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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:05.10.13)
第109巻 第8号/平成17年8月1日
Vol.109, No.8, August 2005
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総 説 |
1. |
腎における尿濃縮機構の生理・発生・発達・病態
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根東 義明 975 |
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和田 恵美子 985 |
原 著 |
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小川 潔,他 990 |
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石原 重彦,他 999 |
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高橋 尚人,他 1009 |
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平岡 政弘,他 1015 |
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田尻 仁,他 1022 |
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小谷 智生,他 1027 |
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岩崎 俊之,他 1031 |
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宗村 純平,他 1037 |
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長岡 由修,他 1041 |
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1046 |
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1052 |
日本小児腎臓病学会学術委員会報告 |
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小児特発性ネフローゼ症候群薬物治療ガイドライン1.0版
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1066 |
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1076 |
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1077 |
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1084 |
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【原著】
■題名
動脈管依存性先天性心疾患に対するプロスタグランジンE1・α-CDの有用性に関する調査
■著者
埼玉県立小児医療センター1),東京女子医科大学2),東邦大学3),北海道立小児総合保健センター4),岩手医科大学5),千葉県こども病院6),国立成育医療センター7),神奈川県立こども医療センター8),長野県立こども病院9),社会保険中京病院10),国立循環器病センター11),大阪府立母子保健総合医療センター12),岡山大学13),福岡市立こども病院14) 小川 潔1) 中澤 誠2) 佐地 勉3) 横澤 正人4) 小山 耕太郎5) 青墳 裕之6) 石澤 瞭7) 康井 制洋8) 里見 元義9) 松島 正氣10) 越後 茂之11) 中島 徹12) 佐野 俊二13) 石川 司朗14) 門間 和夫2)
■キーワード
先天性心疾患, 動脈管, プロスタグランジンE1, チアノーゼ, 新生児
■要旨
背景:動脈管(DA)依存性先天性心疾患に対してPGE1-CD(本剤)は保険適応外であるが,医療現場では広く使用されており,保険適応拡大が望まれていた.
方法:DA依存性先天性心疾患に対し本剤を使用した症例に関する後方視的な使用実態調査を全国13施設にて行った.
結果:2年6カ月の間にPGE1製剤使用症例は690例で,うち125例(18%)に本剤が適応外で使用されていた.調査票を回収できた97例中,本剤を第一選択薬として使用した症例は41例であった.その理由は,搬送時に動脈管が閉じかけている・閉じていたため,DA依存性体血流型の症例やDuctal shockのため等であった.Lipo PGE1(Lipo製剤)から本剤へ変更した症例は60例で,その理由はLipo製剤が無効・効果減弱のためや作用持続性が長いため等であった.本剤を使用することにより患児の状態を回復(肺血流型のSpO2:71→85%,体血流型のBE:−13→−0.3 mEq/l)させることができた.用法用量は50〜100 ng/kg/分が最も多かった.本剤投与中の副作用は無呼吸発作が25%と最も多かった.
結論:本剤の使用においては無呼吸発作発現に対する十分な注意が必要であり,(1)早急にDAを開存させる(2)DA依存性体血流型の症例(3)Lipo製剤に対して無効・効果減弱例(4)短絡手術前の場合に本剤使用の適応があると考えられた.両剤の使い分けが必要である.
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【原著】
■題名
いわゆる蚊アレルギー15例の経験に基づく蚊刺過敏症の診断基準試案
■著者
八幡中央病院小児科1),福岡大学医学部病理学教室2),産業医科大学皮膚科学教室3) 石原 重彦1) 大島 孝一2) 戸倉 新樹3)
■キーワード
蚊アレルギー, 蚊刺過敏症, EBウイルス, NK細胞, 診断基準
■要旨
蚊刺過敏症,いわゆる『蚊アレルギー』の診断基準を定めるために,末梢血中でEBウイルスDNA陽性NK細胞のクローン性増殖を証明した蚊刺過敏症15例について疫学,血液学,免疫学,ウイルス学,そして病理学的観点から検討した.そのうち,診断時のデータが揃っている10例では臨床症状(激しい皮膚症状と発熱)と抗EBウイルスVCA-IgG抗体陽性だけが共通の所見であった.また,血清可溶性Fasリガンド(sFasL)が検討しえた7例全例で高値であり,皮膚生検を行った3例すべてで皮膚局所の血管周囲にEBウイルス陽性細胞の集積を認め,7例すべてでNK細胞抑制型受容体CD94が高発現していた.
