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日本小児科学会雑誌 目次 |
第109巻 第4号/平成17年4月1日
Vol.109, No.4, April 2005
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【原著】 |
■題名 |
川崎病患者の入院期間 |
■著者 |
自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門1),埼玉県立大学2)
上原 里程1) 屋代 真弓1) 大木いずみ1)
尾島 俊之1) 中村 好一1) 柳川 洋2) |
■キーワード |
川崎病,全国調査,入院日数,ガンマグロブリン療法,急性期心障害 |
■要旨 |
【目的】川崎病患者の入院日数を全国規模で観察し,入院期間に影響を与える要因を分析する.【方法】2001年から2002年の2年間に受診した患者を対象に実施された第17回川崎病全国調査では,初めて退院時病日を尋ねた.患者の初診時病日と退院時病日から入院日数を算出し,性,年齢,診断,初診時病日,施設患者数,ガンマグロブリン投与方法および急性期心障害の有無別の入院日数を観察した.これらの要因を補正し,15日以上におよぶ入院期間に関連する因子を求めた.【結果】入院していた16,597人の平均入院日数は15.7日であった.急性期心障害がない場合は14.8日であるのに対し,ある場合は20.4日と長かった.初診時病日は5〜9病日である場合が13.7日,ガンマグロブリン投与方法は1,000mg/kg×1日投与法である場合が13.6日と短かった.15日以上の入院期間に関連する因子は,急性期心障害あり(オッズ比2.65),年齢5歳以上(1〜2歳に対するオッズ比1.28),初診時病日1〜4病日(5〜9病日に対するオッズ比1.50),非典型例(確実Aに対するオッズ比0.72),ガンマグロブリン1,000mg/kg×1日投与(400mg/kg×5日間投与に対しオッズ比0.44)であった.【結論】川崎病患者の入院期間は,急性期心障害の有無,年齢,診断,初診時病日およびガンマグロブリン投与方法に関連していた. |
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【原著】 |
■題名 |
川崎病全国調査に基づく主要症状の出現状況に関する初期と現在の比較 |
■著者 |
自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門1),日本赤十字社医療センター小児科2),埼玉県立大学3)
大木いずみ1) 屋代 真弓1) 上原 里程1) 中村 好一1)
薗部 友良2) 萱場 一則3) 柳川 洋3) |
■キーワード |
川崎病,主要症状,ガンマグロブリン療法,全国調査,疫学 |
■要旨 |
川崎病報告直後と現在の病像の変化,診断・治療方法の影響などを明らかにする目的で,1971年調査と2003年調査の主要症状を比較できるようコード変換を行い,出現状況を比較した.主要症状の性年齢別頻度,また初診時,退院時病日も比較した.1971年調査の標本1,023人,2003年調査の全数16,952人を解析した結果,性比はそれぞれ1.64,1.35,1971年調査の患者は現在に比べて高年齢に偏っていた.1971年調査は2003年調査に比べて早期受診者が少なく,遅い者が多かった.退院病日は1971年調査では第19〜24病日に,2003年調査では約1週間早い第13〜15病日に頂点が見られた.主要症状の出現頻度は2003年調査に比べて1971年調査が,口唇,口腔所見,四肢末端の変化で高く,反対に眼球結膜の充血が低かった.また5日以上続く発熱,不定形発疹,頸部リンパ節腫脹ではほぼ同じであった.出現頻度の年齢傾向は,2003年調査では口唇,口腔所見と不定形発疹が,1971年調査では頸部リンパ節腫脹以外のすべての症状が年齢の上昇に伴って減少していた.有熱期間は1971年調査では第8病日中心の幅広い分布に対し2003年調査では第6病日中心の狭い範囲に集中した.川崎病患者の最近の主要症状出現状況,有熱期間,退院病日は,30年前と比して顕著な変化があり最も重要な要因はガンマグロブリン治療の普及が考えられる. |
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【原著】 |
■題名 |
化膿性髄膜炎における急性期難治例の問題点について |
■著者 |
聖路加国際病院小児科1),立教大学社会学部2)
安西 有紀1) 神谷 尚宏1) 神谷 元1)
藤田真智子1) 大矢 達男1)2) |
■キーワード |
化膿性髄膜炎,デキサメサゾン,再発熱,硬膜下水腫(液体貯留),炎症性サイトカイン |
■要旨 |
抗生剤の開発や画像診断の進歩にもかかわらず,化膿性髄膜炎治療には硬膜下液体貯留(以下SDE)等の神経合併症や発熱遷延・再発熱など未だ問題点がある.今回これらの問題解明の為,過去15年間の自験例14例を対象とし,臨床経過を順調群と難治群に分け検討した.
