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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:08.07.28)

第112巻 第7号/平成20年7月1日
Vol.112, No.7, July 2008

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総  説

Bartter症候群の病因病態:遺伝子解析から見えてきたもの

野津 寛大,他  1059
原  著
1.

本邦におけるRSウイルス感染症の疫学

青木 知信,他  1068
2.

一地方都市におけるRSウイルス感染症の実態調査

荒井 史,他  1076
3.

小児肺炎における初期抗菌薬としてのAmpicillinの有効性について

武田 紳江,他  1081
4.

小児百日咳のDPTワクチン接種歴と臨床像

牛田 肇,他  1088
5.

新規機能獲得型CARD15/NOD2遺伝子変異を認めたBlau症候群の母子例

大坪 善数,他  1094
6.

釣竿による眼窩穿通性脳幹損傷

赤坂 真奈美,他  1102
7.

特発性脳実質内出血を呈し,軽微な臨床経過をとった正期産児の2症例

坂 良逸,他  1107
8.

B型肝炎ウイルスキャリアーから発症した若年性肝細胞癌4例

大和 靖彦,他  1111
論  策
1.

潜在基準値抽出法による小児臨床検査基準範囲の設定

田中 敏章,他  1117
2.

卒後臨床研修における小児科研修期間延長は研修医の研修成果や満足度を向上させる

野村 裕一,他  1133

地方会抄録(島根,東京,栃木,大分,千葉,沖縄,青森)

  1139

日本小児科学会理事会議事要録

  1172

第111回日本小児科学会通常総会議事要録

  1175

日本小児科学会新理事会議事要録

  1213

日本小児科学会新総会議事要録

  1213

日本小児科学会理事会議事要録

  1214

2009年度財団法人小児医学研究振興財団フェローシップ・アワードについて

  1216


【原著】
■題名
本邦におけるRSウイルス感染症の疫学
■著者
福岡市立こども病院・感染症センター1),札幌医科大学医学部小児科学講座2),川崎市立川崎病院3)
青木 知信1)  堤 裕幸2)  武内 可尚3)

■キーワード
RSウイルス感染症, 疫学, 乳幼児, 流行期, 呼吸器感染症
■要旨
 「RSウイルス感染症疫学研究会」は,本邦におけるRSウイルス感染症に関する疫学情報を得るために,2002年9月より北海道から九州まで,全国8地区における全国規模の調査を実施した.今回,2年間(2002年9月〜2004年8月),延べ8,888例のデータを解析したので報告する.
 調査対象は,入院・外来を問わずRSウイルス感染が疑われた3歳未満児で,陽性・陰性の診断は,RSウイルス抗原検出迅速診断キットを用いて行った.
 RSウイルス陽性率は全体で27.0%(2,402/8,888例)で,月齢による陽性率の変動は少なかった.
 陽性例の診断名は,気管支炎(38.0%)が最も多く,次いで細気管支炎(25.7%)であった.また,細気管支炎と診断された児のRSウイルス陽性率は約70%と高かった.
 RSウイルス陽性例数・陽性率の月別推移では,地区間の差は少なく,流行時期については,2年間とも9月に兆しがみられ,10月にはほとんどの地区で流行が始まっており,翌3月から4月頃まで継続していた.また,流行のピークは12月,あるいは1月であった.


【原著】
■題名
一地方都市におけるRSウイルス感染症の実態調査
■著者
国立病院機構松本病院小児科1),長野県立こども病院新生児科2),長野赤十字病院小児科3),国立病院機構長野病院小児科4),JA長野厚生連佐久総合病院小児科5),飯田市立病院小児科6),信州大学医学部附属病院小児医学講座7)
荒井 史1)  山崎 和子2)  中村 友彦2)  南 勇樹3)  島崎 英4)  牛久 英雄5)  津野 隆久6)  馬場 淳7)  小池 健一7)

■キーワード
RSウイルス, パリビズマブ, 呼吸器感染症, RSV抗原検査, 情報配信システム
■要旨
 2004年7月1日から2005年6月30日に長野県下の多施設が参加し,RSウイルスの流行時期,臨床像をアンケート様式で調査した.長野県では10月初めから入院患者が見られるようになったが,流行のパターンには地域差がみられた.北信地域と東信地域の病院では,2004年10月上旬から入院患者がみられ,北信地域では2005年1月まで,東信地域では2005年4月まで断続的に続いた.一方,中信地域と南信地域では,2004年12月末から2005年1月初旬にかけて入院患者が集中した.2月初旬に流行はほぼ終了した.
 同時にRSウイルス感染情報配信システムを1年間試験運用した.このシステムにより,外来で把握した流行状況を,RSウイルス感染症のハイリスク児を診療している各病院に,リアルタイムで情報提供することが可能となった.


