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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:05.06.01)

第110巻 第5号/平成18年5月1日
Vol.110, No.5, May 2006

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総  説
1.

軽度発達障害児への対応と小児科医の役割

小枝 達也  639
2.

腎発生におけるMAPキナーゼ

粟津 緑  647
3.

我が国における小児集中治療室を備えた小児三次救急医療施設の適正配置の検討

桜井 淑男,他  656
原  著
1.

RSウイルス感染症により入院した児のその後の喘鳴性疾患罹患に関する検討

高橋 豊,他  663
2.

沖縄におけるRSウイルスの流行状況と臨床像

佐々木 尚美,他  668
3.

テオフィリン投与中の熱性けいれん重積後に脳葉性浮腫を来し後遺症を残した8症例

川崎 有希,他  674
4.

複数菌の敗血症を反復した代理Münchausen症候群の1例

井口 晶裕,他  681
5.

3D-CTにより確定診断し根治術を行いえた重複大動脈弓,気管軟化症の新生児例

小高 淳,他  687
論壇

「病院小児科医の将来需要について」に対する“患者の安全”という視点からの考察

西崎 彰,他  691
小児医療
1.

小児救急外来受診における患者家族のニーズ

渡部 誠一,他  696
2.

良質な医療の提供と効率化を目指した病院小児科改革

吉田 哲也,他  703
3.

小児科クリニカルクラークシップにおけるクリニック実習・プライマリケア実習の教育効果

赤木 禎治,他  708

地方会抄録(栃木,山形,香川,福岡,鹿児島)

  713

少子化対策次世代育成フォーラム

  725
日本小児科学会専門医制度充実プロジェクト

 JPS専門医オンライン・セミナーのお知らせ

  729

雑報

  730

日本医学会だより No.35

  731


【原著】
■題名
RSウイルス感染症により入院した児のその後の喘鳴性疾患罹患に関する検討
■著者
KKR札幌医療センター小児科
高橋 豊  羽田 美保  川原 朋乃  田端 祐一  米川 元晴  鹿野 高明

■キーワード
respiratory syncytial virus, 喘鳴性疾患, 危険因子
■要旨
 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症にて入院加療した児のその後の喘鳴性疾患罹患についてアンケート調査を行い,喘鳴反復の危険因子について検討した.対象は2000年1月1日から2001年12月31日の2年間に当科にて入院加療したRSV感染症患者198例である.アンケート調査は2004年10月に行った.アンケート調査の回答が得られた109例中,退院後喘鳴を呈したのは68例(64.2%)で,1回が12例(11.0%),2回が9例(8.2%),3回以上が35%(32.1%)であった.この1年間で喘息ないしは喘息性気管支炎の診断で治療を受けたのは32例(29.4%)であった.この,最近1年間で治療を受けた群と有意に相関があったのは喘鳴の既往・現症,父のアレルギー性疾患の家族歴,家庭内喫煙者の存在,入院時喘鳴の存在,発熱(>38℃)が無いこと,湿疹の存在,IgE-RAST陽性,アミノフィリン投与であった.


【原著】
■題名
沖縄におけるRSウイルスの流行状況と臨床像
■著者
沖縄県立北部病院小児科
佐々木 尚美  又吉 慶  喜瀬 智郎  島袋 恵  伊佐 真之

■キーワード
RSウイルス, 呼吸器感染症, 乳幼児, 呼吸不全, 亜熱帯地域
■要旨
 沖縄におけるRSウイルス(以下RSV)感染の流行状況と臨床像を明らかにする目的で,2002年4月1日から2004年12月31日までの2年9カ月間にRSV抗原検出迅速検査キットにてRSV感染と診断され入院した3歳未満児(336例)の発生状況と月齢別の臨床像,同期間に呼吸器感染症にて入院した全1歳未満児(757例)におけるRSV感染の頻度,およびRSV抗原陽性乳児(206例)とRSV抗原陰性乳児(230例)の臨床像の違いを検討した.その結果,1)沖縄ではRSV感染は必ずしも冬場に流行しないこと 2)乳児は呼吸不全に至りやすく,生後6カ月以上の児では約80%の児が高熱(38.5℃以上)となり発熱期間が長く(平均3日),中耳炎を合併しやすいこと 3)流行時には呼吸器感染症で入院する乳児の60%以上がRSV感染を契機としており,RSV抗原陽性乳児が呼吸不全に至る割合は陰性乳児に比べて高いことが明らかとなった.沖縄においてもRSVは乳児を呼吸不全にいたらす重要な呼吸器感染症の病原ウイルスであり,流行状況は全国的な傾向とは異なる.沖縄県内のRSV流行状況を把握するためのサーベイランスとそれに基づいた感染予防対策が必要である.


