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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:06.10.06)
第110巻 第9号/平成18年9月1日
Vol.110, No.9, September 2006
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総 説 |
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松尾 真理,他 1183 |
第109回日本小児科学会学術集会 |
教育講演 |
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河野 朗久 1193 |
教育講演 |
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傳田 健三 1201 |
教育講演 |
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軽度発達障害の理解と特別支援教育:高機能自閉症を中心に
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橋本 俊顕 1208 |
原 著 |
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神谷 齊,他 1214 |
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成相 昭吉 1222 |
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江崎 奈緒子,他 1227 |
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松岡 典子,他 1234 |
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水野 克己,他 1242 |
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鍋谷 まこと,他 1247 |
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深沢 千絵,他 1256 |
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長崎 拓,他 1263 |
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山本 ひかる,他 1267 |
短 報 |
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名木田 章,他 1271 |
小児医療 |
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小原 崇一郎,他 1274 |
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地方会抄録(埼玉,栃木,青森,滋賀,愛媛,宮城,福岡,甲信,鹿児島,北陸,山口,静岡)
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1285 |
日本小児科学会学校保健・心の問題委員会 |
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小児科医における「特別支援教育」の認識に関する基礎調査報告
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1339 |
日本小児科学会社会保険委員会 |
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平成8年から平成18年までの小児科関連の診療報酬改定の概要
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1349 |
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1352 |
小児医学研究振興財団設立準備室 |
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1361 |
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1362 |
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1364 |
【原著】
■題名
インフルエンザ菌b型髄膜炎の疾病負担とHibワクチンの費用対効果分析
■著者
国立病院機構三重病院1),福岡市立西部療育センター2),国立精神・神経センター武蔵病院3) 神谷 齊1) 宮崎 千明2) 中野 貴司1) 佐々木 征行3)
■キーワード
インフルエンザ菌, ワクチン, 髄膜炎, 疾病負担
■要旨
わが国におけるインフルエンザ菌b型(Hib)髄膜炎の経済的な負担を,関連した情報源から収集し集約することにより定量化し推計した.また,Hibワクチンの費用対効果を,Hibワクチンを導入した場合と導入していない場合の予後を表すディシジョンツリーを構築して,Hib髄膜炎の経済負担推計で得られた情報をパラメータとして設定,分析した.この結果,後遺症が発生したHib髄膜炎1人あたりの生涯にわたる疾病負担は約5億4千万円となり,後遺症の発生率やHib髄膜炎による死亡等を考慮したHib髄膜炎患者1人あたりの疾病負担は8,670万円となった.また,Hib髄膜炎患者数を年間478人と推計し,接種1回あたりの予防接種費用を7,000円とした場合,Hib髄膜炎に関連する年間の経済的負担は,ワクチンを導入した場合332億円,ワクチンを導入していない場合414億円となり,ワクチンの導入により年間82億円の費用削減効果が可能であると推計された.Hibワクチンの導入によりHib髄膜炎による後遺症や死亡を減少させると共に費用削減効果が期待できる.
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【原著】
■題名
RSウイルス細気管支炎に対する外来におけるデキサメサゾン単回皮下注射の適応
■著者
横浜南共済病院小児科 成相 昭吉
■キーワード
外来, RSウイルス, 細気管支炎, デキサメサゾン, クリニカルスコア
■要旨
病初期RSウイルス(RSV)細気管支炎症例へのデキサメサゾン(DEX)単回皮下注射は入院抑止効果を示すが,どのような外来症例に有用か検討した.
2003年10月〜2004年4月と2004年10月〜2005年4月の2シーズンにおける2歳未満のRSV細気管支炎症例73例(平均月齢7.2カ月)のうち,医療機関に受診歴がなく当科初診入院となった5例を除き,医療機関初診時には入院を要さなかった68例について,DEX非投与群,投与群における入院率,当科初診病日,クリニカルスコアを比較した.クリニカルスコアは,酸素飽和度,1分間呼吸数,喘鳴の聴取,陥没呼吸の有無(各0,1,2点)により評価した.DEXは,親の同意を得た場合に0.4 mg/kgを上腕に皮下注射した.