難治群の原因はデキサメサゾン療法そのものとは無関係で,SDE・耐性菌・薬剤アレルギーなどを含め症例により異なった.インフルエンザ桿菌性髄膜炎難治群では,特にSDE合併が発熱遷延の原因と思われた(7例中4例).SDE合併例は発症時の血小板数低値(10万/μl以下)や,DICスコア高値などの出血傾向を合併し,これらがSDE発症に関与する可能性がある.SDEが発熱遷延の原因である場合,早期穿刺により急速な解熱と全身状態の改善を得られる症例があることを報告する. |
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【原著】 |
■題名 |
18年間に経験した小児細菌性髄膜炎の臨床的検討 |
■著者 |
仙台市立病院小児科
高柳 勝 山本 克哉 大竹 正俊 |
■キーワード |
細菌性髄膜炎,耐性菌,高サイトカイン血症,デキサメサゾン療法,低体温療法 |
■要旨 |
細菌性髄膜炎は現在もなお小児の重要な感染性中枢神経疾患のひとつである.今回我々は本症の最近の動向を知るために1985年から2002年までの18年間に仙台市立病院小児科に入院した細菌性髄膜炎109例に対し後方視的検討を行った.起因菌は肺炎球菌,インフルエンザ菌,大腸菌,B群溶連菌の主要4菌種により70%以上が占められていたが,近年のインフルエンザ菌の増加が目立っていた.インフルエンザ菌と肺炎球菌のアンピシリン耐性菌の割合は最近の5年間で57%から100%へと急速に増加していた.ところが,最近の2年間では予後不良率が菌種によらず極めて低下しており,93.7%が後遺症を残さず治癒した点が特筆された.これにはステロイド療法および軽度低体温療法の積極的な実施が予後の改善に貢献しているものと推測された.低体温療法は温度管理を35℃程度としたところ,免疫低下や凝固異常などの特有の合併症を生じることなく施行し得た.高サイトカイン血症を病態として持ち,かつ脳温の上昇をきたしやすい感染性中枢神経疾患全般に対して本法を広く適用することができると考えられた.しかし,今後起因菌の耐性化から治療に難渋する髄膜炎症例が増加することが予想され,肺炎球菌やインフルエンザ菌b型に対するワクチンの早期導入を検討していくべきものと考えられた. |
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【原著】 |
■題名 |
ヒトパルボウイルスB19感染によるaplastic crisisの臨床像の検討 |
■著者 |
福岡大学医学部小児科1),福岡大学筑紫病院小児科2)
野村 優子1) 柳井 文男1) 丹生 恵子1)
穐吉 秀隆1) 津留 徳2) 満留 昭久1) |
■キーワード |
aplastic crisis,ヒトパルボウイルスB19,遺伝性球状赤血球症 |
■要旨 |
1987年から2001年の15年間に,ヒトパルボウイルスB19(HPV-B19)感染によるaplastic crisisと診断した患児9例の臨床的特徴について検討した.基礎疾患は遺伝性球状赤血球症7例,G-6-PD欠損症1例,悪性リンパ腫(化学療法中)1例であった.Aplastic crisisの発症は伝染性紅斑流行年に集中していた.受診時のHb値は3.1〜8.4g/dl(中央値6.3g/dl),網赤血球数は0〜87.9‰(中央値2.0‰)であった.また3例に,出血を伴わない軽度の血小板減少を認めた.9例中8例(89%)に輸血を要し,遺伝性球状赤血球症のうち3例はaplastic crisisを契機に診断された.遺伝性球状赤血球症の3例の母親にも患児と同時期にaplastic crisisがみられ,2例に輸血を要した.悪性リンパ腫の患児では,遺伝性球状赤血球症の患児に比べ網赤血球の低値がより長期間持続し,患児にもまた赤血球輸血を行った.
HPV-B19感染により溶血性貧血患児などでは輸血を必要とすることが多い.今後,ワクチンの開発など,ハイリスクの患者へのHPV-B19に対する感染予防法の確立が望まれる. |
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【原著】 |
■題名 |
持続する肝機能障害の原因がアデノウイルス6型と考えられた乳児例 |
■著者 |
昭和大学医学部小児科学教室
藤谷しのぶ 宮沢 篤生 広畑 裕子 斉藤多賀子
阿部 祥英 佐藤 弘之 衣川 直子 渡邉修一郎
小田島安平 板橋家頭夫 |
■キーワード |
アデノウイルス6型,肝機能障害,乳児 |
■要旨 |
アデノウイルス6型による感染が持続する肝機能障害の原因と考えられた1例を経験した.
