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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:09.9.16)

第113巻 第9号/平成21年9月1日
Vol.113, No.9, September 2009

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総  説

日本における小児心臓突然死の現状と対策

吉永 正夫  1357
第112回日本小児科学会学術集会
  会頭講演

血友病BのTranslational research―私の血友病診療と研究の軌跡―

吉岡 章  1365
  教育講演

小児歯科からみた口腔保健と子どもの健康

朝田 芳信  1373
  教育講演

厚生労働科学研究について「治験・臨床研究の推進に向けた取組み」

佐藤 岳幸  1382
  教育講演

小児のてんかん外科と脳機能マッピング

星田 徹,他  1391
原  著
1.

集中治療での管理を要した重症小児例における持続血液濾過透析併用療法の有用性

二宮(水流) 由美子,他  1399
2.

ネグレクトにより発症したビタミンD欠乏性くる病の1例

山西 優紀夫,他  1404
3.

筋痛を反復し新規の遺伝子変異を認めたカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII欠損症の1例

松本 幸子,他  1409
4.

水痘不顕性感染後に脳梗塞を発症した1例

今立 真由美,他  1413
5.

長期臨床的脳死の4小児例

高山 留美子,他  1418
6.

乳児期早期に末期腎不全に至り,腎形成異常を呈したWT1異常症の1例

田村 啓成,他  1422
7.

抗factor H抗体による溶血性尿毒症症候群の1例

深山 雄大,他  1427
論  策
1.

学校医・園医の現状と問題点に関する意識調査

藤丸 季可,他  1431
2.

小児科臨床実習における入院患者付き添いの母親による医学生評価

野村 裕一,他  1436

地方会抄録(高知,宮城,福岡,山陰,島根,福島,鳥取,静岡,山口)

  1440

編集委員会への手紙

  1469
日本小児科学会用語委員会

「小児科用語集」第二版の編纂にあたって

  1470

日本小児科学会理事会議事要録

  1472
平成21年度財団法人小児医学研究振興財団

イーライリリー海外留学フェローシップの募集について

  1485

イーライリリーアワードの選考について

  1486

雑報

  1487

医薬品・医療機器等安全性情報 No.260

  1489


【原著】
■題名
集中治療での管理を要した重症小児例における持続血液濾過透析併用療法の有用性
■著者
鹿児島大学医学部・歯学部附属病院小児科1),同 集中治療部2)
二宮(水流) 由美子1)  野村 裕一1)  安田 智嗣2)  今林 徹2)  垣花 泰之2)  河野 嘉文1)

■キーワード
集中治療, 持続的血液濾過透析, 多臓器不全, 死亡リスク
■要旨
 【目的】持続的血液濾過透析(CHDF:continuous hemodiafiltration)は多臓器不全(MOF)を来たした小児においても重要な治療法の一つとなっている.小児におけるCHDFの有用性を検討した.【対象及び方法】8年間に当科でCHDFを施行した35症例を後方視的に調査し,CHDFから離脱できた例(離脱群),離脱できず死亡した例(死亡群)の比較検討を行った.多臓器不全(MOF)の重症度はSequential Organ Failure Assessment(SOFA)で評価した.【結果】35例中25例(71%)がCHDFから離脱した.MOFを来たしたのは26例で,16例(62%)が回復し10例が死亡した.MOFのない9例は全例回復した.死亡群は離脱群と比較してLactate値,Na値が有意に高値で,SOFA scoreも高点だった.離脱群の平均+1SDを超える値を高値・高点とすると,Lactate高値(11 mmol/L以上)やNa値高値例(145 mEq/L以上),SOFA scoreの高点例(11以上)は,死亡群で全て有意に高頻度だった.これらを認めなかった15例は全例回復し,2項目以上の高値・高点を認めた9例中8例が死亡した.【結論】CHDFを併用することにより,MOFを認めた重症例でも救命が可能となる場合もあり,CHDFは小児の集中治療における有用な治療の選択肢の一つと考えられる.Lactate値やNa値の高値,SOFA score高点がある場合はCHDFを含めた強力な治療戦略の検討が必要と考えられた.


