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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:09.4.16)

第113巻 第4号/平成21年4月1日
Vol.113, No.4, April 2009

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総  説
1.

脳発達障害と酸化ストレス

林 雅晴  657
2.

脳磁場解析を用いた小児てんかん診断

白石 秀明  667
第111回日本小児科学会学術集会シンポジウム
  「小児医療と学校教育の接点」

小児科医療と学校教育の接点特別支援教育―学校の立場から―

中尾 繁樹  677
  「小児医療と学校教育の接点」

小児科医ができる学校教育支援「21世紀の問診表」―生活習慣・心・家族の絆―

田澤 雄作  682
原  著
1.

小児市中肺炎に対するピペラシリンの有用性

織田 慶子,他  688
2.

扁桃咽頭炎における検出ウイルスと細菌の原因病原体としての意義

武内 一,他  694
3.

有熱性けいれんの診断及び治療

田中 政幸,他  701
4.

軽度蛋白尿を呈するIgA腎症の腎生検と治療の判断基準

森 一越,他  706
5.

インフルエンザ菌b型髄膜脳炎に急性小脳失調症を合併した1例

須賀 健一,他  711
6.

急性呼吸窮迫症候群を合併したインフルエンザ脳症の1例

石井 茂樹,他  717
7.

溶血性尿毒症症候群を合併し持続的血液濾過透析が著効した肺炎球菌性髄膜炎の1例

永田 絵子,他  722
8.

クロラムフェニコールが著効した硬膜下膿瘍合併化膿性髄膜炎の1例

山下 哲史,他  727
9.

短期間に過換気症候群と代償性過換気を繰り返した10歳男児の1例

末田 慶太朗,他  730
10.

腸管血管異形成の合併が疑われ鼻出血にて出血性ショックに至ったvon Willebrand病type 2B

伊藤 怜司,他  734
11.

新規ETHE1遺伝子変異を認めたエチルマロン酸脳症の1例

大坪 善数,他  739
12.

脳挫傷を呈したが比較的良好な経過をたどっている頭蓋欠損を伴った先天性頭皮欠損症

梶保 祐子,他  745

地方会抄録(北日本,香川,東京,甲信,福島,島根,鹿児島,福岡)

  749
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.11 スーパーボールによる窒息

  783

日本小児科学会理事会議事要録

  785
日本先天代謝異常学会

1.保険収載されたライソゾーム病5疾患の遺伝病学的検査および遺伝カウンセリングの実施に関するガイドライン

  789

2.ビタミンB12反応型メチルマロン酸血症患者様へ「ドセラン®錠500 μg」を投与している先生方への注意喚起

  790

書評

  791

雑報

  791


【原著】
■題名
小児市中肺炎に対するピペラシリンの有用性
■著者
川崎医科大学小児科
織田 慶子  寺西 英人  藤本 洋樹  文珠 彩花  井上 美佳  若林 時生  赤池 洋人  石井 良樹  河合 泰弘  荻田 聡子  川崎 浩三  寺田 喜平  尾内 一信

■キーワード
小児, 肺炎, ガイドライン, 抗菌薬, ピペラシリン
■要旨
 2004年に本邦で小児呼吸器感染症診療ガイドラインが発表されて以来,ペニシリン系抗菌薬が小児の呼吸器感染症に第一選択薬として投与され,その有用性が報告されている.我々の施設では,2005年4月よりの小児の肺炎患者でのピペラシリンの有用性を,小児呼吸器感染症診療ガイドライン2004で推奨されているスルバクタム・アンピシリン,セフトリアキソン,あるいはセフォタックスと後方視的に比較検討した.投与症例は市中肺炎に限り検討した.スルバクタム・アンピシリン72例とピペラシリン症例51例,セフォタキシム,あるいはセフトリアキソン症例25例を発熱期間,入院期間,入院費用,予後について検討した.その結果,臨床経過,入院費用,予後とも差がなく,ピペラシリンはスルバクタム・アンピシリンと同様,入院を要する小児市中肺炎の第一選択薬として有用であることが示された.


