 |
日本小児科学会雑誌 目次 |
第107巻 第9号/平成15年9月1日
Vol.107, No.9, September 2003
バックナンバーはこちら
|
 |
|
|
【総論】 |
■題名 |
川崎病における蛋白分解酵素の役割 |
■著者 |
埼玉医科大学付属病院小児心臓科1),小児科2)
先崎 秀明1) 増谷 聡1) 石戸 博隆1) 松永 保1)
竹田津未生1) 小林 俊樹1) 中野 裕史2) 佐々木 望2) |
■キーワード |
MMP,PAI-1,細胞外基質,川崎病 |
■要旨 |
Matrix Metalloproteinase(MMP)とその内因性inhibitorであるTissue inhibitor of MMP(TIMP),およびその上位制御系であるplasminogen activator(PA)/plasminと,そのinhibitorであるPA inhibitor-1(PAI-1)は,細胞外基質恒常性維持の中心的役割を演じている.従って,これらProtease系の量的不均衡が生じた状態は,細胞外基質の破壊亢進を引き起こすことにより,慢性関節リウマチにおける関節破壊,悪性腫瘍の浸潤といった種々の病態形成に密接に関与している.近年,川崎病においても,MMP活性化の方向に傾くProtease系の異常が冠動脈壁基質破壊をもたらし,冠動脈病変形成に重要な役割を演じている可能性が示唆されており,MMP/TIMP,PA/PAI-1系が今後冠動脈病変阻止の有効な治療標的になりうる期待がもたれる. |
|
【原著】 |
■題名 |
思春期の肥満女児における性発達と体脂肪分布およびレプチンの関係 |
■著者 |
済生会茨木病院小児科 間 敦子 |
■キーワード |
女児肥満,思春期肥満,体脂肪分布,レプチン,臀囲 |
■要旨 |
7歳〜14歳の肥満女児131名を対象に肥満が性発達に及ぼす影響について検討した.
同年齢の非肥満女児と比較して肥満女児ではすべての性発達(乳房発達,恥毛発現,初潮)が促進していた.乳房発達から初潮までの期間は肥満女児の方が約1年長かった.
体脂肪分布と乳房発達との関係においては臀囲との関連が最も強いと考えられた.
肥満女児の血清レプチン値は同じ性発達段階の非肥満女児に比べて有意に高値であった.肥満女児,非肥満女児ともに性発達の進行に伴い血清レプチン値は増加傾向にあったが,血清レプチン値を体脂肪量で除した値は両者とも減少する傾向にあり,これは思春期の完成に伴いレプチン抵抗性が解除される現象と考えられた.肥満女児における臀囲有意の脂肪蓄積と性発達段階におけるレプチンの推移は非肥満女児と同様であると考えられた.臀囲有意の脂肪蓄積パターンを逸脱したものでなければ,思春期以降自律的に標準体重へ調節できる可能性があり,肥満指導を行う際に考慮すべき事項であると考えた. |
|
【原著】 |
■題名 |
ロタウイルス胃腸炎とアデノウイルス感染症に伴う胃腸炎の臨床疫学的比較検討 |
■著者 |
公立相馬総合病院小児科1),福島県立医科大学医学部小児科学講座2)
川崎 幸彦1)2) 細矢 光亮2) 片寄 雅彦1) 鈴木 仁2) |
■キーワード |
ロタウイルス,アデノウイルス,急性胃腸炎,合併症,再罹患 |
■要旨 |
ロタウイルス胃腸炎とアデノウイルス感染症に伴う胃腸炎の疫学的臨床的特徴を明確にするために両疾患患児における臨床所見の後方視的比較検討を行った.対象は当科で診断したロタウイルス胃腸炎226例(I群)とアデノウイルス感染症に伴う胃腸炎51例(II群)とした.両群間で臨床症状,検査成績,合併症や再感染の有無について比較した.これらの診断にはロタ-アデノドライを用いた.I群では下痢の持続期間が長く,白色便や肝機能障害を有する症例が多くみられ,脱水の程度が強かった.II群では好中球優位の白血球数増多とCRP高値を示す症例が多く,急性虫垂炎や腸重積症を合併する症例が認められた.I群患児の4%に再罹患があり,その臨床症状は初感染時と比較して軽症化していた.ロタウイルス胃腸炎とアデノウイルス感染症に伴う胃腸炎は多彩な臨床症状を示し,脱水の程度も強く重篤な症例も多いので,合併症に留意する必要がある. |