【原著】
■題名
ネグレクトにより発症したビタミンD欠乏性くる病の1例
■著者
日本赤十字社和歌山医療センター研修医1),同 小児科2)
山西 優紀夫1)  吉田 晃2)  内尾 寛子2)  田部 有香2)  才田 聡2)  阿部 純也2)  濱畑 啓悟2)  奥村 光祥2)  百井 亨2)

■キーワード
ビタミンD欠乏性くる病, 低栄養, ネグレクト, 母乳栄養
■要旨
 1歳10か月の女児.伝染性膿痂疹とカポジ水痘様発疹の診断で緊急入院した.身長は−4.67 SD,O脚を認め,ALP,PTHの高値,Ca,Pの低値,上下肢骨レントゲンで骨幹端のカッピング,フレイングを認めた.食事は母乳中心で,ネグレクトにより極端な栄養不足となりビタミンD欠乏性くる病を発症したと考えられ,児童相談所に連絡をとった.活性型ビタミンDの内服を行い,退院後,検査成績は改善傾向であったが,その後来院しなくなり,一時保護となった.ビタミンD欠乏症は近年,日本人全体の栄養状態の改善から頻度の少ない病気となっていたが,最近になって報告が再び増加しており,諸外国でも同様である.ネグレクトに対しては児童相談所,保健所,民間団体,医療機関などが連携をとり対応することが重要である.


【原著】
■題名
筋痛を反復し新規の遺伝子変異を認めたカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII欠損症の1例
■著者
仙台医療センター小児科1),東北大学医学系研究科小児病態学2),仙台市立病院小児科3)
松本 幸子1)2)  荒井 那津子1)2)  鈴木 景子1)  一戸 明子1)  大橋 芳之1)  貴田岡 節子1)  田澤 雄作1)  坂本 修2)  大浦 敏博2)3)  土屋 滋2)

■キーワード
CPT II欠損症, 脂肪酸酸化異常症, アシルカルニチン, 横紋筋融解症, タンデムマススペクトロメトリー
■要旨
 症例は9歳女児.幼児期に2回,発熱に伴う筋痛で他院に入院した.この際に代謝異常症が疑われタンデムマススペクトロメトリーによるアシルカルニチン分析が実施されていたが,診断には至らなかった.今回,急性胃腸炎,マイコプラズマ感染症に伴い横紋筋融解症を繰り返した.再度アシルカルニチン分析を実施したところ,長鎖アシルカルニチンの軽度上昇を認め,カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII欠損症(CPT II欠損症)が疑われた.しかしながら確定診断に至らなかったため,遺伝子検査を施行したところ,既知の変異と新規の変異を認めCPT II欠損症の診断が得られた.本症は軽症例であっても横紋筋融解症発症時に腎不全となる可能性もあり,筋症状を反復する場合にはアシルカルニチン分析を繰り返し行い,疑診例に対しては積極的に遺伝子検査を施行すべきであると考えられた.


【原著】
■題名
水痘不顕性感染後に脳梗塞を発症した1例
■著者
富山赤十字病院小児科
今立 真由美  村上 巧啓  倉本 崇  津幡 眞一  本間 一正

■キーワード
水痘, 脳梗塞, 水痘帯状疱疹ウイルス, 片麻痺, 抗リン脂質抗体症候群
■要旨
 突然の左片麻痺,左顔面神経麻痺で発症した脳梗塞の症例を経験した.症例は3歳8か月の男児.水痘の罹患歴はなく予防接種も行っていなかった.来院時頭部CTでは異常を認めず,頭部MRI拡散強調画像にて右基底核,放線冠に高信号を認めた.心疾患,代謝異常は否定的であり,血清,髄液にて水痘抗体価を測定したところ,血清IgM抗体の高値および髄液のAntibody Indexの著明な上昇を認めた.また,ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体の陽性がみられた.本症例は頭部MRAにて血管狭窄像を認めず,抗リン脂質抗体症候群に皮膚症状が先行しない水痘不顕性感染が加わり脳梗塞を発症したと考えられた.


