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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:02.06.26)

第106巻 第6号/平成14年6月1日
Vol.106, No.6, June 2002


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総 説
21世紀の小児救急医療
田中 哲郎 721
原 著
1.喘鳴を反復する乳幼児における血清IgGサブクラスの定量的解析
松永 健司,他 730
2.成長ホルモン分泌不全性低身長症における骨年齢自動測定法と日本人標準TW2法の比較
田中 紀子,他 734
3.Salmonella Saintpaulによる保育園食中毒の臨床,細菌学的検討
国場 英雄,他 739
4.川崎病ガンマグロブリン療法における製剤間での治療効果の比較
牟田 広実,他 742
5.地理情報システムを用いたマラウイのコミュニティレベルにおける小児低栄養の分布予測
中野 博行,他 747
6.高酸素親和性,不安定ヘモグロビン症,hemoglobin Buenos Aires症の狐発例
太田  茂,他 755
7.慢性溶血と急性溶血性貧血を認めた新型グルコース-6-リン酸脱水素変異酵素(G6PD Tenri)の日本人兄弟例
伏見 育崇,他 759
8.難治性の心因性喘息を疑われてきたvocal cord dysfunctionの1例
森澤  豊,他 684
短 報
1.直腸拭い液によるロタウイルス胃腸炎の迅速診断
原 三千丸 766
2.便中Helicobacter pylori抗原をスタンダードとした尿中抗Helicobacter pylori IgG抗体の有用性の検討
坊岡 美奈,他 768
3.Nuss法による漏斗胸手術−5例の経験
吉岡 秀人,他 770
地方会抄録(中部日本,中国四国,奈良,和歌山,北海道,岡山,東京,熊本,北陸) (772)
厚生労働省川崎病研究班報告 川崎病診断の手引き−改訂第5版 (836)
専門医にゅーす No.1  (838)
小児科専門医制度に関する規則・小児科専門医制度に関する規則施行細則 (840)
会員名簿作成委員会からのお知らせ (845)
雑報 (846)
日本医学会への加盟申請についての公示 (847)
日本医学会だより No.27 (848)
投稿規定(和文,英文)


【原著】
■題名
喘鳴を反復する乳幼児における血清IgGサブクラスの定量的解析
■著者
済生会御所病院小児科
松永 健司   今津美由紀
■キーワード
IgGサブクラス,乳幼児,喘鳴,アトピー性
■要旨
 喘鳴を反復する乳幼児24例(男児12例,女児12例)の血清IgGサブクラスについて定量的に解析した.24例をアトピー性喘鳴10例と非アトピー性喘鳴(喘息様気管支炎や急性細気管支炎)14例の2群に分けた.年齢,血清IgG,IgA,IgM量には両群間に有意差を認めなかった.各IgGサブクラス量は今回入院時の血清を検体として抗ヒトIgG1,IgG2,IgG3,IgG4の4種のモノクローナル抗体を用いたELISAにより測定し,両群間の比較をした.また,同年齢正常対照(Hayashibara H,et al)とも比較した.その結果,IgG2は非アトピー性95.9±38.4,アトピー性183.2±94.7mg/dlと非アトピー性で有意に(p<0.05)低かった.非アトピー性14例中5例(36%)でIgG2は80mg/dl以下を示し,うち2例は同年齢正常対照平均の−2SD以下であり欠乏症であった.一方,IgG4はアトピー性24.5±27.0,非アトピー性7.1±5.6mg/dlとアトピー性で有意に(p<0.05)高かった.IgG1およびIgG3は両群間に差がなかった.