|
【原著】 |
■題名 |
長期人工呼吸管理を要する超重症児のQOLと転帰 |
■著者 |
淀川キリスト教病院小児科1),日本バプテスト病院小児科2)
船戸 正久1) 玉井 普1) 西原 正人1)
伊藤 文英1) 国場 英雄1) 島田 誠一2) |
■キーワード |
long hospitalization,severely handicapped children,respiratory support,QOL,
palliative care |
■要旨 |
現在,NICUにおける長期入院児への対応が大きな問題になっている.今回特に人工呼吸管理を長期に必要とした超重症児のQOLとその転帰について分析し,今後の「より良いケア」のための考察を行った.対象は,1982〜2000年までの18年間に長期人工呼吸管理のために淀川キリスト教病院の慢性呼吸管理病棟に1年以上入院した超重症児14例である.入院経路は,NICU経由が8例,直接入院が6例であった.基礎疾患は,低酸素性虚血性脳症が8例,神経筋疾患が5例,先天奇形が1例であった.生存例6例の内,現在も入院中が5例(最長例は16年経過),在宅中が1例である.これらの症例は,Class B(制限的医療)を原則として適応している.一方死亡例の8例の内6例は,入院のまま肺炎,その他の原因で死亡した.最後は家族および医療チームと相談の上Class C(緩和的医療)を適応し,家族の希望がある場合のみClass D(看取りの医療)を適応した.一方残り2例は在宅および外泊中に残念ながら死亡した.今後これらの回復不可能な超重症児に対しては,技術のみ中心の「命をもてあそぶ医療」ではなく,全人的なQOLを高める緩和ケアを含めた「命をいつくしむ医療」の導入が重要であると思われた. |
|
【原著】 |
■題名 |
18トリソミー児の治療方針はどのように選択されたか |
■著者 |
淀川キリスト教病院小児科
国場 英雄 和田 浩 玉井 普 船戸 正久
中川友紀子 吉本 順子 笠井 正志 田場 隆介
西原 正人 伊藤 文英 |
■キーワード |
18トリソミー,意思決定,Class分け,臨床倫理,重症新生児 |
■要旨 |
18トリソミー児の治療について,両親への説明と治療の選択を1981年から2002年までの当院入院15例について後方視的に検討した.出生前診断がついていたのは一例のみで,全例に先天性心疾患を合併していた.治療の選択はClass A(積極的治療),Class B(制限的医療),Class C(緩和的医療),Class D(看取りの医療)の4段階を区別した.推定される予後を両親に説明し,児の最善の利益を求めて,両親の希望とあわせて治療が行われた.確定診断前後の対応はClass Bのままであったのが5例,Class Cのままであったのが2例,Class BからClass Cへと変わったのが8例であった.NICU入院中死亡は10例(確定診断後のClassはBが3例,Cが7例)で,生存退院が5例(確定診断後Class B 2例,C 3例)あった.個々の症例に対し医学的適応,両親の意向,QOLなどを総合的に考慮する臨床倫理学的アプローチが必要で,その時点での最善を選びとる一つの過程としてClass分けの意義があると考えられた. |
|
【原著】 |
■題名 |
小児の包茎に対する診療の現状 |
■著者 |
東京女子医科大学腎臓病総合医療センター泌尿器科1),同 小児科2)
山崎雄一郎1) 東間 紘1) 白髪 宏司2) 伊藤 克己2) |
■キーワード |
包茎,環状切除術,小児泌尿器科 |
■要旨 |
背景:小児の包茎に対する望ましい診療方針を考えるために,本邦の診療状況を調査した.
方法:第10回日本小児泌尿器科学会総会において全参加者を対象にアンケート調査を施行し,医師96名(回答率59%)の回答を検討した.アンケート内容は小児の包茎の診断・治療の必要性に関する設問とし多肢選択形式とした.