非投与群は50例,投与群は18例,入院例(入院率)はそれぞれ37例(74%),1例(5.6%)であった(p<0.001).
68例を,(1)群:前医受診歴があり当科初診時に入院となったDEX非投与例28例,(2)群:当科初診時DEXを投与せずその後入院となった9例,(3)群:当科初診時DEXを投与し入院に至らなかった17例,(4)群:DEX非投与群で入院を要さなかった13例の4群に分けた場合,それぞれにおける当科初診病日,クリニカルスコアの平均値は,(1)群:4.6日/4.4,(2)群:4.0日/3.2,(3)群:4.4日/3.2,(4)群:4.8日/2.1で当科初診病日に差はなかったが,クリニカルスコアは(1)群が(2)(3)群より有意に高く(各p<0.05,p<0.01),第4病日にクリニカルスコア4以上の症例は入院を要する可能性が高いと考えられた.また,(2)(3)群間に差はなかったことから,DEX単回皮下注射は第4病日までにクリニカルスコアが3に達した症例に行うと入院抑止効果が期待できると考えられた.
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【原著】
■題名
小児科外来でみられる発疹症の検出ウイルス
■著者
聖母会聖母病院小児科 江崎 奈緒子 粟屋 豊 前田 由美 永木 幸子
■キーワード
不明発疹症, 感染症発生動向調査, 咽頭ぬぐい液, ウイルス分離, ウイルス遺伝子検索
■要旨
今回,1998年1月〜2002年12月の5年間に聖母病院小児科を受診した発疹症患者のうち,原因検索のため,もしくは臨床診断の確認のために東京都立衛生研究所ウイルス研究科に検体を提出し結果を得た626例についてのウイルス抗原検索の結果をまとめたので報告する.発疹症症例の検査時臨床診断名は不明発疹症344例(55.0%)が最多,次いで突発性発疹疑い121例(19.3%),手足口病疑い59例(9.4%),伝染性紅斑疑い50例(8.0%)等であった.ウイルス検出率は626例中359例(57.3%)で,そのほとんどがPCR陽性例(349例)であった.陽性例のなかではウイルス分離のみ陽性2.8%,PCRのみ陽性74.7%,両者陽性は22.6%であった.発疹症症例の60.5%を0歳〜1歳児が占め,検出ウイルスの内訳はエンテロウイルスが154と最多であった.不明発疹症における検出ウイルスはエンテロウイルスが最多(22.8%),次いでヒトヘルペスウイルス6/7(12.5%),アデノウイルス(5.5%)がみられた.突発性発疹疑い例121例のうち,ヒトヘルペスウイルス6/7が検出されたのは78例(65%)で,エンテロウイルスやアデノウイルスのみが計13例(11%),陰性が29例(24%)であった.手足口病疑い例では46例(78%)でエンテロウイルス属が検出された.ウイルス検索はPCRの導入で迅速性と検出率の向上がはかられ,それにより日常診療と流行状況の検討に役立つと思われた.
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【原著】
■題名
テオフィリン治療中に生じた痙攣重積状態の臨床的検討
■著者
東京都立府中病院小児科 松岡 典子 森田 清子 絹巻 暁子 黒澤 照喜 小高 学 和気 彰子 柳原 知子 榊原 裕史 小鍛治 雅之 寺川 敏郎 横路 征太郎
■キーワード
テオフィリン, 痙攣重積状態, 気管内挿管
■要旨
1993年1月から2004年10月の間に当科で経験した痙攣重積327例のうちテオフィリン投与を受けていた27例の臨床的特徴について検討した.27例の年齢は0〜5歳で,8例に熱性痙攣の既往があり,その他の神経学的異常の既往が2例にみとめられた.24例に発熱を伴っていた.テオフィリン血中濃度を測定しえた25例中,治療域を超えていたのは7例であった.明らかな神経学的後遺症を残した症例は3例あり,このうち2例は著明な脳萎縮をきたし重度の脳後遺症を残した.テオフィリンは緊急気管内挿管の必要性すなわち治療抵抗性の痙攣発症と統計学的に有意な関連をみとめた.また2003年11月から2004年10月に痙攣を主訴に来院した479例を対象として,テオフィリンの痙攣重積発症に及ぼす影響に関する統計学的検討を行った.その結果,テオフィリンは痙攣重積の発症と有意な関連をみとめた.今回の検討結果より,痙攣のリスクを有する児にはテオフィリンの投与を行うべきではなく,2歳未満の児,痙攣や神経学的異常の既往を有する児,6歳未満で痙攣の既往がない場合でも発熱をみとめる児の喘息治療においてはテオフィリン以外の薬物療法を行うことが望ましいと考えられた.
