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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:05.07.19)

第109巻 第6号/平成17年6月1日
Vol.109, No.6, June 2005


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総  説
1. 先天性筋ジストロフィー研究の新しい展開
吉 岡 三惠子 703
2. 若年性皮膚筋炎
小 林 信 一 714
原  著
1. 小児下気道感染症例の上咽頭由来インフルエンザ菌株におけるb型の頻度
成相 昭吉,他 726
2. ファロー四徴症に対する経皮的バルーン肺動脈弁形成術の検討
春日 亜衣,他 730
3. 細菌性髄膜炎に合併し,予後良好であった急性壊死性脳症の1例
植松  貢,他 735
4. シルビウス発作の増加に伴って一過性の言語障害をきたしたDown症の1例
木村 清次,他 741
短  報
1. インフルエンザワクチン接種に対する未就学児を持つ父母の意識に関する探索的調査
友野 順章,他 744
2. 肥厚性幽門狭窄症に対する硫酸アトロピンとニトログリセリンの併用投与効果
名木田 章,他 747
小児医療
1. 新生児医療施設に対する全血および合成血供給の実態と問題点
小山 典久,他 749
2. 社会問題としての小児救急
─保護者の不安軽減に果たす時間外電話相談の役割─
山崎 嘉久,他 753
地方会抄録(東京,千葉,栃木,山形)
758
日本小児腎臓病学会薬事委員会報告
特発性小児ネフローゼ症候群に対するシクロホスファミドとコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムの適応外使用実態調査
775
小児科と小児歯科の保健検討委員会
おしゃぶりについての考え方
780
日本小児科学会理事会議事要録
782
雑報
790
医薬品・医療機器等安全性情報 No. 213
793


【原著】
■題名
小児下気道感染症例の上咽頭由来インフルエンザ菌株におけるb型の頻度
■著者
横浜南共済病院小児科
成相 昭吉  小林 慈典
■キーワード
インフルエンザ菌b型,小児下気道感染症,上咽頭定着率,集団免疫
■要旨
 乳幼児に髄膜炎などの全身感染症を引き起こすインフルエンザ菌b型(Hib)の上咽頭分離頻度について小児下気道感染症例上咽頭由来インフルエンザ菌株を対象に調べた.2003年10月から2004年3月まで(I期)は保存していたβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)株を,2004年4月から9月まで(II期)はすべてのインフルエンザ菌株を対象としスライド凝集法により血清型b型の判定を行った.その結果,I期ではBLNAR株92株(分離例平均年齢2.3歳)のうち7株,7.6%が,II期ではインフルエンザ菌127株(同2.3歳)のうち9株,7.1%がHibであった.
 乳幼児におけるHib全身感染症発症を予防するために地域における集団免疫の状況を把握することは重要で,小児上咽頭におけるHib定着率は集団免疫について有用な情報を提供する.健常小児での検討は容易ではなく,その代わりとして小児下気道感染症例上咽頭由来インフルエンザ菌株におけるHibの頻度を検討することも集団免疫の状況を把握する有用な手段になりうると考えられた.


【原著】
■題名
ファロー四徴症に対する経皮的バルーン肺動脈弁形成術の検討
■著者
札幌医科大学医学部小児科1),北海道立小児総合保健センター小児科2),苫小牧市立総合病院小児科3)
春日 亜衣1)  布施 茂登1)  畠山 欣也1)  高室 基樹1)
堀田 智仙1)  大柳 玲嬉1)  櫻井のどか1)  横澤 正人2)
小原 敏生3)  富田  英1)  堤  裕幸1)
■キーワード
ファロー四徴症,体―肺動脈短絡術,経皮的バルーン肺動脈弁形成術,体―肺動脈短絡術,PA index,肺動脈弁輪径
■要旨
 弁主体の肺動脈狭窄を伴うファロー四徴症の患者に対して経皮的バルーン肺動脈弁形成術(以下PTPV)施行しその効果を検討した.検討の対象は当院でPTPVを行った6例.施行時年齢は1〜6カ月(中央値2.5カ月),体重は3.1〜7.1kg(平均値±標準偏差4.8±1.7,以下同)であった.PTPV直後,経皮的動脈血酸素飽和度は75±7%から90±4%に有意に上昇した(p<0.01).中央値18.5カ月時に評価したPA indexは107±12から267±99と有意に増加した(p<0.01).肺動脈弁輪径は60±15%Nから84±26%Nと増加したが有意ではなかった.PTPVにより短期的にはチアノーゼが軽快,また長期的には肺動脈径の成長がもたらされた.肺動脈弁輪径に関しては有意な成長効果を証明できなかったが,transannular patchを回避し得た例も存在した.ファロー四徴症に対するPTPVは弁主体の肺動脈狭窄例に対する長期的な治療戦略として有用であると考えられた.