【原著】
■題名
扁桃咽頭炎における検出ウイルスと細菌の原因病原体としての意義
■著者
耳原総合病院小児科1),ふかざわ小児科2),よしだ小児科クリニック3),にしむら小児科4),くさかり小児科5),佐渡総合病院小児科6),小児外来診療における抗菌薬の適正使用のためのワーキンググループ7)
武内 一1)7)  深澤 満2)7)  吉田 均3)7)  西村 龍夫4)7)  草刈 章5)7)  岡崎 実6)

■キーワード
扁桃咽頭炎, 起炎菌, ウイルス, A群β溶血性連鎖球菌, 抗菌薬
■要旨
 目的:A群β溶血性連鎖球菌(以下,溶連菌)以外の細菌が,扁桃咽頭炎での抗菌薬の投与対象となる起炎菌となるのかについて検証した.
 対象と方法:扁桃咽頭炎149例を対象とし,全例でウイルス分離,細菌培養および溶連菌迅速検査を行った.
 結果:ウイルスが63例(42.3%)で分離され,アデノウイルス48例(32.2%),エンテロウイルス8例(5.4%),インフルエンザウイルス3例(2.0%),パラインフルエンザウイルス3例(2.0%),単純ヘルペスウイルス3例(2.0%)であった.血清学的にEBウイルス感染が3例で証明され,合計66例(44.3%)でウイルス感染が確認された.全例で細菌が検出され,主な病原菌は溶連菌25例(16.8%),インフルエンザ菌55例(36.9%),黄色ブドウ球菌27例(18.1%),肺炎球菌20例(13.4%),モラキセラ・カタラリス9例(6.0%)であった.
 ウイルス未確認群とウイルス確認群における病原菌の培養頻度は,溶連菌では21例(25.3%)と4例(6.1%)で,ウイルス未確認群での検出頻度が有意に高く(p=0.0018),黄色ブドウ球菌では9例(9.6%)と18例(27.3%)で,ウイルス確認群で有意に高かった(p=0.0097).その他のインフルエンザ菌,肺炎球菌,モラキセラ・カタラリスでは有意差はなかった.溶連菌検出例を除いた抗菌薬非投与例で有熱期間を検討した.ウイルス未確認群での対象病原菌検出群(以下,病原菌群)で2.1±1.2日,常在菌のみの検出群(以下,常在菌群)で1.9±1.3日,およびウイルス確認群での病原菌群で2.6±1.2日,常在菌群で2.5±1.1日であり,4群間で有意差はみられなかった.
 結論:溶連菌以外の病原菌が,扁桃炎の起炎菌として抗菌薬の投与対象となることを示唆する証拠は得られなかった.


【原著】
■題名
有熱性けいれんの診断及び治療
■著者
国立病院機構滋賀病院小児科
田中 政幸  近江園 善一

■キーワード
けいれん, 熱性けいれん, てんかん, 感染症, 抗ヒスタミン薬
■要旨
 国立病院機構滋賀病院小児科における4年間の有熱性けいれん症例をまとめ,二次医療機関における診断及び治療のあり方を検討した.
 症例は38℃以上の発熱を伴うけいれん発作のため当院救急外来を受診した2か月から17歳2か月の150症例である.
 来院時すでに鎮痙している症例へのdiazepam座薬投与群と無治療群では,同一発熱機会におけるけいれん再発予後に有意差を認めなかった.抗ヒスタミン薬ketotifen fumarate服用群と非服用群とではけいれんを発症した際のけいれん重積に至る確率に有意差を認めなかった.diazepamとmidazolam両者の静脈注射を要したけいれん重積症例に対して,けいれん再発予防目的にphenytoin点滴を施行したが,本研究症例では再発及び副反応は認めなかった.
 けいれん原因は熱性けいれんが最多であり,次にてんかんが多かった.複合型熱性けいれん群のてんかんへの移行は単純型熱性けいれん群と比較して有意に高率であった.
 発熱原因は脳腫瘍1例を除き全て感染症であった.感染症では抗生物質の経静脈投与が望ましい重症細菌感染症例もみられた.けいれん発作治療のみならず感染症治療のため入院治療が望ましい症例も少なくはなかった.


