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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:02.05.27)

第106巻 第5号/平成14年5月1日
Vol.106, No.5, May 2002


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総 説
血友病治療−21世紀の展望−
吉岡  章 631
原 著
1.フェニルケトン尿症:5歳時の知能指数と各年齢層の血清フェニルアラニン値との関連
諸石 和枝,他 639
2.新生児甲状腺機能におよぼすヨード過剰の影響
朝倉 由美,他 644
3.アデノウイルス3型,7型感染症の比較検討
吉光 千記,他 650
4.成長期における日常生活活動量の体力・運動能力に及ぼす影響
加賀  勝,他 655
5.先天性心疾患の手術によって乳児と分離があった母親の母性愛着に関する研究
太田 にわ,他 665
6.1カ月健診における超音波診断法による先天性股関節脱臼のスクリーニング
小川  哲,他 673
7.室内ホルムアルデヒドが気管支喘息の発症・悪化に関与したと考えられた2症例
岸田  勝,他 680
8.全身型Carnitine palmitoyltransferase II型欠損症の1例
吉田  忍,他 684
9.開胸下心肺補助循環装置を用いて救命できた劇症型心筋炎の1例
和泉 美奈,他 688
10.顔面神経麻痺を合併した川崎病不全型の1乳児例
小川 美奈,他 692
編集委員会への手紙 (696)
地方会抄録 (栃木,山形,福岡,香川) (697)
お知らせ
雪印乳業育児用粉乳への抗酸菌(死菌)混入問題に関する報告
日本小児科学会理事会 709
委員会報告
牛海綿状脳症に関する我が国の牛肉などの安全性についての見解
日本小児科学会栄養委員会 711
日本小児科学会理事会議事要録 (712)
雑報 (717)
医薬品・医療用具等安全性情報 No.175 (720)


【原著】
■題名
フェニルケトン尿症:5歳時の知能指数と各年齢層の血清フェニルアラニン値との関連
■著者
久留米大学医学部小児科1),佐賀女子短期大学生活学科2)
久留米大学医学部ガスクロマト―質量分析医学応用研究施設3)
諸石 和枝1)2) 吉田 一郎1)3) 原田 英明1)
河野  剛1) 芳野  信1)
■キーワード
フェニルケトン尿症,知能予後,血清フェニルアラニン値
■要旨
 フェニルケトン尿症の治療過程の中で,知能予後が特に影響を受けやすい年齢層があるかどうかを明らかにすることは,本症患児の管理上重要であると思われる.そこで今回は,脳の発育の盛んな6歳までの各年齢層の血清フェニルアラニン(Phe)のコントロール状態と,知能指数との関係を検討した.その結果,全症例の知能指数(IQ)値は110±16であり,≧120(A群)は5名,90≦〜120(B群)は6名,<90は1名であった.IQ値は単相関ではIV期の血清Phe値と負の相関を認め,また重回帰分析ではIV期,III期,ついでI期の順で血清Phe値との関係がみられた.このことはPhe値の影響は,治療経過中のいずれの時期でも均等なわけではないことを示している.これらの結果から,IQ値にはそれまでの治療経過の状況に加え,検査時直近の管理状態も影響することがわかった.


【原著】
■題名
新生児甲状腺機能におよぼすヨード過剰の影響
■著者
神奈川県立こども医療センター内分泌代謝科
朝倉 由美 安達 昌功 立花 克彦
■キーワード
ヨード過剰,一過性甲状腺機能低下症,クレチン症マススクリーニング
■要旨
 1984年10月から1997年1月の間に精査のため当院を受診したマススクリーニング陽性者440例のうち,初診時にTSH高値,あるいはT4もしくはfT4の低値が認められた150例を対象とし,新生児一過性甲状腺機能低下症の原因のひとつとして知られているヨード過剰に関して検討した.一過性甲状腺機能低下症と診断されたのは58例で,そのうちヨード過剰が原因と考えられたのは20例であった.初診時の甲状腺機能は様々でTSHが100μU¥外字(9250)mlを越えるものや,fT4の低下を伴うものもみられた.ヨード過剰による一過性甲状腺機能低下症の予防には,胎児造影の禁止,周産期のヨード含有消毒剤の安易な使用を控えることはもちろん,妊娠中の海藻の過度の摂取や不必要なヨード剤の摂取,ヨード含有消毒剤によるうがい等の他,新生児期の造影や消毒等にも注意し,過剰なヨード摂取を防ぐことが大切と考えられた.


