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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:08.10.31)

第112巻 第10号/平成20年10月1日
Vol.112, No.10, October 2008

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総  説
1.

新生児発作の診断・治療と脳波

奥村 彰久  1481
2.

CINCA/NOMID症候群の臨床像と治療法の進歩

松林 正  1494
3.

小児がんに対する造血幹細胞移植後の晩期合併症

石田 也寸志  1505
第111回日本小児科学会学術集会
  教育講演

小児オフラベル薬使用と治験の推進

伊藤 進  1519
原  著
1.

市中感染症における菌血症の臨床的検討

清水 正樹,他  1527
2.

小児科開業医で経験した血液培養陽性例25例の臨床的検討

西村 龍夫  1534
3.

高度に肝逸脱酵素の上昇を来した川崎病急性期症例の臨床的検討

末永 智浩,他  1543
4.

持続脳波モニタリングによる新生児発作の管理

城所 博之,他  1548
5.

30年の間における紫斑病性腎炎の軽症化

桑門 克治,他  1553
6.

小児心肺停止症例に対する小児科医の初期対応の現状に関する検討

佐野 伸一朗,他  1558
7.

児童虐待防止法改正後の3年間に一地方都市で起きた重篤な子ども虐待4例について

沖 潤一,他  1562
8.

微小変化型ネフローゼ症候群を合併した木村氏病の1例

須賀 健一,他  1567

地方会抄録(中国四国,滋賀,甲信)

  1573

編集委員会への手紙

  1591
日本小児科学会学校保健・心の問題委員会

提言:21世紀の問診票

  1592
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.6 自転車のハンドルによる肝損傷

  1594
日本小児内分泌学会糖尿病委員会(6)

国際小児思春期糖尿病学会 臨床診療コンセンサスガイドライン2006〜2008 日本語訳の掲載について

  1595
日本外来小児科学会予防接種委員会

麻しん及び風しんの定期予防接種の接種体制に関する全国自治体への調査報告

  1618

日本小児科学会理事会議事要録

  1623

雑報

  1628

日本医学会だより No.40

  1629

医薬品・医療機器等安全性情報 No.250

  1630


【原著】
■題名
市中感染症における菌血症の臨床的検討
■著者
福井県済生会病院小児科
清水 正樹  黒田 文人  川村 昌代  山田 直江  前馬 秀昭  後藤 千奈美  武井 健吉  和田 泰三  片山 啓太  加藤 英治

■キーワード
occult bacteremia, 血液培養, Hibワクチン, 肺炎球菌, インフルエンザ菌
■要旨
 菌血症の実態およびoccult bacteremia(以下OBと略す)の臨床的特徴を検討するために,1996年1月から2006年12月の間に血液培養から有意な細菌を検出した小児61例について後方視的に解析した.発症年齢は生後15日から180か月で,原因菌は肺炎球菌22例,インフルエンザ菌20例,サルモネラ菌8例,黄色ブドウ球菌3例,肺炎クレブジエラ菌3例,大腸菌2例,カンピロバクター菌2例,B群溶連菌1例であった.最終診断はOB22例,腸炎13例,髄膜炎10例,呼吸器感染症7例,蜂窩織炎4例,骨関節感染症3例,尿路感染症2例であった.OB例は肺炎球菌が17例,インフルエンザ菌が4例,B群溶連菌が1例だった.発熱から採血までの時間はOB例で平均1.3日,Serious Bacterial Infection(以下SBIと略す)例で2.3日とOB例の方が早期に血液培養が行われていた.インフルエンザ菌および肺炎球菌によるOB21例の平均白血球数は23,738/μlであった.これらの症例の多くでCRP値は必ずしも高値を示さなかったが,白血球数が15,000/μl以上の症例が81%を占めた.以上の結果より,高熱を伴う小児の診療においては早期からOBの存在を考慮して積極的に血液培養を行うべきであると考えられた.この際発熱の程度と白血球数が血液培養実施を判断する有用な指標となると思われた.今後の課題としてわが国の実情に即した血液培養実施基準の作成とインフルエンザ菌b型(以下Hibと略す)および肺炎球菌ワクチンの早期導入が望まれる.