【原著】
■題名
小児肺炎における初期抗菌薬としてのAmpicillinの有効性について
■著者
千葉市立海浜病院小児科1),千葉大学大学院医学研究院小児病態学2)
武田 紳江1)2)  黒崎 知道1)  有馬 聖永1)2)  荻田 純子1)2)  安斉 聡1)2)  山口 賢一1)  地引 利昭1)  南谷 幹史1)  金澤 正樹1)  石和田 稔彦2)  河野 陽一2)

■キーワード
初期抗菌薬, Ampicillin, 小児, 肺炎
■要旨
 小児肺炎の初期抗菌薬としてampicillin(ABPC)は有効であるか否か,2005年度の入院肺炎症例397例を対象として検討した.ABPC 100 mg/kg/day分3靜注の臨床効果を検討すると,ABPCを初期抗菌薬として使用した218例の有効率は89.9%(196/218)であった.洗浄喀痰培養を用い細菌感染が判明したのは397例のうち111例(28.0%)であり,Haemophilus influenzaeが最も多く69例(17.4%),Streptococcus pneumoniae 32例(8.0%),H. influenzaeS. pneumoniaeの混合感染9例(2.3%),Moraxella catarrhalis 1例(0.3%)であった.分離されたH. influenzae 78例の内訳は,βラクタマーゼ陰性ABPC耐性菌(BLNAR;ABPC-MIC≧4 μg/mL)34例(43.6%),βラクタマーゼ陽性ABPC耐性菌(BLPAR)5例(6.4%),βラクタマーゼ陽性amoxicillin-clavulanic acid耐性菌(BLPACR)1例(1.3%)であり,ABPC-MIC≧4 μg/mLの耐性菌はH. influenzaeの51.3%を占めた.S. pneumoniae 41例の内訳は,ペニシリン中等度耐性菌(PISP)26例(63.4%),ペニシリン耐性菌(PRSP)4例(9.8%)であった.原因菌が判明し,初期抗菌薬療法としてABPC靜注を行った101例のABPCの有効率は86.1%(87/101)であった.原因菌別に検討するとH. influenzaeによる肺炎の有効率は82.5%,BLNARでも72.4%の有効率を示した.S. pneumoniaeによる肺炎では91.9%であった.また抗菌薬変更前に増悪した症例は認めなかった.以上より小児肺炎の初期抗菌薬としてABPCは有効である.


【原著】
■題名
小児百日咳のDPTワクチン接種歴と臨床像
■著者
江南厚生病院こども医療センター
牛田 肇  西村 直子  鈴木 道雄  成田 敦  渡邉 直子  安 在根  小山 慎郎  尾崎 隆男

■キーワード
百日咳, DPTワクチン
■要旨
 平成10年1月から平成18年12月の9年間に当小児科で百日咳と診断された72例(平均4.6歳)について,臨床像とワクチン歴を検討した.患者数は,平成10〜14年は年間0〜2例,15年7例,16年16例,17年15例,18年29例と後半の4年間に大きく増加した.1歳未満は22例(31%)で最も多く,3か月未満児は8例であった.31例(43%)が入院治療を要し,日齢55の男児が肺炎を合併して死亡した.40例(56%)がワクチン既接種であり,年々ワクチン既接種者の割合が増加した.培養検査を行った64例中,ワクチン未接種者の52%(15/29),既接種者(1回以上)の26%(9/35),合計24例(38%)から百日咳菌が分離された.特徴的な痙咳発作,笛声,咳込み嘔吐の発現率は,ワクチン未接種者で50%, 25%, 59%,既接種者で48%, 20%, 28%であり,咳込み嘔吐は既接種者で有意に少なかった.急性期の白血球数とリンパ球数は,ワクチン既接種者の方が低値であった.ワクチン既接種者では症状や検査所見が修飾される傾向があり,診断を難しくさせている.重症化しやすい乳児百日咳を予防するためには,DPT接種率のさらなる向上とともに,追加接種等の接種スケジュールの見直しが必要と思われた.


