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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:06.07.10)
第110巻 第6号/平成18年6月1日
Vol.110, No.6, June 2006
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総 説 |
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足立 壯一 733 |
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森川 昭廣 745 |
3. |
米国「予防接種の実施に関する諮問委員会」Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)について―わが国の予防接種プラン策定に新しいシステムの導入を―
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横田 俊平,他 756 |
原 著 |
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松本 歩美,他 762 |
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寺田 喜平,他 767 |
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木村 正人,他 773 |
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岡崎 健一,他 781 |
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小林 真之,他 785 |
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高橋 信也,他 789 |
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知念 安紹,他 794 |
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細井 岳 799 |
小児医療 |
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福原 信一,他 805 |
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江原 朗 810 |
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814 |
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828 |
小児医療改革・救急プロジェクト |
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小児科・産科医師確保が困難な地域における当面の対応について
―小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進―
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836 |
イーライリリー海外フェローシップ報告書 |
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友田 明美 852 |
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小児科医の到達目標―小児科専門医の教育目標―(平成18年4月1日改訂)
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860 |
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893 |
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894 |
【原著】
■題名
RSウイルス気道感染症の入院治療における抗菌薬の必要性に関する検討
■著者
公立相馬総合病院小児科1),福島県立医科大学医学部小児科2) 松本 歩美1)2) 細矢 光亮2) 杉山 誠治1) 川崎 幸彦2) 佐藤 敬1) 片寄 雅彦1) 鈴木 仁2)
■キーワード
迅速診断, 抗菌薬, ウイルス感染症
■要旨
RSウイルス感染症の入院治療における抗菌薬投与の必要性について検討した.2003年3月から2004年3月の間に,迅速抗原診断によりRSウイルス感染症と診断し,公立相馬病院小児科で入院加療した4カ月以上3歳未満の小児のうち,基礎疾患を有する例,酸素投与を要した強い呼吸障害例,入院時検査にて高度の炎症所見を認めた例を除いた55例を対象とした.抗菌薬使用群および非使用群について,有熱期間,入院期間,および入院治療費を比較した.その結果,RSウイルス感染症例全体で見た場合,有熱期間,治療費には有意差は見られなかったが,抗菌薬使用群に比較して,非使用群において入院期間が0.8日間延長していた.気管支炎,細気管支炎,肺炎の病態別に比較した場合は,いずれの項目においても使用群と非使用群で差は見られなかった.上咽頭培養における有意菌分離の有無で比較すると,分離なしでは差が見られないのに対し,分離ありでは使用群に比較して非使用群において有熱期間と入院期間がともに約1日間延長していた.しかし,この場合においても,抗菌薬を投与しないことが,患者に重大な不利益を与えることはなかった.したがって,基礎疾患のない小児におけるRSウイルス気道感染症においては,基本的には抗菌薬投与は不要であると考えられた.
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【原著】
■題名
大学入学時における既往歴および接種歴調査と抗体検査の比較
■著者
川崎医科大学小児科第1講座 寺田 喜平 小坂 康子 新妻 隆広 荻田 聡子 片岡 直樹
■キーワード
既往歴, 接種歴, 抗体, vaccine failure, 麻疹, 風疹
■要旨
最近,大学で麻疹や風疹の流行を認める.医療系大学では院内感染対策のために抗体検査と接種勧奨を実施している.一般大学では抗体測定は困難であるため,大学入学時の既往歴および接種歴のアンケート調査が適当と思われる.今回,そのアンケート調査が正確に免疫状態を反映しているか抗体と比較検討した.大学入学時の学生360名を対象にし,アンケート調査と抗体測定を実施した.有効対象数は麻疹333名(92.5%),風疹332名(92.2%),それぞれの接種率は84.7%,63.3%であった.アンケート調査による麻疹,風疹の非感受性者率はそれぞれ92.5%,81.9%,抗体陽性率は92.5%,91.6%であった.アンケート調査の感度,特異度は抗体と比較し,それぞれ麻疹で93.2%,20.0%,風疹で96.0%,32.4%であった.アンケートの非感受性者が抗体で陰性あるいは±(保留)となる不一致例は,麻疹では21名のすべてが,風疹では10/11名は接種歴があり,vaccine failureであった.1回接種のvaccine failure率は麻疹ワクチン7.4%,風疹ワクチン4.8%であった.抗体価を比較すると,麻疹および風疹の抗体価が接種者は自然感染者より有意に低かった.1回接種ではvaccine failureがあるため,アンケート調査による感受性者の発見は困難であった.今後2回接種になるとvaccine failureの可能性は減少し,入学時調査が正確となって有用と推測された.