【原著】
■題名
軽度蛋白尿を呈するIgA腎症の腎生検と治療の判断基準
■著者
聖隷佐倉市民病院小児科1),埼玉医科大学小児科2)
森 一越1)  鈴木 繁1)  川村 研1)  佐々木 望2)

■キーワード
軽度蛋白尿, IgA腎症, 免疫療法, 降圧剤
■要旨
 【目的】IgA腎症は軽度蛋白尿症例でも病理組織が必ずしも軽症ではないことが報告され始め,腎生検の適応を含め議論されている.自験例から治療方針を決定する要因を探り,経過観察の基準もあわせて考察する.
 【対象と方法】最近の10年間で腎生検によりIgA腎症と確定され,生検後3年以上経過を観察し得た38例のうち,初回生検までに尿中蛋白/尿中クレアチニン比(U-P/Cre)が0.5未満であった17例(男7例,女10例)につき後方視的に検討した.症例はU-P/Creが0.3未満のA群と0.3以上0.5未満のB群に分け,病理組織および治療とその経過について検討した.
 【結果】A群は全例で軽度な変化のみであった.B群はびまん性メサンギウム増殖を2例含んでいた.治療はステロイドや免疫抑制剤を使用した免疫療法やdipyridamole,アンギオテンシン変換酵素阻害剤などの単独あるいは併用療法を施行したが,A群では怠薬した1例を除き11例で蛋白尿が陰性化した.B群では免疫療法未使用の2例で蛋白尿が陰性化しなかった.
 【考察】軽度蛋白尿しか認めない症例に病理組織上予後の不良な例が含まれていた.治療方針としてU-P/Creが0.3未満であれば経過を密に観察し,0.3以上で腎生検を施行する.またU-P/Creが0.5未満でも活動性のより強いものには免疫療法を考慮する必要がある.


【原著】
■題名
インフルエンザ菌b型髄膜脳炎に急性小脳失調症を合併した1例
■著者
高松赤十字病院小児科
須賀 健一  関口 隆憲  岡村 和美  森 達夫  阪田 美穂  清水 真樹  高橋 朋子  幸山 洋子  大原 克明

■キーワード
インフルエンザ菌b型, 急性小脳失調症, 髄膜脳炎, SPECT, サイトカイン
■要旨
 まれな合併症である急性小脳失調症を発症したインフルエンザ菌b型(Hib)髄膜脳炎の1例を報告する.
 症例は2歳女児.発熱と嘔吐を主訴に来院した.血液検査では白血球数20.8×103/μl,CRP 23.7 mg/dlと強い炎症反応を認め,髄液検査で多核球優位の細胞増多と糖の低下,蛋白の増加,IL-6,sTNFR1の上昇を認めた.頭部CTで脳浮腫を認めた.咽頭,髄液及び血液培養からHib(BLNAS)が検出された.治療開始の翌日には解熱したが,意識障害及び大脳辺縁系の障害を来たし,脳波で全般性徐波を認め,脳炎の合併と診断した.その後意識清明となったが,体幹のふらつき(小脳失調)が顕在化した.頭部MRIでは異常を認めなかったが,99mTc-ECD-SPECTで小脳半球および虫部への集積低下を認めた.その後徐々にふらつきは軽快し,9か月後に症状はほぼ消失し,SPECTでの小脳への集積低下は改善した.Hib髄膜炎の経過中に,まれではあるが急性小脳失調症の合併に注意が必要であり,診断及び経過観察にSPECTが有用であった.


【原著】
■題名
急性呼吸窮迫症候群を合併したインフルエンザ脳症の1例
■著者
宮崎県立日南病院小児科1),同 麻酔科2),宮崎大学医学部付属病院小児科3)
石井 茂樹1)  長田 直人2)  澤 大介1)  木下 真理子3)  今村 秀明3)  池田 俊郎3)  水上 智之3)  江川 久子2)  布井 博幸3)

■キーワード
急性呼吸窮迫症候群, インフルエンザ脳症, 高サイトカイン血症, メチルプレドニゾロン・パルス療法
■要旨
 発熱と痙攣とともに急激な低酸素血症とチアノーゼを呈し,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)を合併したインフルエンザ脳症の1例を経験した.
 症例は2歳5か月の女児.当日まで無症状であった健常児に,突然の発熱,強直性間代性痙攣とチアノーゼが出現し当院へ搬送された.院着時,インフルエンザA型感染が判明し,同時に広範囲な両側肺浸潤陰影を伴う低酸素血症を呈しており,速やかに気管挿管し人工呼吸管理を開始した.発症約7時間後に血液分布異常性ショックと思われる低血圧が出現したため,生理食塩水による輸液負荷,塩酸ドパミンとノルアドレナリンの持続投与で対処した.突如発症した肺病変をARDSと診断し,また急激な全身状態の悪化からインフルエンザ脳症を強く疑った.インフルエンザ脳症に対する特殊治療としてメチルプレドニゾロン・パルス療法等を行い,速やかな血圧上昇とともに酸素化の改善を認めた.その後状態は安定し,第8病日に人工呼吸器から離脱した.
 インフルエンザ脳症にARDSを合併した報告は非常に稀であるが,両者とも重篤な病態であり厳重な全身および呼吸管理が必要である.