【原著】
■題名
長期臨床的脳死の4小児例
■著者
札幌医科大学医学部小児科
高山 留美子  加藤 高広  二階堂 弘輝  大屋 一博  土井 俊明  堤 裕幸

■キーワード
臨床的脳死, 長期脳死, 在宅人工呼吸器療法, 頭部CT
■要旨
 2003年〜2005年札幌医科大学医学部付属病院小児科において4例の長期脳死症例を経験した.全症例臨床的脳死診断後も臨床症状の回復は認めず,平均294病日で心停止に至った.1例は在宅人工呼吸器療法に移行することができたが,発症から約2年3か月間後に心停止となった.
 今後の集中治療の進歩に伴い長期脳死患者が増加することが予想される.臨床的脳死診断に対する両親の反応は様々であったが,全症例において臨床的脳死診断後,両親は延命治療を希望された.臨床的脳死患者に対する様々な問題や今後我が国での臨床的脳死状態に対する考えを注意深く見守るとともにデータの経年的な蓄積が必要である.


【原著】
■題名
乳児期早期に末期腎不全に至り,腎形成異常を呈したWT1異常症の1例
■著者
東京都立清瀬小児病院腎臓内科1),国家公務員共済組合連合会立川病院病理科2),東京都立清瀬小児病院検査科病理3)
田村 啓成1)  坂井 智行1)  石倉 健司1)  濱崎 祐子1)  幡谷 浩史1)  池田 昌弘1)  緒方 謙太郎2)  森川 征彦3)  本田 雅敬1)

■キーワード
WT1, ネフローゼ症候群, 腎不全, 性分化異常
■要旨
 WT1遺伝子異常に起因する疾患群(WT1異常症)は主に腎,泌尿生殖器における症状を主徴とするが,その症状の種類や程度,発症年齢は多彩である.Denys-Drash症候群,Frasier症候群などのWT1異常症の代表的な疾患群に属さない,もしくはオーバーラップする症例も多く存在する.このため我々は腎と泌尿生殖器に複数の症状を合併する症例に対しては積極的にWT1遺伝子解析を含めた診断を行っている.今回,我々は両側停留精巣,尿道下裂を合併し,日齢10に腎機能低下,先天性ネフローゼで発症した後,乳児期早期に末期腎不全に至った男児例を経験した.当初よりWT1異常症を念頭におきWT1遺伝子解析を進めエクソン9におけるヘテロ点変異1181 G>Aを同定した.腎病理像で分化不全を伴う形成異常を認め,Denys-Drash症候群で認められるびまん性メサンギウム硬化症(DMS)の所見を認めなかった.本症例はWT1異常症における従来の疾患概念にあてはまるものがなく,以前より我々の提唱しているWT1異常症のより大きな疾患概念であるWRUNS:(WT1 Related Urogenital malformation and Nephropathy Syndrome)に含まれる症例と考えられた.腎と泌尿生殖器に複数の症状を併せ持つ症例はその症状の種類,程度,発症年齢に関わらずWT1異常症を念頭に置き積極的にWT1遺伝子の検索を行うべきである.


【原著】
■題名
抗factor H抗体による溶血性尿毒症症候群の1例
■著者
静岡県立こども病院腎臓内科
深山 雄大  和田 尚弘  北山 浩嗣  山田 昌由  山内 豊浩

■キーワード
抗Factor H抗体, 低補体血症, 溶血性尿毒症症候群, 血漿交換
■要旨
 今回われわれは抗Factor H(FH)抗体による溶血性尿毒症症候群(Hemolytic uremic syndrome,以下HUS)の症例を経験した.症例は7歳女児,約2週間前に嘔吐,下痢があった.経口摂取不良を主訴に近医受診,精査にてHUSと診断され当院紹介入院となった.腸管出血性大腸菌感染は証明できなかったが腎生検はHUSに矛盾のない所見であった.保存的に治療していたが第16病日で血小板減少が再増悪し,HUSの再発と診断,血漿交換およびステロイドパルス療法を計3クール行い軽快した.入院時より低補体血症が持続しており,補体異常を疑って精査したところ抗FH抗体陽性であった.ステロイド,ミゾリビンの内服を継続し,現在まで再発はしていない.
 本症は最近提唱され,血漿交換,免疫抑制療法が有効とされるが報告例はほとんどなく,今回診断できた意義は大きいと考えた.