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【原著】
■題名
Ceftriaxone投与に伴う小児の偽胆石症の臨床像
■著者
仙台赤十字病院小児科1),同 小児外科2) 木村 正人1) 中野 恭子1) 永野 千代子1) 遠藤 尚文2)
■キーワード
Ceftriaxone, 偽胆石, 胆嚢, カルシウム
■要旨
第3世代セフェム系抗生物質Ceftriaxone(CTRX)投与に伴う副作用の一つに偽胆石症がある.胆嚢内に胆石に酷似した沈澱物が形成される疾患で,通常胆嚢痛を呈さずに自然治癒することが多いが,その頻度や臨床像はよくわかっていない.我々は,平成16年度に5例の偽胆石症を経験した.うち2例は無症状であったが,3例は12〜19日間のCTRXの長期投与終了後2日から30日間という間隔をおいて激烈な腹痛と肝機能障害により発症し,強力な鎮痛剤投与と食事療法を余儀なくされた後,症状出現後14〜25日後までに偽胆石が消失した.
この経験を機に日本人小児におけるCTRX投与に伴う偽胆石症の発生頻度を明らかにするため,当院に感染症の加療目的で入院した小児27名に対してCTRXを投与して前方視的検討を行ったところ4名(14.8%)に偽胆石の形成を見た.偽胆石はCTRX投与後4〜9日以内に観察されたが直ちにCTRXを中止することにより全例無症状のまま消失した.CTRXの沈澱形成に関与する可能性のあるリスク要因を検討したが,投与前に偽胆石症を予測しうる有意な所見は見出されなかった.CTRX投与に伴う偽胆石症の発生頻度は比較的高く,投与に際しては定期的な腹部超音波検査により偽胆石の有無を検討しつつ治療を行う必要があると考えられた.
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【原著】
■題名
生後9カ月に発症したホロカルボキシラーゼ合成酵素異常によるマルチプルカルボキシラーゼ欠損症の男児例
■著者
埼玉県立小児医療センター総合診療科1),同 代謝内分泌科2),千葉県こども病院小児救急総合診療科3),
東北大学大学院医学系研究科小児医学講座遺伝病学分野4) 岡崎 健一1) 望月 弘2) 菊池 健二郎1) 春名 英典1) 関島 俊雄1) 会津 克哉2) 高柳 正樹3) 鈴木 洋一4) 鍵本 聖一1)
■キーワード
マルチプルカルボキシラーゼ欠損症, ホロカルボキシラーゼ合成酵素, 乳児期後期発症
■要旨
ホロカルボキシラーゼ合成酵素異常によるマルチプルカルボキシラーゼ欠損症の9カ月男児例を経験した.生後3カ月頃より難治性のアトピー性皮膚炎様皮疹がみられていたが,それ以外は健康であった.生後9カ月時に喘息性気管支炎に罹患後,意識障害,多呼吸が出現し,著明な代謝性アシドーシス,高乳酸血症を呈した.尿中有機酸分析により本症と診断され,ビオチンの投与により症状は著明に改善し,その後,後遺症なく経過している.本症例のホロカルボキシラーゼ合成酵素遺伝子変異はArg360Ser/780delGであったが,前者の残存酵素活性は22%と比較的高く,このため乳児期後期発症となったと推測された.治療に抵抗するアトピー性皮膚炎の乳児,および,乳児期後期であっても重症の代謝性アシドーシス患者においては,本疾患を念頭に鑑別診断を進める必要があると考えられた.
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【原著】
■題名
デキストロメトルファン過量投薬による薬剤性パーキンソニズムが疑われた3歳女児例
■著者
大阪府済生会中津病院小児科 小林 真之 大和 謙二 堀川 優子 三崎 貴子 亀崎 佐織 末廣 豊
■キーワード
デキストロメトルファン, 過量投薬, パーキンソニズム, セロトニン
■要旨
デキストロメトルファン過量投薬による薬剤性パーキンソニズムが疑われた3歳女児例を報告した.症状は入院後,頭部MRI撮影などを施行した数時間の間に消失し,以後再現することはなかった.我々の検索では本剤によるこれまでのパーキンソニズム誘発の報告は得られていない.