以上より,多くの疑わしい症例の中から蚊刺過敏症を見つけ出すスクリーニングとしては臨床症状が合致することとVCA-IgG抗体陽性が証明されることが必要である.さらに,確定診断には末梢血でEBウイルスDNA陽性NK細胞のクローン性増殖を証明することが必要であり,sFasL高値や血管周囲へのEBウイルス陽性細胞の集積,CD94高発現は補助診断として有用であろう.さらに,今回は十分な検討ができなかったが,末梢血におけるEBウイルスDNA定量が容易かつ正確に診断しうるマーカーになると思われる.
このように診断基準を定めることにより,病因・病態の解明が進み,蚊刺過敏症患児のQOLの改善がもたらされることを期待する.
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【原著】
■題名
新生児集中治療室におけるMRSA保菌に関する全国調査
■著者
自治医科大学小児科1),関西医科大学男山病院小児科2),東京女子医科大学母子総合医療センター3) 高橋 尚人1) 崔 信明2) 矢田 ゆかり1) 本間 洋子1) 桃井 真里子1) 仁志田 博司3)
■キーワード
MRSA, 新生児集中治療室, 保菌, 手袋, ムピロシン
■要旨
細菌培養結果の調査を含めた全国アンケートを実施し,本邦の主要新生児収容施設におけるMRSA保菌の実態とともに保菌対策の現状も解析検討した.本邦の新生児施設193に調査用紙を送付し,105/193(54.4%)の回答を得た.2000年と比較し,MRSA保菌率0%の施設が増加し,全体的にもMRSA保菌率は低下していると考えられた.しかし,依然として6割の施設ではMRSAが分離されていた.保菌対策として,2000年から2003年にかけて手袋使用は約1.5倍に有意に増加し,保菌率の減少に有効に働いた可能性がある.MRSA保菌率0%の施設と保菌陽性の施設の比較では,NICU病床数がそれぞれ平均5.7と8.3で,MRSA保菌陽性の施設が有意に病床数が多く(p=0.008),病床数の多いNICUではMRSA排除はより困難と考えられた.また,MRSA保菌率0%の施設では,ムピロシンによる児の除菌が,保菌陽性の施設と比較し有意に多く,最終的なMRSA排除には児の除菌が必要と考えられた.現在,6割を越える多くの施設でMRSA保菌が患者家族に原則告知されており,また患者家族とのMRSAに関するトラブルも大きく減少していた.MRSA保菌対策は総合的かつ系統的に行うべきと考えられるが,MRSAの排除にはNICU病床数などの施設条件も影響することへの理解が必要と思われる.
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【原著】
■題名
小児科医院における上部尿路感染症の診断
■著者
福井大学医学部小児科1),かわむら小児科2),中村小児科医院3),つちだ小児科4),橋本小児科クリニック5) 平岡 政弘1) 河村 一郎2) 中村 英夫3) 土田 晋也4) 橋本 剛太郎5)
■キーワード
尿路感染症, 腎盂腎炎, 細菌尿, 膿尿, 膀胱尿管逆流症
■要旨
上部尿路感染症は,治療開始が遅れると腎瘢痕を生じうるため早期診断が望まれる.しかし,とくに乳幼児においては正確な診断が難しい.また,診断後の管理指針が未だ統一されていないことの大きな原因として,上部尿路感染症の頻度や臨床像が十分に明らかにされていないことがあげられる.我々は,第一線の小児科医院において,診察所見から発熱の原因を特定できなかった小児に積極的に検尿を行い,上部尿路感染症を正確に診断し,その頻度と臨床像を明らかにしようと検討を行った.コバスライドを用いて非遠沈尿を鏡検し,細菌尿と膿尿を迅速に評価し,乳幼児ではカテーテル採取尿を検尿して,尿培養により最終診断した.計429人に検尿を行い,13人(3.0%)で上部尿路感染症と,6人(1.4%)で上部尿路感染症疑いと診断し,3人ではウィルス感染症が発熱の原因と考えられ,下部尿路感染症と診断した.コバスライドによる細菌尿の評価と尿培養の結果は良好な相関を示した.男児の上部尿路感染症の7人はいずれも6カ月未満であり,この年齢群の検尿例の18%で上部尿路感染症と診断された.発熱後検尿するまでの時間は1例を除いて24時間以内であり,CRP値は発熱後12時間以内では低い傾向にあったが,1例を除いた全例で陽性(>0.5 mg/dl)を示した.6カ月以内の再発は3人で認められ,いずれも女児であった.発熱して小児科医院を受診し,身体所見から原因を特定できない児において,上部尿路感染症の頻度は日本でも約4%にすぎなかったが,6カ月未満の男児では約2割と多かった.第一線の小児科医院でもカテーテル採尿は可能であり,尿路感染症の迅速かつ正確な診断にコバスライドが,上部尿路感染症の鑑別診断にCRPの測定がそれぞれ有用であった.
