限界になる介護者は今後急増することが予想された.
在宅生活を送る障害児者とその家族にとって,「安心感」を持てるシステムの構築が必要である.
|
|
【原著】
■題名
10%以上の体重減少をきたした完全母乳栄養児における高ナトリウム血症性脱水の発症状況
■著者
富山県立中央病院小児科 田村 賢太郎 五十嵐 登 岩崎 秀紀 中村 太地 中山 祐子 東山 弘幸 藤田 修平 市村 昇悦 二谷 武 畑崎 喜芳
■キーワード
母乳栄養, 高ナトリウム血症性脱水, 体重減少, 補足
■要旨
母乳育児は世界中で広く勧められているが1) 2),近年,欧米から母乳栄養児が高ナトリウム(Na)血症性脱水に罹患し,時には致死的な合併症や神経学的後遺症を残したとの報告が散見される3)〜7).より安全な母乳育児を推進するため,完全母乳栄養児における高Na血症性脱水罹患の頻度や特徴について検討した.2008年7月から12月に当院で出生し産科病棟で入院管理された健康新生児のうち,主に体重減少10%を理由に血液検査を施行された児を対象とした.血液検査結果から高Na血症群(Na≧150 mEq/l)と正常Na群(Na<150 mEq/l)に群別し解析を行った.対象となった47人中18人に高Na血症を認め,正常Na群と比較して出生からの体重減少率が有意に高かった.また,体重減少が11%を超えると高Na血症罹患率が増加する一方で,体重減少が10%前後でも高Na血症は存在した.同時に測定した血液検査結果では,乳酸,血糖,base excessなどに有意差は認められなかった.また,診察所見のみから両群を鑑別することは困難であった.本検討から,主に10%以上の体重減少を来した母乳栄養児の4割弱に高Na血症が存在していることが示唆された.母乳栄養に伴う高Na血症性脱水の存在に十分配慮しながら,より安全な母乳育児の推進を行うことが重要と考えられた.
|
|
【原著】
■題名
BCGリンパ節炎6例の検討
■著者
NTT東日本札幌病院小児科 黒岩 由紀 寺田 光次郎 藤永 恵美子 森井 麻祐子 母坪 智行 布施 茂登 森 俊彦
■キーワード
BCG, 腋窩リンパ節炎, イソニアジド
■要旨
日本におけるBCG接種後リンパ節腫脹の発生頻度は1.06%と報告されており,一般的には無治療で自然消退するとされている.今回われわれは,2007年に抗結核薬による治療を必要としたBCGリンパ節炎の乳児例を経験したので,2007〜2008年に当科で経験した他の5例と合わせて検討した.対象は全例が男児で,左腋窩の発赤,または腫瘤を主訴に受診した.BCG接種後腫瘤に気づくまでの期間は平均で2.3か月,触知された腫瘤の長径の大きさは平均で1.9 cmであった.6例中2例はPCR法でBCGリンパ節炎と診断し,残りの4例は臨床経過より診断した.6例中5例で腋窩リンパ節腫脹は経過観察のみで軽快したが,そのうちの1例は腫瘤消退までに1年8か月を要した.また,残りの1例で左腋窩リンパ節腫脹は自壊し,さらに,左前腕内側にも1.0×1.1 cmの腫瘤を触知するようになったため,イソニアジド(INH)10 mg/kg/日内服の治療を行い腫瘤は消退した.一般的に,BCG接種後リンパ節炎に積極的な治療は不要で,経過観察のみで治癒するとされているが,大きなもの,複数,癒着,化膿穿孔例に対しては治療を勧めている報告もあり,症状が増悪,遷延する場合には抗結核薬の投与が有効であると考えられた.
|
|
【原著】
■題名
反復性細菌性髄膜炎によって明らかとなった進行性頭蓋底骨折の1例
■著者
公立豊岡病院組合立豊岡病院小児科1),東京慈恵会医科大学病院総合母子健康医療センター小児脳神経外科2) 前納 万里1) 中本 裕介1) 香田 翼1) 山本 哲也1) 横田 知之1) 木寺 えり子1) 港 敏則1) 吉田 真策1) 尾崎 雅宏2) 大井 静雄2)
■キーワード
細菌性髄膜炎, 進行性頭蓋底骨折, 髄液漏, 肺炎球菌, インフルエンザ菌
■要旨
頭蓋底骨折受傷から1年5か月後,細菌性髄膜炎に2度罹患し,進行性頭蓋底骨折が明らかとなった1例を経験した.
