gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:09.3.6)

第113巻 第3号/平成21年3月1日
Vol.113, No.3, March 2009

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

総  説
1.

小児のリハビリテーション―最近の動向―

栗原 まな  475
2.

研修医師・若手医師のためのくる病・骨軟化症概説―代表的疾患である低リン血症性くる病・骨軟化症を学ぶ―

長谷川 行洋,他  488
原  著
1.

小児慢性副鼻腔炎におけるマクロライド少量長期療法の検討

大谷 ゆう子,他  498
2.

本邦における小児線維筋痛症の実態

宮前 多佳子,他  503
3.

小児の長期脳死自験例5例とわが国における小児脳死判定の問題点

田辺 卓也,他  508
4.

ビデオゲーム誘発発作における誘発因子の調査

木全 かおり,他  515
5.

Panayiotopoulos症候群106例の臨床・脳波学的検討

平野 嘉子,他  522
6.

臍帯血バンクに必要な臍帯血採取量と採取量に影響する因子の検討

林谷 道子,他  528
7.

小児血液・腫瘍患者におけるインフルエンザワクチンの抗体反応

大嶋 宏一,他  533
8.

有熱性尿路感染症におけるDMSAシンチグラフィでの瘢痕の有無と臨床経過の関係

菊池 絵梨子,他  539
9.

Chronic recurrent multifocal osteomyelitisの1例

藤野 寿典,他  544
10.

急性期に十二指腸潰瘍を合併した川崎病の1例

中野 有也,他  549
11.

気管腕頭動脈瘻に対しステント拡張用バルーンで止血し根治術により救命しえた1例

野田 雅裕,他  555
12.

Neurogenic stunned myocardiumによるショックを呈した被虐待乳児例

塩浜 直,他  559
論  策

医学部1年生保育所体験実習は小児医療への関心を高めるために有効か?

野村 裕一,他  564

地方会抄録(中国四国,徳島,兵庫,沖縄,滋賀,山口,岡山,北陸,富山,愛媛,福岡)

  569
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.10 浴槽への転落によるやけど

  635
日本小児科学会試験運営委員会

お知らせ「臨床研修手帳」について

  637

日本小児科学会理事会議事要録

  638

査読者一覧

  648
日本先天代謝異常学会

テトラヒドロビオプテリン(BH4)反応性高フェニルアラニン血症に対する天然型BH4製剤塩酸サプロプテリンの適正使用に関する暫定指針

  649

平成21年度日本小児科学会分科会開催予定

  654

雑報

  655

医薬品・医療機器等安全性情報No.254

  656


【原著】
■題名
小児慢性副鼻腔炎におけるマクロライド少量長期療法の検討
■著者
東京慈恵会医科大学小児科学講座1),同 放射線科学講座2)
大谷 ゆう子1)  勝沼 俊雄1)  飯倉 克人1)  衞藤 義勝1)  尾尻 博也2)

■キーワード
慢性副鼻腔炎, 小児, マクロライド少量長期療法, Waters'撮影
■要旨
 【背景】慢性副鼻腔炎は小児気管支喘息への合併頻度も高く,また小児慢性咳嗽の重要な一因とも考えられている.従って小児の慢性呼吸器疾患診療上,慢性副鼻腔炎の適切な評価と治療は極めて重要といえる.今回我々は,小児慢性副鼻腔炎の内科的治療としてマクロライド少量長期療法(ML療法と略)の有効性について後方視的に検討した.
 【対象・方法】2001年から2008年にかけて,当科アレルギー外来及び,関連病院小児科外来において慢性副鼻腔炎と診断され,ML療法が施行された小児37名(男児20名,女児17名,4〜14歳)を対象とした.投与量は,エリスロマイシン10 mg/kg/day,クラリスロマイシン3 mg/kg/dayとした.ML療法前後における画像所見と臨床症状の変化を評価した.
 【結果】ML療法により,68%の症例で画像所見と臨床症状の改善が認められた.また改善後は,薬剤を間欠的に減量することにより再発を抑制できた.
 【結語】小児の慢性副鼻腔炎に対してML療法は有用な治療法と考えられた.