【原著】
■題名
成長ホルモン分泌不全性低身長症における骨年齢自動測定法と日本人標準TW2法の比較
■著者
国立小児病院小児医療研究センター1),東京女子医科大学第2病院小児科2)
都立清瀬小児病院内分泌代謝科3),国立小児病院4)
東京都立大学理学部5),東北大学大学院歯学研究科6),日本体育協会7)
田中 紀子1) 佐藤 直子1) 田中 敏章1) 松岡 尚史2)
村田 光範2) 安蔵  慎3) 松尾 宣武4) 大槻 文夫5)
佐藤 亨至6) 塚越 克己7)
■キーワード
骨年齢,骨年齢自動測定器(CASMAS),日本人標準TW2‐RUS法
■要旨
 連続的に変化する骨年齢を的確に評価するために日本人小児を対象とした骨年齢自動評価システム(CASMAS)が開発され,幾つかの対象別の報告で十分に臨床的に使用可能なことが示唆されている.今回,GH治療を行った成長ホルモン分泌不全性低身長(GHD)の日本人小児10例(4〜19.9歳)についてCASMAS(Aモード:第3基節骨,第3中節骨,第3末節骨を評価.Bモード:Aモードに橈骨を加えて評価.)および日本人標準TW2‐RUS法(JTW2‐RUS)で骨年齢を評価し比較した.AモードとJTW2‐RUSはr=0.98,Bモードはr=0.97(p<0.0001)と強い相関を示し,A,Bモード間には有意差はなかった.また,症例別の縦断的変化を比較すると8例中5例は各値とも暦年齢とほぼ平行に進行していたが,3例は一定年齢で暦年齢と骨年齢の進行に差がみられ,JTW2‐RUSの方がその差が大きかった.この3例の骨別の分析結果をみるとJTW2‐RUS法で重要な評価対象の尺骨が急速に成熟しており,これが成因の一つと考えられた.GHD治療の臨床において,CASMASによる骨年齢評価はJTW2‐RUSと同等または,それ以上に有用であった.


【原著】
■題名
Salmonella Saintpaulによる保育園食中毒の臨床,細菌学的検討
■著者
淀川キリスト教病院小児科
国場 英雄   笠井 正志   森川 嘉郎
■キーワード
サルモネラ腸炎,乳幼児,集団食中毒,二次感染
■要旨
 1999年9月,T保育園でSalmonella Saintpaul(血清型O4)による食中毒が発生した.6カ月から6歳の園児148名中47名(32%)が発症した.発症率は1歳未満67%から6歳15%にわたり,低年齢ほど有意に高かった(P<0.01,相関係数γ=−0.94).発症は喫食後4日目をピークとし,二次感染を疑う一例も認められた.症状は発熱,下痢,腹痛.排菌は4〜6週間後14例中7例(50%)が陽性であった.無症状になっても排菌が続くことが多く,二次感染を起こす危険もあるので,家族内感染の防止策が重要と考えられた.

【原著】
■題名
川崎病ガンマグロブリン療法における製剤間での治療効果の比較
■著者
久留米大学医学部小児科
牟田 広実 石井 正浩 廣瀬 彰子 古井  潤
菅原 洋子 姫野和家子 赤木 禎治 加藤 裕久
■キーワード
川崎病,ガンマグロブリン,冠動脈病変,副作用
■要旨
 【目的】ガンマグロブリン(GG)製剤間の治療効果・副作用の違いについてプロスペクティブに比較検討すること.【対象と方法】’97年1月より’01年3月までにGG療法をおこなった川崎病患児142例を,乾燥スルホ化製剤群50例,pH4処理酸性製剤群(酸性群)56例,ポリエチレングリコール処理製剤群(PEG群)36例に無作為にわけ,原田のスコアにより投与量を決定.全例アスピリンまたはフルルビプロフェンを併用した.【結果】各製剤間で,年齢,性別,原田のスコア,投与開始病日に偏りはなかった.初回治療での不応例は21.4−30.6%であり,各群間で有意差はなかった.急性期冠動脈病変についても2.8〜10.0%であり,各群間で有意差はなかった.副作用は,酸性群で発疹1例(1.8%),PEG群で好中球減少1例とショック1例の計2例(9.1%)を認めたが,各製剤間で有意差はなかった.【結論】GG製剤間で治療効果・副作用に差はみられなかった.


