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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:04.07.27)

第108巻 第5号/平成16年5月1日
Vol.108, No.5, May 2004


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総  説
1. 原発性免疫不全症候群症例登録について
岩 田   力 735
2. アレルギーと酸化ストレス
塚原 宏一,眞弓 光文 744
原  著
1. マイコプラズマ感染症診断におけるIgM抗体検査の有用性とその限界
片寄 雅彦,他 753
2. NICUにおける院内感染に対する使い捨て手袋の効果
樋口 隆造,他 757
3. B型肝炎母子感染防止事業改定後のHBV母子感染例の検討
大和 靖彦,他 761
4. 青年期に達した乳幼児期発症Bartter症候群の2例
成相 昭吉,他 765
5. ケトン性低血糖による昏睡を呈したGraves病の1例
水本  洋,他 770
6. 横紋筋融解症,肝機能障害を合併した神経性食思不振症の1男児例
森  雅人,他 774
7. 悪性リンパ腫に対する化学療法中に胸腺過形成をきたし超音波検査が有用であった1例
鯉渕 晴美,他 778
8. 新生児単純ヘルペスウイルス感染症を呈した超低出生体重児の1例
早川 和代,他 782
地方会抄録
(宮崎,新潟,和歌山,千葉,静岡,岡山,滋賀,島根,熊本,福岡)
786
次期代議員・理事・監事名簿
832
日本小児科学会雑誌への二重投稿について
835
日本小児科学会広報委員会からのお知らせ
836
お知らせ
837
書評
838
雑報
839
日本医学会だより No. 31
841
医薬品・医療用具等安全性情報 No. 200
842


【原著】
■題名
マイコプラズマ感染症診断におけるIgM抗体検査の有用性とその限界
■著者
公立相馬総合病院小児科1),福島県立医科大学医学部小児科2)
片寄 雅彦1)  細矢 光亮2)  今村  孝1)
大西 周子1)  佐藤  敬1)  鈴木  仁2)
■キーワード
マイコプラズマ,IgM抗体,迅速診断
■要旨
 平成13年7月から12月までの間に,公立相馬総合病院小児科を受診した下気道感染症患者中,ペア血清を採取した130例を対象として,マイコプラズマ血清診断を行った.補体結合反応(CF)あるいは粒子凝集法(PA)で抗体価がペア血清にて4倍以上と有意に上昇し,マイコプラズマ感染症と診断した症例は90例であった.イムノカードマイコプラズマ抗体キット(Meridian・TFB社)を用いてIgM抗体(IC)を検査した.発症後7日以内ではマイコプラズマ感染症83例中52例(62.7%)がIC陽性であり,CF 4.8%,PA 30.1%,寒冷凝集反応67.6%に比べて陽性率が高かった.IC陽性率は8日以降に96.1〜100%となったが,121日以後でも抗体陽性例がいた.マイコプラズマ感染症の有無でICの陽性率をみると感度は98.9%,特異度は100%,有効度は99.2%であった.以上より,IgM抗体検出は従来の抗体価測定法に比較して,感度,特異度ともに高く,マイコプラズマ感染症の早期診断に有用であることが明らかになった.しかし,発症の極早期には陰性の場合があることと,IgM抗体が比較的長期間検出されることに注意を要すると思われた.


【原著】
■題名
NICUにおける院内感染に対する使い捨て手袋の効果
■著者
和歌山県立医科大学周産期部NICU1),同 小児科2)
樋口 隆造1)  奥谷 貴弘1)  坊岡 美奈1)  西原 正泰1)
末永 智浩1)  宮脇 正和2)  青柳 憲幸2)
■キーワード
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,新生児集中治療室,院内感染,使い捨て手袋,感染制御
■要旨
 2000年5月から和歌山医大NICUでコアグラーゼII型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の院内感染が集団発生した.約1年を経過しても終息せず,新たな対策を2001年4月に導入した.導入前後の各1年間に入院したそれぞれ95人,112人を対象に院内感染の有無を判定しえた89人,105人で使い捨て手袋の効果を検討した.口腔・気管内の吸引と緊急処置に滅菌済使い捨て手袋,おむつ交換に未滅菌使い捨て手袋を用い,使用後に手袋で手指が汚染しないよう外し,ポビドンヨードスクラブした.コアグラーゼII型の院内感染は使い捨て手袋導入後6カ月で終息した.MRSA院内感染患者は前期25人(28.1%)から後期9人(8.6%)に減少し,年間入院患者延べ日数1,000に対するMRSA陽性患者の割合は前期345.8,後期287.4となった.いずれもχ2検定で有意差を認めた(p<0.01).使い捨て手袋の導入はNICUのMRSA院内感染対策として有効であった.


【原著】
■題名
B型肝炎母子感染防止事業改定後のHBV母子感染例の検討
■著者
久留米大学医学部小児科1),藤澤こどもクリニック2)
大和 靖彦1)  中嶋 英輔1)  木村 昭彦1)  熊谷 優美1)
前田 公史1)  牛島 高介1)  藤澤 卓爾2)  松石豊次郎1)
■キーワード
B型肝炎,母子感染,感染予防
■要旨
 1995年4月にB型肝炎母子感染事業が改定された後,予防処置失敗例がしばしば経験されるようになった.そこで改定後に母子感染を起こしたと考えられた当科受診の10症例について検討を行った.その結果,産科側の理解不足による2例・小児科側の理解不足による1例・他疾患によるブロックの遅れが原因と考えられた1例を認めた.一方,他の感染例の多くは胎内感染であった.結論として,産科・小児科ともにhepatitis B virus(HBV)母子間ブロックの適応とフォロー体制について再確認が必要と考えられた.さらに若年発症のHBV由来の肝細胞癌の例が存在することから,母子感染例は医療機関での厳密な経過観察が必要である.