【論策】
■題名
学校医・園医の現状と問題点に関する意識調査
■著者
大阪小児科医会勤務医部会「病気を持った子どもの教育・保育問題委員会」
藤丸 季可  稲田 浩  木野 稔  里村 憲一  塩見 正司  鈴木 美智子  高田 慶応  田川 哲三  田辺 卓也  永井 利三郎

■キーワード
学校医, 園医, かかりつけ医, 慢性疾患, アンケート調査
■要旨
 慢性疾患をもつ子どもの教育や保育における,学校・園,学校医・園医,かかりつけ医(主治医),患児・保護者間の相互連携の現状と問題点を把握する目的で,大阪小児科医会会員684名にアンケート調査を実施した.回答数は206(回収率30%)で,学校医は82名,園医は97名であった.学校への訪問回数が増加するほど学校から学校医への相談件数が増加し,また「園から相談を受けたことがない」や「園―園医間は連携不足である」と回答した園医の多くが園への訪問回数が少ないことがわかった.学校・園―学校医・園医連携促進のためには,学校医・園医は訪問の機会を増やし,学校(養護教諭を中心に)・園は定期的な連絡会を設置するなどの環境整備が必要と考えられた.多くの学校医・園医が複数施設を担当し,また高齢化や在任期間の長期化がみられた.任期制や定年制の議論とともに研修制度などの積極的な学校医・園医活動を継続的に行えるサポート体制の導入が重要であると考えられた.学校医・園医―かかりつけ医という医師同士の連携が希薄であるのは,背景に周知不足や啓発不足が推測された.多くの学校医・園医が執務継続の意思を示した.小児科医を含めた地域の医師の理解と協力を得ながら,医師と教育・保育現場を直接つなぐ学校医・園医システムを今後も発展させなければならない.


【論策】
■題名
小児科臨床実習における入院患者付き添いの母親による医学生評価
■著者
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野
野村 裕一  田邊 貴幸  江口 太助  根路銘 安仁  豊島 光雄  新小田 雄一  今中 啓之  河野 嘉文

■キーワード
CBT, OSCE, 小児科臨床実習, 付き添い母, 学生評価
■要旨
 【背景】診療参加型実習を安全に行うという観点からは,患者が安心して臨床実習に協力できることも重要であり,より良い診療参加型実習を行うためには患者からの評価も検討する必要がある.【対象および方法】小児科臨床実習終了時に付き添い母による学生の5段階評価(1〜5;5が高評価)を行った((1)熱心な研修態度,(2)思いやりある態度,(3)コミュニケーション能力,(4)診察能力,(5)医学知識).【結果】母による評価が92件得られ,その評価は全ての項目で高評価だった((1)4.1±0.8,(2)4.1±0.9,(3)3.9±1.1,(4)4.1±0.7,(5)4.0±0.8).CBT成績と母による評価に相関する項目はなく,OSCE成績と母による診察能力の評価には有意な正の相関が見られた(r=0.336,p=0.01).CBT成績が良くてもOSCE成績の悪い学生は母によるコミュニケーション能力評価も低かった.【考案】母による学生評価は臨床実習が安全に行われているかどうかを評価するための患者満足度に関連する評価として重要と思われる.今回の母による学生評価は4点前後と高評価であり,当科の診療参加型実習は家族の観点から良好に行われているものと考えられた.【結論】付き添い母による学生評価は,診療参加型臨床実習における患児側の観点からのコミュニケーション能力を含めた診察能力の評価として有意義と考えられた.また,同実習前に共用試験OSCEが行われることの重要性が再確認された.

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