【原著】
■題名
新規機能獲得型CARD15/NOD2遺伝子変異を認めたBlau症候群の母子例
■著者
佐世保市立総合病院小児科1),京都大学大学院医学研究科発達小児科学2)
大坪 善数1)  岡崎 覚1)  岡藤 郁夫2)  中下 誠郎1)

■キーワード
若年性サルコイドーシス, Blau症候群, CARD15/NOD2遺伝子, 自己炎症性疾患, 若年性特発性関節炎
■要旨
 Blau症候群(BS)は4歳以下で発症し,発疹・関節炎・ぶどう膜炎を3主徴とする全身性肉芽腫性疾患で,常染色体優性遺伝形式をとる.ぶどう膜炎による失明と関節炎による関節拘縮が高頻度にみられ,臨床的には予後不良な疾患である.原因遺伝子として,自然免疫にかかわる分子であるCARD15/NOD2が同定されている.今回,我々は少なくとも3世代に渡るBSの母子例を経験した.患者(15歳女子)は,8か月時,BCG接種を契機に多発する丘疹で発症した.2歳頃より関節症状,10歳頃より眼症状が出現.血清因子陰性多関節型若年性特発性関節炎(JIA)の診断で加療されていたが,膠原病の家族歴がある事,特異な関節所見(顕著な慢性関節炎が持続しているにも拘らず,関節破壊所見がない)よりBSの診断に至った.CARD15/NOD2遺伝子検査の結果,機能獲得型異常を伴った新規ヘテロ接合点突然変異(E383 G)を認めた.母親(48歳)も幼児期より皮疹あり,12歳頃には関節炎・ぶどう膜炎を認めていた.関節リウマチ(RA),Behçet病の診断で加療されていたが,児と同一のCARD15/NOD2遺伝子変異を認め,BSの確定診断に至った.本邦におけるBSの報告は2家系(ともに2世代)のみの稀な疾患ではあるが,特異な経過をとるJIA, RAにおいてはBSの可能性も考慮する必要があると考えられた.


【原著】
■題名
釣竿による眼窩穿通性脳幹損傷
■著者
岩手医科大学医学部小児科
赤坂 真奈美  亀井 淳  千田 勝一

■キーワード
眼窩穿通, 脳幹損傷, 釣竿, 一眼半水平注視麻痺
■要旨
 釣竿により眼窩穿通性脳幹損傷をきたした小児を報告する.症例は8歳で,釣竿で右眼をつついたという病歴と脳幹症状があり紹介された.右上眼瞼は浮腫状で痛みを訴えた.神経学的診察で一眼半水平注視麻痺と左顔面神経麻痺,および左片麻痺がみられ,脳MRI検査で右橋底部から中小脳脚まで斜走する線状の異常信号域が認められたため,眼窩穿通性脳幹損傷と診断した.穿通性脳損傷が疑われる場合はまずCT検査が勧められるが,本症例ではMRI検査で釣竿による穿通創が明瞭に描出された.


【原著】
■題名
特発性脳実質内出血を呈し,軽微な臨床経過をとった正期産児の2症例
■著者
大阪府済生会吹田病院小児科1),大阪医科大学小児科2)
坂 良逸1)  小川 哲1)  島川 修一2)  福井 美保1)  細見 晶子1)  森 保彦2)  松島 礼子1)  植村 隆1)  玉井 浩2)

■キーワード
脳実質内出血, 正期産, 新生児
■要旨
 正期産児の頭蓋内出血では,血小板減少症や凝固因子欠乏などの出血素因,分娩外傷,新生児仮死,脳血管奇形等の原因を伴うことが多い.今回我々は,これらの出血素因等がなく脳実質内出血を呈した正期産の2症例を経験したので報告する.両症例とも母体の周産期歴に異常はなく,妊娠分娩経過に異常はなかった.両症例とも無呼吸発作を契機に脳CT検査で脳実質内出血と診断した.出血部位は,症例1では側頭葉と後頭葉で,症例2では側頭葉だった.両症例とも血液検査は正常所見で,MR angiographyでは脳血管奇形などの異常はなかった.両症例とも現在のところ神経学的な後遺症を残さず経過良好である.正期産児において,出血をおこす要因がなく,臨床症状が非常に軽微であっても早期産児と同様に脳実質内出血はありえるので注意を要すると思われた.