【原著】
■題名
地理情報システムを用いたマラウイのコミュニティレベルにおける小児低栄養の分布予測
■著者
聖マリア病院国際協力部1),ハーバード大学公衆衛生大学院2)
中野 博行1)   穂積 大陸1)2)
■キーワード
マラウイ,開発途上国,小児低栄養,地理情報システム(GIS),コミュニテイ
■要旨
 小児の低栄養は開発途上国において早急に対応すべき優先的保健課題の1つである.本研究では,東アフリカのマラウイにおいて,地理情報システム(GIS)の手法を用いてコミュニティレベルにおける小児低栄養の有病率の予測を試みた.
 総計44のコミュニティにおいて6カ月から5歳未満の437人の小児に身体計測を行い,低体重,低身長および消耗の有病率を算出した.また,人口データおよび各種の地理情報を求め,低栄養の有病率と地理データの間で多重回帰分析を行った結果,GIS指標により小児の低栄養(低身長)の予測が可能な回帰式が得られた.この回帰式には,女性の未就学率や5歳未満児の割合のほか地理情報にもとづく食糧アクセスの要因が関与していた.
 得られた回帰式の有用性が他のコミュニティで行った身体計測で実証されたため,これを用いてマラウイ全土におけるコミュニティレベルの小児低栄養の有病率予測を行った.


【原著】
■題名
高酸素親和性,不安定ヘモグロビン症,hemoglobin Buenos Aires症の狐発例
■著者
天理よろづ相談所病院小児科1)
山口大学医学部保健学科病態検査学講座2)
太田  茂1)  新宅 教顕1)  服部 幸夫2)
■キーワード
hemoglobin Buenos Aires,高酸素親和性,慢性代償性溶血性疾患,溶血発作,摘脾
■要旨
 Hb Buenos Aires症の12歳男児例を報告した.本例は,安定状態では,ヘモグロビン濃度は12〜13g/dlと貧血はみられなかったが,黄疸,網赤血球増加を認めた.経過中に溶血発作,無形成発作の合併がみられた.ヘモグロビン分画ではHb Buenos Airesが21.3%を占めていた.静脈血ヘモグロビン酸素飽和度は52.1%と高かったが,静脈血酸素分圧が低く,動静脈酸素含量差は正常であった.遺伝子解析の結果,本例はHb Buenos Airesのヘテロ接合型狐発例と診断された.
 Hb Buenos Aires症は極めて稀である.本例,これまでの報告例からみると,Hb Buenos Airesは貧血発作を合併する代償性溶血性疾患の臨床像を呈すると考えられる.Hb Buenos Airesは高酸素親和性であるが,我々の例では臨床症状,動静脈酸素含量差が正常であることから組織酸素欠乏はないと考えられた.本疾患における摘脾の効果は定まっておらず,本例では摘脾は施行しなかった.


【原著】
■題名
慢性溶血と急性溶血性貧血を認めた新型グルコース-6-リン酸脱水素変異酵素(G6PD Tenri)の日本人兄弟例
■著者
天理よろづ相談所病院小児科1),冲中記念成人病研究所2)
東京女子医科大学中央検査部3)
伏見 育崇1) 太田  茂1) 廣野  晃2) 新宅 教顕1)
清水  健1) 藤井 寿一3) 三輪 史朗2)
■キーワード
グルコース-6-リン酸脱水素酵素異常症,G6PD Tenri,慢性溶血,急性溶血性貧血
■要旨
 日本人家系にみられた新型グルコース-6-リン酸脱水素酵素変異(G6PD Tenri)例の臨床像を報告した.
 発端者の男児は3歳4カ月時に急性溶血性貧血をきたし,G6PD異常症と診断された.患児の恒常期のG6PD活性は15.0%で,ヘモグロビン量は10.7〜12.3g/dl,網赤血球は3.6〜6.8%であった.発端者の弟にもG6PD活性低下があり,恒常期の活性は31.3%であり,ヘモグロビン量は8.0〜12.5g/dl,網赤血球は2.3〜6.8%であった.弟は2歳10カ月時に感染症を契機とする急性溶血性貧血をきたした.発端者,弟に新生児重症黄疸はなかった.母親のG6PD活性は正常であり,母親には慢性溶血,急性溶血性貧血はみられなかった.
 遺伝子解析により発端者,弟はG6PD変異(366Lys→Glu)のヘミ接合体,母は同変異のヘテロ接合体と診断された.このG6PD変異はこれまでに報告がなく,新型G6PD変異としてG6PD Tenriと命名した.


