gakkaizashi

日本小児科学会雑誌 目次

(登録:06.05.12)

第110巻 第4号/平成18年4月1日
Vol.110, No.4, April 2006

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総  説
1.

小児感染症と国際保健,国際医療協力

中野 貴司  503
2.

び漫性絨毛膜羊膜ヘモジデローシスを伴う新しい新生児慢性肺疾患の1病型

大山 牧子  511
原  著
1.

ムコ多糖症I型に対する本邦初の酵素補充療法

小林 博司,他  521
2.

上気道炎に対する抗菌薬の有効性の検討

大宜見 力,他  526
3.

川崎病におけるガンマグロブリン療法不応例の検討

五十嵐 浩,他  531
4.

NICUにおける2,001 g以上の低出生体重児を対象としたクリニカルパス導入の効果

光藤 伸人,他  537
5.

両側の腎臓に石灰化を来した幼児期発症のサルコイドーシスの1例

熊谷 直憲,他  544
6.

ニューキノロン低感受性腸チフスの1幼児例

今村 勝,他  549
7.

激烈な経過を辿った一過性異常骨髄増殖症を合併したDown症候群の2例

高 永煥,他  553
8.

1型糖尿病の経過中に微少変化型ネフローゼ症候群を発症した1例

山本 康人,他  557

分科会抄録(日本小児内分泌学会総会)

  561

地方会抄録(北日本,高知,青森,佐賀,長崎,北陸,富山)

  591

指しゃぶりについての考え方

前川 喜平  611

日本小児科学会理事会議事要録

  614

次期代議員・理事名簿

  619

財団設立準備募金について

  626

JPS専門医オンライン・セミナーのお知らせ

  627

小児科学会会員用ホームページの認証方法

  628

お知らせ

  629

雑報

  636

中毒110番 月別受信件数

  637

医薬品・医療機器等安全性情報 NO.222

  638


【原著】
■題名
ムコ多糖症I型に対する本邦初の酵素補充療法
■著者
東京慈恵会医科大学小児科1),同 DNA医学研究所遺伝子治療研究部2)
小林 博司1)2)  有賀 賢典1)  田嶼 朝子1)2)  櫻井 謙1)2)  藤原 優子1)  寺野 和宏1)  宮田 市郎1)2)  井田 博幸1)2)  大橋 十也1)2)  衞藤 義勝1)2)

■キーワード
Hurler-Scheie syndrome, ムコ多糖症, 酵素補充療法, α-L-iduronidase
■要旨
 ムコ多糖症I型(Mucopolysaccharidosis type I,MPS I)に対する組換えヒト型α-L-iduronidase(laronidase)による酵素補充療法はその安全性,有効性が確認され,欧米をはじめとする,世界27カ国において既に広く行われているが,我が国ではまだ行われていない.今回我々は,日本人症例においても同様の効果及び安全性を確認する目的で,東京慈恵会医科大学学内倫理委員会及びご本人,ご両親の文書による承認を得た後に,日本人ムコ多糖症I型の女性に対しlaronidaseによる酵素補充療法を行った.投与方法は週1回0.58 mg/kg/day点滴静注を2年4カ月の経過で計約120回施行し,尿中ウロン酸排泄量の低下,関節可動域の改善,肝容積の縮小,心弁膜症の進行停止,頸部や体幹の安定性の改善が見られ,アレルギー反応はほとんどみられなかった.以上より日本人症例においてもlaronidaseは欧米の症例と同程度の効果,安全性が期待できると考えられた.


【原著】
■題名
上気道炎に対する抗菌薬の有効性の検討
■著者
沖縄県立北部病院小児科1),同 放射線科2),同 耳鼻咽喉科3)
大宜見 力  喜瀬 智郎1)  佐々木 尚美1)  島袋 恵1)  伊佐 真之1)  玉城 聡2)  中村 匡3)

■キーワード
上気道炎, 抗菌薬(抗生物質), 経口セフェム剤, 副作用, 無効
■要旨
 目的:上気道炎に対する抗菌薬の有効性の検討.
 対象および方法:沖縄県立北部病院小児科外来を2003年7月7日から12月19日までに受診し上気道炎と診断した生後6カ月から3歳までの314例をランダムに振り分け,その内1週間以内に抗菌薬を内服している例や同意が得られない例を除いた計223例を対象とした.上気道炎の定義は,発熱38℃以上を呈してから72時間以内に当院外来を受診した上気道症状か咽頭所見を伴う者とし,除外項目は,全身状態不良な者,溶連菌感染症疑いや中耳炎,激しい下痢を有する者,川崎病や肺炎などあきらかな他疾患を疑わせる者とした.
 上記の定義に従い,振り分けられた抗菌薬使用群99例(男児58例,女児41例)と非使用群124例(男児60例,女児64例)を対象とし,2群間の年齢,体重,転帰,副作用等について前方視的に検討した.抗菌薬は本邦における代表的な第3世代経口セフェム製剤の一つであるセフジニル(CFDN)を使用した.
 結果:受診時の2群間における年齢,体重,既往歴,有熱期間,最高体温等に有意差はなかった.入院率,合併症率,有熱期間に有意差を認めなかったが,抗菌薬使用群では副作用と思われる下痢・嘔吐の出現率が有意に高かった.
 結論:上気道炎に対して抗菌薬の有効性は認められず副作用の出現率が有意に高かった.