【原著】
■題名
本邦における小児線維筋痛症の実態
■著者
横浜市立大学附属病院小児科
宮前 多佳子  横田 俊平

■キーワード
線維筋痛症, 圧痛点, 小児, アンケート
■要旨
 線維筋痛症(FibromyalgiaまたはFibromyalgia Syndrome:FMS)は小児科領域においても近年増加傾向にある.小児線維筋痛症症例の実態の把握を目的に,日本小児科学会神奈川県地方会会員およびリウマチ専門医を取得した小児科医の所属する17医療機関を対象にアンケート調査を実施した.回答を得た28症例のうち,線維筋痛症の診断基準を満たす24例(男児6例,女児18例)について検討した.発症時の平均年齢は11.7歳,平均罹病期間は2.3年間,発症から線維筋痛症の診断までに要した期間は9.9か月であった.疼痛の部位は全身痛24/24例(100%),関節痛19/22例(86.4%),筋肉痛13/15例(86.6%)と関節痛や筋肉痛を訴える症例が多く認められた.長期経過の中で,天候不良時や疲労などのストレスを感じるときに疼痛の増悪を自覚する一方で,興味のあることに従事するなどストレスから開放されているときには改善がみられるなどの傾向がみられた.Allodyniaと思われる痛覚閾値低下の所見は20/24例(83.3%)が陽性であった.筋力低下13/20例(65%),睡眠障害12/20例(60%),消化器症状10/20例(50%)が半数以上に認められた.体重減少を来したのは5/20例(25%)であった.治療薬としてノイロトロピンや抗うつ薬などが用いられていたが無効例が多く,一方で薬物に頼らない精神的なアプローチのみで症状の改善・消失を得た症例も5/24例(20.8%)あった.小児科医は,線維筋痛症が小児にも存在することを認識する必要がある.しかし治療法の開発は今後の課題である.


【原著】
■題名
小児の長期脳死自験例5例とわが国における小児脳死判定の問題点
■著者
市立枚方市民病院小児科1),大阪医科大学小児科2)
田辺 卓也1)  田中 英高2)  原 啓太1)  玉井 浩2)

■キーワード
脳死, 小児, 脳死判定基準, 長期生存, 慢性脳死
■要旨
 小児の脳死状態では長期に経過する例や体動が頻繁にみられる例などの報告があり,成人との相違点がある可能性が指摘されているが,系統だった検討は乏しい.今回われわれは,無呼吸テストを除く2000年小児脳死基準暫定案を満たす自験例5例と,わが国で1983年以降に文献報告されている日本人小児の脳死症例121例とを検討した.自験例は6か月〜6歳の男4例,女1例で,体動は4例にみられ,心臓死まで43〜335日経過した.体動がみられた4例の保護者は当初積極的な治療を希望され,死に行く児を看取るという受容の気持ちになるには100日以上を要した.文献例121例は年齢3.5±3.8歳で一次性脳障害が70例だった.無呼吸テストを施行したと明記されているものは11例(9.1%)だった.SPECT2例,造影CT2例で脳死判定時に脳血流の残余が示唆された.厚生省の診断基準を満たす2例を含む3例で,経過中自発呼吸,脳波所見,SPECT,ABRなどの回復がみられた.心停止までの期間は7日以内31例(25.6%),90日以上23例(19.0%)だった.小児においては脳死状態と診断されても成人との相違,特異性を考慮して治療方針を決定する必要があると考えられた.また,その経過における保護者の心理面での支援が重要で,状態の理解,受容がなされる過程となるのであれば,長く経過する心臓死までの日々は決して無意味なものではないと考えられた.


