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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:05.03.03)

第108巻 第12号/平成16年12月1日
Vol.108, No.12, December 2004


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第34回日本小児科学会セミナーを担当して
鈴木 仁
総  説
新生児聴覚スクリーニング
三科 潤 1449
第107回日本小児科学会学術集会教育講演
小児の知的発達障害における最近の知見―精神発達障害と遺伝
近藤 郁 子 1454
原  著
1. 受診者における麻疹ワクチン累積接種率調査の有用性
高山 直秀 1458
2. 川崎病患者に対するガンマグロブリン治療の変遷1993〜2002
屋代 真弓,他 1461
3. 小児生活習慣病検診への尿中コチニン測定の導入
井埜 利博,他 1467
4. 秋田市小中学生における肥満児比率および 肥満症検査値10年間の検討
後藤 敦子,他 1473
5. 胃電図を用いた小児と成人における睡眠時の胃活動の比較
長谷川林秀,他 1479
6. 朝食欠食と小児肥満の関係
徳村 光昭,他 1487
7. 学童期に発症したHamman症候群の1例
岩瀬 孝志,他 1495
8. 扁桃炎罹患後にくも膜下出血で発症した脳静脈洞血栓症の1例
柳生 茂希,他 1501
9. 再発時に急性腎不全と高血圧性脳症を合併した 特発性ネフローゼ症候群の1例
鈴木保志朗,他 1506
地方会抄録
(兵庫,山形,鹿児島,福岡)
1511
「こどもの健康週間」作文コンクール・日本小児科学会会長賞受賞作品
1531
日本小児科学会理事会議事要録
1532
脳死小児から被虐待児を排除する方策に関する提言
   日本小児科学会小児脳死臓器移植基盤整備ワーキング委員会
1538
先天性心疾患児におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン
   ガイドライン作成検討委員会
1548
お知らせ 1552
書評 1553


【原著】
■題名
受診者における麻疹ワクチン累積接種率調査の有用性
■著者
東京都立駒込病院小児科1),永寿堂医院2),三輪小児科医院3),崎山小児科4)
高山 直秀1)  松永 貞一2)  三輪 操子3)  崎山  弘4)
■キーワード
麻疹ワクチン,累積接種率,ワクチン完了率
■要旨
 乳幼児麻疹患者の感染源を聞き取り調査すると,医療機関で感染したと思われる例も少なくない.医療機関における麻疹ウイルス感染を回避するためには,受診者群での麻疹ワクチン接種率を高く維持することが重要であるが,個々の医療機関の受診者における麻疹ワクチン接種率はこれまで調査されたことがなかった.ワクチン累積接種率調査法を用いて,東京都内3カ所の医療機関を受診した3歳児における麻疹ワクチン接種状況を調査したところ,入院病床がない2医院における累積接種率はきわめて良好であった.一方,16床の小児科入院病床を有する1病院における累積接種率は,特に1歳児で上記医院よりかなり低いことが判明した.各医療機関の受診者におけるワクチン接種状況を把握するための手段として,累積接種率調査はきわめて有用であると考えられた.


【原著】
■題名
川崎病患者に対するガンマグロブリン治療の変遷1993〜2002
■著者
自治医科大学公衆衛生学1),日赤医療センター小児科2),埼玉県立大学3)
屋代 真弓1)  上原 里程1)  大木いずみ1)  中村 好一1)
薗部 友良2)  萱場 一則3)  柳川  洋3)
■キーワード
川崎病,ガンマグロブリン治療,全国調査,疫学調査
■要旨
 目的:川崎病全国調査資料を用いて,1993〜2002年の10年間における川崎病患者に対するガンマグロブリン治療の変遷を観察し,その意義を明らかにする.
 方法:川崎病全国調査において川崎病患者が受けたガンマグロブリン投与方式の推移,また施設の規模によるガンマグロブリン投与方式の特徴を観察した.
 結果:10年間にガンマグロブリン投与を受けた者は平均85%を占め年次変化はほとんど見られなかった.ガンマグロブリン総投与量が1,000mg/kgの者は10年間に半減し,2,000mg/kgの者は約3.7倍に増加した.投与方式では,200mg/kg×5日,400mg/kg×5日は10年間で激減し,1,000mg/kg×2日,2,000mg/kg×1日などの短期間内の大量投与が急増した.基本的なガンマグロブリン投与方式を決めている施設は2002年には58%で,200mg/kg×5日間,400mg/kg×5日間が減少し,2002年には短期間の大量投与方式が主流を占めていた.規模の大きい施設ほど投与量が多い傾向であった.
 意義:ガンマグロブリン治療の効果に関する多くの研究は,国内,国外を含めて短期間大量療法の有効性を支持するものであり,その結果として,過去10年間に短期大量療法を受ける患者が増える傾向にあった.このことは川崎病患者の予後改善にも大きな影響を与えていると考えられた.