【原著】
■題名
青年期に達した乳幼児期発症Bartter症候群の2例
■著者
横浜南共済病院小児科1),虎の門病院小児科2)
成相 昭吉1)  横谷  進2)
■キーワード
Bartter症候群,低カリウム血症,成長障害,成長ホルモン+LHRHアナログ併用療法,
耐糖能低下
■要旨
 Bartter症候群は低カリウム(K)血性アルカローシス,高レニン・アルドステロン血症,正常血圧を特徴とする尿細管機能異常症である.9カ月時,嘔吐・痙攣で発症した女児例と5歳時,嘔吐で発症した男児例がともに大学生となり,青年期に達した.塩化カリウムと抗アルドステロン剤(spironolactone)による加療を続けたが血清K値を正常域に維持することは困難であった.ともに小児期には成長障害が著しく成長ホルモン分泌不全を認め,ヒト成長ホルモン補充療法とLHRHアナログによる性腺抑制療法を併用し最終身長は目標身長を超え正常域に達した.その後,経口ブドウ糖負荷試験を行ったところ血糖値はそれぞれ糖尿病型,境界型を示し耐糖能の低下を認めた.成長ホルモン分泌不全および耐糖能低下のいずれの病態にも遷延する低K血症の関与が想定された.


【原著】
■題名
ケトン性低血糖による昏睡を呈したGraves病の1例
■著者
財団法人田附興風会北野病院小児科
水本  洋  浅田 純子  上松あゆ美
羽田 敦子  秦  大資
■キーワード
Graves病,低血糖性昏睡,ケトン性低血糖症
■要旨
 低血糖性昏睡で発見されたGraves病の6歳女児例を経験した.通常甲状腺機能亢進状態では血糖値は上昇傾向となるが,本症例では他に低血糖の原因となる内分泌代謝異常はなかった.甲状腺機能亢進症が基礎にありながら十分な経口摂取ができなかったために,ケトン性低血糖症を発症したと考えられた.

【原著】
■題名
横紋筋融解症,肝機能障害を合併した神経性食思不振症の1男児例
■著者
自治医科大学小児科学教室1),筑波大学心身障害学系2)
森  雅人1)  塩川 宏郷1)  後藤 珠子1)  津留 智彦1)
水口  雅1)  宮本 信也2)  桃井真里子1)
■キーワード
神経性食思不振症,横紋筋融解症,refeeding syndrome,低リン酸血症,肝機能障害
■要旨
 神経性食思不振症に横紋筋融解症と肝機能障害を合併した9歳男児を経験した.急激な体重減少による身体管理を目的に入院したが,中心静脈栄養の開始後発熱,筋痛,筋逸脱酵素の上昇がみられ,廃用性筋萎縮,寝たきりの状態となった.経管栄養に切り替えたところ,これらの症状や筋逸脱酵素の上昇は改善したが,肝機能障害が出現した.横紋筋融解症と肝機能障害の原因として“refeeding syndrome”が考えられた.これらの発症機序には横紋筋融解症は低リン血症に加わった運動負荷が,肝機能障害は高カロリー輸液がその原因として考えられ,その病態を考える上で興味深い症例と考えられた.また,極低栄養状態からの栄養の改善にはこれらの合併症の十分なモニタリングが必要と思われた.


【原 著】
■題名
悪性リンパ腫に対する化学療法中に胸腺過形成をきたし超音波検査が有用であった1例
■著者
自治医科大学臨床検査医学教室1),同 小児科学教室2)
鯉渕 晴美1)  中村みちる1)  増澤 亜紀2)
柏井 良文2)  桃井真里子2)  伊東 紘一1)
■キーワード
小児,悪性リンパ腫,胸腺,胸腺過形成,超音波
■要旨
 悪性リンパ腫の化学療法中に胸腺過形成をきたした症例を経験した.症例は経過中前縦隔腫瘤影の増大があり,リンパ腫の再燃が疑われた.超音波所見は正常胸腺と類似し超音波ガイド下針生検による病理所見で正常胸腺と確診を得た.前縦隔腫瘤と正常胸腺の鑑別に超音波検査は有用であり,侵襲の少ない超音波検査を第一選択として行うべきであると考えた.


【原 著】
■題名
新生児単純ヘルペスウイルス感染症を呈した超低出生体重児の1例
■著者
福井大学医学部病態制御医学講座小児科学
早川 和代  畑  郁江  古畑 律代
山田 直江  川谷 正男  金谷由宇子
塚原 宏一  谷澤 昭彦  眞弓 光文
■キーワード
新生児,単純ヘルペスウイルス感染症,超低出生体重児,皮膚粘膜病変,重症感染症
■要旨
 新生児単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症は生後早期に発症する重症感染症として重要な疾患であるが,過去の報告は正期産成熟児に関するものが大半である.我々は,在胎25週1日,体重812gで出生し,日齢14より皮膚,口腔粘膜にびらん,水疱をきたした超低出生体重児で,HSV-IgM抗体の上昇と皮膚・咽頭ぬぐい液からのHSV-DNAの検出によりHSV感染症と診断された症例を経験した.患児は重複感染,腎不全,汎血球減少などを合併して重症化したが,アシクロビル静脈内投与,抗生物質,交換輸血,顆粒球輸血をはじめとする集中治療により救命できた.超低出生体重児は,皮膚・粘膜バリアーや骨髄・免疫機能の未熟性のため,HSV感染症が重症化しやすいと考えられるが,その診断が困難であることが多く,適切な診断や治療がなされずに早期死亡する症例も少なくないと思われるので,注意が肝要である.


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