 |
日本小児科学会雑誌 目次 |
第109巻 第1号/平成17年1月1日
Vol.109, No.1, January 2005
バックナンバーはこちら
|
 |
|
|
【総 説】 |
■題名 |
全国アンケート調査からみた主要な小児医療機関の集中治療の現状 |
■著者 |
埼玉医科大学総合医療センター小児科1)
日本集中治療医学会新生児・小児集中治療委員会2)
桜井 淑男1) 田村 正徳1)2) |
■キーワード |
小児集中治療,小児救急医療,アンケート調査,集中治療専属医,小児総合医療施設 |
■要旨 |
日本集中治療医学会の『新生児・小児集中治療委員会』では,“新生児・小児集中治療の整備状況”に関する第3回全国アンケート調査を行った.対象は103の全国大学病院小児科,及び小児病院の麻酔科または集中治療科の責任者であった.今回のアンケート回収率は97%(100/103)であった.結果は1997年の前回調査(回収率72%)との比較で,新生児集中治療室を有する施設数は58施設(56%)から82施設(80%)と急増していたのに対して,小児集中治療室は13施設(12%)から16施設(16%)と微増に留まっていた.また独立の小児集中治療室のベット数は97床で回答施設の小児関連総ベット数の1.2%に過ぎず,欧米の10%前後に比較して明らかに少ないことが判明した.今後の展望については各施設が将来,“独立の小児集中治療室”や“小児集中治療専属医”を採用する可能性はどちらも20%に満たなかった.今回の調査結果から,現在整備が進められている小児救急医療体制で収容される重症児を安全かつ効率的に治療する受け皿の確保が困難であることが明らかとなった.それは取りも直さず重症児の治療経験を蓄積していく施設や重症児の治療・管理の教育・研修場所が十分にないことも意味している.今後小児救急医療体制整備の議論の中で小児集中治療体制の整備も含めた包括的な小児救急医療体制の整備計画を立案する事が急務であると考えられた. |

|
【原著】 |
■題名 |
IgGサブクラス測定の臨床的必要性の検討 |
■著者 |
富山医科薬科大学医学部小児科
金兼 弘和 種市 尋宙 二谷 武 宮脇 利男 |
■キーワード |
IgGサブクラス測定,反復気道感染症,IgGサブクラス欠損症 |
■要旨 |
易感染性を引き起こす病態としてIgGサブクラス欠損症が注目されているが,わが国における実態は明らかでない.一方,診断に必要となるIgGサブクラス測定に健康保険適応がなく,臨床の現場での対応がまちまちと考えられる.そこで,本研究ではIgGサブクラス測定の臨床的必要性を知るために全国アンケート調査を行った.全国の小児科を標榜している3,256施設にIgGサブクラス測定に関するアンケート用紙を郵送したところ,1,291施設(40.1%)より回答が得られた.IgGサブクラス測定を行ったことがある施設は643(49.8%)であり,測定はないが,将来測定するかもしれないと考えている施設145を加えると,全体の61.0%であった.対象疾患は反復気道感染症が568例と最も多かったが,次いで重症細菌感染症179例,先天性免疫不全症139例,低ガンマグロブリン血症131例であった.測定の結果,特に異常なしが473例であったが,IgGサブクラス欠損症が221例診断されていた.537施設(70.8%)は外注検査で行っていた.1,062施設(95.2%)ではIgGサブクラス測定の健康保険適応を望んでいた.多くの施設で易感染性を有する小児の診断のために,個人あるいは病院負担でIgGサブクラスの測定を行っている実態が明らかとなった.またIgGサブクラス欠損症の患者が数多く診断されている現状も明らかとなった. |
|
【原著】 |
■題名 |
敗血症・髄膜炎の乳児から分離された大腸菌とB群溶血連鎖球菌の薬剤感受性 |
■著者 |
旭川厚生病院小児科 |
■キーワード |
髄膜炎,敗血症,大腸菌,B群溶血連鎖球菌,薬剤感受性 |
■要旨 |