本児は7カ月時,発熱を主訴に受診した際に肝機能障害と貧血が認められた.肝機能障害は3カ月にわたって持続したが,この間ビリルビンの上昇はなく,画像診断でも有意な所見はなかった.健常小児の肝機能障害の原因として,感染症,血液・腫瘍疾患,代謝疾患,薬剤性,免疫・アレルギー疾患について検討した.これらの疾患を鑑別するために,各種培養検査,ウイルス抗原抗体検査,ウイルス分離,血清・尿中・アデノウイルスPCR法,画像検査(超音波検査,核医学検査,CT,MRI),骨髄穿刺,マススクリーニング,腫瘍マーカー,神経芽腫スクリーニング,染色体検査,アミノ酸分析,自己抗体検査,CAP-RASTなどを施行した.結果として,ウイルス検索でアデノウイルス6型が咽頭粘液のウイルス分離(shell vial法)で分離・同定され,経過中,アデノウイルス6型の中和抗体価が経時的に上昇しており,その他の検査結果では異常を認めなかったことから,アデノウイルス6型が肝機能障害の原因と考えられた.
アデノウイルスによる肝機能障害はウイルス性の肝機能障害の鑑別上必要であるが,健常乳児におけるアデノウイルス6型による肝機能障害の報告は,我々が検索した限りでは見られなかった.今後,原因の特定が困難な肝機能障害がみられた場合,アデノウイルス6型の検索も考慮する必要があると考えられた. |
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【原著】 |
■題名 |
母体への塩酸リトドリン大量投与により心室中隔肥厚及び低血糖が認められた新生児例 |
■著者 |
千葉市立海浜病院新生児科1),同 小児科2)
鈴木 康浩1) 岩松 利至1) 名越 廉1) 今井 郁子1)
大塚 春美1) 鈴木 一広2) 太田 文夫2) |
■キーワード |
塩酸リトドリン,インスリン,低血糖,心室中隔肥厚,オクトレオチド |
■要旨 |
母体に大量投与された塩酸リトドリンにより一過性の心室中隔肥厚及び高インスリン血症による低血糖が認められた1例を経験した.母親は妊娠32週6日,切迫早産で近医産婦人科に入院し,リトドリン持続点滴を開始された.投与量は当初133μg/min,最大量380μg/min,投与期間は15日間で総投与量は5.4gであった.妊娠35週時他院へ転院,転院後すぐにリトドリン投与は中止され,約15時間後自然分娩となった.患児は出生体重1,967g,早産・低出生体重児のため当科入院となった.入院時血糖は10mg/dl以下と低値で,インスリン値は17μU/mlであった.インスリン値/血糖の比は1.7以上を示し,高インスリン血症による低血糖が示唆された.また,一過性の心室中隔肥厚も認められた.低血糖に対する治療では,オクトレオチド酢酸塩が有用であった.母体に対してリトドリンが大量投与された新生児の管理においては,心機能の評価を行い,血糖および全身状態について注意を払うことが必要と考えられた. |

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【原著】 |
■題名 |
肝不全・呼吸不全で死亡した新生児ヘモクロマトーシスの兄妹例 |
■著者 |
福島県立医科大学医学部小児科
鈴木 重雄 鈴木 順造 野沢ルリ子 伊藤 正樹
磯目 正人 川崎 幸彦 鈴木 仁 |
■キーワード |
新生児ヘモクロマトーシス,肝不全,呼吸不全,胆汁鬱滞性黄疸,先天性代謝異常症 |
■要旨 |
生後1カ月時に肝不全を伴う間質性肺炎に罹患し,ほぼ同様の経過で乳児期に死亡した兄妹例を経験した.兄(在胎36週,出生体重2,236g)は,体重増加不良と高度の貧血,低蛋白血症,高ビリルビン血症を呈しており,肝細胞の大滴性脂肪変性と胆汁鬱滞像を肝生検で認めた.検査結果よりサイトメガロウイルス(CMV)感染症と診断し加療したが,呼吸不全が進行して10カ月時に死亡した.その2年後に妹(在胎37週,出生体重2,050g)が出生したが,兄と同様に生後1カ月時に肝不全を伴う間質性肺炎に罹患した.CMV感染症は否定的で,先天代謝異常症を疑い種々の検査と治療を試みるも確定診断に至らぬまま,胆汁鬱滞を伴う肝不全と呼吸不全が進行して3カ月時に死亡した.剖検が得られた妹例において,肝のみならず,膵や甲状腺などにもヘモジデリンが沈着しており,また肝組織の鉄含有量が著増していた.その他には解剖学的に異常所見は認められなかったことから,新生児ヘモクロマトーシスと診断した. |

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【原著】 |
■題名 |