【原著】
■題名
ビデオゲーム誘発発作における誘発因子の調査
■著者
国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター小児科1),木沢記念病院小児科2),岐阜大学大学院医学研究科小児病態学教室3)
木全 かおり1)2)3)  高橋 幸利1)3)  藤原 建樹1)

■キーワード
ビデオゲーム誘発発作, 光感受性, 光突発脳波反応
■要旨
 ビデオゲーム中に発作が起こった68症例を後方視的に検討した.純粋光感受性てんかん17例(25%),光感受性てんかん51例(75%)で,光感受性てんかんのうちわけは特発性全般てんかん16例,症候性全般てんかん2例,中心・側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん1例,症候性局在関連性てんかん32例であった.純粋光感受性てんかんの80%に光突発脳波反応が認められた.特発性全般てんかん,症候性局在関連性てんかんは光感受性発作があっても光突発脳波反応を認めるのは約半数であった.ディスプレーの種類では純粋光感受性てんかんはブラウン管ディスプレーのみで誘発されていた.純粋光感受性てんかんでは光感受性発作が起こるのはゲーム開始後30分以内と早く,光感受性てんかんでは早期と数時間後とに2極分布していた.今後,ビデオゲーム誘発発作を防止するために,光感受性のみならず,疲労・注意集中といった光感受性以外の誘発因子も含めた総合的な予防対策が必要である.


【原著】
■題名
Panayiotopoulos症候群106例の臨床・脳波学的検討
■著者
東京女子医科大学小児科
平野 嘉子  小国 弘量  舟塚 真  今井 薫  大澤 真木子

■キーワード
Panayiotopoulos症候群, 自律神経発作, てんかん重積状態, 特発性部分てんかん, 幼児期
■要旨
 Panayiotopoulos症候群(PS)は,1988年に報告され2001年ILAE国際てんかん分類案で新たな幼児型の特発性部分てんかんとして提唱された.その特徴は,正常発達幼児が睡眠中に突然悪心や嘔吐などの自律神経症状と共に,長時間の全身または半身の強直間代発作や意識減損発作(Ictal syncope)を生ずる,てんかん重積状態(SE)を44%と高率に合併,発作間欠期脳波では移動性・多焦点性てんかん性異常を呈し,予後は良好であり,発症から1〜2年以内にほぼ軽快するとされる.当院におけるPS106例(男児51例,女児55例)を後方視的に検討したところ,嘔吐を主体とする自律神経発作での発症に加え,睡眠中の発作を64例(62%),SEを72例(68%)と高率に認めた.発作間欠期脳波所見では93例(88%)に移動性・多焦点性てんかん波を認めた.発作は1回のみが16例(15%),2〜5回で終了するものが52例(50%)と多かったが,10回以上発作を繰り返した例も17例(16%)あった.予後は良好で,全例12歳までに発作消失し,発作持続期間は1年以内38例(36%),3年以内81例(77%)と大半が3年以内であった.本研究の結果,日本においてもPSの頻度は比較的高く,また長期予後も良好であることが確認された.PSは,過剰な治療を避ける上でも小児科医全体に認知されるべきてんかん症候群であると考えられた.


【原著】
■題名
臍帯血バンクに必要な臍帯血採取量と採取量に影響する因子の検討
■著者
広島市立広島市民病院総合周産期母子医療センター新生児科
林谷 道子  野村 真二  中田 裕生  新田 哲也  小林 良行  長谷川 泰三

■キーワード
臍帯血バンク, 臍帯血採取量, 有核細胞数, 胎盤重量, 臍帯長と臍帯断面積
■要旨
 2000年8月から2006年12月までに臍帯血バンクのために採取した臍帯血469例について検討を行った.採取された臍帯血のうち257例で調製が開始され,最終的に198例(42%)が臍帯血バンクに保存されたが,保存に至らなかった要因の76%は有核細胞数が基準に満たないためであった.調製前の有核細胞数(平均7.2×108個)は臍帯血採取量(平均57.7 ml)との間に有意な相関を認めた(相関係数0.80,p<0.0001).中国四国臍帯血バンクでは有核細胞数6×108個以上という保存基準を満たすために有核細胞数が7×108個以上の血液で調製を開始している.この開始基準を満たすためには56 ml以上(採取バックの重量を含め110 g以上)の臍帯血の採取が必要である.調製を行った257例では調製前後の有核細胞数(相関係数0.95,p<0.0001),調製前後のCD34陽性細胞数(相関係数0.86,p<0.0001)に有意な相関を認めた.採取量に影響する因子では,胎盤重量,臍帯長(p<0.0001),臍帯断面積(p<0.05)が有意であった.また,児の出生体重は胎盤重量と相関した.移植における確実な生着のためには有核細胞数(特にCD34陽性細胞数)の多い臍帯血の保存が重要である.胎盤や臍帯因子を予測することはできないが,有核細胞数(特にCD34陽性細胞数)が多く得られる可能性の高い胎児の推定体重が重い妊婦からの採取を行うことが重要である.