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【原著】
■題名
母乳熱量簡易測定の信頼性と早産児栄養管理における有効性
■著者
昭和大学医学部小児科栄養発達診療部1),森永乳業栄養科学研究所2) 水野 克己1) 西田 嘉子1) 櫻井 基一郎1) 三浦 文宏1) 井上 真理1) 水谷 佳世1) 竹内 敏雄1) 板橋 家頭夫1) 小澤 和裕2) 高瀬 光徳2)
■キーワード
クリマトクリット, 母乳熱量, 強化母乳, 早産児, 子宮外発育遅延
■要旨
早産児に母乳を与える際,母乳の熱量評価は便宜上一定の値(65 kcal/100 mL)を用いて計算している.早産児の栄養評価を行う上で実際に与えられている母乳の熱量を知ることは重要であると考え,一定の値を用いることが適切であるかを検討した.まず母乳中の脂質が占める割合(クリマトクリット値)と母乳の熱量との相関関係を求めた.この結果,熱量(kcal/100 mL)=38.9+5.2×クリマトクリット値(%),r=0.95と正の相関を示し,ベッドサイドでも行える熱量測定方法と判断した.次に,当院NICUにて母乳栄養を継続できている4名の母親の母乳を8日間連続で,クリマトクリット値ならびに熱量を測定した.この結果,平均の母乳熱量はそれぞれ68.8,72.8,74,75 kcal/100 mLで,測定した4名の母親における期間中の最低熱量は58 kcal/100 mL,最高熱量は83 kcal/100 mLであった.この4名の中でも,最小と最大では10%近い差が認められた.また,同一の母親においても,日々の熱量は20%前後変化した.母乳の熱量をルーチンに測定することは,児が実際に摂取した熱量を計算できるとともに,母親にどれくらいの熱量が児に与えられているのかを伝えることができる.熱量の高い母乳を児に与えるよう母親を支援することは,乳汁産生増加が期待でき,結果として母乳栄養の継続が可能となると考えられる.
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【原著】
■題名
長期人工呼吸管理が必要な超重症児に関するアンケート調査
■著者
淀川キリスト教病院小児科 鍋谷 まこと 和田 浩 玉井 普 船戸 正久
■キーワード
長期人工呼吸管理, 在宅医療, 地域支援, 新生児医療, 超重症児
■要旨
今回,長期の人工呼吸管理を必要とする超重症児の地域での実態と対応を調査する目的で,大阪府の新生児医療施設へアンケート調査を実施した.その結果入院中の長期呼吸管理児は44例であった.そのうちの2/3は新生児期からの疾患が関与していた.また在宅中の長期呼吸管理児は11例であった.在宅医療の推進には,家族の精神的支援と経済的支援体制の整備や,レスパイト施設,訪問看護など社会的体制の整備が強く望まれていた.NICUでは日常介護への早期参加促進,カンガルーケア・タッチングケアの推進など親子の愛着形成に関する取り組みが積極的にされていた.今後医療施設,療育施設,そして在宅医療に関わる行政,福祉,教育などが役割分担と協力連携し,こうした児のQOLを支える支援体制の早急な構築が重要であると考えられた.
