 |
日本小児科学会雑誌 目次 |
第108巻 第3号/平成16年3月1日
Vol.108, No.3, March 2004
バックナンバーはこちら
|
 |
|
|
【原著】 |
■題名 |
小児急性呼吸器感染患児におけるhuman metapneumovirusの疫学的研究 |
■著者 |
国立仙台病院臨床研究部ウイルスセンター1),同 小児科2),国立療養所米沢病院小児科3)
鈴木 陽1)3),渡邊 王志1),宮林 重明2),西村 秀一1) |
■キーワード |
human metapneumovirus(hMPV),小児急性呼吸器感染症,reverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR) |
■要旨 |
2002年1月より12月の1年間に,国立仙台病院小児科にて臨床症状より急性呼吸器感染症と診断された外来および入院患者835件の咽頭ぬぐい液もしくは鼻腔吸引検体を採取し,ウイルス分離を行った.ウイルスの分離陰性であった521検体から無作為に238件を抽出し,reverse transcriptase-polymerase chain reaction(以下RT-PCR)法にてhuman metapneumovirus(以下hMPV)の検出を試み,陽性患者の臨床情報に加え,疫学的解析を行った.
238件中22件(9.2%)からhMPV遺伝子が検出された.症例は秋季を除き通年して存在したが,2月,3月に多数見られた.患者は生後1カ月から8歳までで,年齢層別では3歳以下が18例と80%以上を占めていた.臨床診断名は,急性上気道炎9例,急性下気道炎13例であり,後者中喘息様気管支炎が9例であった.臨床像は,38.5度以上の発熱を有した患者は95.5%で,その平均有熱期間は4.8日であった.他には,咳嗽77.3%,鼻水68.2%,喘鳴45.5%であった.外来治療だけで軽快したのは1例のみで,残り21例が入院し,平均在院日数は7.1日であり,酸素投与されたのは2例のみであった.
以上,hMPV患者は3歳以下の急性呼吸器感染症患者に多く,通年的に見られるが主に冬季に罹患し,罹患後は入院する頻度が高い可能性が示唆された. |
|
【原著】 |
■題名 |
アンケート調査によるRSウイルス感染入院例の検討 |
■著者 |
北海道立小児総合保健センター新生児科1),札幌医科大学医学部小児科2)
浅沼 秀臣1) 新飯田裕一1) 堤 裕幸2) |
■キーワード |
RSウイルス,パリビズマブ,早期産児,慢性肺疾患,先天性心疾患 |
■要旨 |
本邦におけるRSウイルス(RSV)感染症の入院症例の実態を把握するために,平成13年11月から平成14年3月末までの間にRSV感染症の診断で入院した症例について北海道の有床の小児科88施設に対し調査を行った.合計382例の入院症例が報告された.月齢別では1カ月の児が36例(9.4%)と最多であった.また,1歳未満の児が全体の57.3%を占めた.在胎36週未満の早期産児は28例(7.3%)で,正期産児と比較すると,有意に入院のリスクとなっていたが,在胎週数が少ないほどリスクが高くなるわけではないことが示された.一方,重症化の指標を人工呼吸管理,酸素送与,8日以上の補液とした場合,早期産児で重症化のリスクが有意に高かった.基礎疾患については慢性肺疾患は1例のみで比較的軽症だったが,先天性心疾患は9例でそのうち2例が人工呼吸管理となっておりその重要性が再認識された. |
|
【原著】 |
■題名 |
1988年から2002年における北海道上川支庁の小児細菌性髄膜炎の疫学的調査 |
■著者 |
旭川厚生病院小児科
坂田 宏 白井 勝 梶野 真弓 高瀬 雅史
岡本 年男 三浦 菜生 長森 恒久 鈴木 滋 |
■キーワード |
細菌性髄膜炎,肺炎球菌,インフルエンザ菌,B群溶連菌 |
■要旨 |
1988年から2002年までの北海道上川支庁の入院施設を有する8施設中6施設に入院した細菌性髄膜炎の小児34名について疫学的に検討した.15年間を前期(1988〜1992年),中期(1993〜1997年),後期(1998〜2002年)の3期にわけ人口10万人あたりの罹患率を算定した.34名の年齢分布は出生0日から5歳の範囲で,中央値は1歳であった.5歳未満は29名,そのうち1歳未満が14名と多く,生後1カ月未満の新生児は4名であった.原因菌ではHaemophilus influenzaeが21名と最も多く,次いでStreptococcus pneumoniae 5名,Streptococcus agalactiae 3名であった.予後は2名が死亡し,6名に後遺症が認められた.
患者数は前期7名,中期10名,後期17名であった.5歳未満の罹患率は前期5.1,中期7.5,後期11.5,5〜9歳では前期0,中期0.7,後期3.3といずれも増加していた.菌別にみると,H. influenzaeの5歳未満罹患率は前期2.2,中期4.2,後期7.1,同様にS. pneumoniaeも前期0.7,中期0.8,後期2.7と増加が認められた.