【原著】
■題名
小児血液・腫瘍患者におけるインフルエンザワクチンの抗体反応
■著者
埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科
大嶋 宏一  菊地 陽  望月 慎史  花田 良二

■キーワード
小児, 血液・腫瘍, インフルエンザワクチン, 抗体反応
■要旨
 <目的>小児血液・腫瘍患者におけるインフルエンザワクチンの有効性を検討するために,ワクチン接種前後の抗体反応を後方視的に検討した.
 <対象>1歳から16歳の当センターで化学療法中もしくは免疫抑制剤内服中の24例と治療終了後の10例を対象とした.
 <方法>2004/2005年のインフルエンザシーズン前に,インフルエンザワクチンを31例に2回,3例に1回接種し,抗体反応を検討した.HI抗体価はワクチン接種前と2回目ワクチン接種後(1回接種例はその後に)に測定した.
 <結果>2回目ワクチン接種後に4倍以上抗体が上昇したのは,A(H1N1),A(H3N2),およびB型ウイルスに対してそれぞれ,35%(12/34),32%(11/34),12%(4/34)であった.また,ワクチン接種前にHI抗体価40倍未満の患児が接種後に有効防御免疫抗体価である40倍以上の抗体価を獲得したのは,38%(9/24),12%(2/17),10%(3/31)であり,6歳以上のA(H1N1)に関しては58%(7/12)であった.副反応は認められず,ワクチン接種後にインフルエンザに罹患したのは1例であった.
 <考察>以上より,小児血液・腫瘍患者,特に6歳以上に対し積極的にインフルエンザワクチンを接種する意義を示すものと考えられた.


【原著】
■題名
有熱性尿路感染症におけるDMSAシンチグラフィでの瘢痕の有無と臨床経過の関係
■著者
武蔵野赤十字病院小児科
菊池 絵梨子  下田 益弘  亀井 宏一  田中 絵里子  鈴木 奈都子  道下 崇史  佐藤 裕幸  今井 雅子  糀 敏彦  清原 鋼二  日下 隼人

■キーワード
尿路感染症, DMSAシンチグラフィ, 膀胱尿管逆流, 腎瘢痕, 尿中β2ミクログロブリン
■要旨
 背景:小児有熱性尿路感染症の約10〜40%で永続的な腎瘢痕を残すとされているが,瘢痕形成のrisk factorには未だに明確なものはないため,瘢痕形成と臨床経過との関係を検討した.対象と方法:小児初回有熱性尿路感染症48例に対し,急性期と6か月後にTechnetium-99m dimercaptosuccinic acid scintigraphy(DMSAシンチ)を,4週間後にVoiding cystourethrography(VCUG)を施行し,臨床経過と瘢痕形成の関係を前方視的に検討した.結果:48例中33例(69%)で急性期欠損を認めた.急性期欠損群27例に6か月後再度DMSAシンチを施行し,6例(22%)で瘢痕を認めた.瘢痕の有無で分けた2群間で年齢,性別,治療開始までの有熱期間,白血球数,CRP,尿中β2-microglobulin(β2MG),N-acetyl-β-D-glucosaminidase(NAG),腎尿路系の基礎疾患の有無について比較検討したところ,急性期の尿中β2MGは瘢痕群で有意に高い傾向(27.7±16.9 vs 3.5±3.9(mg/gCr),p<0.001)が認められ,測定し得た全例で10 mg/gCrを超えていた.結論:尿中β2MGの高値は瘢痕形成のrisk factorであり,かつ予測因子となり得ると考えられた.その他の急性期所見,年齢,性別,治療開始までの有熱期間,基礎疾患の有無との関連は認められなかった.