【原著】
■題名
小児生活習慣病検診への尿中コチニン測定の導入
■著者
いのクリニック1),熊谷市医師会2),群馬パース学園短期大学3)
井埜 利博1)2)3)渋谷 友幸2)  斉藤 洪太2)  岡田 了三3)
■キーワード
コチニン,喫煙,生活習慣病,検診,受動喫煙
■要旨
 小児生活習慣病検診時に尿中コチニン測定を加え,能動喫煙児および受動喫煙児の選別を客観的に行おうと試みた.熊谷市内の2小学校の4年生185名を対象に生活習慣病検診に喫煙検診として喫煙に関するアンケート調査および尿中コチニン測定を実施した.その結果,アンケート調査により,両親ともに喫煙(A群):17%,両親のいずれかが喫煙(B群):54%および両親ともに喫煙なし(C群):29%に分類できた.尿中コチニンが測定感度以上(>1ng/ml)の値が得られたものの頻度は58/185名(31%)であった.残りの69%では検出されなかった.各群における尿中コチニン値測定感度以上のものの割合は,A群:68%,B群:31%,C群:11%であった.受動喫煙暴露の定義を尿中コチニン値>5ng/mlとすると,A群:52%,B群:9%,C群:0%となり,両親とも喫煙している児では約半数が,片親のみの児では約1割が有意な受動喫煙を受けていた.A群における両親の喫煙本数と尿中コチニン値との関係では,相関係数が0.4〜0.5の範囲(すべてp<0.05)で,両親の喫煙本数の総和および父親の喫煙本数と尿中コチニン値との間に量反応関係が成立した.
 小児生活習慣病検診に尿中コチニン測定を加えた喫煙検診を導入することにより,尿中コチニン値が測定感度以上の値が検出された場合には説得力を持って本人および両親へ禁煙指導できた点で有用であった.


【原著】
■題名
秋田市小中学生における肥満児比率および肥満症検査値10年間の検討
■著者
秋田市小児科医会
後藤 敦子  小泉ひろみ  小松 和男  西宮 藤彦
高橋 郁夫  池田 和子  赤羽 道子  澤口  博
稲葉 八雲  大野  忠
■キーワード
肥満児調査,小中学生,通学方法,肥満原因,肝機能障害
■要旨
 1993年から2002年まで10年間の秋田市小中学生肥満児比率と,個別健診での肥満症検査値の推移を報告した.肥満児は年々増加し,肥満度20%以上の肥満児の比率は2002年に小中学生ともに10%に達し,肥満度50%以上の高度肥満児の割合は10年間で倍増した.学区別に見ると,学区が広く通学距離が長いほど,また通学や部活に自動車を利用する頻度が高い学区ほど肥満児が多く,車を利用し歩くことが少ない生活が肥満の一因であると推測された.2002年の肥満症検査値を1995年と比較すると,空腹時血糖と総コレステロールおよびHDLコレステロールが有意に高かった.肥満度との相関においては,肥満度が高いほど中性脂肪,収縮期血圧,血清ASTおよび血清ALTが高かった.血清ASTと血清ALTは女子より男子で有意に高く,高度肥満児の半数以上に肝機能障害を認め,小児のNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)増加が懸念された.