【原著】
■題名
小児科開業医で経験した血液培養陽性例25例の臨床的検討
■著者
抗菌薬適正使用ワーキンググループ,にしむら小児科
西村 龍夫

■キーワード
菌血症, 血液培養, 深部重症細菌感染症, occult bacteremia, 細菌性髄膜炎
■要旨
 目的:小児科診療所を受診する患者の中に存在する菌血症の起炎菌を調べ,インフルエンザ菌b型(以下,Hib)ワクチン,7価結合型肺炎球菌ワクチン(以下,PCV-7)導入による効果を推定する.
 方法:2002年11月から2007年4月までの54か月間(4.5年間),小児科開業医である「にしむら小児科」を,発熱を主訴として受診し,基礎疾患のない生後3か月から60か月までで血液培養検査を行った467症例を対象とし,後方視的に検討した.血液培養で有意菌が検出された場合を菌血症と診断し,白血球数,CRP値,Acute Illness Observation Scales(以下,AIOS)による重症度判定,および最終診断について検討した.
 結果:対象症例のうち,25例(5.4% 95%confidence interval:3.5%〜7.8%)で有意菌が検出され,菌血症と診断した.起炎菌は,肺炎球菌が18例(72%),Hibが4例(16%),その他の菌は3例(12%)であり,モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis),黄色ブドウ球菌,ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)が各1例であった.最終診断はoccult bacteremiaが21例(84%)ともっとも多く,細菌性髄膜炎が3例(12.0%),細菌性肺炎が1例(4.0%)であった.細菌性髄膜炎は全てHibによるものであった.AIOSの重度の異常項目が見られたのは1例だけであった.
 結論:菌血症の起炎菌の大多数は,鼻咽頭に存在する菌であった.Hibワクチン,PCV-7により,菌血症の68%は予防可能と推測された.


【原著】
■題名
高度に肝逸脱酵素の上昇を来した川崎病急性期症例の臨床的検討
■著者
和歌山県立医科大学小児科1),社会保険紀南病院小児科2),昭和大学横浜市北部病院循環器センター3)
末永 智浩1)  鈴木 啓之1)  渋田 昌一1)  武内 崇1)  吉川 徳茂1)  南 孝臣2)  上村 茂3)

■キーワード
川崎病, 肝逸脱酵素, ガンマグロブリン, 冠動脈病変
■要旨
 川崎病急性期における,病初期の肝逸脱酵素高度上昇例について後方視的に臨床的検討を加えた.平成12年1月からの4年間に当院及び関連8病院に川崎病の診断で第4病日までに入院した117例につき,血清ASTもしくはALTの最高値が300 IU/l以上を示した24例を高度上昇群,残りの93例を対照群とし,性・発病時月齢・入院時原田スコア・有熱期間・ガンマグロブリン(以下IVIG)の投与開始病日・追加投与の有無・総投与量・冠動脈病変(以下CAL)の有無について統計学的に検討した.高度上昇群の肝逸脱酵素は24例中23例で初回検査時に最高値を示し,経過中急速に低下し正常化した.対照群との比較では性・発病時月齢・原田スコア・有熱期間・IVIG投与開始病日で有意差を認めなかったが,IVIG追加投与は高度上昇群で24例中9例(37.5%),対照群ではIVIGを投与した83例中14例(16.9%)で統計学的に有意差を認めた(p=0.0463).また総投与量も高度上昇群が有意に多かった.CALは高度上昇群で24例中4例(16.7%),対照群93例中3例(3.2%)で統計学的に有意差を認めた(p=0.0317).川崎病病初期に肝逸脱酵素が高度に上昇する症例は少なからず潜在し,IVIG不応例やCAL合併例が多くリスクが高い.