【原著】
■題名
溶血性尿毒症症候群を合併し持続的血液濾過透析が著効した肺炎球菌性髄膜炎の1例
■著者
浜松医科大学小児科学教室1),菊川市立総合病院小児科2)
永田 絵子1)  高橋 寛吉1)  宮本 健1)  古橋 協1)  平野 浩一1)  久保田 晃2)  大関 武彦1)

■キーワード
溶血性尿毒症症候群, 肺炎球菌性髄膜炎, 持続的血液濾過透析, 硬膜下膿瘍, 高血圧性脳症
■要旨
 肺炎球菌による溶血性尿毒症症候群は稀であり,腸管出血性大腸菌感染症に続発するものと比較して低年齢に多く,入院期間も長く,予後不良である.症例は1歳女児.肺炎球菌による溶血性尿毒症症候群,細菌性髄膜炎と高血圧性脳症の疑いで入院した.発症の初期より無尿となり,腎不全症状を呈した.持続的血液濾過透析(CHDF)を第6病日から第20病日まで施行し,以後は尿量を保つことが可能で再開することはなかった.髄膜炎に対しては抗菌薬で治療し,経過中,硬膜下膿瘍を合併したが内科的治療にて治癒した.高血圧性脳症はreversible posterior leukoencephalopathy syndromeと考えられた.集学的治療と早期からの透析の導入が肺炎球菌による溶血性尿毒症症候群ではきわめて有効であり生命予後を改善すると考えられる.


【原著】
■題名
クロラムフェニコールが著効した硬膜下膿瘍合併化膿性髄膜炎の1例
■著者
京都府立医科大学小児科
山下 哲史  今村 俊彦  森本 昌史  杉本 徹

■キーワード
化膿性髄膜炎, インフルエンザ菌b型, 硬膜下膿瘍, クロラムフェニコール
■要旨
 6か月の男児,発熱から5日後髄液検査で化膿性髄膜炎と診断.起炎菌はインフルエンザ菌b型でβラクタマーゼ陰性アンピシリン感受性ありと判明した.CTX+MEPMで治療を開始したが硬膜下膿瘍を合併,発熱遷延し治療に難渋していたが,クロラムフェニコール(CP)に変更したところ速やかに解熱,硬膜下膿瘍は消失した.CPが著効し脳外科的処置を回避できた貴重な症例と考えられたので報告する.


【原著】
■題名
短期間に過換気症候群と代償性過換気を繰り返した10歳男児の1例
■著者
楡の会こどもクリニック
末田 慶太朗  石川 丹

■キーワード
不登校, 過換気症候群, 飢餓, 代謝性アシドーシス, ケトアシドーシス
■要旨
 症例は10歳男児.不登校中に過換気発作と咳嗽チックを繰り返し,臨床的に過換気症候群と診断したが,血液ガス分析ではpH 7.36,pCO2 13.5 mmHg,HCO3 7.7 mEq/l,BE−18 mEq/lとアニオンギャップ上昇を伴う代謝性アシドーシスを認めた.尿検査でも尿中ケトン体の上昇があり,ケトアシドーシスのため入院となった.過換気は補液にて一旦改善したが,再度出現,血液ガス分析ではpH 7.613,pCO2 18.8 mmHg,HCO3 19 mEq/l,BE−2 mEq/lと一転して呼吸性アルカローシスの所見を認めた.本例は過換気症候群と代謝性アシドーシスの呼吸性代償による過換気を短期間に繰り返したまれな症例であり,過換気症候群の診断にあたってはケトアシドーシスを除外するために血液ガス分析,尿検査を行うべきであると考えられた.