【原著】
■題名
細菌性髄膜炎に合併し,予後良好であった急性壊死性脳症の1例
■著者
仙台市立病院小児科1),仙台赤十字病院小児科2),東京大学医学部小児科3)
植松  貢1)  高柳  勝1)  中山 東城1)  佐古  恩1)
山本 克哉1)  近岡 秀二1)  村田 祐二1)  大竹 正俊1)
永野千代子2)  水口  雅3)
■キーワード
急性壊死性脳症,細菌性髄膜炎,ステロイド,サイトカイン
■要旨
 肺炎球菌による細菌性髄膜炎の経過中に,急性壊死性脳症の画像所見を呈した7カ月女児の症例を経験した.頭部MRIのT2高信号域は両側視床より下部脳幹まで広範囲に及んだが,臨床的には良好な経過を辿り,ほぼ後遺症無く回復した.脳症の画像所見出現の1日前から細菌性髄膜炎の治療のために投与されたdexamethasoneが,炎症性サイトカイン上昇をある程度抑え,良好な経過につながったのではないかと推測した.細菌性髄膜炎に急性壊死性脳症を合併した報告はこれまで無く,また予後不良例の多い急性壊死性脳症の治療方針を検討していく上で,本症例は極めて貴重であると思われた.


【原著】
■題名
シルビウス発作の増加に伴って一過性の言語障害をきたしたDown症の1例
■著者
横浜療育医療センター小児科,小児神経科
木村 清次  斎藤 義朗
■キーワード
ダウン症候群,benign childhood epilepsy with centrotemporal spikes,シルビウス発作,言語障害,ethyl loflazepate
■要旨
 睡眠時のシルビウス発作の増加に伴って一過性の言語障害を示したDown’s syndrome(DS)例を報告した.臨床・脳波所見は睡眠時のシルビウス発作,脳波でrolandic discharge(RD),良性の経過からbenign childhood epilepsy with centrotemporal spikes(BCECS)に類似した.患児は5歳からvalproic acidを投与されたが発作は持続した.8歳時にclonazepamを追加したところシルビウス発作は一日2〜6回と増加し,これに伴って言語障害が出現した.この時点の脳波はRDの他に多棘・鋭波,不規則(多)棘徐波複合が入眠直後から徐波睡眠期まで頻発した.ethyl loflazepateの投与で発作は消失し言語も正常に回復した.以後の経過は順調で14歳でRDは消失した.DSは器質的疾患でありBCECSとするのは疑問が残るが,臨床発作,脳波の経過はBCECSに類似した.DSに合併するてんかんは明らかに予後良好例と不良例に分けられるようであり,DSにも特発性てんかんが存在する可能性が示唆された.


【短報】
■題名
インフルエンザワクチン接種に対する未就学児を持つ
父母の意識に関する探索的調査
■著者
独立行政法人国立病院機構横浜医療センター小児科
友野 順章  志賀 綾子  福山 綾子  伊部 正明
■キーワード
インフルエンザワクチン,意識調査,接種率,未就学児
■要旨
 幼稚園・保育園児の保護者を対象にインフルエンザワクチン(以下ワクチン)に対する意識・行動調査を行った.自己記入型選択式のアンケートを2003年10月〜11月と2004年3月に実施した.今回の調査でワクチン接種の接種時間帯と価格が接種を妨げる主な要因であることが判明した.