【原著】
■題名
川崎病におけるガンマグロブリン療法不応例の検討
■著者
小山市民病院小児科1),自治医科大学小児科2),獨協医科大学小児科3),
済生会宇都宮病院小児科4),独立行政法人国立病院機構栃木病院小児科5),
大田原赤十字病院小児科6),芳賀赤十字病院小児科7),
足利赤十字病院小児科8),自治医科大学公衆衛生学9)
五十嵐 浩1)  白石 裕比湖2)  杉田 憲一3)  平尾 準一3)  井原 正博4)  石井 徹5)  小林 靖明6)  三浦 琢磨7)  菊池 豊7)  島村 泰史8)  有阪 治3)  江口 光興3)  上原 里程9)  中村 好一9)  桃井 真里子2)

■キーワード
川崎病, ガンマグロブリン, 不応例, 冠動脈障害
■要旨
 目的:栃木県内の川崎病急性期治療の現状と不応例の実態を把握する.
 方法:栃木県内の主要な施設での診療録による後方視研究を実施した.初回ガンマグロブリン療法で解熱しなかった症例を不応例と定義した.不応例に関しては調査表を用いて,症状,有熱期間,ガンマグロブリン投与前後の血液検査所見,心エコー図検査結果,薬物使用状況を調査した.
 結果:栃木県内で2001年,2002年の2年間に300名の川崎病の新患を確認した.急性期の治療では,ガンマグロブリン1 g/kgを1日間,あるいは,2 g/kgを1ないし2日間で投与する短期超大量療法が83%を占めた.不応例は44例(15%)で,発病後1カ月以内の急性期の冠動脈障害が14例(4.7%),1カ月以降も後遺症として冠動脈障害が残存したのが10例(3.3%)であった.不応例44例のうち,発症7日以内にガンマグロブリン療法を開始しても,解熱までに総量2 g/kgを超える投与を必要とした症例は22例で,この22例中9例に冠動脈障害を生じた(一過性3例,後遺症6例).
 結論:短期超大量療法は83%に実施され,初回ガンマグロブリン治療で解熱しなかった不応例は15%で,発症1カ月以降も冠動脈病変を残したのは3.3%であった.


【原著】
■題名
NICUにおける2,001 g以上の低出生体重児を対象としたクリニカルパス導入の効果
■著者
京都第一赤十字病院小児科総合周産期母子医療センターNICU
光藤 伸人  木原 美奈子  木下 大介  吉田 朋子  小谷 牧  中内 昭平  中川 由美

■キーワード
クリニカルパス, 低出生体重児, NICU, アウトカム, バリアンス分析
■要旨
 低出生体重児の一部を対象としたクリニカルパス(以下,パス)を作成し50例に使用した.パスの対象は,1.在胎34週以上,2.出生体重2,001 g〜2,499 g,3.酸素投与不要および40%未満の酸素投与を受けている児とした.また,脱落となるバリアンスとして,1.抗生物質の変更または追加を要するCRPの上昇が見られた場合,2.テオフィリン製剤の投与を要する無呼吸を来した場合,3.挿管,胸腔穿刺を要するような呼吸状態の悪化を来した場合,4.水分率の制限を要するか,内服を要するような先天性心疾患が発見された場合,5.交換輸血を要する黄疸を発症した場合の5項目を設定した.作成に当たっては,過去2年間の当院NICUに入院したパス該当症例を分析し,各アウトカムを設定した.25例使用した段階でバリアンス分析を行い,パスの修正を行った.50例に使用した段階で,96%に当たる48例は脱落することなくパスを終了できた.脱落した2例はそれぞれ重症感染症に罹患した症例と呼吸器に装着となった症例であった.パス導入後,血糖チェック日数および点滴施行日数は有意に短縮した.また,保育器収容日数,在院日数も短縮傾向であった.パスの作成は治療の標準化につながり,新生児領域においても,アロワンスを幅広く取るなどの工夫を行うことにより,達成率の高いパスを作成することが可能であると考えられた.


【原著】
■題名
両側の腎臓に石灰化を来した幼児期発症のサルコイドーシスの1例
■著者
東北大学大学院医学系研究科小児病態学分野
熊谷 直憲  堤 和泉  勝島 史夫  藤原 幾磨  根東 義明  飯沼 一宇

■キーワード
サルコイドーシス, 幼児, ぶどう膜炎, 魚鱗癬, 腎石灰化
■要旨
 我々は2歳で発症し,診断時すでに眼症状,皮膚症状,関節症状があり,高カルシウム血症及び両側の腎臓に石灰化を来していた幼児期発症のサルコイドーシスの1例を経験したので報告する.
 症例は2歳男児.ぶどう膜炎及び不明熱精査のため東北大学病院小児科に入院した.身体所見で魚鱗癬様皮疹及び関節症状を認めた.検査所見ではACEの高値,リゾチーム高値,γ-グロブリンの高値,Caの高値,sIL-2Rの高値,赤沈の亢進,ツベルクリン反応陰性を認めた.胸部CTで肺門部リンパ節腫脹を認めなかったが,腎超音波検査及び腹部CTでは両側の腎臓に石灰化を認めた.鼠径部リンパ節生検を施行し,病理組織学的に多核巨細胞及び非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.臨床所見,検査所見,病理組織学的所見よりサルコイドーシスと診断した.ステロイド投与により臨床症状が軽快した.