デキストロメトルファンはN-methyl-D-aspartate受容体拮抗作用と中枢神経系においてシナプス内に放出されたセロトニン再取り込み阻害の作用を有し,いずれか又は両者がパーキンソニズム誘発に関わった可能性が考えられた.文献的にはセロトニン再取り込みを比較的選択的に阻害するSSRIには錐体外路系の副作用が多く報告されており,その中にはパーキンソニズムの報告も多く見られる.このことからデキストロメトルファンの有するセロトニン再取り込み阻害の作用を介して本症例の症状が誘発された可能性が示唆された.
また,過量投薬の原因の一つとして特に小児科領域においては院外処方の問題が考えられ,日常診療の中で常に細心の注意を払う必要性を再認識させられた.
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【原著】
■題名
症候性低血糖を来たした完全母乳栄養児の1例
■著者
山形大学発達生体防御学講座小児医科学分野1),山形市立病院済生館小児科2) 高橋 信也1) 加藤 光広1) 若林 崇1) 佐々木 綾子1) 赤羽 和博1) 金井 雅代2) 秋場 伴晴2) 早坂 清1)
■キーワード
新生児, 低血糖, 脳障害, 母乳栄養
■要旨
新生児低血糖症は不当軽量児や母体糖尿病に合併することが知られているが,これらの低血糖の危険因子を伴わない正期産新生児で,完全母乳栄養管理下に低血糖による痙攣および脳障害を来たした1例を経験した.症例は,日齢3の男児,母は0妊0産であり,妊娠経過中に異常はなかった.在胎40週4日,遷延分娩のため,吸引分娩で出生した.出生体重3,106 g,Apgar scoreは1分,5分後ともに10点であった.出生後,特に異常なく,完全母乳栄養で管理されていたが,日齢3から痙攣が出現し,低血糖を認めた.頭部MRIでは,後頭部に限局した病変を認め,新生児低血糖症による脳障害と考えられた.完全母乳栄養管理は新生児期に低血糖を来たしやすいことが知られており,母乳栄養を安全に実施するためには周産期に異常を伴った児に加えて,明白な危険因子を伴わない児においても,充分な哺乳量が確保されるまでは低血糖に留意した観察が必要である.
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【原著】
■題名
幼少時慢性便秘を伴った多発性内分泌腫瘍2B型の2例
■著者
琉球大学医学部病態解析医科学講座育成医学分野 知念 安紹 太田 孝男
■キーワード
多発性内分泌腫瘍2B, 消化器症状, RET癌遺伝子, 甲状腺髄様癌
■要旨
多発性内分泌腫瘍(Multiple Endocrine Neoplasia;MEN)2Bは多発性粘膜神経腫と甲状腺髄様癌,副腎褐色細胞腫を合併し,Marfan様体型を呈する.今回我々の報告する幼少時に難治性便秘を伴ったMEN2Bの症例では2歳6カ月頃から腹痛や嘔吐,下痢が出現し,巨大結腸症と診断され内括約筋切開術を施行された後,腹部膨満は消失するものの下痢と便秘を繰り返していた.もう1例では2歳頃から慢性便秘のため1年6カ月緩下剤を内服続け以後徐々に改善している.2症例とも12歳時に診断されRET癌遺伝子のM918T変異と甲状腺髄様癌を認めた.
MEN2Bは甲状腺髄様癌が早期に発症することから早期診断が極めて重要であり,口唇腫脹などの外表奇形や幼少期の消化器症状の鑑別疾患として十分に考慮する必要がある.
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【原著】
■題名
開発途上国における小児急性期医療強化が死亡率の改善に及ぼす影響
■著者
独立行政法人国際協力機構タンザニア連合共和国小児急性期医療プロジェクト,
医療法人長原会村山小児科 細井 岳
■キーワード
国際援助, 途上国, 小児感染症, 急性期, HIV/AIDS
■要旨
タンザニア国の首都ダルエスサラーム市内にあるムヒンビリ病院小児科にて,我が国の国際協力機構の協力プロジェクトとして小児急性期治療プロジェクトを実施した.本プロジェクトは小児科検査室の設置運営を実現した母子保健プロジェクトに引き続き実施され,前プロジェクト同様に小児入院患者死亡率低下を目標に設定した.入院後死亡は急性期に多いという根拠に基づき,急性増悪期に医療資源を集中させる戦略を導入した.急性期治療ユニット(Acute Patient Care Unit:APCU)の設置により,APCUに入室した急性期重症患者の死亡率は低下(57.7%から45.7%に)し,さらに一般病棟での死亡率も改善(16.8%から13.2%に)した.APCU入院患者の死亡率の改善には,急性期重症患者を一カ所に集め,きめ細かな患者管理と迅速かつ適切な治療の導入が有効であった.病院ベースでの医療協力は,対費用効率の点などで課題が多いと指摘されているが,病院プロジェクトである本プロジェクトは必要最小限の機材と患者トリアージおよび急性期治療の概念の導入により,入院患者の死亡率の低下を達成することができた.日本の小児科医が得意とする領域での開発途上国への医療協力の実例として報告する.