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【原著】
■題名
「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2004」の臨床上の有用性と問題点に関する検討
■著者
千葉大学大学院医学研究院小児病態学1),君津中央病院小児科2),千葉市立海浜病院小児科3),
千葉県こども病院感染症科4),千葉市立青葉病院小児科5) 深沢 千絵1) 石和田 稔彦1) 永井 文栄2) 荻田 純子3) 数川 久恵3) 阿部 克昭4) 星野 直4) 会沢 治朗5) 石川 信泰5) 黒崎 知道3) 河野 陽一1)
■キーワード
ガイドライン, 小児, 肺炎
■要旨
「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2004」に示されている項目について,2005年1月から5月までに千葉県内の5病院で入院加療を受けた小児市中肺炎症例110例を対象に,後方視的に検討した.初期抗菌薬の選択は,ガイドラインに示された年齢ごとの抗菌薬選択指針とほぼ一致する治療が行われ,約90%が治療に成功しており,ガイドラインは有用であると思われた.改善すべき点としては,1)本ガイドラインの重症度判定基準では身体所見や胸部X線所見の項目で軽症と判定されるものの,検査結果の項目によって中等症や重症と判定される症例が多く,身体所見と検査所見との間に解離が見られたため,検査所見がなくとも入院の適否を決定できるような判定基準,2)初期抗菌薬無効例には,乳幼児のβ-lactamase-nonproducing ABPC-resistant Haemophilus influenzae(BLNAR)による肺炎があり,このような症例に対する治療法の提示,3)また無効例の中には基礎疾患をもつ年長児の間質性肺炎も含まれており,抗菌薬不応肺炎に対する補助療法,4)細菌性肺炎と非定型肺炎との鑑別法などがあげられ,これらの項目がガイドラインに記載されていると有用であると考えられた.
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【原著】
■題名
胎児診断されたGalen静脈瘤に対する段階的血管内治療を施行した1例
■著者
琉球大学医学部病態解析医科学講座育成医学分野1),琉球大学医学部附属病院周産母子センター2) 長崎 拓1) 大城 達男2) 吉田 朝秀2) 安里 義秀2) 太田 孝男1)
■キーワード
Galen静脈瘤, 血管内治療, 新生児
■要旨
脳動静脈奇形の一つであるGalen静脈瘤は極めてまれな疾患であり,治療法はまだ完全には確立されていない.新生児早期に心不全症状を認めるものは重症であり,最新の治療技術を駆使しても不幸な転帰をとることが多い.今回私達は,妊娠36週に胎児Galen静脈瘤と診断され,出生直後から内科的治療が困難な非心原性心不全に対し,生後早期の血管内塞栓術により循環動態の改善を認めた症例を経験した.症例は在胎37週0日,母体辺縁前置胎盤にて予定帝王切開で出生.入院時より低血圧を認め,進行性であったため生後3時間で昇圧剤開始.開始後一時血圧の上昇がみられたが,再度低下し利尿も不良となったため,生後6時間で緊急血管内塞栓術を施行した.治療中から徐々に血圧上昇を認め,利尿も良好となり生後2日目に昇圧剤を中止し,生後14日目に退院となった.以降外来フォローの中で,水頭症の増悪がみられたため,生後6カ月,6カ月半に残存する流入動脈への血管内治療を追加した.頸定4カ月・寝返り7カ月・はいはい9カ月,現在生後10カ月であり発達はやや遅れているものの経過は比較的良好である.新生児期より心不全症状を呈する重症例は予後不良例が多いが,適切な血管内治療により良好な転帰が得られる可能性が示唆された.