結果:小児の包茎の診断については必要63%,不必要37%であった.健常な小児に対する包皮翻転指導については必要・不必要それぞれ48%で同数であった.小児包茎に対する手術療法については47%が手術療法を是認し,52%は手術不要の立場をとっていた.現在最も頻度の高い治療方法としては59%の医師が包皮翻転を選択した.
結論:本邦では健常な小児の包茎に対する診療方針は医師の間で全く意見が異なる.現時点で特定の診療方針が子どもの健康に有益であるというエビデンスがない限り,医師は異なる選択肢を親に提示すべきである. |
|
【原著】 |
■題名 |
解熱発疹期にけいれんを群発したヒトヘルペスウイルス6脳炎・脳症の2例 |
■著者 |
国立病院東京災害医療センター小児科1),国立成育医療センター神経内科2),東京都立神経病院神経小児科3)
林 友美1) 長澤 哲郎1)2) 荒木 聡3)
宮島 智子1) 皆川 まり1) 柳沼 章弘1) |
■キーワード |
突発性発疹,ヒトヘルペスウイルス6,けいれん群発,急性脳炎・脳症,急性小児片麻痺 |
■要旨 |
我々は,突発性発疹の有熱期にけいれん重積で発症し,解熱後発疹期に繰り返す片側性の痙攣と遷延する意識障害を認め,後遺症として片麻痺を認めた2症例を経験した.2例とも臨床経過,血清ヒトヘルペスウイルス6(以下HHV-6)の抗体価上昇と髄液中HHV-6DNAが陽性で,HHV-6脳炎・脳症と診断した.2例とも運動機能の回復は良好であるが,脳血流SPECTで血流低下を,1例では頭部MRIで大脳半球の萎縮を認めた.
過去にHHV-6脳炎・脳症,急性小児片麻痺などと報告された例の中には,本症例類似の臨床経過を呈する例があったと考えられ,今後は起こりうる「HHV-6脳炎・脳症のけいれん群発型」の経過を認識し,痙攣群発に対する早期治療を含め,重篤な中枢神経後遺症を回避できる治療法の確立が必要と考えられた. |
|
【原著】 |
■題名 |
頸髄病変を伴った小児頸椎椎間板石灰化症の1例 |
■著者 |
青森労災病院小児科1),弘前大学医学部小児科2)
鳴海 洋子1) 金城 学1) 大高 雅文1) 上田 知実2) |
■キーワード |
小児椎間板石灰化,頸髄病変,四肢麻痺,髄内腫瘍 |
■要旨 |
小児頸椎椎間板石灰化症は,頸部痛,頸部運動制限を主訴とし,大部分が保存的療法で軽快する予後良好な脊椎疾患である.ごく一部の症例で,石灰化の前方および後方突出による嚥下障害や脊髄圧迫症状を伴い,外科的治療を要するが髄内病変合併の報告はない.我々は,ごく軽度の頭部外傷後に突然の四肢麻痺が出現した小児頸椎椎間板石灰化症の6歳男児例を経験したので報告する.頸椎X線写真およびCTにて頸椎椎間板石灰化を認め,さらにMRIにて同レベルの頸髄髄内病変を確認した.血液生化学一般検査,各種ウイルス抗体価,髄液検査,頭部CT,MRI検査はすべて正常であった.今回の症例で見られた髄内病変の発症には,脊柱管内への石灰化突出の関連が考えられた. |
|
【原著】 |
■題名 |
アデノウイルス脳炎経過中に半身ジストニアを認めた1例 |
■著者 |
琉球大学医学部小児科
城間 直秀 大城 聡 太田 孝男 |
■キーワード |
アデノウイルス,脳炎,ジストニア,抗コリン薬 |
■要旨 |
左半身ジストニアを呈したアデノウイルス脳炎の1歳男児において,頭部MRIおよびsingle photon emission computed tomography(SPECT)検査を行い,両側被殻に病変を認めた.
MRIではT1およびT2強調画像において高信号領域を認め,出血が疑われた.SPECTでは特に右前頭部から頭頂部と右側被殻部の相対的血流増加を認め,同部位の機能亢進が示唆された.
症候性ジストニアでは線条体,視床,頭頂葉などが責任病巣として挙げられている.今回の症例のように,片側の頭頂葉および被殻の機能亢進は半身ジストニアの原因となり得ると考えられた. |
|
バックナンバーに戻る

|