【原著】
■題名
難治性の心因性喘息を疑われてきたvocal cord dysfunctionの1例
■著者
国立小児病院アレルギー科1),高知医科大学小児科2)
森澤  豊1)2) 大矢 幸弘1) 益子 育代1) 石井 徹二1)
渡辺 博子1) 須田 友子1) 河原 秀俊1) 勝沼 俊雄1)
赤澤  晃1) 脇口  宏2)
■キーワード
Vocal cord dysfunction,心因性喘鳴,喉頭リラクセーション
■要旨
 Vocal cord dysfunction(以下VCD)は声帯の機能異常に伴い発作性に喉頭部の喘鳴や呼吸困難を呈する病態である.しばしば精神的ストレスによって症状が発現し,気管支拡張剤の使用によって症状が改善しないため,心因性喘息や難治性喘息と誤診されることがある.今回我々は,喘鳴を伴う呼吸困難を繰り返し,多くの医療機関で数年にわたり心因性喘息と診断されていた12歳男児例を経験した.注意深く症状を観察したところ,典型的な気管支喘息の症状とは異なり,肺機能検査では閉塞性のパターンを示さず,メサコリン負荷試験でも気道過敏性は認められなかった.喘鳴は吸気時に喉頭周囲で優位に聴取でき,ストレス時に増悪する傾向が見られた.これらの所見から患児の喘鳴の原因はVCDであると診断し,喉頭リラクセーションや筋弛緩訓練などの治療介入を行った結果,喘鳴は軽減し発作出現時も自己コントロールが可能になった.


【短報】
■題名
直腸拭い液によるロタウイルス胃腸炎の迅速診断
■著者
原小児科
原 三千丸
■キーワード
ロタウイルス胃腸炎,迅速診断キット,直腸拭い液
■要旨
 ウイルス性胃腸炎を疑われた小児35例を対象として,便の電顕法によるロタウイルスの検出と,直腸拭い液を検体としたロタウイルス検出キット(イムノカードSTロタウイルス®)による迅速診断を行なった.便の電顕法によりロタウイルスが20例で検出された.この20例中,直腸拭い液を用いたキットでの陽性は19例(感度95%)であった.ロタウイルスが検出されなかった15例では,キットによる陽性は皆無であった(特異性100%).
 直腸ぬぐい液を用いたロタウイルス胃腸炎の迅速診断は十分可能と考えられる.


【短報】
■題名
便中Helicobacter pylori抗原をスタンダードとした尿中抗Helicobacter pylori IgG抗体の有用性の検討
■著者
勝浦町立温泉病院内科1),和歌山労災病院小児科2)
和歌山県立医科大学小児科3),堺市衛生研究所4)
坊岡 美奈1) 奥田真珠美2) 宮代 英吉2) 小林 昌和3)
小池 通夫3) 田中 智之4) 吉川 徳茂3)
■キーワード
便中H. pylori抗原,尿中IgG抗体
■要旨
 小児のHelicobacter pylori(以下H. pylori)感染診断における尿中抗H. pylori IgG抗体の有用性を検討した.便中H. pylori抗原検出法をスタンダードとすると尿中H. pylori IgG抗体は感度95.2%,特異性93.1%,一致率94.0%であった.尿を採取するだけという簡単で非侵襲的なこの検査法は小児のH. pylori感染診断のスクリーニングや疫学調査に応用が期待される.


【短報】
■題名
Nuss法による漏斗胸手術―5例の経験
■著者
川崎医科大学小児外科,同 小児科*
吉岡 秀人 青山 興司 田淵 陽子
六車  崇 近藤 陽一*
■キーワード
漏斗胸,Nuss法,合併症
■要旨
 漏斗胸に対する手術術式はさまざまな方法が考案され報告されているが,Nussらにより報告された胸腔鏡補助下に金属バーを両側胸腔に通し胸骨を前方に持ち上げる方法は,従来問題とされた侵襲の大きさや美容的欠点を大きく改善した.臨床の第一線で漏斗胸に遭遇する機会の最も多い小児科医は,どのような術式がどの施設で行われているかを認識した上で紹介病院を選択する必要がある.本邦でも急速に広まっているNuss法を紹介する.





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