【原著】
■題名
ニューキノロン低感受性腸チフスの1幼児例
■著者
新潟県立新発田病院小児科1),
新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻内部環境医学講座小児科学分野2)
今村 勝1)  庄司 圭介1)  須藤 正二1)  田口 哲夫1)  樋浦 誠2)  長崎 啓祐2)  菊池 透2)  内山 聖2)

■キーワード
腸チフス, 幼児例, 多剤耐性菌, ニューキノロン低感受性菌, アジスロマイシン
■要旨
 ニューキノロン低感受性チフスを発症した3歳の1例を経験した.症例は父の実家があるパキスタンから帰国後,発熱と下痢が出現した.血液培養でサルモネラ菌が検出されたが,当初,腸チフスと同定できなかった.ホスホマイシン,クラリスロマイシン,パニペネム・ベタミプロンおよびミノサイクリンが無効であった.便培養を反復した結果,腸チフスと同定した.ノルフロキサシンを通常より増量して投与するも解熱しなかった.ニューキノロン低感受性チフスを疑い,アジスロマイシン(AZM)を投与したところ解熱した.後日,分離されたチフス菌はアンピシリン,クロラムフェニコール,ST合剤およびナリジクス酸に耐性で,ニューキノロン低感受性菌と判明した.東南アジアやインド亜大陸では多剤耐性チフス菌の他に,ニューキノロン低感受性チフス菌が増加している.日本でも海外旅行や国際結婚の増加などで,今後,乳幼児においても薬剤耐性腸チフスの症例が増加し,診断や治療に苦慮する例も増加すると予測される.多剤耐性チフス菌・ニューキノロン低感受性チフス菌の治療には,AZMの投与も考慮すべきと考えられた.更に,発症予防として腸チフスワクチンの早急な承認が望まれる.


【原著】
■題名
激烈な経過を辿った一過性異常骨髄増殖症を合併したDown症候群の2例
■著者
金沢医科大学小児科
高 永煥  小林 あずさ  松田 万里子  中村 常之  高橋 弘昭

■キーワード
Down症候群, 一過性異常骨髄増殖症(TAM), 肝線維症, 化学療法
■要旨
 一過性異常骨髄増殖症(以下TAMと略す)を合併し激烈な経過を辿ったDown症候群の2例を報告した.いずれも強度の肝不全からくると思われる高度の凝固異常のために多臓器の出血を頻発した.1例目では頻回の交換輸血などによる補充療法により約7カ月の経過を辿った.2例目は,1例目の経験を踏まえ,化学療法(Ara-C少量)を行うも肝の線維化を思わせる肝不全の回復がみられず日齢44日目に死亡した.近年同様の病態を呈したTAMを合併したDown症候群の報告が増えており,その実態の把握とその病態解明及び治療法の確立が急務と思われる.


【原著】
■題名
1型糖尿病の経過中に微少変化型ネフローゼ症候群を発症した1例
■著者
藤田保健衛生大学小児科1),高山久美愛病院小児科2),
豊川市民病院小児科3),刈谷総合病院小児科4)
山本 康人1)  諸岡 正史1)  梅村 佳予子1)  木曽原 悟2)  安藤 仁志3)  美濃和 茂4)  矢崎 雄彦4)  浅野 喜造1)

■キーワード
ネフローゼ症候群, 1型糖尿病, シクロスポリン
■要旨
 症例は7歳女児.1型糖尿病を発病した1年8カ月後に高度蛋白尿,低蛋白血症,高脂血症を認め,ネフローゼ症候群(NS)と診断した.腎組織像は微少変化であった.浮腫を認めず全身状態が良好であり,糖尿病であることから,まずはリシノプリルとジピリダモールで治療を開始し,さらにロサルタンを併用した.治療後蛋白尿は減少したが寛解には至らず,プレドニゾロン(PSL)を2 mg/kg/日で開始したところ,5日後に尿蛋白は陰性化した.しかし,PSL開始後は血糖コントロールに難渋し,インスリンは最大3単位/kg/日までの増量を要し,HbA1cも7.6%から9.0%まで上昇した.PSLが1 mg/kg/日以下になってからは血糖コントロールが安定し,HbA1cも6.8%まで低下した.PSL減量中に再燃したが,シクロスポリン(CyA)を併用し,少量のPSLでの管理が可能となった.1型糖尿病にNSを合併した際には,PSLの初期投与量を1 mg/kg/日に設定するのも,血糖コントロールの観点から有用と思われた.また,ステロイド依存性の経過を示す際にはCyAなどの免疫抑制剤を併用し,PSL投与量を抑える工夫が必要と思われた.

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