【原著】
■題名
アデノウイルス3型,7型感染症の比較検討
■著者
社会保険広島市民病院小児科
吉光 千記 大和  愛 石川 暢恒
岡本 吉生 高田 啓介 小川 和則
鎌田 政博 伊予田邦昭 岡崎 富男
■キーワード
アデノウイルス3型感染症,アデノウイルス7型感染症,重症肺炎,高サイトカイン血症
■要旨
 アデノウイルス3型感染症120例とアデノウイルス7型感染症115例の年齢,臨床診断名,臨床症状,検査所見などの臨床像を比較検討した.アデノウイルス7型では,3型に比べ,年長児の症例が多く見られた.両者とも上気道炎の症例が主体であったが,気管支炎,肺炎などの下気道の炎症を起こす頻度は3型で高く,逆に,重症肺炎は7型のみに見られた.発熱持続期間は7型で有意に長く,1週間を超える症例も多く見られた.3型では,末梢血白血球増多やCRPの上昇などの炎症反応がより強く認められ,7型では,血清トランスアミナーゼ値の上昇例が多く認められた.播種性血管内凝固症候群などの重症例や死亡例は7型のみであった.

【原著】
■題名
成長期における日常生活活動量の体力・運動能力に及ぼす影響
■著者
岡山大学教育学部1),高梁市立宇治小学校2)
岡山大学大学院医歯学総合研究科3)
加賀  勝1) 平田 和子2) 高橋 香代1) 清野 佳紀3)
■キーワード
体力・運動能力,歩数,日常生活活動量,成長率
■要旨
 成長期の日常生活活動量が体力・運動能力に与える影響について,歩数,身長,体重,PHV(Peak Height Velocity),年齢,体力・運動能力テストを調査して明らかにすることが目的である.調査対象は小学校5年生から高校3年生までの男子388名,女子408名である.体力・運動能力を目的変数,身長・体重・歩数を従属変数として各学年別に重回帰分析をした結果,運動能力には中学・高校期で歩数が影響を与えており,体力には体格の影響が認められた.また,中学生以上の対象について,各個人の成長率が最大となる年齢(PHV年齢)を求め,発育段階との関連を検討した.その結果,PHV1年後の男子で,持久力,瞬発力,敏捷性について日常生活活動量の影響が明らかになった.


【原著】
■題名
先天性心疾患の手術によって乳児と分離があった母親の母性愛着に関する研究
■著者
岡山大学医学部保健学科1)
岡山大学大学院医歯学総合研究科小児医科学2)
太田 にわ1) 小田  慈1) 大月 審一2) 清野 佳紀2)
■キーワード
先天性心疾患,母性愛着,母子分離,日本版MAI尺度,家族状況
■要旨
 本研究は,日本版MAI(Maternal Attachment Inventry)尺度を用いて,病児の母親の母性愛着得点とその関連要因を明らかにすることを目的とした.対象は先天性心疾患の手術を受けた1〜8カ月児をもつ母親で,MAI及び関連要因に関する項目からなる自記式調査に郵送法で答えた47名とした.母性愛着得点を健康児を持つ母親と比較すると,1〜2カ月の病児の母親の得点は低く(p<0.01),3カ月から8カ月では逆に病児の母親の方が高値であった(p<0.05).愛着得点と関連した要因には,母親自身の生活の充実感(p<0.01),母子分離期間(p<0.01),母親に対する配偶者の支援(p<0.01)の3項目があった.これらの結果から,母子分離後,母性愛着は一時的には低いが,配偶者の支援により生活の充実感をもつことで高まりうるといえた.


【原著】
■題名
1カ月健診における超音波診断法による先天性股関節脱臼のスクリーニング
■著者
大阪医科大学周産期センター
小川  哲 金  漢錫 廣井 真世 坂  良逸
森信 孝雄 平野 量哉 荻原  享 玉井  浩
■キーワード
先天性股関節脱臼,1カ月健診,股関節エコー,スクリーニング,早期発見
■要旨
 1カ月健診でGrafの股関節超音波診断法(股関節エコー)を用いて先天性股関節脱臼のスクリーニングを実施した.1,564例3,128関節に対し股関節エコーを施行し,397例の520関節に異常股関節像を発見した.このうち365例を未熟股関節群(Graf分類type IIa),32例を病的股関節群(Graf分類type IIc以上)と診断した.未熟股関節群に対しては両親に児の自由肢位を妨げないおむつの当て方や児の抱き方を指導した.その結果,全例で生後7カ月までに股関節は正常化した.病的股関節群に対しては同様の育児を指導することで20例の股関節が正常化した.残る12例に対してリーメンビューゲル装具による治療を平均78日行った結果,股関節は正常化し観血的治療に至ったものはなかった.股関節エコーによる先天性股関節脱臼のスクリーニングは早期発見,早期治療に有用であり,股関節エコーの乳児健診への普及が望まれる.