【原著】
■題名
Chronic recurrent multifocal osteomyelitisの1例
■著者
市立岸和田市民病院小児科
藤野 寿典  清水 滋太  田村 宏美  大村 馨代  後藤 幹生  瀬戸 嗣郎

■キーワード
Chronic recurrent multifocal osteomyelitis, 骨髄炎, 自己炎症性症候群
■要旨
 Chronic recurrent multifocal osteomyelitis(CRMO)の1例を経験した.症例は初診時12歳3か月の女児.11歳4か月〜7か月時に腰痛があったが自然軽快した.11歳11か月時に右踵部痛出現,12歳1か月時に右股関節周囲の圧痛,歩行時の自発痛が出現し次第に増悪した.12歳3か月時に大腿骨大転子部・踵骨及び肋骨に骨髄炎を認めたため,安静及び抗生剤投与を行い痛みは一旦軽快した.13歳3か月時に初診時の骨痛が再発し,新たに下顎骨痛も認めたものの,この際は抗生剤を使用することなく非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)の頓用のみで痛みの改善をみた.
 CRMOは近年その責任遺伝子が次々と明らかにされ注目されている自己炎症性症候群の一つである.本症例はCRMOの本邦4例目の報告であるが,その治療ならびに予後については依然不明な点が多く,今後の症例の蓄積が待たれる.


【原著】
■題名
急性期に十二指腸潰瘍を合併した川崎病の1例
■著者
昭和大学横浜市北部病院こどもセンター1),同 循環器センター2)
中野 有也1)  田山 愛1)  松岡 孝1)  大橋 祐介1)  曽我 恭司1)  五味 明1)  野中 善治1)  梅田 陽1)  上村 茂2)

■キーワード
川崎病, 十二指腸潰瘍, 非ステロイド性抗炎症剤, ステロイド, Helicobacter pylori
■要旨
 症例は11歳男児.川崎病の疑いで第4病日に前医に入院し,その後診断が確定した.アスピリン投与(30 mg/kg/day)の他に,第4病日に免疫グロブリンの初回投与2 g/kgを,第6病日に追加投与1 g/kgをうけ,さらにメチルプレドニゾロンが併用されたが,冠動脈瘤(中)を形成し,第13病日に紹介で当院に転院した.第15病日に急激な消化管出血を来たし,ショック症状を呈した.腹部造影CTで十二指腸から動脈性の出血を認め,内視鏡検査で十二指腸球部に隆起を伴う潰瘍性病変を確認した.潰瘍性病変の一部にクリッピングをし,抗潰瘍薬を併用した.その後,瘤の増悪はなく無事軽快し退院した.川崎病に消化管出血を合併した症例の報告は少ないが,これまでの報告では,男児と治療難渋例に多い傾向があった.川崎病に合併する消化性潰瘍の成因として様々な病態の関与が考えられるが,本例ではHelicobacter pyloriの関連は否定でき,非ステロイド系抗炎症薬とステロイド併用による薬剤性と考えた.川崎病患者では,報告例以上に薬剤性潰瘍を形成する潜在的リスクが高く,症例によっては積極的に予防する必要がある.また,消化性潰瘍の合併が疑われる症例には,積極的に上部消化管内視鏡検査の施行を検討すべきである.


【原著】
■題名
気管腕頭動脈瘻に対しステント拡張用バルーンで止血し根治術により救命しえた1例
■著者
公立昭和病院小児科1),昭和大学横浜市北部病院循環器センター2),同 こどもセンター3)
野田 雅裕1)  小田 新1)  石川 涼子1)  大場 邦弘1)  成井 研治1)  石井 ちぐさ1)  河野 寿夫1)  上村 茂2)  富田 英2)  梅田 陽3)

■キーワード
気管腕頭動脈瘻, 気管切開, 気管出血, 腕頭動脈離断術, ステント拡張用バルーン
■要旨
 気管腕頭動脈瘻(Tracheo-Innominate Artery Fistula以下TIF)は,気管切開後の重篤かつ致命的な合併症である.症例は9歳男児.2歳の時に延髄腫瘍と診断され,腫瘍切除術時に気管切開術を施行した.その後,在宅人工呼吸管理を施行していたが,9歳時に気管出血のため救急搬送となり,一時的に挿管チューブのカフによる圧迫止血を行っていた.胸部CTでTIFに矛盾しない所見と考え,ステントによる血管内治療を行う予定であったが,その準備に時間を費やし,頻回の出血により患児が危険な状態となったが,姑息的に右橈骨動脈からステント拡張用バルーンを挿入し,腕頭動脈を直接閉塞し止血しえた.その後,転院して腕頭動脈離断術を施行し,感染などの術後合併症を起こすことなく順調に経過した.現在は,大きな問題なく外来にて経過観察中である.TIFは気管切開患者の重篤な合併症であり,予防が肝要であるが,発症した場合は一時的な止血と,その後の根治的治療が必要である.本症例では,血管内ステント拡張用バルーンにより効果的な一時止血を行い,その後の根治的治療につなげることができた.