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【原著】
■題名
ラミブジンによる小児期・青年期B型慢性肝炎の治療経験
■著者
大阪府立急性期・総合医療センター小児科1),大阪警察病院小児科2),大阪大学大学院医学系小児科3) 田尻 仁1) 沢田 敦2) 恵谷 ゆり3) 虫明 聡太郎3)
■キーワード
ラミブジン, B型慢性肝炎, インターフェロン, 自然経過
■要旨
ラミブジンはB型肝炎ウイルス(HBV)に対する強力な抗ウイルス剤であり,今回,我々は5症例についてラミブジン治療の有効性と安全性を報告した.全例男性であり,肝機能異常持続期間は7〜14年,インターフェロン治療歴は1〜4回であった.ただし先天性副腎過形成の1例では,インターフェロン治療は行わなかった.ラミブジン投与開始時年齢は12歳から26歳であり,2例では肝炎の急性増悪後に開始した.1例はすでにセロコンバージョン(SC)を起こしていたが,他の4例はHBe抗原陽性であった.ラミブジン開始前には,全例血中HBV-DNAマーカーは陽性であった.肝病理所見はF1A2が4例,F3A2が1例であった.ラミブジン治療によってトランスアミラーゼは全例において正常化した.HBe抗原系への効果は,SCが2例,HBe抗原陰性化が1例,HBe抗原値の低下が1例であった.HBV-DNAは4例が陰性化し,1例ではウイルスレベルが低下していた.4例において追跡肝生検を行った結果,全例で著明な改善を確認できた.ラミブジン投与期間は14〜73カ月に及んでいるが,いずれの例でも明らかな副作用を認めていない.今回,インターフェロン治療無効例を含んだ小児期・青年期の5例においてB型慢性肝炎に対するラミブジンの有効性が示された.
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【原著】
■題名
腸重積症101例の検討
■著者
市立豊中病院小児科 小谷 智生 坂野 公彦 川上 展弘 吉川 真紀子 徳永 康行 本田 敦子 松岡 太郎 原 達幸 清水 一男
■キーワード
腸重積症, 小児救急, 高圧浣腸, 非観血的整復, 観血的整復
■要旨
当院において経験した腸重積症例の臨床的特徴をまとめ,過去の文献と比較検討した.対象は,1997年11月から2004年2月までの6年3カ月の間に当院で経験した腸重積症延べ101例(87名)である.1歳未満の症例が46%を占めたが,2歳以上の症例も34%認めた.診断時の症状は,腹痛を44%(不機嫌を含むと81%)に,嘔吐を55%に,血便を33%(浣腸血便を含むと84%)に認めた.来院時に三大症状(腹痛,嘔吐と血便)が全て揃っていた症例は2%に過ぎず,不機嫌と浣腸血便を含めても35%であった.非観血的整復までの時間は72%の症例が12時間以内で,ほぼ全症例が24時間以内であった.非観血的整復の成功率は98%と高く,観血的整復を施行した症例は2例のみであった.再発例は12名あり,初発時6カ月未満例における再発率が26%と高かった.
当院で経験した腸重積症例において観血的整復例が少なかったのは,当院の24時間受入れ態勢による早期発見と,非観血的整復に積極的な外科医の協力によると思われる.早期受診の傾向の強まりとともに非典型例が増加しており,腸重積が疑われる症例では浣腸や腹部超音波検査などを積極的に施行する必要がある.初発時6カ月未満例では再発率が比較的高く,再診時には注意が必要であると考えられた.