症例は6歳女児.5歳0か月時に頭蓋底骨折の既往あり,6歳5か月時と6歳6か月時にそれぞれ肺炎球菌,インフルエンザ菌による細菌性髄膜炎に罹患した.いずれも細菌性髄膜炎に対する定型的な治療で軽快した.細菌性髄膜炎を繰り返す原因として,進行性頭蓋底骨折の関与を疑った.頭部CT検査で右篩骨洞上縁に骨折線を認め,篩骨洞内に髄液漏を疑う液体貯留を認めた.耳鼻科診察では明らかな髄液漏の所見はなかったが,東京慈恵会医科大学附属病院で実施した脳槽シンチグラフィーで髄液漏が確認され,同院脳神経外科にて手術加療を行った.術後,髄液漏は消失し,細菌性髄膜炎の再発はない.しかし,2度目の細菌性髄膜炎軽快後からみられていた痙攣発作が術後9か月目より増加し,現在抗痙攣薬を内服中である.
進行性頭蓋骨折の多くは頭蓋冠に起こり,痙攣や脳軟化症の原因となる.頭蓋底に起こった場合は髄液漏から細菌性髄膜炎の原因となりうるが,細菌性髄膜炎の初回罹患時には気づかれず,本症例のように繰り返すことで明らかになる例が多い.細菌性髄膜炎罹患児に頭蓋骨折の既往がある場合,詳細な問診,画像検査で骨折と髄膜炎の関係を明らかにし,細菌性髄膜炎を繰り返さないよう適切な治療を行う必要がある.
|
|
【原著】
■題名
無症候性深部静脈血栓を来たした超重症児の2例
■著者
愛媛県立中央病院小児科1),愛媛大学大学院医学系研究科小児医学2) 越智 史博1) 大森 啓充1) 中野 威史1) 元木 崇裕1) 米澤 早知子1) 平井 洋生1) 徳田 桐子1) 石井 榮一2) 林 正俊1)
■キーワード
重症心身障害児, 深部静脈血栓症, 大腿骨骨折, 静脈超音波検査
■要旨
NICU管理の進歩に伴い人工呼吸管理など濃厚な医療を必要とする超重症児が増加している.超重症児の多くは寝たきりであり,様々な合併症を起こすため,その在宅医療ケアが問題となってきている.我々は下肢静脈超音波検査によって無症候性の深部静脈血栓を診断し得た超重症児2症例を経験した.症例1は5歳男児で,大腿骨骨折のため長期臥床を余儀なくされた後に左ひらめ静脈に深部静脈血栓が出現した.症例2は2歳女児で,アーノルド・キアリ奇形II型のため両側下腿の運動・感覚低下し長期臥床状態であり,左腓骨静脈に深部静脈血栓を認めた.抗凝固剤の投与により症例1では新鮮血栓は消失したが,症例2では投与開始9か月後も残存した.超重症児では諸要因から深部静脈血栓症のリスクが非常に高まるため,常に深部静脈血栓症を念頭に置いた医療ケアが必要である.
|
|
【原著】
■題名
白血球吸着除去療法により初回寛解導入に成功した膵炎合併潰瘍性大腸炎の1例
■著者
社会医療法人誠光会草津総合病院小児科 野澤 正寛 西尾 友宏 堀江 千春 森元 まゆみ 吉岡 誠一郎 近藤 雅典
■キーワード
潰瘍性大腸炎, 膵炎, 白血球吸着除去療法
■要旨
症例は11歳の男児.2か月前から1日に10行以上の下痢便が持続し,近医にて膵酵素の上昇と膵腫大を指摘されて当科に紹介入院となった.急性膵炎と診断して膵酵素阻害剤による治療を開始したが,高膵酵素血症は改善しなかった.次第に口腔内アフタや肉眼的血便が出現し,頻回の便回数と便培養で病原菌が検出されないことから炎症性腸疾患の存在を疑い,大腸内視鏡検査を実施してMattsの内視鏡分類でGrade3となる活動期の全大腸型潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis,UC)と診断した.急性膵炎を合併していたため5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイド薬は使用せず,白血球吸着除去療法(leukocytapheresis,LCAP)単独での寛解導入を試みた.LCAPを1週間に1回,計5回実施したところ,UCは速やかに寛解に至り,急性膵炎も軽快した.小児のUCに対しては5-ASA製剤やステロイド剤が第1選択であるが,何れも急性膵炎や高アミラーゼ血症を惹起する可能性が指摘されており,ステロイド剤には成長障害を引き起こす危険性もある.小児においてもLCAPの安全性は高く,本症例のように膵炎合併例や,成長期にステロイド療法が選択される症例の寛解導入療法として,5-ASA製剤やステロイド剤の副作用を回避し,早期の寛解導入が期待できるLCAPは一考の価値があると考える.