1999年以降に検出されたS. pneumoniae 2株,H. influenzae 13株について遺伝子変異を検討した.S. pneumoniaeはpbp2xとpbp2bの2遺伝子に変異した株とpbp2xのみ変異していた株がみられた.H. influenzaeは2株でpbp3-1に変異を認め,1株はβ-lactamase産生菌であった. |
|
【原著】 |
■題名 |
A型インフルエンザに対する2種類のイムノクロマト法迅速診断キットの比較検討 |
■著者 |
原小児科
原 三千丸 |
■キーワード |
インフルエンザ,迅速診断キット,イムノクロマト法,ウイルス分離 |
■要旨 |
2種類の,型別判定ができるインフルエンザ迅速診断キット,エスプライン★インフルエンザA&Bとキャピリア★FluA,Bの有用性の比較検討を行った.2002/2003シーズンに,インフルエンザを疑われた小児165例(全例3病日以内に検査)を対象とした.鼻咽腔吸引液を採取してウイルス分離に提出し,残りの検体に,稀釈,攪拌,さらに遠心処理を行って得られた上清を用いて迅速診断試験を行った.
101例よりインフルエンザA香港型が,6例よりB型が分離された.A香港型101例に対するエスプラインの感度,特異度は,95%,98%であり,キャピリアのそれは,それぞれ,96%,80%であった.キャピリアの特異度は有意に低かった.この101例の病日による感度の比較をエスプラインで検討した.1病日51例中49例(96%),2病日42例中40例(95%),3病日8例中7例(88%)陽性であり,有意差はみられなかった.さらに,発熱時刻が判明した69例で,発熱から検査までの時間(発熱直後から41時間までを5群に分けて検討)による感度に,有意差はみられなかった.鼻咽腔吸引液に稀釈,遠心処理を加え検体とし,エスプラインを用いて,精度の高いインフルエンザA型の診断が可能である.キャピリアの特異性には問題があり,改良の必要があると思われる. |
|
【原著】 |
■題名 |
悪性リンパ腫の化学療法中にreversible posterior leukoencephalopathy syndromeをきたした女児例 |
■著者 |
島根大学医学部小児科
鳥海 善貴 金井 理恵 木村 正彦 内山 温
安田 謙二 田草 雄一 瀬島 斉 山口 清次 |
■キーワード |
reversible posterior leukoencephalopathy syndrome,けいれん,高血圧,化学療法,非ホジキンリンパ腫 |
■要旨 |
前縦隔原発の非ホジキンリンパ腫の12歳女児に,化学療法開始後19日目と23日目にけいれんが出現した.けいれん後に高血圧がみられた.頭部MRI(FLAIR像)で,左頭頂葉,両側後頭葉,両側小脳半球等に多発性に異常高信号域を認めた.その後の頭部MRIで病巣の著明な改善がみられたため,reversible posterior leukoencephalopathy syndrome(RPLS)と診断した.本症のRPLSは化学療法が契機となって起こったと考えられたが,血圧のコントロールと抗けいれん剤によるけいれんの予防により,化学療法を継続することができた.化学療法中も含め高血圧や免疫不全を伴いうる病態においては,血圧の管理と,けいれんなどRPLSの主要神経症状の出現に注意し,MRIによる早期診断と対応が必要と思われた. |
|
【原著】 |
■題名 |
アルカリフォスファターゼ低値を契機に診断されたWilson病 |
■著者 |
日本医科大学千葉北総病院小児科
浅野 健 小泉 慎也 阿部 正徳 中島 瑞恵
桑原健太郎 上砂 光裕 今井 大洋 藤野 修 |
■キーワード |
ウイルソン病,溶血性貧血,肝機能障害,アルカリフォスファターゼ |
■要旨 |
低アルカリフォスファターゼ値が鑑別診断の契機になったウイルソン病の1男児例を報告した.患児は13歳男児で主訴は黄疸と全身倦怠感を主訴に入院.入院時検査にて大球性の高度の溶血性貧血と肝機能障害を認めた.血清アルカリフォスファターゼ低値よりウイルソン病を疑い血清銅,尿中銅,セルロプラスミンを測定したところ,血清銅,尿中銅の高値,セルロプラスミン値の低値に加えて,眼科学的検索ではKayser-Fleischer ringを確認し,ウイルソン病と診断した.原因不明の溶血性貧血を伴った肝機能障害症例においてアルカリフォスファターゼ低値はウイルソン病を疑わせる重要な鑑別点と考えられた. |
|
【原著】 |
■題名 |