【原著】
■題名
胃電図を用いた小児と成人における睡眠時の胃活動の比較
■著者
産業医科大学医学部小児科学教室
長谷川林秀  下野 昌幸  沖田 信夫  本田 裕子
川上 章弘  宮川 隆之  白幡  聡
■キーワード
胃電図,小児,睡眠,Cajal介在細胞,Ghrelin
■要旨
 胃電図を用いて小児および成人の睡眠時の胃活動を比較した.小児群のドミナント周波数(dominant frequency,DF)は2.41±0.16cycles per minute(cpm)で,成人群(2.56±0.13cpm)より有意に低値であった.小児群のドミナントパワー(dominant power,DP)は睡眠1時間後にピークを形成したが,成人群は睡眠後の経時的変化を認めなかった.小児群のDPは成人群と比較して睡眠3時間後まで有意に高値であった.DF中にbradygastria,normogastria,tachygastriaが占める時間の比率は,小児群は28±13%,72±13%,0%,成人群は17±9%,83±9%,0%であり,小児群ではbradygastriaが占める時間の比率が有意に高値でnormogastriaは有意に低値であった.一方DF,DFの変動(dominant frequency instability coefficient),DF中にbradygastria,normogastriaが占める時間の比率は,睡眠後の経時的変化を認めなかった.以上から睡眠時の小児の胃のelectrical control activityとelectrical response activityは,成人と異なる調節を受けることが示唆された.

【原著】
■題名
朝食欠食と小児肥満の関係
■著者
慶應義塾大学保健管理センター1),富山医科薬科大学医学部保健医学教室2)
徳村 光昭1)  南里清一郎1)  関根 道和2)  鏡森 定信2)
■キーワード
朝食欠食,肥満,生活習慣,小児
■要旨
 朝食欠食と小児肥満の関係を検討した.対象は平成元年度に富山県下で出生した小児10,450人で,3歳時(9,426人),小学1年時(9,472人),小学4年時(8,252人),中学1年時(8,098人)にアンケート調査を実施し,朝食欠食の有無から2群に分類し体格指数および生活習慣を比較した.朝食を欠食する児は,3歳時の25.3%,小学1年時の8.1%,小学4年時の7.0%,中学1年時の12.7%にみられた.朝食を欠食する児の身長は,3歳時から小学4年時にかけて低値を呈した.体重は,3歳時および小学1年時では低値を呈したが,その後逆転し,小学4年時および中学1年時では朝食を欠食する群の肥満児出現頻度が有意に高かった.朝食を欠食する児の生活習慣では,3歳時から「起床時刻が遅い」,「就寝時刻が遅い」,「睡眠時間が短い」,「夜食頻度が多い」,「間食頻度が多い」,「外食頻度が多い」,「インスタント麺を食べる頻度が多い」,「母と朝食を食べない者が多い」,それに加えて小学1年時以降は「テレビ視聴時間が長い」,「ひとりで朝食を食べる」傾向がみられた.多変量解析から,生活習慣因子では「起床時刻が遅い」,「就寝時刻が遅い」と朝食欠食の間に強い関連性が認められ,食習慣因子では「ひとりで朝食を食べる」と朝食欠食の間に最も強い関連性がみられた.朝食を欠食する習慣は3歳時から認められ,その他の生活習慣と連鎖し小学4年時以降の肥満を引き起こすことが示唆された.