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【原著】
■題名
膜型人工肺により救命し得たplastic bronchitisの1例
■著者
大垣市民病院第2小児科 山本 ひかる 大城 誠 竹本 康二 林 誠司 西原 栄起 倉石 建治 田内 宣生
■キーワード
plastic bronchitis, bronchial cast, 気管支喘息, 膜型人工肺
■要旨
ECMO導入により救命し得た気管支喘息発作によるplastic bronchitisの1例を経験した.症例は3歳女児で,初発の気管支喘息発作のため入院した.酸素投与,アミノフィリン,イソプロテレノール持続吸入療法を行い,一時改善傾向を認めたが,入院9時間後,突然に呼吸状態が悪化し,人工呼吸管理となった.換気設定は最大吸気圧40 cmH2Oを必要とし,酸素飽和度は著しく不安定であり,更なる肺の圧損傷を避けるためECMOを導入した.導入後,呼吸状態の改善が得られ,気管支ファイバー検査を施行したところ,左主気管支を閉塞する樹枝状の塞栓物を認めた.塞栓物はフィブリン様物質が好酸球,好中球を取り囲んだもので,plastic bronchitisと診断した.3回目の塞栓物の除去後,状態は改善し,ECMOから離脱した.その後の経過は順調で,神経学的所見に異常はなく,退院前に行った脳波,頭部MRI検査でも異常所見を認めなかった.plastic bronchitisは急性期の呼吸管理に難渋することのある疾患だが,重症例では呼吸循環動態の改善,気胸などの合併症の回避,原疾患が改善するまでのlung restを目的としてECMO導入も考慮すべきであると考えられた.
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【短報】
■題名
肥厚性幽門狭窄症に対するニトログリセリン経皮投与を併用した硫酸アトロピン静注療法
■著者
井原市民病院小児科1),守口敬仁会病院消化器科2),和歌山労災病院小児科3),川崎医科大学第1小児科4) 名木田 章1) 小坂 康子1) 坂田 理香1) 飴本 完二2) 奥田 真珠美3) 荻田 聡子4) 小林 嘉一郎4) 片岡 直樹4)
■キーワード
肥厚性幽門狭窄症, 硫酸アトロピン静注, ニトログリセリン経皮投与
■要旨
硫酸アトロピン(硫アト)単独静注(0.1 mg/kg/日)した肥厚性幽門狭窄症7例(硫アト群)とこれにニトログリセリン(NG)の経皮投与(5 mg/日)を併用した同症8例(NG群)における治療成績について検討した.両群とも嘔吐消失後の硫アト経口投与(0.2 mg/kg/日)を2週間で中止した.硫アトの経口投与変更後1日以降にNG投与を中止した.外科治療を要した患児は硫アト群の1例だけであった.治療開始後平均嘔吐持続期間はNG群で有意に短かった.今回の併用療法は同症に有効と考える.
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【小児医療】
■題名
小児救急医療体制における緊急搬送システムの重要性について
■著者
国立成育医療センター手術集中治療部1),同 総合診療部救急診療科2) 小原 崇一郎1) 清水 直樹1) 砂川 玄志郎1) 佐々木 隆司2) 上村 克徳2) 本間 靖啓2) 中川 聡1) 鈴木 康之1) 阪井 裕一2) 宮坂 勝之1)
■キーワード
搬送, 小児救急医療, 小児集中治療, Pediatric Advanced Life Support(PALS), 救命の連鎖
■要旨
小児救急医療体制に必要なことは,小児の「救命の連鎖」の確立である.トリアージと的確な初期治療の後,危急的小児重症患者は小児集中治療施設へ搬送される必要があるが,重症患者の搬送は容易なことではない.小児救急医療体制のモデルを示すことの一環として,国立成育医療センター手術集中治療部と総合診療部救急診療科は,2003年6月から小児重症患者緊急搬送システムの活動を開始した.
今回,当院搬送システムの概要をまとめたうえで,(1)搬送中の有害事象に対する当院搬送システムの効果,(2)当院搬送システムの2年間の実績,について検討した.当院搬送システムが関与した搬送群における有害事象の発生率は,システム化されていない搬送群と比較して低値であり(9% vs. 27%;Odds ratio=3.9),重症例ほどその傾向は顕著であった(12% vs. 39%;Odds ratio=4.8).また,搬送実績において,当院搬送システムが関与した搬送転院症例の死亡率は,予測死亡率と比較して低値であった(9.3% vs. 12.0%).
今回の結果から,搬送システムの存在が小児重症患者の予後の改善に有効であるということが示された.的確な初期治療・小児集中治療施設の存在と相俟って,メディカル・コントロールを包含した搬送システムの存在は,小児重症患者の予後を改善する可能性があり,小児救急医療体制の包括的整備に必須であると考えられた.
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