成熟児中枢性無呼吸発作に対するアセタゾラミド少量投与療法
|
■著者 |
さいたま市立病院周産期母子医療センター小児科1),
獨協医科大学越谷病院小児科2),さいたま市立病院小児科3)
土屋 貴義1) 古庄 知己1) 服部 静香1)
市川 知則1) 森 和広1) 前山 克博1)
永井 敏郎2) 佐藤 清二3) 辻 敦敏1) |
■キーワード |
成熟児中枢性無呼吸発作,アセタゾラミド |
■要旨 |
アセタゾラミド少量投与療法は,成人の睡眠時無呼吸症候群に用いられるが,最近成熟児の中枢性無呼吸発作に対する有効性が報告された.今回我々は,成熟児中枢性無呼吸発作を呈する3症例に対し,本療法(7mg/kg/日,経口,分3,11週間)を試みた.2症例は頭蓋内出血との関係が推測される成熟児中枢性無呼吸発作であり,1症例は未熟児無呼吸発作が甲状腺機能低下症や新生児仮死に伴って遷延したと考えられる成熟児中枢性無呼吸発作であった.3症例ともに投与開始後1日で明らかな症状の改善が認められた.投与中,HCO3 −とBEの軽度低下が1症例に,原因を特定できない症候性代謝性アシドーシスが別の1症例に認められた.2症例では,投与開始後に在宅管理へ移行することができた.本療法は,成熟児中枢性無呼吸発作の治療において有効であるが,アシドーシスなどの副作用に注意する必要があることが示唆された. |
|
【原著】 |
■題名 |
高ガラクトース血症を契機に発見された肝外門脈―体循環シャントの1例 |
■著者 |
島根大学医学部小児科1),同 第二外科2),雲南総合病院小児科3),広島大学医学部小児科4)
堀江 昭好1) 安田 謙二1) 渡辺 浩1)
久守 孝司2) 田村 明子3) 福永 真紀3)
西村 裕4) 佐倉 伸夫4) 山口 清次1) |
■キーワード |
高ガラクトース血症,門脈低形成,肝外門脈―体循環シャント,門脈圧亢進 |
■要旨 |
新生児マススクリーニングで指摘された高ガラクトース血症を契機に,画像検査によって門脈低形成が疑われ,それに伴う肝外門脈―体循環シャントと診断された症例を経験した.ガラクトース代謝関連の3酵素の活性は正常範囲であった.本症例では上腸間膜静脈が脾静脈と合流直後に異常血管を介して左肝静脈に流入している稀な解剖学的異常であった.現在,肝逸脱酵素の軽度上昇,高アンモニア血症がみられ,脾腫,門脈圧亢進も疑われる状況である. |
|
【短報】 |
■題名 |
抗インフルエンザ薬によるA型インフルエンザ治療後のウイルス抗原検出率 |
■著者 |
ふじさわ小児科医院1),福井大学医学部小児科2)
藤澤 和郎1)2) 眞弓 光文2) |
■キーワード |
インフルエンザ,インフルエンザ抗原迅速診断,アマンタジン,オセルタミビル |
■要旨 |
抗インフルエンザ薬で4日間治療し,解熱後約48時間経過した時点で検査可能であった31名について,鼻腔拭い液中のウイルス抗原の有無について検討した.その結果,31名中15名(48.4%)において,A型インフルエンザウイルス抗原が鼻汁中に存在した.使用した薬品別にみると,アマンタジンでは17名中5名(29.4%),オセルタミビルでは14名中10名(71.4%)で陽性であった.ウイルス抗原の残存は必ずしも感染源となりうることを意味するものではないが,インフルエンザ罹患後の登校基準に関して,今後の検討が必要であると考えられた. |

|
【短報】 |
■題名 |
橈骨動脈血流異常により右拇指発育不全を認めたKlippel-Feil症候群の1例 |
■著者 |
鳥取県立中央病院小児科1),鳥取大学医学部脳神経小児科2)
豊島 光雄1) 岡 明2) 近藤 章子1) 戸川 雅美1)
橋田祐一郎1) 常井 幹生1) 星加 忠孝1) |
■キーワード |
Klippel-Feil症候群,拇指発育不全,橈骨動脈,血管形成異常 |
■要旨 |
Klippel-Feil症候群(KFS)の男児例を報告した.右拇指の骨,軟部組織の容量減少を合併していた.軽度の錐体路徴候を認めた以外に神経学的な異常はなかった.右橈骨動脈の拍動は触知せず,ドップラー超音波検査では血流は減少しており,血管形成異常が示唆された.容量減少の原因は軟部組織,骨膜への血流減少による拇指発育不全と推測した.
KFSにおいては不可逆的な中枢神経損傷を予防するために,早期発見と生活指導が重要である.CTによる骨の三次元再構成画像は患者,家族に対する病態説明を容易とし,積極的な予防への動機付けとなった.本法は診断のみならず,生活指導にも有用である. |

|
バックナンバーに戻る
|