1999年4月から2004年3月までに生後0日から11カ月の髄膜炎または敗血症の児の髄液ないし血液から分離された大腸菌5株とB群溶血連鎖球菌(B群溶連菌)8株についてampicillin(ABPC),cefotaxime(CTX),ceftriaxone(CTRX),panipenem(PAPM)の最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration,MIC)とB群溶連菌では血清型を検討した.大腸菌のMICはCTX,CTRXではすべての株が0.06μg/ml未満,PAPMでは0.12μg/ml以下であった.ABPCでは1株が128μg/mlと耐性,他の4株でも1から4μg/mlで他の3剤より劣っていた.B群溶連菌のMICはCTX,CTRX,PAPMでは8株すべてが0.06μg/ml未満であったが,ABPCでは4株が0.12μg/ml,4株が0.06μg/mlであった.B群溶連菌の血清型はIa型が4株と最も多く,ついでIII型が3株,VIII型が1株であった. |
|
【原著】 |
■題名 |
経過措置終了後における成人用風疹ワクチン問診表の問題 |
■著者 |
川崎医科大学小児科第1講座
寺田 喜平 新妻 隆広 小坂 康子
荻田 聡子 片岡 直樹 |
■キーワード |
風疹ワクチン,予防接種問診表,妊娠,禁忌,先天性風疹症候群 |
■要旨 |
先天性風疹症候群をなくすためには,今後も経過措置期間の接種もれ者や抗体陰性の成人女性への接種が必要である.現状では,多くの小児科医が成人に対する予防接種も行っている.今回,経過措置終了後も多くの医療機関で成人に対し小児用問診表が使用されていると思われたので,岡山県内小児科標榜の病医院にアンケート用紙を送付して実態調査を行った.有効回収率は261/412(63%),予防接種実施病医院は210/261(80%),成人にも接種は175/210(83%)であった.成人に接種する際,病医院の53%では小児用問診表で代用し,17%のみが独自やメーカー作成の問診表を使用していた.成人女性に対し92%は妊娠について口答による問診をしていたが,36%はカルテへ不記載だった.接種後2カ月間の避妊について,76%しか説明しておらず,14%しか説明文を渡していなかった.接種後の妊娠判明が3例(少なくとも1例は人工流産),妊婦への接種が1例あった.このような例は人口から単純に換算すると全国で260件以上あると推定された.また産後女性への接種経験は6%の医師しかなく,28%の医師は成人女性には接種したくないと考えていた.経過措置の定期接種が終了した現在も,成人に対し小児用問診表が使用されることが多く,カルテへの記載や接種後避妊の説明も不十分であった. |
|
【原著】 |
■題名 |
3次元デジタイザー計測による新生児口唇形態の特徴と吸啜圧の検討 |
■著者 |
長岡赤十字病院小児科
沼田 修 鳥越 克己 山崎 肇 竹内 一夫
長谷川 聡 朴 直樹 今村 勝 辺見 伸英
小川 洋平 内山亜里美 長井 咲子 羽二生尚訓
金子 孝之 |
■キーワード |
新生児,口唇形態,3次元計測,吸啜圧 |
■要旨 |
成熟新生児の口唇は,上赤唇の中央部が前上方に隆起している印象がある.その形態的特徴を明らかにする目的で,成熟新生児と低出生体重児22名を対象に口唇形態(新生児期および4カ月後)を定量的に測定した.また同時に,その形態的特徴が哺乳時の吸啜運動に適する特徴であるかを調べる目的で,哺乳時の吸啜圧を測定し,口唇形態計測値との関連を検討した.口唇形態は3次元デジタイザーにて点計測し,空間距離と空間角度を測定した.吸啜圧は改良した観血的血圧モニターを用いて測定した.
その結果,上赤唇は成熟児群が低体重児群より前上方に隆起しており,4カ月後は新生児期よりさらに前上方に隆起していた.これは上口唇の皮下軟部組織が発達したためと推測される.また,吸啜圧との関連では,上下赤唇の厚さと最大吸啜圧にのみ正の相関を認めたが,それ以外の口唇形態計測値と吸啜圧には明らかな関連は認めなかった.