【原著】
■題名
持続脳波モニタリングによる新生児発作の管理
■著者
安城更生病院小児科1),順天堂大学医学部小児科2)
城所 博之1)  鈴木 俊彦1)  林 直子1)  北瀬 悠磨1)  坂本 昌彦1)  武藤 太一朗1)  大江 英之1)  服部 哲夫1)  久保田 哲夫1)  加藤 有一1)  宮島 雄二1)  小川 昭正1)  奥村 彰久2)

■キーワード
新生児発作, 新生児痙攣, 脳波モニタリング, 脳波
■要旨
 新生児発作の診断には発作時の脳波検査が不可欠であるが,検査の煩雑さから疎まれ,臨床症状の観察のみで診断される現実があった.今回我々は,簡便かつ迅速に新生児発作を診断する脳波検査法を紹介した.これは,NICUで利用されるベッドサイドモニタに2チャンネルと少ない電極数で脳波を持続的に表示する方法である.脳波はポリグラフで評価でき,また保存された波形情報から後方視的な再評価も可能であった.また,新生児脳症に関連した新生児発作の2例にこの方法論を用い,発作の診断とともに発作頻度の把握や治療効果の判定に有用であることを示した.客観的かつ正確な新生児発作の管理を実現するために,脳波モニタリングは新生児医療に必要不可欠である.


【原著】
■題名
30年の間における紫斑病性腎炎の軽症化
■著者
倉敷中央病院小児科1),たけだ小児科2)
桑門 克治1)  武田 修明2)  藤原 充弘1)  田中 紀子1)  新垣 義夫1)  馬場 清1)

■キーワード
Henoch-SchÖnlein purpura nephritis, 重症度, 溶連菌, 腹痛, ステロイド
■要旨
 1976〜2005年の30年間に,アレルギー性紫斑病の受診者は1980年前後の18.4人/年から2000年前後の14.3人/年に減少していたが,腎炎合併率は43%から29%にまで低下し(p=0.04),半月体を伴う患者数も10年あたり13人から6人に減っており,軽症化していた.
 「腎炎を合併しない紫斑病」が,6歳以下の低年齢層や溶連菌感染がなかった症例,腹痛がない症例で増えており,紫斑病を誘発する環境因子が30年の間に変わったことが軽症化の主な要因であるものと思われた.
 溶連菌感染がある方が腎炎合併率は高かった(47% vs 32%,p<0.01)が,腎生検を行った症例に占める半月体を有する症例の割合には差がなかった.腹痛を伴う症例の割合は60%前後で年代による増減はなく,腹痛があると腎炎合併率・半月体を有する症例の割合ともに高い傾向が見られた.
 初期の腹痛に対してステロイドを使用した症例の方が,腎炎になっても蛋白尿1 g/m2/日未満か血尿のみの軽症例の割合が多く(71% vs 53%),結果として腎生検を行う率が低かった(21% vs 47%,p=0.04).溶連菌感染がなかった症例では,prednisoloneを1 mg/kg/日を超えて使用した群の方が1 mg/kg/日以下の群よりも腎炎合併率が低かった(33% vs 82%,p=0.01).初期の腹痛に対するステロイド投与が腎炎への進行を抑えている可能性があり,軽症化の一要因であると考える.


【原著】
■題名
小児心肺停止症例に対する小児科医の初期対応の現状に関する検討
■著者
浜松医科大学小児科1),磐田市立総合病院小児科2),清水厚生病院小児科3),菊川市立総合病院小児科4),富士宮市立病院小児科5)
佐野 伸一朗1)  白井 眞美2)  屋冨祖 隆光3)  佐竹 栄一郎4)  佐藤 慶介5)  大関 武彦1)