【原著】
■題名
室内ホルムアルデヒドが気管支喘息の発症・悪化に関与したと考えられた2症例
■著者
東邦大学医学部大橋病院小児科学第2講座
岸田  勝 鈴木 五男 中園 宏紀
井澤 雅子 岡田 麻里
■キーワード
ホルムアルデヒド,揮発性有機化合物,小児気管支喘息
■要旨
 新築住宅への入居による室内ホルムアルデヒド(以下FAと略)が喘息発症につながった1歳女児例と喘息増悪に関わった14歳男児例を報告した.ともにFAに対する特異IgE抗体は陰性であったが,室内FA濃度の低下により症状の改善を認めた.FAには皮膚・粘膜への直接的な刺激作用,ハプテンとしてIV型およびI型アレルギー反応を誘導する作用,アレルギー感作促進作用,さらにアレルギー炎症増悪作用などが報告されており,そのため,喘息はじめアレルギー発症・増悪をもたらすものと考えられる.しかし,その作用機序や濃度については不明な点が多い.住宅の新築あるいはリフォーム後に喘息発作や増悪を来した場合には室内VOCsについても配慮する必要がある.対策として発生源の除去が第一義であるが,次善の策として換気対策や化学物質除去用の空気清浄機使用も有用と考えられた.


【原著】
■題名
全身型Carnitine palmitoyltransferase II型欠損症の1例
■著者
町立石部医療センター小児科1),滋賀医科大学小児科2)
草津総合病院小児科3),千葉県こども病院代謝科4)
吉田  忍1) 大矢 紀昭2) 太田  茂2) 高橋 浩子3)
近藤 雅典3) 高柳 正樹4) 小川 恵美4)
■キーワード
低血糖,Reye症候群,カルニチン,脂肪酸酸化異常症,カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ欠損症
■要旨
 頻回の低血糖発作,肝機能障害,筋緊張低下を認めた患者の精査を行い,カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII型欠損症の全身型と診断した5歳男児例を経験したので報告する.主訴は痙攣,意識障害であり,乳児期より熱性痙攣様症状を繰り返し,11カ月時にReye症候群と診断されていた.その後頻回に低血糖発作,ミオグロビン尿,筋緊張低下,急性脳症を繰り返し,4歳11カ月時の検査にて血清カルニチン異常低値を認め,長鎖トリグリセリド負荷試験,カルニチン負荷試験,および培養皮膚線維芽細胞を用いた酵素活性測定にて確定診断に至った.カルニチン補充療法が著効し,治療開始後低血糖発作はみられなくなり,また筋力低下,筋緊張低下症状も改善を認めた.


【原著】
■題名
開胸下心肺補助循環装置を用いて救命できた劇症型心筋炎の1例
■著者
日本大学医学部小児科
和泉 美奈 唐澤 賢祐 斉藤 早美 山菅 正郎 鮎沢  衛
能登 信孝 住友 直方 岡田 知雄 原田 研介
■キーワード
劇症型心筋炎,開胸下心肺補助循環装置
■要旨
 開胸下心肺補助循環装置を用いて救命できた劇症型心筋炎の12歳女子を経験した.入院3日前から微熱,嘔吐があり,入院当日に意識消失発作,肝機能障害及び3度房室ブロックを認めた.入院後,直ちに一時ペーシングを開始したが循環動態は改善しなかった.経皮的心肺補助循環装置の併用を試みたが大腿動脈が細く適切な送血管の挿入が困難であると判断し,開胸下に心肺補助循環を開始した.同時に,ステロイドパルス療法,カテコラミン,ホスホジエステラーゼIII阻害剤,利尿剤の持続投与を行った.補助循環装置導入後,血行動態は安定し,合計59時間で心肺補助循環から離脱し,合併症なく回復した.劇症型心筋炎に対しては一時ペーシング,心肺補助循環法を主体とした積極的な治療が有効であった.開胸下の補助循環装置導入法は十分な効果が得られ,経皮的心肺補助循環装置の導入が困難な劇症型心筋炎の小児に考慮すべきであると考える.


【原著】
■題名
顔面神経麻痺を合併した川崎病不全型の1乳児例
■著者
信州大学医学部小児科
小川 美奈 松崎  聡 小林 法元 関口 幸男
清水  隆 片桐麻由美 小宮山 淳
■キーワード
川崎病不全型,顔面神経麻痺
■要旨
 川崎病不全型に末梢性顔面神経麻痺を合併した3カ月男児例を経験した.発熱と末梢性顔面神経麻痺を主訴に第11病日に来院し,心エコー検査で両側冠動脈に約5mmの冠動脈瘤を認めた.川崎病の診断基準としては5日以上続く発熱,軽度頸部リンパ節腫脹のみ該当したが川崎病不全型としてアスピリン,免疫グロブリン,抗凝固療法を開始した.第18病日に結膜充血,不定形紅斑を伴い再発熱したため免疫グロブリンを追加した.その後臨床症状は軽快し,血液検査は正常化した.顔面神経麻痺は1カ月後に消失した.発病2年6カ月後の心臓カテーテル検査では,冠動脈病変を認めずアスピリンを中止した.発熱をともなう顔面神経麻痺患者を診た際は常に川崎病を念頭に置き,特にこの麻痺を伴った場合は冠動脈障害を起こしやすいので心エコー検査が大切である.





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