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日本小児科学会雑誌 目次 |
第106巻 第8号/平成14年8月1日
Vol.106, No.8, August 2002
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【原著】 |
■題名 |
肥満児における血中plasminogen activator inhibitor-1値と内臓脂肪との関連性 |
■著者 |
山梨医科大学小児科1),産業医科大学小児科2)
林辺 英正1) |
土橋 一重2) |
小寺 浩司1) |
内田 則彦1) |
中根 貴弥1) |
朝山光太郎2) |
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■キーワード |
肥満児,PAI-1,内臓脂肪,動脈硬化,アディポサイトカイン |
■要旨 |
肥満児における血中plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)値を測定し,内臓脂肪との関連性について検討した.対象は年齢9.9±0.4歳(平均±標準誤差),肥満度53.3±3.3%の肥満児36例(男児26例,女児10例)および同年齢非肥満児25例(男児13例,女児12例)とした.内臓脂肪蓄積の指標として臍高部CT画像より内臓脂肪面積(V),皮下脂肪面積(S),V/S比を算出した.血中PAI-1値はBiopool社製ELISAキットで測定した.肥満児の血中PAI-1値(21.4±0.7ng/ml)は,非肥満児(18.2±1.2ng/ml)より有意(p=0.019)に高値であった.肥満児のPAI-1値は,肥満度,体脂肪率と有意な相関を示さなかったが,VおよびV/Sと有意な正の相関を示した.また,血中PAI-1値は総コレステロール値/高比重リポ蛋白コレステロール値およびインスリン値と有意な正の相関を示した.内臓脂肪蓄積型の肥満児では,PAI-1の増加による動脈硬化の促進が既に始まっている可能性がある. |
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【原著】 |
■題名 |
IGFBP-3プロテアーゼ活性の簡便な測定法の開発および小児急性疾患における意義 |
■著者 |
慶應義塾大学医学部小児科学教室
麻生 泰二
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■キーワード |
IGFs,IGFBP-3 proteolytic activity,western immunoblot,acute diseases in children,cortisol |
■要旨 |
Insulin-like growth factor I(IGF-I)の結合蛋白であるinsulin-like growth factor binding protein 3(IGFBP-3)を分解するプロテアーゼ活性は心臓外科の術後患者の血清に存在する.このプロテアーゼが異化亢進時の生体防御反応のひとつであるか否かを検討する目的で,簡便なプロテアーゼ活性の測定法を開発し,小児急性疾患におけるプロテアーゼ活性を,遊離型IGF-I値,コルチゾール,インスリン値とともに測定した.
プロテアーゼ活性は,23名中8名で陽性で,遊離型IGF-Iと総IGF-Iとの比に相関し(P<0.0001),またコルチゾールと相関した(P<0.001).上記成績は,異化亢進が想定される小児急性疾患において,IGFBP-3プロテアーゼが生理的役割を担うことを間接的に示唆する. |
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【原著】 |
■題名 |
1999年〜2000年冬期の多治見市における小児のインフルエンザAの流行 |
■著者 |
多治見市民病院小児科1),大垣市民病院小児科2)
中村 浩1) |
竹本 靖彦1) |
近藤 應1) |
吉川かおり1) |
小林 由季1) |
森本 将敬2) |
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■キーワード |
インフルエンザA,気象条件,学級閉鎖,けいれん,塩酸アマンタジン |
■要旨 |
1999〜2000年シーズンの多治見市におけるA型インフルエンザの流行について,気象条件,学級閉鎖,中枢神経症状を伴う患児の出現との関連を検討した.対象は鼻咽頭吸引液でのA型インフルエンザウイルス迅速検査陽性の691例とした.陽性者数は1月に入り上昇し,1月17日以降急激に増加し,1月24日をピークに流行は終息に向かった.気温,降水量と陽性者数との相関を検定したところ,いずれも負の相関が認められた.学級閉鎖との関連では新学期開始後1週間の段階で陽性者数の急激な上昇を認め,学級閉鎖は約3週間にわたった.中枢神経症状を呈した症例は18例で,陽性者数が急増した1月17日からの3週間に11例を認めた.塩酸アマンタジンの効果では,3日以内に解熱した入院症例は投与例67例中29例,非投与例34例中7例であった. |
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【原著】 |