【原著】
■題名
学童期に発症したHamman症候群の1例
■著者
愛媛労災病院小児科1),香川大学医学部小児科2)
岩瀬 孝志1)  伊地知園子1)  矢口 善保1)  伊藤  進2)
■キーワード
Hamman症候群,糖尿病性ケトアシドーシス,縦隔気腫,ソフトドリンクケトーシス
■要旨
 症例は11歳男児.平成15年11月末頃より体調不良で嘔吐症状を認めていた.12月上旬の朝,意識混濁状態を認め,当院に救急搬送された.著明な脱水症状を認め,血糖1,114mg/dL,血液ガスpH 6.872,BE−29.8,尿糖(4+),尿アセトン(2+)にて糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と診断,緊急治療を開始した.来院時の胸部X線にて頸部皮下気腫と縦隔気腫を認めていた.DKAの治療により意識状態は改善,縦隔気腫も速やかに消失した.その後は全身状態も改善している.外来にてインスリン療法を継続した後,現在は投薬を中止できている.
 DKAに縦隔気腫を合併する症例をHamman症候群と呼んでいるが,まれな疾患とされている.本症例は,本邦報告例中最年少例であり,今後2型糖尿病の低年齢化とともに,この症候群の低年齢発症が増加すると考えられる.


【原著】
■題名
扁桃炎罹患後にくも膜下出血で発症した脳静脈洞血栓症の1例
■著者
京都市立病院小児科1),同 感染症科2)
柳生 茂希1)  天谷英理子1)  藤木  敦1)  山崎 敦子1)
前田 洋佐1)  中瀬 葉子1)  安野 哲也1)  岡野 創造1)
黒田 啓史1)  川勝 秀一1)  清水 恒広1)2)
■キーワード
脳静脈洞血栓症,くも膜下出血,扁桃炎,低分子ヘパリン,メシル酸ナファモスタット
■要旨
 扁桃炎罹患後にくも膜下出血で発症した脳静脈洞血栓症の1例を報告した.症例は5歳女児.アデノウイルスによる扁桃炎で入院の既往があり,退院5日後からの頭痛,嘔吐を主訴に再入院した.頭部CTで右小脳テント上にくも膜下出血を認め,頭部MRIで右横静脈洞血栓症が確認された.低分子ヘパリン(LMWH)とメシル酸ナファモスタット投与により臨床症状は改善したが,経過中に上矢状洞血栓症を合併したため,ワーファリンとジピリダモールを併用し良好な経過を得た.小児期発症の脳静脈洞血栓症はまれであり,さらにくも膜下出血で発症した例は我々の調べ得た限りではなかった.本症例では,扁桃腫大による圧迫や血管への炎症の波及による静脈還流の鬱滞によって横静脈洞血栓症が生じたものと考えられた.頭蓋内出血を伴う脳静脈洞血栓症患者において,LMWHやメシル酸ナファモスタットは安全な治療法と考えられたが,投与量や投与期間など詳細な方針については一定の見解がない.特に本症例はワーファリンやジピリダモールの追加投与を必要としており,治療方針についてはさらなる症例の蓄積と検討が待たれる.


【原著】
■題名
再発時に急性腎不全と高血圧性脳症を合併した
特発性ネフローゼ症候群の1例
■著者
いわき市立総合磐城共立病院小児科
鈴木保志朗  草苅 倫子  小泉  沢  浅田 洋司
藤江 弘美  鈴木  潤  渡辺 信雄
■キーワード
ネフローゼ症候群,急性腎不全,高血圧性脳症
■要旨
 我々は,特発性ネフローゼ症候群(NS)の再発時に急性腎不全(ARF)と高血圧性脳症を合併した9歳の女児を経験した.
 NS再発の5日後に皮質盲,高血圧,痙攣で発症.MRIで両側後頭葉から頭頂葉にかけてT2強調像で高信号域が認められた.
 ARFに対し,当初は腎前性腎不全と考え,補液療法を開始したが,効果なく,血液透析による除水とステロイドによってARFは改善した.また,3カ月後に施行した腎生検では微小変化群の組織診断であり,尿細管も微細な変化しか認められなかった.本症例のARFの発症機序として,間質の浮腫,またはcastによる尿細管の閉塞があり,その結果,ボーマン腔内の静水圧が上昇し,GFRが低下したものと考えられた.
 NF+ARFにおいては,GFRの低下が必ずしも循環血液量の低下からくるものではなく,初期治療の補液量は慎重に考慮すべきである.


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