■キーワード
小児救急, 不慮の事故, 心肺停止, 蘇生, PALS
■要旨
 1歳以上の小児の死因第1位は不慮の事故である.小児救急を専門とするしないに関らず,このような患児への適切な救急蘇生治療の提供は社会的にも重要である.小児心肺停止症例の検討はこれまで数々の報告があるが,我が国で小児科医の初期対応を検討した報告はない.
 今回我々は,小児科医が心肺停止症例に対し実際にどのような処置を行っているのかを検討した.4施設の総合病院小児科にアンケートを依頼し,過去5年間の心肺停止症例に対して気道確保,静脈確保,輸液製剤,蘇生に用いた薬剤等の具体的処置をどのように行っているのかを調査した.4施設,31症例を集積することができた.多くの症例で気管挿管が行われ,5〜10分以上かけて末梢静脈路を確保し,ソリタT1等の開始液が投与されていた.また最初に投与される薬剤としてアドレナリンの気管内投与が好まれており,重炭酸ナトリウムの静脈内投与が常用される傾向も認められた.蘇生処置法は医師により非常に様々であった.
 近年一般市民に一次救命処置法が普及しつつあり,患児の転機をより良くするためにも小児医療従事者はエビデンスやガイドラインに基づいた二次救命処置を身につけて準備しておくことが必要である.


【原著】
■題名
児童虐待防止法改正後の3年間に一地方都市で起きた重篤な子ども虐待4例について
■著者
旭川厚生病院小児科1),旭川医科大学第一外科2)
沖 潤一1)  雨宮 聡1)  小久保 雅代1)  梶野 真弓1)  石羽澤 映美1)  鳥海 尚久1)  山本 志保1)  土田 悦司1)  野原 史勝1)  高瀬 雅史1)  赤平 百絵1)  白井 勝1)  坂田 宏1)  宮本 和俊2)

■キーワード
児童虐待防止法, 膵臓破裂, 小腸穿孔, 硬膜下血腫, 発達障害, 虐待臨床
■要旨
 平成16年10月に虐待防止法が改正され,虐待の発見・通告が義務化された.しかし,ある地方都市では,法改正の3年間に2例の死亡例を含む4例の重篤な虐待症例があった.腹部を殴られたりして内臓の破裂を来たした3歳と2歳の男児,原因不明の頭蓋内出血の1歳女児,ネグレクトによる循環不全後に両側硬膜下出血を来たした4か月男児である.4例とも虐待を受ける以前から関係機関が関わっていたが,有効な介入がなされなかったり,通告がなされていなかった.虐待防止法の徹底と,通告後の介入方法の改善,親の立場も配慮した虐待臨床を行える医師の確保が喫緊の課題である.


【原著】
■題名
微小変化型ネフローゼ症候群を合併した木村氏病の1例
■著者
高松赤十字病院小児科
須賀 健一  関口 隆憲  岡村 和美  阪田 美穂  高橋 朋子  幸山 洋子  大原 克明

■キーワード
木村氏病, 微小変化群, ネフローゼ症候群, シクロスポリン, サイトカイン
■要旨
 木村氏病は頭頸部の皮下組織やリンパ節に好発する原因不明の好酸球性肉芽腫である.木村氏病は高率にネフローゼ症候群を合併することが知られているが,小児での木村氏病とネフローゼ症候群との合併の報告は稀である.
 症例は13歳の男児.頸部に無痛性の腫瘤が出現したが放置していた.3年後ネフローゼ症候群を発症した.好酸球数増多,IgEの高値を認め,頸部腫瘤の生検にてリンパ濾胞の形成と好酸球の浸潤を認めたため木村氏病と診断した.腎生検では微小変化群であった.プレドニゾロン(PSL)投与によりネフローゼ症候群は速やかに寛解し,頸部腫瘤も縮小した.その後PSLの減量あるいは中止に伴って,頻回にネフローゼ症候群の再発を繰り返した.シクロスポリン(CyA)を併用したところ,頸部腫瘤は縮小し,ネフローゼ症候群の再発なくPSLの減量が可能であった.治療前にIL-4,IL-13が高値を示し,IL-5は正常,IFN-γが低値を示した.CyA開始後IL-13のみが低下した.木村氏病と微小変化型ネフローゼ症候群の合併にはTh2優位のサイトカインバランスが関連しており,CyAはIL-13を抑制することによって,木村氏病と微小変化型ネフローゼ症候群の双方に有効に働く可能性が示唆された.

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