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【小児医療】
■題名
時間外外来受診の判断基準となる情報のニーズに関するアンケート調査
■著者
独立行政法人岡山医療センター小児科 福原 信一 江口 尚彦 清水 順也 古城 真秀子 古山 輝久 金谷 誠久 白神 浩史 久保 俊英
■キーワード
小児救急, かかりつけ医, 時間外診療, 小児科専門医, 情報提供
■要旨
24時間小児救急患者を受け入れている地方都市の基幹病院において保護者が時間外外来を受診するための判断基準となる情報を望んでいるかをかかりつけ医との関わりを含めて検討した.
3カ月の調査期間に2,748人が時間外外来を受診し,この中で1,432人(52.1%)から回答が得られた.94.4%がかかりつけ医を持っていた.23.0%の保護者が時間外外来の受診に関して相談したことがあると回答し喘息などの基礎疾患を持った児の保護者で相談した率が高く,年齢別では乳児の保護者で相談した率が低かった.また,こどもの急病に関する情報提供の希望では69.2%が希望し,学童に比べ乳幼児の保護者で希望の率が高かった.以上から多くの保護者がこどもの急病に関して情報を求めているものの,現状では情報提供が追いついていないことがうかがわれた.
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【小児医療】
■題名
北海道における地域小児科医療センターと36協定
■著者
コアラメディカルリサーチ 江原 朗
■キーワード
労働基準法, 36協定, 地域小児科センター, 医療安全
■要旨
北海道内の地域小児科センター候補病院11施設について,時間外・休日労働に関する協定(36協定)の締結状況を調査した.地域小児科センター候補の11病院中8病院(72%)が医師の延長できる勤務時間を厚生労働省が提示した時間外労働の上限(年360時間)と定めていた.しかし,日本小児科学会・小児医療改革・救急プロジェクトチームが想定している週58時間の勤務体制を実施する場合でも年間936時間(18時間×52週)の時間外勤務が必要となる.したがって,今後,集約化した地域小児科センターにおいては,36協定の内容の再検討が必要となろう.
小規模な病院小児科により,日本の小児医療がまかなわれているため,少数の医師は他科の医師と比較にならない頻回の当直,休日勤務を強いられている.さらに,小児の時間外受診者数は増加の一途をたどっている.このため,限られた小児科医は受診者のニーズに対応できないばかりか,自らも疲弊の極みに達している.こうした状況は政治問題化し,平成18年4月14日の衆議院厚生労働委員会において,川崎二郎厚生労働大臣が,「長時間に及ぶ過重な労働については,診療の質を保つ観点から好ましくない」と答弁している.これに対し,日本小児科学会は,医療水準を維持しながら小児科医の労働衛生を確保するため,二次医療圏に1カ所ないしは数カ所の「地域小児科センター」を整備して,ここに小児科医を集約化することを提唱している1).
しかし,平成15年度第4半期から16年度第1四半期にかけて厚生労働省が行った全国596の医療機関への立ち入り調査では72.1%の施設が労働関連の法規を遵守していないことが指摘されている2).また,北海道内においても,立ち入りを行った26医療機関中15カ所(57.7%)において労働基準法違反があったと北海道新聞(平成16年12月14日)は報じている.「地域小児科センター」に小児科医が集約されることにより,勤務環境は改善するのか.あるいは,増加した小児科医の人件費を回収すべく,「地域小児科センター」に勤務する医師の勤務の負荷は強化されるのか.北海道内の地域小児科センター候補11病院について労働基準法36条第1条に基づく協定(時間外・休日労働に関する協定,通称36協定)の締結内容を調査することにした.
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