以上より,上赤唇の前上方隆起は成熟新生児の特徴と言える.また,口唇形態と吸啜圧に明らかな関連を認めなかったのは,吸啜圧には口蓋と舌の蠕動運動の関与が大きく,通常の口唇形態の軽微な変化による影響は極めて少ないためと推測される. |
|
【原著】 |
■題名 |
気流遮断法を用いた気道抵抗測定による乳幼児喘息発作の評価について |
■著者 |
西部総合病院小児科
数 間 紀 夫 |
■キーワード |
気流遮断法,気道抵抗,マイクロリント,乳幼児喘息,肺機能検査 |
■要旨 |
【目的】乳幼児のピークフロー測定は難しく,それに代わる簡便な方法がなかった.近年,気流遮断によって気道抵抗を測定することが容易にできるマイクロリント(Micro Medical Ltd,Rochester,UK)という器械が開発された.外来診療でマイクロリントを利用し,その有用性を検討した.【対象および方法】生後5カ月から5歳の喘息発作71例,発作間歇期であった57例,咳や鼻汁などの上気道感染があるが喘息既往がない62例を測定した.全例マスクを使用し,5回計測した中央値を用いた.気道抵抗が高い場合はβ2交感神経刺激剤の吸入をし,吸入前後での値を比較した.【結果】発作群の気道抵抗値は1.47±0.81kPa/l/s,非発作群は0.81±0.28kPa/l/s,対照群は0.85±0.49 kPa/l/sであった(H=52.5,p<0.001).発作群中47例で吸入前後の値を比較したが,吸入前は1.63±0.89 kPa/l/s,吸入後は0.92±0.36 kPa/l/sであった(T=21,p<0.001).【考察】マイクロリントは自然な呼吸で短時間に測定でき乳幼児に使用可能であった.外来での乳幼児喘息の発作診断,治療効果判定に有用である.気道の状態が数値化されるので,家族が患児の状態を理解し易く治療のコンプライアンスを上げることができる.乳幼児の喘息にはマイクロリントを日常診療に活用するのが望ましい. |
|
【原著】 |
■題名 |
骨形成不全症IIA型に対するパミドロネート治療 |
■著者 |
県立奈良病院周産期医療センター新生児集中治療室1),岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学2)
木里 頼子1) 西久保敏也1) 石川 直子1)
桑原 勲1) 上辻 秀和1) 田中 弘之2) |
■キーワード |
骨形成不全症IIA型,新生児,パミドロネート,聴性脳幹反応 |
■要旨 |
骨吸収抑制剤であるパミドロネートを投与し,有効と思われた骨形成不全症IIA型の1新生児例を経験した.症例は在胎39週,出生体重2,307gで出生した女児.出生時膜様頭蓋と四肢短縮,筋緊張低下を認め,単純X線写真上両側の大腿骨のアコーディオン様変化,四肢の多発骨折,頭蓋骨の膜様欠損および肋骨の数珠状変化を伴う胸郭の低形成を認めたため,骨形成不全症Sillence分類IIA型と診断した.聴性脳幹反応では左耳の聴力障害を認めた.日齢25から月1回(1mg/kg)のパミドロネートの投与を開始したところ,単純X線写真上頭蓋骨の骨形成の改善と,聴性脳幹反応の改善を認め,四肢の可動範囲も広がった.日齢106,呼吸器感染症の増悪により人工呼吸管理を必要としたが,その後は酸素投与のみで安定し,日齢212に在宅酸素療法下に軽快退院した. |
|
【原著】 |
■題名 |
インフルエンザ菌b型による全身感染症を2回発症した乳児例 |
■著者 |
横浜南共済病院小児科1),横浜市立大学医学部付属病院臨床検査部2),千葉大学大学院医学研究院小児病態学3),
神奈川県立こども医療センター感染免疫科4),横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学5)
成相 昭吉1) 満田 年宏2) 石和田稔彦3)
赤城 邦彦4) 横田 俊平5) |
■キーワード |
インフルエンザ菌b型,全身感染症,Hib結合型ワクチン,抗PRP抗体価 |
■要旨 |
インフルエンザ菌b型(Hib)による全身感染症を2回発症した乳児例を経験した.