【原著】
■題名
腸管血管異形成の合併が疑われ鼻出血にて出血性ショックに至ったvon Willebrand病type 2B
■著者
東京慈恵会医科大学附属柏病院1),東京慈恵会医科大学附属病院2)
伊藤 怜司1)  布山 裕一1)  和田 靖之1)  久保 政勝1)  衞藤 義勝2)

■キーワード
von Willebrand病, 出血性ショック, Ristocetin凝集反応検査, 腸管血管異形成, 孤発例
■要旨
 症例は4歳女児.経過中,数回の鼻出血の後に出血性ショックを伴い意識障害を認めた.出血源はKiesselbach部位に軽度出血斑を認めるのみであったが,Hb 6.8 g/dlと著明に低下していた.出血時間の著明な延長,von Willebrand(以下VW)因子抗原量,Ristocetin cofactor活性の低下,凝固第VIII因子正常下限,Ristocetin凝集反応検査で低濃度過凝集を認め,正常対照とのRistocetin凝集反応交差試験などによりVW病type 2Bと診断した.99mTcを用いた出血scintigraphyでは腸間膜充血所見を認め,腸管血管異形成の存在が疑われた.通常type 2B病型では軽度の皮膚粘膜出血が多く,本症が診断される事がなく一生を経過する症例も散見される.本症例の様に腸管血管異形成による慢性的な貧血の経過が疑われ,その後鼻出血により貧血が顕在化した症例は我々が検索した限りではみられなかった.また家族内においても同様な出血性素因を有する者はなく孤発例と考えられた.


【原著】
■題名
新規ETHE1遺伝子変異を認めたエチルマロン酸脳症の1例
■著者
佐世保市立総合病院小児科1),広島大学大学院医歯薬学総合研究科小児科学2)
大坪 善数1)  白尾 謙一郎2)  岡田 賢2)  但馬 剛2)  佐倉 伸夫2)  楠本 隆1)  青木 幹弘1)  中下 誠郎1)

■キーワード
エチルマロン酸脳症, ETHE1遺伝子, 有機酸代謝異常症
■要旨
 エチルマロン酸脳症(EE)は,常染色体劣性遺伝形式をとる有機酸代謝異常症である.2004年にETHE1遺伝子変異が原因であることが判明した.30数例の海外報告例があるが,本邦での報告例はない.
 今回,遺伝子解析によりEEの診断が確定した男児例を経験した.生後5か月時に筋緊張低下,発育不良,慢性下痢,四肢のチアノーゼ,点状出血を主訴に当科紹介となり,先天代謝異常症を疑った.本例は確定診断がつかないまま1歳11か月時に死亡したが,EEの典型的な臨床症状を持ち,生前の血中アシルカルニチン分析にてC4の増加,尿中有機酸分析にてエチルマロン酸(EMA),メチルコハク酸,C4-C5アシルグリシンの排泄増加を認め,保存リンパ球を用いた遺伝子解析によりETHE1の新規遺伝子変異である112T>A(exon2;Y38N),154G>C(exon2;D52H)の複合へテロ変異を持つEEの診断に至った.両親,兄弟の遺伝子解析の結果,ETHE1変異遺伝子のヘテロ保因者であることが確認された.
 本例同様,海外報告例でも乳幼児期死亡例が多く,臨床症状からEEが疑われた場合,血中アシルカルニチン分析,尿中有機酸分析および遺伝子解析による早期診断が重要となる.


【原著】
■題名
脳挫傷を呈したが比較的良好な経過をたどっている頭蓋欠損を伴った先天性頭皮欠損症
■著者
太田西ノ内病院小児科1),東京大学付属病院小児科2)
梶保 祐子1)2)  安井 孝二郎1)  赤松 智久1)  佐藤 敦志1)  垣内 五月2)  生井 良幸1)

■キーワード
頭皮・頭蓋欠損, 脳挫傷, 先天性, 片麻痺
■要旨
 今回我々は,胎児期に指摘されず,自然分娩で出生し,左頭頂部に毛髪・皮膚・頭蓋骨・硬膜の順に範囲の縮小する欠損があり,同部位に脳挫傷・出血を伴う脳組織の露出を合併した1例を経験した.挫傷部の感染や出血のコントロールは困難であり,ご両親の同意を待ち日齢18に脳実質感染巣切除・欠損口外科的閉鎖術を施行した.その後,痙攣や感染のエピソードはなく,右不全片麻痺を認めるものの,1歳2か月で伝い歩きは可能であり,遠城寺式乳幼児分析的発達検査にて発達指数(DQ)は83であった.本疾患で硬膜欠損例の文献上報告は乏しく,脳挫傷合併例としても神経学的に比較的良好な経過であり貴重な症例と考えられた.出生時の状態を把握し,早期の治療の決定,またその後の理学療法が重要と考えられた.

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