|
|
【原著】
■題名
ソラマメ摂取により溶血性貧血・メトヘモグロビン血症を呈したグルコース6リン酸脱水素酵素異常症の1例
■著者
さいたま市立病院小児科 明石 真幸 薄井 摩稚子 下山田 素子 白岡 亮平 常松 健一郎 工藤 京子 佐藤 清二
■キーワード
グルコース6リン酸脱水素酵素異常症, メトヘモグロビン血症, ソラマメ, 溶血性貧血, 酸素飽和度低下
■要旨
ソラマメ摂取後に溶血性貧血及びメトヘモグロビン血症を呈したグルコース6リン酸脱水素酵素(G6PD)異常症の1例を経験した.患者は2歳男児.溶血性貧血,メトヘモグロビン血症及び85%程度の酸素飽和度の低下を認めたため入院した.入院後,赤血球輸血計3単位,アスコルビン酸投与,酸素投与の治療を行った.入院2日目,児が入院前日及び当日にソラマメを摂取していたことがわかり,G6PD異常症を疑いアスコルビン酸投与を中止した.同日夜には酸素飽和度は97%まで回復し,入院4日目にはメトヘモグロビン血症は消失し,溶血性貧血は回復した.その後の問診から児がG6PD異常症と診断されていたことが判明した.G6PD異常症患者がソラマメ摂取後に溶血性貧血を呈することはソラマメ症としてよく知られているが,メトヘモグロビン血症を併発したという報告は非常に少ない.一方,多くのソラマメ症患者のメトヘモグロビン濃度は上昇しているという報告もあり,過去の症例では気づかれていなかった可能性がある.ソラマメ症患者では,溶血性貧血だけでなく,メトヘモグロビン血症にも注意する必要がある.
|
|
【論策】
■題名
埼玉県における小児患者救急車搬送データにもとづいた中核病院候補選定の妥当性
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科 櫻井 淑男 田村 正徳
■キーワード
小児集中治療, 救命救急センター, 小児救急, 医療体制, 集約化
■要旨
≪はじめに≫
小児重症患者集約化のために埼玉県内の年間小児救急車搬送データがどのように中核病院候補選定に役立つかを検討した.
≪対象と方法≫
小児救急車搬送データから心肺停止・重症患者搬送受入れ患者数上位10施設を中核病院候補とし,以下の中核病院候補としての重要条件を満たしているかを検討した.
1)小児外因・内因性疾患に対応できるだけの関連各科が整備されている.
2)各中核病院を中心に半径25 km(救急車30分以内の搬送範囲)範囲を合わせると埼玉県全体をカバーできることが望ましい.範囲外の地域は,ドクターヘリ病院から100 km以内(ヘリ搬送で30分以内の搬送範囲)である.
最後に,上記10施設への現在の集約化率も検討した.
≪結果≫
1)10施設はすべて内因・外因性疾患に対応できていた.
2)一部を除いて埼玉県内のすべての地域が各施設の少なくとも1つから30分以内の救急車搬送で到達できる範囲であった.その他の地域もドクターヘリ搬送で20分以内の搬送圏内であった.
3)今回選択した10施設には心肺停止患者の81%,重症患者の59%が搬送されていた.
≪考察≫
埼玉県内の年間小児救急車搬送データは県内小児救急の現状を客観的に示しており,このデータに基づいて中核病院選定が可能であることが示唆された.この方法は他の都道府県でも実施可能と思われ,今後の小児救急医療システム再構築手段の選択肢の1つになりうると考える.
|
|
【論策】
■題名
将来の医師数増加に関する推計―今後10〜15年は小児科医師不足が続く
■著者
北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野客員研究員 江原 朗
■キーワード
医師不足, 将来予測, 医師数
■要旨
「病院小児科医の将来需要について」(日本小児科学会,2005年)において,継続性のある小児医療体制を構築するには1,000〜2,000名程度の医師の増員が必要であると述べられている.しかし,海外から医師を招へいすることが一般化しておらず,医師総数に小児科医師が占める比率にも大きな変化がない今日,小児科医師の増加は将来の医師数増加に頼らざるをえない.そこで,過去49年分の医学部医学科の入学定員と6年後の医師国家試験合格者数との相関を求め,入学定員から将来の医師数を推定した.そして,必要とされる小児科医師の増員がいつ達成されるのか検討することにした.
19歳で医学部医学科に入学し,25歳で国家試験合格,68歳で引退するというモデルを立てたところ,2,000人の小児科医師の増員が見込めるのは,入学定員が8,846人(2010(平成22)年のレベル)で推移した場合には2025(平成37)年頃,2011(平成23)年から定員を12,775人(2009(平成21)年の1.5倍)に増員した場合には2020(平成32)年頃であった.
少なくとも,今後10年間は小児科医師の不足が続くものと思われる.限りある医療資源をどう有効活用するか.適切な制度設計が切に求められる.
|
|
|
バックナンバーに戻る |
|