患児は5カ月時に細菌性髄膜炎を発症,その後1歳2カ月時に敗血症と急性肺炎を発症した.総IgG値,各IgG subclass値は年齢相当であった.
Hibに対する感染防御抗体である抗polyribosylribitol phosphate(PRP)抗体価を調べたところ,髄膜炎発症時(第3病日)は0.78μg/mlで感染防御レベル0.15μg/mlを上回っていた.また,敗血症・急性肺炎回復時(第12病日)は0.82μg/mlで長期感染防御レベル1μg/mlに達していなかった.その後,1歳4カ月にHib結合型ワクチンを接種し接種後5カ月での抗PRP抗体価は8.9μg/mlに上昇していた.
以上より,本症例は感染防御レベルの抗PRP抗体価を持っていたにもかかわらずHib全身感染症(髄膜炎)を発症し,その際Hibに対する十分な免疫が誘導されずHib全身感染症(敗血症・急性肺炎)を繰り返し起こしたが,免疫原性の高いHib結合型ワクチン接種によって長期感染防御レベルを超える抗PRP抗体価が獲得されたと考えられた. |

|
【原著】 |
■題名 |
腸管出血性大腸菌O177:HNMによる溶血性尿毒症症候群の1例 |
■著者 |
田附興風会医学研究所北野病院小児科1),国立感染症研究所細菌第1部2)
高原 賢守1) 伊豫田 淳2) 浅田 純子1)
水本 洋1) 上松あゆ美1) 羽田 敦子1)
渡辺 治雄2) 田村 和満2) 秦 大資1) |
■キーワード |
溶血性尿毒症症候群,腸管出血性大腸菌O177,ベロ毒素2型産生 |
■要旨 |
血便を伴わない軽症下痢の翌日に発症した溶血性尿毒症症候群(以下HUSと略す)の1例を経験した.溶血性貧血・血小板減少・腎機能障害を来たしたが透析導入は行わず対症療法のみにて軽快した.また原因大腸菌の同定に際し,既存の大腸菌O血清群(O1〜O173)はすべて陰性で,国立感染症研究所細菌第一部で新たに検査可能となった大腸菌のO血清群(O174〜O181)について調べたところ,Vero毒素2型産生性の血清群O177(血清型O177:HNM)と判明した.現在のところO177によるHUSの報告は日本では本例を含めて2例,世界でも6例のみでありO177感染症の臨床的特徴の把握には今後の症例の集積が必要であるが,近年これまで主流であった血清型以外の大腸菌による感染事例も数多く報告されており,今後は本症例のような非典型的な臨床経過をとる症例も増えてくる可能性もあり注意が必要である. |

|
【原著】 |
■題名 |
摂食障害を合併した小児期発症全身性エリテマトーデスの2例 |
■著者 |
大阪医科大学小児科
村田 卓士 岡本 奈美 金 泰子
田中 英高 北川 真 玉井 浩 |
■キーワード |
全身性エリテマトーデス,小児,摂食障害 |
■要旨 |
治療経過中に摂食障害を合併した小児期発症全身性エリテマトーデス(以下SLEと略す)の2例を経験した.いずれも背景には,長期のSLE罹病から来る種々の心理社会的要因が関与していると考えられた.両症例とも心身症担当の小児科医による定期的カウンセリングを行い,家族の心理的サポートが比較的得られた1例は軽快したが,親子関係に問題があった1例では肥満への嫌悪に由来する頑なステロイド拒否の姿勢から,原疾患に対する治療方針の変更を余儀なくされた.小児期発症SLEは摂食障害発症の危険因子を含んだ疾患であり,原疾患に対するケアーはもとより,患者の心理社会的背景にも常に留意しながら全人的医療を心がける必要があると考えられた. |

|
バックナンバーに戻る
|