■題名 |
小児気道異物症例の検討とMRIの適応について |
■著者 |
千葉大学大学院医学研究院小児病態学
内田 千絵 |
星野 直 |
黒木 春郎 |
高梨 潤一 |
河野 陽一 |
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■キーワード |
気道異物,ピーナッツ,MRI,診断 |
■要旨 |
当科において1993年から1999年に気道異物症例19例を経験した.このうち病初期の胸部単純X線写真で透過性の左右差・縦隔偏位を認めた症例は,それぞれ9例・12例で,5例では異常所見を認めなかった.異物の種類ではナッツ類が13例を占めた.これらの症例のうち診断が容易でなかった3例で,magnetic resonance imaging(以下MRI)を施行し確定診断を得た.ナッツなどのX線透過性異物の診断において,異物を疑わせる病歴や所見が明らかでない場合などにMRI検査は有用である.MRI検査は長い撮影時間と鎮静を要するが,場合によってはX線透過性異物の診断に有用であり,考慮すべき診断法であると考えられた. |
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【原著】 |
■題名 |
スギ花粉症の一症状としてのアレルギー性外陰膣炎 |
■著者 |
市立島田市民病院小児科
後藤 幹生 |
柳沢 龍 |
松吉創太郎 |
熊田 知浩 |
武藤 庫参 |
廣瀬 安之 |
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■キーワード |
スギ花粉症,アレルギー性外陰膣炎,外陰部・膣の掻痒 |
■要旨 |
スギ花粉症にともなったアレルギー性外陰膣炎の8歳女児を報告する.3シーズン続けてスギ花粉症の極期に強い外陰部・膣の掻痒を訴えた.スギ花粉に対する特異的IgEは>100Ua/mlと高値で,外陰部スメアでは,好酸球が優位に認められた.肌着を屋内で干す,スカートを避けてズボンをはく,排尿時など外陰部に触れる前に手を洗うといった抗原除去と,オキサトミドの内服により,症状は軽快した.
本疾患は,思春期以前のスギ花粉症の女児に合併することが多く,スギ花粉症の低年齢化により今後増加する可能性がある.小児科医の間では,スギ花粉症に外陰部・膣の掻痒をともなうことは知られておらず,細菌性や真菌性外陰膣炎,尿道炎・膀胱炎,蟯虫症,アトピー性皮膚炎などと誤認されている可能性もある.患児は,鼻炎・結膜炎症状以上に外陰部・膣の掻痒に深刻に悩まされており,適切な診断と治療が望まれる. |
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【原著】 |
■題名 |
中枢性甲状腺機能低下症に移行した新生児一過性甲状腺機能亢進症の1例 |
■著者 |
国立佐賀病院小児科1),佐賀医科大学小児科学教室2),
長崎大学小児科学教室3),ばばこどもクリニック4)
間 智子1)2) |
江頭 昌典1) |
伊東 雅樹1) |
今村 善彦1) |
漢 由華1)2) |
漢 伸彦1) |
高柳 俊光1) |
久野 建夫2) |
木下 英一3) |
馬場 常嘉4) |
森内 浩幸3) |
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■キーワード |
Graves'病,新生児甲状腺機能亢進症,中枢性甲状腺機能低下症,TSH受容体抗体,甲状腺刺激抗体 |
■要旨 |
新生児期に甲状腺機能亢進症を呈した後,中枢性甲状腺機能低下状態へ移行した極低出生体重児の1例を経験した.母親は甲状腺亜全摘術を受けたGraves’病で,妊娠中TSH受容体抗体が高値であった.生後2カ月より抗甲状腺剤投与を開始し,甲状腺機能は一旦正常化したが,次第に低TSH,低free T4血症に移行した.治療中止後も低TSH血症,低free T4血症が持続し,1歳時に施行したTRH負荷試験でTSHの低反応を確認した.本症の成因は明らかではないが,視床下部―下垂体―甲状腺系のフィードバック機能の未熟性に加え,満期前の甲状腺ホルモン過剰状態が下垂体からのTSH分泌を強く抑制し,その後もTSHの抑制が解除されない状態が推測される. |
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【原著】 |
■題名 |
乳児期に致死的状況を繰り返した上室性頻拍に対する高周波カテーテルアブレーションの臨床効果 |
■著者 |
富山県立中央病院小児科,同内科*
新谷 尚久 |
畑崎 喜芳 |
藤田 修平 |
種市 尋宙 |
長沖 周也 |
五十嵐 登 |
臼田 和生* |
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■キーワード |
乳児,wide QRS頻拍,変行伝導,電気生理学的検査,高周波カテーテルアブレーション |
■要旨 |
器質的心疾患を伴わない,wide QRS頻拍が原因で,致死的状況を繰り返した日齢75日目の乳児に,観血的電気生理学的検査(EPS)を施行した.EPSにより,不整脈の焦点を正確に同定することができ,同時に本頻拍の原因である,異所性異常自動能の生成源に対し,高周波カテーテルアブレーション(CA)による治療を行った.