【原著】
■題名
B型肝炎ウイルスキャリアーから発症した若年性肝細胞癌4例
■著者
久留米大学小児科1),ほうしやま子どもクリニック2),藤澤こどもクリニック3),久留米大学病理学4)
大和 靖彦1)  木村 昭彦1)  宝珠山 厚生2)  松下 優美1)  西浦 博史1)  牛島 高介1)  藤澤 卓爾3)  鹿毛 政義4)  松石 豊次郎1)

■キーワード
B型肝炎ウイルス, 小児, 肝細胞癌
■要旨
 1997年から2006年の10年間に,B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアーから発症した4例の若年性肝細胞癌例を経験した.発症年齢は,14〜22歳ですべて男性であった.うち2例は白血病の治療による輸血後感染で,免疫染色にて肝細胞にHBs-Ag陽性が確認された.他の2例のうち1例は,家族内感染を認めており母子感染が疑われた.残りの1例は感染経路不明であった.後者2例はHBV感染に関してはフォローされてはいなかった.3例はHBe-Ag陽性からHBe-Ab陽性へのseroconversion後の肝細胞癌発症であった.1例のみが手術後5年以上生存しており,他の3例は内科的治療受けたが死亡した.死亡した3例のうち2例は,肝細胞癌が診断された時点ですでに多臓器へ転移を認めていた.
 HBVキャリアーとなった患者は肝細胞癌のリスクがある.それゆえ,たとえ小児期や青年期であってもHBV感染に対する定期的な観察が必要である.HBe-Ag陽性からHBe-Ab陽性へseroconversionしたあと肝機能が正常化した症例は,受診が途絶えがちになるので特に注意が必要である.


【論策】
■題名
潜在基準値抽出法による小児臨床検査基準範囲の設定
■著者
国立成育医療センター臨床検査部1),SRL2),山口大学医学部保健学科病態検査学3)
田中 敏章1)  山下 敦1)2)  市原 清志3)

■キーワード
小児基準値, 潜在基準値抽出法, 自己組織化マップ法, 潜在基準値除外法
■要旨
 小児の臨床検査の基準値については,約10年前に財団法人日本公衆衛生協会,国立小児病院,エスアールエルが協力して,8年にわたって多くの健常小児の検体を多数集めて「日本人小児の臨床検査基準値」を作成した.現在,いくつかの検査項目で測定法が新しくなっており,それに伴った基準範囲の設定が望まれていたが,従来の方法で小児の基準値を作成することは不可能である.
 本研究では,国立成育医療センターの患者の検査結果に,「潜在基準値抽出法」用いて,新しく臨床現場で用いる「基準範囲」を作成した.
 国立成育医療センターのSRLによる院内ラボにて開設以来測定してきた約30万件の検体のうち,同一検体で12項目以上の測定値がある66,261検体を抽出し,27の生化学・血液検査項目に付き,自己組織化マップ法による「潜在基準値抽出法」を2回応用して,基準値として用いても良いと考えられる測定値を選択した.男女別に,年齢毎の基準範囲(2.5パーセンタイル,97.5パーセンタイル)を算出した.
 測定法が変更されている多くの検査項目では,今回「潜在基準値抽出法」で作った値の方が,「日本人小児の臨床検査基準値」より臨床的には適正であると考えられた.また,同じ測定法であれば,原則的に他の施設でも適用可能で,臨床的に有用であると考えられた.


【論策】
■題名
卒後臨床研修における小児科研修期間延長は研修医の研修成果や満足度を向上させる
■著者
鹿児島大学病院小児科
野村 裕一  今中 啓之  四俣 一幸  溝田 美智代  河野 嘉文

■キーワード
卒後臨床研修, 小児科研修, 研修期間, 研修成果, 満足度
■要旨
 【目的】小児科研修期間が長くなると研修医の研修成果や満足度は向上すると考えられるが,実際に検討した報告はない.小児科研修期間延長がその成果や満足度に与える効果について検討した.【対象および方法】新卒後臨床研修プログラム「桜島」の小児科研修を行った研修医で,研修終了時の評価表とアンケートが得られた83名(大学病院1か月30名,2か月9名;協力病院1か月34名,2か月10名)において,1か月と2か月研修の比較検討を行った.【結果】経験が求められる疾患は,協力病院においてのみ1か月研修より2か月研修で増加していた.基本的診療態度や基本的診療技術の自己評価は,2か月研修による向上が協力病院で見られたが,大学病院では見られなかった.対応が困難であり経験数が多くはない「けいれんの初期対応」や「虐待への対応」等の自己評価は,大学病院の2か月研修でやや高くなったが,協力病院では逆に低下していた.小児科研修の満足度はどちらの2か月研修も1か月研修より好印象となっていた.【結語】小児科研修期間延長によりその成果や満足度の向上が期待可能である.ただ,単純に期間を延長するだけではなく,施設の特徴を考えた対策も必要である.大学病院では経験が求められる疾患を増やす対策が必要であり,協力病院では治療や対応の困難な症例についての理解を深めるための対策が必要である.

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