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【原著】
■題名
過去2年間の長期入院患児の予後と在宅医療を目指した医療・療育施設の役割について
■著者
北里大学医学部小児科1),北里大学病院救命救急センター2) 岩崎 俊之1) 上田 康久1) 守屋 俊介1)2) 石井 正浩1)
■キーワード
救命救急, 在宅医療, 長期予後, 超重症児
■要旨
特定機能病院は,急性期医療が必要である重症例の適切な入院を求められている.一方では,入院医療費制度の変更にともない,入院期間の短縮が要求されている.しかし,長期入院を必要とする患者を受け入れられる病院や福祉療育施設は,常に病床が不足している.したがって今後,在宅療養を余儀なくされる患者数は増加するものと思われる.
われわれは,過去2年間に北里大学病院の小児科外来と救命救急外来から入院し,知的ならびに身体的後遺症を残した患者の長期予後を後方視的に調査し,現在の療育環境について検討した.調査以前の超重症児の大半は,適切な転院先がなく,当院に長期間の入院をせざるを得ない状況であった.
そのためわれわれは,平成13年4月より急性期を脱した患者を,依頼された施設へ積極的にバックトランスポートすることを実践している.また,近隣の病院へ小児科医を派遣し,その関連施設の看護師や医療スタッフに慢性期の患者に対する医療研修を行った.一方在宅支援のため,福祉療育施設に小児科医を派遣して短期入所を拡充し,両親や家族に医療的ケアの教育を行い,安全な在宅医療を確立しつつある.
その結果,入院中の人工呼吸管理の必要な超重症児で,実際に転院もしくは退院,またその方針が決定している児が15人中12人となった.
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【原著】
■題名
Helicobacter pylori初感染により急性胃粘膜病変を呈した2歳男児例
■著者
彦根市立病院小児科1),東北大学医学部小児科2) 宗村 純平1) 酒井 秀政1) 小淵 信子1) 安藤 徹1) 石上 毅1) 加藤 晴一2)
■キーワード
Helicobacter pylori, 急性胃粘膜病変, 初感染, 小児
■要旨
Helicobacter pylori(H. pylori)は慢性胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胃癌などに関与する最も重要な病原菌である.今回,我々はH. pylori初感染により腹痛,嘔吐および黒色便を呈し,内視鏡検査で急性胃粘膜病変(AGML)と診断した2歳男児例を経験した.入院時陰性であった血清H. pylori IgG抗体価は,2カ月後に陽転化し,胃生検組織でH. pyloriが培養されたため,H. pyloriの初感染と診断した.H. pylori感染は主に小児期に成立するが,その初感染像はほとんど知られていない.本症例のように消化器症状及び粘膜病変を呈する症例も存在すると推測される.
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【原著】
■題名
肝線維症を合併した一過性異常骨髄造血に対する少量シタラビン療法
■著者
札幌医科大学医学部小児科1),苫小牧市立総合病院小児科2) 長岡 由修1) 鈴木 信寛1) 水江 伸夫1) 野口 聡子1) 五十嵐 敬太1) 黒岩 由紀1) 堀 司1) 野上 亜津彩2) 小原 敏生2) 我妻 嘉孝2) 堤 裕幸1)
■キーワード
transient abnormal myelopoiesis(TAM), 肝線維化, 少量シタラビン療法, ダウン症候群
■要旨
Transient abnormal myelopoiesis(TAM)の多くは自然軽快するが,心肺不全や肝線維症を合併した症例では予後不良となることが報告されている.今回われわれは,肝線維化を合併したTAMのダウン症児に,少量シタラビン療法を施行し良好な結果が得られたので報告する.症例は日齢14のダウン症児で,出生後早期から著明な肝脾腫を呈し,血液検査からTAMと診断した.肝線維症の合併が疑われたため予後不良と判断し,交換輸血を施行後,少量シタラビン療法(1 mg/kg/day)を開始した.化学療法開始後,線維化マーカーであるヒアルロン酸値は著明に低下し,肝機能障害も徐々に改善した.われわれが調べた限り,心肺不全や肝線維症を合併したTAMに少量シタラビン療法を施行した症例報告は本症例を含め11例であり,そのうちの7例で有効であった.今後,少量シタラビン療法の適応と有効性について,症例を重ねて検討していく必要があると考えられた.
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