【短報】
■題名
肥厚性幽門狭窄症に対する硫酸アトロピンとニトログリセリンの併用投与効果
■著者
井原市民病院小児科1),守口敬仁会病院消化器科2),川崎医科大学第1小児科3)
名木田 章1)  坂田 理香1)  飴本 完二2)  小坂 康子3)
荻田 聡子3)  小林嘉一郎3)  片岡 直樹3)
■キーワード
肥厚性幽門狭窄症,硫酸アトロピン,ニトログリセリン
■要旨
 硫酸アトロピン(硫アト)静注療法を受けた肥厚性幽門狭窄症9患児におけるニトログリセリン(NG)の併用投与効果について検討した.硫アト静注投与量は0.1mg/kg/日,嘔吐消失後の硫アト経口投与量は0.2mg/kg/日で,それぞれ各哺乳前に投与した.NG持続静注を0.4mg/kg/日或いは1.2mg/kg/日から開始して,嘔吐が消失するまで原則12時間毎に0.2mg/kg/日ずつ増量した.効果発現時平均NG投与量は1.1±0.6mg/kg/日で,治療開始後平均嘔吐持続期間は2.1±2.3日であった.全例で嘔吐の再発はなかった.今回の併用投与は効果的と考える.


【小児医療】
■題名
新生児医療施設に対する全血および合成血供給の実態と問題点
■著者
豊橋市民病院小児科1),産業医科大学小児科2)
小山 典久1)  白川 嘉継2)  白幡  聡2)
■キーワード
新生児,低出生体重児,交換輸血,人全血液,合成血
■要旨
 交換輸血(ET)は新生児医療において重要な治療手技である.ETを適切に実施するためには全血あるいは合成血の迅速な供給が必要であるが,供給態勢の問題を指摘する声がある.そこで新生児医療を担う国内の主要178施設にアンケートを送付し,130施設からの回答をもとに全血,合成血の供給実態と問題点を解析した.
 人全血液CPD「日赤」の供給は「迅速に供給される」が61,「3日程要する」が29,「供給されない」が24,「不明」が16施設であった.休日および夜間における合成血「日赤」の供給は「迅速に供給される」が28,「時間がかかる」が50,「供給されない」が42,「不明」が10施設であった.休日および夜間に全血も合成血も日赤血液センターから供給されないのは27,供給に時間がかかるのは19施設あった.また「院内で合成血を作成できる」のは71,「院内採血した血液を使用することがある」のは24施設あった.院内で作成した合成血を含め,休日および夜間に全血も合成血も準備できないのは11,準備に時間がかかるのは11施設あった.38施設で小児科医や看護師が,合成血を主に病棟内で作成しているものと思われた.
 46(35%)施設で緊急のETに必要な全血,合成血を日赤から入手できない時間帯があり,新生児の特殊性に配慮した血液の迅速な供給と,院内での合成血作成時や院内採血時の安全性を確保する態勢の整備が必要である.


【原著】
■題名
社会問題としての小児救急
―保護者の不安軽減に果たす時間外電話相談の役割―
■著者
あいち小児保健医療総合センター
山崎 嘉久  長嶋 正實
■キーワード
電話相談,救急医療サービス,時間外診療
■要旨
 小児救急システムにおける時間外電話相談の役割を検討するため,2001年11月から2003年3月に実施された時間外電話相談10,335件のうち,小児救急と関連の深い2,529件の相談を分析した.相談に対する助言の8割以上が,救急医療の紹介ではなく,この電話相談で終結していた.この理由として,母が病気そのものへの対応より自分の判断の支持を得たい気持ちを持っていること,医療機関や救急医療情報センターへの電話とこの電話相談を使い分けていることが推測された.
 相談内容は,医療の視点からみると無意味と思われるものも少なくなかったが,これが母親の不安の実像でもある.小児の救急医療に関わる諸問題を利用者の視点から眺めると,医療体制の充実とともに相談体制,親子を支える地域の支援体制の必要性が見えてくる.安心な子育てを支える様々な社会資源のひとつとして,時間外電話相談は有用な手段となり得る.


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