この結果,短期的な合併症を全く認めず,良好な経過が得られた.乳児期の不整脈は,成人と病因や臨床像が異なると考えられるが,EPSおよびCAは乳児期の難治性頻拍性不整脈の診断ならびに治療手段として選択されうる,安全で有効な方法であることが示された. |
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【原著】 |
■題名 |
末梢性感覚異常と失調歩行で発症した抗GD1bIgG抗体陽性ギラン・バレー症候群の1例 |
■著者 |
和歌山県立医科大学小児科
林 寛子 |
南 弘一 |
柳川 敏彦 |
崎山美知代 |
泉 鉉吉 |
吉川 徳茂 |
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■キーワード |
ギラン・バレー症候群,感覚障害,失調歩行,抗GD1bIgG抗体 |
■要旨 |
手袋・靴下型の異常感覚と失調歩行で発症し,その後急激な筋力低下が進行したギラン・バレー症候群の10歳男子例を報告した.電気生理学的には運動神経の脱髄変性が主体と考えられた.免疫グロブリン大量静注療法を施行し,臨床症状の著明な改善を認め,後遺症は残さなかった.
血清ガングリオシド抗体は,抗GD1bIgG抗体が単独に上昇しており,抗GM1抗体,抗GQ1bIgG抗体は陰性であった.末梢性感覚異常と失調歩行で発症し,抗GD1bIgG抗体が単独に上昇したギラン・バレー症候群の小児例の報告はなく,抗GD1bIgG抗体が本例の感覚障害や失調歩行の症状発現に関与する可能性も考えられた. |
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【原著】 |
■題名 |
1歳で腎石灰化をきたした先天性尿細管性蛋白尿症の男児例 |
■著者 |
東京都国保連福生病院小児科1),東京大学分院小児科2),国立小児病院3)
松山 健1) |
清水マリ子1) |
中條 綾1) |
五月女友美子1) |
五十嵐 隆2) |
伊藤 拓3) |
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■キーワード |
先天性尿細管性蛋白尿症,腎石灰化 |
■要旨 |
本児の兄が3歳検尿から先天性尿細管性蛋白尿症と診断され,本児も家族調査から乳児期に同症と診断された.成長発達は全く正常で,本兄弟とその母はCLCN5の遺伝子異常(exon2)であることが確認された.
本児の尿中β2ミクログロブリンは1万〜7万μg/lという異常高値で推移したが,腎糸球体機能は現在のところ正常である.また兄に比し若干高度な高カルシウム尿症(Ca/Cr比0.30〜0.60)を伴い,1歳時から超音波検査とCTscanにより腎石灰化が判明した.本症の合併症として高カルシウム尿症と腎石灰化が指摘されているが,本児の腎石灰化は他の症例に比し著しく低年齢の発症で,遺伝子異常の部位や本児の牛乳好きという食事嗜好の関与も示唆される. |
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【短報】 |
■題名 |
TRH療法が著効を示した脊髄性筋萎縮症の1例 |
■著者 |
明石市立市民病院小児科1),明石市立ゆりかご園2),
神戸大学医学部保健学科3)
短田 浩一1) |
杉野由里子1) |
中林 佳信1) |
河瀬 昌司1) |
大塚 拓治1) |
山本 稔2) |
高田 哲3) |
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■キーワード |
TRH(thyrotropin-releasing hormone)療法,脊髄性筋萎縮症II型 |
■要旨 |
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy,以下SMAと略す)II型の3歳の男児に対してTRH(thyrotropin-releasing hormone)療法を施行し,運動機能の著明な改善を得た.副作用は認められず,SMAの症例に対してTRH療法を試みる価値があると考えられた. |
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【短報】 |
■題名 |
受動喫煙妊婦から生まれた新生児の尿中ニコチン濃度について |
■著者 |
市立島田市民病院小児科1),静岡県立こども病院内分泌代謝科2)
後藤 幹生1) |
岡田まゆみ1) |
松吉創太郎1) |
熊田 知浩1) |
武藤 庫参1) |
廣瀬 安之1) |
加治 正行2) |
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■キーワード |
妊婦,受動喫煙,タバコ,ニコチン,尿中ニコチン濃度 |
■要旨 |
受動喫煙もしくは自身の喫煙の明らかな妊婦から出生した新生児の尿を母乳授乳開始前の生後24時間以内に採取し,尿中ニコチン濃度を測定した.母が受動喫煙のみの5例のうち,父が母のそばで1日5本以上吸う4例では,尿中ニコチン濃度は3.3〜25.3ng/mlであった.母が喫煙する2例では,174.4と176.2ng/mlと高値であった.受動喫煙妊婦の児でも,最大で,自身が喫煙する妊婦の児の約7分の1の値に達していた. |
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