【原著】
■題名
Neurogenic stunned myocardiumによるショックを呈した被虐待乳児例
■著者
総合病院国保旭中央病院小児科1),千葉大学大学院医学研究院小児病態学2),国立成育医療センター手術集中治療部3)
塩浜 直1)2)  北澤 克彦1)  松本 弘1)  本多 昭仁1)  清水 直樹3)  中川 聡3)  河野 陽一2)

■キーワード
neurogenic stunned myocardium, 心原性ショック, 頭部外傷, 身体的虐待, 心筋生検
■要旨
 Neurogenic stunned myocardium(NSM)は,中枢神経障害急性期に合併する可逆性の心筋障害,心機能障害である.臨床的には中枢神経症状に続発する急性心不全や不整脈などを呈するが,心機能の予後は一般に良好であることが特徴である.今回われわれは,当初劇症型心筋炎と診断し救命にextracorporeal membrane oxygenation(ECMO)を要したが,最終的に虐待による頭部外傷に伴うNSMと診断した5か月男児を経験した.
 患児は意識障害と頻拍で受診し,来院後急速に心原性ショックと肺水腫が進行した.CK値上昇と心機能低下から劇症型心筋炎と暫定診断し,人工呼吸管理,循環作動薬投与を行ったが,ショックから離脱不能であった.高次機能施設に転院し,発症8時間後ECMOを開始した.ECMO開始後,心機能は急速に改善し3日目にECMOから離脱した.
 回復期の頭部画像検査で頭蓋骨骨折と硬膜下血腫を,眼底検査で硝子体および網膜出血を認め,身体的虐待による頭部外傷が明らかとなった.心筋生検では心筋炎を示唆する所見を認めず,心機能障害の原因は頭部外傷に合併したNSMと診断した.心原性ショックや急性心不全ではNSMも念頭に置く必要があり,特に乳幼児では,原疾患として虐待による頭部外傷を鑑別する必要がある.


【論策】
■題名
医学部1年生保育所体験実習は小児医療への関心を高めるために有効か?
■著者
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児発達機能病態学分野
野村 裕一  新小田 雄一  根路銘 安仁  今中 啓之  河野 嘉文

■キーワード
保育所実習, 小児医療への興味, 小児科医師数増への試み
■要旨
 【目的】医学部入学時直後から学生に小児や小児医療に関心を持たせるための試みとして保育所体験実習を実施し,その有効性について検討した.【対象および方法】H19年入学の医学部1年生を対象とし,同じ保育所での実習を3週間隔で2回行い,実習前後のアンケート情報を解析した.【結果】77名の実習参加者で実習前と後の両方の回答が得られたのは60名(78%)だった.保育所実習後に,子どもについての印象は多くの項目で有意に向上した.また,子どもの対応についての意識も全ての項目で有意に向上した.今後の小児医療実習への関心はやや高まったが有意ではなかった.しかし弟妹のある学生に限ると有意に高くなっていた.この有意差は同胞の有無に分けた検討では見られなかった.【考案】保育所体験実習は小児に関わることへの躊躇を減らす点で有効と考えられた.弟妹のある学生では効果がみられた今後の小児医療実習への関心の高まりが弟妹のない学生では認められず,小児と触れ合う機会としての今回の実習効果を更に強化する対策も必要である.実習に引き続いた小児医療体験の機会の提供が小児医療への関心を高めることが期待される.【結語】医学部1年生における保育所体験実習は,小児に関わることへの躊躇を減らす点で有効だった.小児医療への関心を高める点では弟妹のある学生において有効だった.

バックナンバーに戻る