乳児期に大後頭孔狭窄による呼吸障害と四肢麻痺が進行した軟骨無形成症の1例 |
■著者 |
独立行政法人国立病院機構舞鶴医療センター小児科1),京都府立医科大学小児科2),
大阪市立総合医療センター小児脳神経外科3)
宮地 充1) 上原 久輝1) 長谷川龍志1) 余 玲理2)
坂井 智行1) 藤井 法子1) 内藤 岳史1) 羽田 聡2)
中島 文明1) 北野 昌平3) 坂本 博昭3) |
■キーワード |
軟骨無形成症,大後頭孔,睡眠時無呼吸,四肢麻痺,ホルネル徴候 |
■要旨 |
軟骨無形成症では大後頭孔における延髄頸髄移行部の圧迫が生じると睡眠時無呼吸,四肢麻痺を呈する.これに対して大後頭孔減圧術を行うことで症状の改善を認める症例が多く報告されている.われわれは生後6カ月より睡眠時無呼吸,四肢麻痺を呈した1女児例に対し大後頭孔減圧術を行って,一過性に症状の改善が得られた.しかしその後,明らかな原因が特定できない呼吸障害の増悪が認められた.大後頭孔減圧術が早期に行われていれば,術後の症状の改善は速やかで,呼吸障害の増悪を回避できたのではないかと考えられた.軟骨無形成症の患児の経過観察においては,乳児期早期に神経学的所見,画像検査などの精査を詳細に行い,病勢をより正確に把握する必要があると思われた. |

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【短報】 |
■題名 |
小学生版QOL尺度スクリーニングと医師面接で虐待が判明した1例 |
■著者 |
青山学院大学文学部教育学科1),渡辺こどもクリニック2),昭和大学医学部小児科3)
古荘 純一1) 渡辺修一郎2) 佐藤 弘之3)
松嵜くみ子3) 根本 芳子3) 柴田 玲子3) |
■キーワード |
小学生版QOL尺度,子ども虐待,連携,スクリーニング |
■要旨 |
小学生版QOL尺度(QOL)が低得点,特に家族領域が0点であった児童に,小児科医が学校で面接し虐待の事実が判明した.事例は10歳女児.母は本例を殴打し,仕事が多忙であるという理由で,休日も本例に無関心で,暴力を振るったことを他に公言することがないよう本例に強要していた.面接を契機に,本例が担任に母親が暴力をふるうと相談した.スクールカウンセラー,担任と連携し支援を開始した.QOLは,心身の健康度のスクリーニングに有用であると思われ,QOL低得点である児童は精神面の様々な問題を抱えていることが推測される.我々は,QOLを用いて早期にそれらの問題に気づき支援につなげる方法を確立したい. |

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【小児医療】 |
■題名 |
小児科医の婚姻および育児と勤務内容との関係 |
■著者 |
自治医科大学公衆衛生学1),東京慈恵会医科大学小児科2)
上原 里程1)2) 大木いずみ1) 尾島俊之1)
中村 好一1) 衞藤 義勝2) |
■キーワード |
小児科医,女性医師,育児,勤務内容,ワークシェアリング |
■要旨 |
【目的】40歳未満の小児科医の婚姻および育児の状況が,時間外診療や乳幼児健診といった勤務内容にどのように関係するのか検討する.【方法】2002年9月に実施した「小児科医の勤務内容と家庭関連因子についての全国調査」に回答のあった日本小児科学会会員2,475人(回収率73%)のうち,小児診療に携わっていた40歳未満の683人について解析した.また,これらの小児科医を1)0〜3歳児を有する既婚男性(n=141),2)子供のない既婚男性(n=80),3)0〜3歳児を有する既婚女性(n=63),4)子供のない既婚女性(n=45),5)未婚男性(n=105),6)未婚女性(n=166)の6群にわけて勤務内容について比較した.【結果】男の72%,女の42%が既婚であった.勤務内容については,時間外診療を週20時間以上おこなっている割合は,子供のない既婚男性および未婚医師で60%以上,0〜3歳児を有する既婚男性で55%,子供のない既婚女性で33%,0〜3歳児を有する既婚女性で13%だった.育児相談や乳幼児健診を週にわずかでも実施した医師の割合は,0〜3歳児を有する既婚女性で最も大きかった.園医や校医などの院外活動を週にわずかでも実施した割合は,子供のない既婚女性で最も大きかった.【結論】40歳未満の小児科医の勤務内容は,性別,婚姻の有無,0〜3歳児の有無によって差があった.今後女性小児科医の増加に対して,婚姻や育児状況を踏まえたワークシェアリングの導入を検討すべきである. |

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