【原著】
■題名
テオフィリン投与中の熱性けいれん重積後に脳葉性浮腫を来し後遺症を残した8症例
■著者
大阪市立総合医療センター小児内科1),同 小児救急科2),同 小児神経内科3)
川崎 有希1)  塩見 正司2)  外川 正生1)  澤田 好伴1)  岡崎 伸3)  川脇 壽3)  富和 清隆3)  藤田 敬之助1)

■キーワード
テオフィリン, 脳葉性浮腫, 熱性けいれん重積, 後遺症
■要旨
 我々は熱性けいれん重積症(FCS)で神経学的後遺症を残す症例では,頭部CTやMRIで脳葉単位に一致した浮腫,すなわち脳葉性浮腫=Lobar Edema(LE)が特徴であると考えている.当院で1997年1月〜2004年3月にテオフィリン服薬中にFCSを来し,画像上LEを生じ後遺症を残した8症例について検討した.年齢は1〜4歳,男児5例女児3例,投与経路は経口投与7例,静脈内投与1例,初回血中濃度は測定した7例で3.5〜15.9 μg/lと全例治療域であった.けいれんは全例で全般性間代けいれん,38℃以上の発熱を伴った.持続時間の明らかな7例では全例30分以上,全例で頭部CTにて3〜17病日にLEを生じ,精神発達遅滞や運動麻痺の後遺症を残した.当院における有熱時けいれん重積後遺症例20例の検討より,テオフィリン非投与例12例では2歳未満に多く,突発性発疹などの感染症との関連が強かったが,テオフィリン投与例8例では2歳以上が多く,発熱原因は特定できなかった呼吸器感染症が多く,FCS後遺症とテオフィリンの関連が示唆された.1995年にテオフィリン徐放性ドライシロップ製剤が発売され,元来熱性けいれんを起こしやすい乳幼児への投与例が増え,テオフィリン関連FCS後遺症例が増加していると考えられる.本報告のように単一施設の短期間における検討でも重篤な神経学的後遺症を多数残している薬剤はほかに見当たらず,早急に広範な調査,対策が必要である.


【原著】
■題名
複数菌の敗血症を反復した代理Münchausen症候群の1例
■著者
北見赤十字病院小児科1),
北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻生殖・発達医学講座小児科学分野2)
井口 晶裕1)  石川 信義1)  菊田 英明2)  小林 邦彦2)

■キーワード
Münchausen syndrome by proxy(MSBP), 敗血症, 小児虐待, 家族機能の低下, 育児支援
■要旨
 敗血症を反復した代理Münchausen症候群(MSBP)症例を報告した.患児は発症時7カ月の女児.下痢と発熱を主訴に入院した.入院後から複数菌による敗血症を反復した.腸管や免疫能に異常なく,同様の経過で死亡した姉の存在,後に判明した母親のMünchausen症候群の既往などからMSBPと診断した.母親による点滴回路の意図的汚染と考え母児分離した.母児分離後,患児の状態は著しく改善した.MSBPは医療機関への異常な依存であるが,その原因の一端に母親自身の不幸な成長過程や家庭環境が関与していると推察される.社会全体が育児をもっと高く評価し,家族機能を補完するような支援をしていくことが急務である.


【原著】
■題名
3D-CTにより確定診断し根治術を行いえた重複大動脈弓,気管軟化症の新生児例
■著者
自治医科大学小児科学教室1),松戸市立病院新生児科2)
小高 淳1)  金沢 鏡子1)  佐藤 優子1)  矢田 ゆかり1)  高橋 尚人1)  本間 洋子1)  白石 裕比湖1)  長谷川 久弥2)  桃井 真里子1)

■キーワード
重複大動脈弓, 血管輪, 3D-CT, 気管支軟化症
■要旨
 今回我々は重度の呼吸障害を持つ新生児例に迅速に施行でき,3次元構築が可能なX線3D-CTを施行した.その結果,重複大動脈弓による血管輪とこれに伴う気管狭窄症と診断し,心臓カテーテル検査を施行せずに根治術に至った.術後45日で人工呼吸器から離脱することができた.従来血管輪の診断確定のためには心臓カテーテル検査が行われてきた.最近,侵襲の低いMRIで診断した報告が増えているが,重度の呼吸障害を持つ例では検査時間を要するMRIは危険性が大きい.重度の呼吸障害を伴った血管輪の病型診断および手術方針の決定において3D-CTは非常に有用な検査である.


【小児医療】
■題名
小児救急外来受診における患者家族のニーズ
■著者
土浦協同病院小児科1),東京女子医科大学循環器小児科2),東京慈恵会医科大学小児科3),
北九州市立八幡病院小児科4),NTT東日本札幌病院小児科5),新潟大学医学部小児科6),
大阪市立住吉市民病院小児科7),国立療養所香川小児病院小児科8)
渡部 誠一1)  中澤 誠2)  衞藤 義勝3)  市川 光太郎4)  森 俊彦5)  田中 篤6)  舟本 仁一7)  古川 正強8)

■キーワード
小児救急, 受診理由, 親の不安, 親の就労, かかりつけ医
■要旨
 目的:小児救急外来受診における患者家族のニーズを明らかにする.方法:2004年1月19〜25日の1週間に全国6地区,48医療機関でアンケート調査を施行した.問診票と併用する形式で診察前に記入を依頼した.4,949名が回答した.結果:年齢は3歳未満41%,7歳未満73%.曜日別患者数は平日7〜9%,土曜日23%,日曜日35%.受診時間帯別患者数は深夜帯(0〜7時)12%,日勤帯(8〜16時)51%,準夜帯(17〜23時)37%.来院にかかる時間は30分以内がほとんど(87%).交通手段は自家用車が多い(84%).受診理由は急病に対する親の不安・早期治療希望89%,非改善・小児科医の診察希望37%,親の仕事27%であった.症状は頻度順に発熱,嘔吐,インフルエンザが心配(11%),咳嗽・喘鳴,腹痛等であった.救急医療施設の情報入手法はかかりつけ医28%,知人・親戚23%,自治体情報誌21%であった.今後の情報入手手段としてインターネットや携帯電話を利用したい66%,電話相談に期待する77%であった.受診不要と判定された者は28%であった.結論:小児救急外来受診は乳幼児が多く,週末の需要が高い.主たる受診理由は親の不安・早期治療希望で,他には小児科医の診察希望と親の仕事がある.半数がかかりつけ医や知人から小児救急医療機関についての情報を得ている.今後の新しい情報手段としてインターネットや電話相談が期待されている.


【小児医療】
■題名
良質な医療の提供と効率化を目指した病院小児科改革
■著者
徳島赤十字病院小児科
吉田 哲也  中津 忠則  宮崎 達志  東田 好広  松浦 里  高岡 正明  杉本 真弓

■キーワード
病院小児科, 過剰医療, 労働時間, 小児救急医療
■要旨
 当院小児科は,2002年4月より,それまで4名だった小児科医を7名まで増員し,2交代制による小児科24時間体制で,主に小児救急医療に対応できるようにした.収益増を目標にはせず,医療の質の改善と効率化を目指し,過剰医療の削減と業務内容の特化を図った.その結果,救急受診患者数と入院患者数は大幅に増加したが,診療収入の増加は僅かだった.しかし,当院小児科は,診療内容の特化や過剰医療の削減による業務の効率化により,7名の小児科医で,時間的に過剰労働にならずに小児科24時間体制を維持している.当院はすでに急性期病院として運営されており,他科に比し小児科の診療単価があまりにも低いため,小児科は診療収入を増やす努力をしても,病院全体への収入の面での貢献は僅かでしかない.良質な医療を効率よく提供できるように努力することの方が,病院の質の向上と負担の軽減の面から,より病院に貢献できるのではないかと考えている.


【小児医療】
■題名
小児科クリニカルクラークシップにおけるクリニック実習・プライマリケア実習の教育効果
■著者
久留米大学医学部小児科
赤木 禎治  吉田 一郎  藤野 浩  石井 正浩  松石 豊次郎

■キーワード
クリニカルクラークシップ, プライマリケア, 卒前教育, 外来小児科学
■要旨
 久留米大学医学部5年生に対する小児科クリニカルクラークシップの一環として,大学近郊の開業小児科4施設の協力を得て外来小児科クリニック実習を施行した.2〜3週間の小児科実習期間中に,1名ずつの学生が1または2つの小児科クリニックを訪れ,一般診療,乳幼児健診,予防接種を中心のするプライマリケアを体験した.実習後実習内容の感想を中心とした無記名アンケートを提出させた.自由記載に基づく感想を分類すると,具体的な回答としては,医療のあたたかさに触れることができた,検査に頼らない診療の重要性がわかった,大学では診ることのできない疾患を経験した,予防接種の重要性について再認識した,乳幼児健診でのチェックポイントが理解できた,などクリニック実習の主目的としていた内容について良好な評価を得ていた.小児科の卒前教育には三次施設である大学病院の実習のみでは不十分であり,小児医療の中で大きなウエイトを占めるプライマリケアの持つ魅力を伝えることができない.このようなクリニック実習は小児科クリニカルクラークシップの中で重要な位置を占めると思われる.

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